☆タイプ3筋層内筋腫の取り扱いについて | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、タイプ3筋層内筋腫の取り扱いについての興味深い報告です。なお、タイプ3筋層内筋腫とは、超音波では子宮内膜に接触しているが、子宮鏡検査では子宮内腔への突出がみられない筋腫のことです。

 

Fertil Steril 2018; 109: 817(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.007

Fertil Steril 2018; 109: 784(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.03.003

要約:2009~2016年に体外受精を実施し、タイプ3の筋層内筋腫を有する151名(40歳以下、新鮮胚移植)の方と年齢などの条件を一致させた子宮筋腫のない方453名の妊娠成績を後方視的に検討しました。なお、ドナー卵子、夫婦いずれかに染色体異常、筋腫核出術の既往、粘膜下筋腫、6cm以上の筋腫、PGS実施、頸部筋腫の方は除外しました。結果は下記の通り。

 

       タイプ3筋層内筋腫あり     対照群      P値

臨床妊娠率   27.8%(42/151)   43.9%(199/453)  0.001

着床率     22.7%(55/242)   34.4%(264/768)  0.001

出産率     21.2%(32/151)   34.4%(156/453)  0.002

流産率     23.8%(10/42)    22.1%(44/199)   NS

早産率     7.1%(3/42)      7.5%(15/199)   NS

NS=有意差なし

 

また、筋腫の直径が2.0cm以上(複数の筋腫の場合は合計で2.0cm以上)の場合にのみ臨床妊娠率、着床率、出産率に有意差がみられ、2.0cm未満の場合には有意差は認めませんでした。


解説:子宮筋腫は、50歳までに最大75%の女性に認められる良性疾患です。不妊症女性では、5~10%に認められ、妊娠を妨げると考えられるケースは2~3%程度とされています。妊娠成立のためには、粘膜下筋腫(子宮内に飛び出す筋腫)は摘出すべきであり、奨膜下筋腫(子宮外に飛び出す筋腫)は摘出不要であるというのは一致した見解です。しかし、子宮内腔に影響しない筋層内筋腫の妊娠に及ぼす影響については、賛否両論があり結論が出ていません(2017.9.17「☆無症状の子宮筋腫に関するガイドライン:ASRM」)。本論文の著者は2014年に、筋層内筋腫の最大径が2.58cm以上の場合に出産率が有意に低下することを報告しました(2014.4.21「子宮筋腫の影響は?」)。本論文は、タイプ3筋層内筋腫のみに絞った後方視的検討であり、筋腫の直径が2.0cm以上(複数の筋腫の場合は合計で2.0cm以上)の場合には臨床妊娠率、着床率、出産率が有意に低下することを示しています。もちろん、前方視的検討が必要ですが、良好胚移植を行ってもなかなか妊娠しない方で、2.0cm以上のタイプ3筋層内筋腫がある場合は、摘出手術が奏功するかもしれません。

 

コメントでは、タイプ3筋層内筋腫による妊娠率低下のメカニズムを紹介しています。そもそも、子宮筋腫は子宮内腔に影響するもののみが問題であると考えられていたのは、筋腫による内膜変位や血流低下による内膜菲薄化など機械的(物理的)な原因が考えられていました。しかし、最近は筋腫から産生される様々な物質による化学的な原因の関与が示唆されています。例えば、着床に必要なHOX、LIF、β3インテグリンが筋腫存在下では減少するという報告や筋腫から産生されるTGFβが着床に必要なBMP1、BMP2受容体を妨害するとの報告があります。これらの妨害因子は筋腫からの距離が遠くなると減少しますので、子宮内膜から離れた位置にある筋腫の影響は現れず、内膜に近い筋腫の場合に影響が出現するとしています。したがって、粘膜下筋腫の影響は、筋腫の部分のみならず、子宮内腔全体に及ぶことになります。また、子宮筋腫がある方では生理の量が増加したり期間が長引いたりします。この原因も当初は筋腫存在下で子宮収縮不良となり不十分な血管収縮による物理的要因であると考えられていましたが、筋腫から産生されるTGFβは血液凝固関連蛋白であるPAI1、ATIII、トロンボモジュリンを変化させるため、化学的要因による出血量の増加も考えられます。

 

下記の記事を参照してください。

2017.9.17「☆無症状の子宮筋腫に関するガイドライン:ASRM

2017.3.18「子宮筋腫の取り扱いについて再考の余地あり

2014.4.21「子宮筋腫の影響は?