☆無症状の子宮筋腫に関するガイドライン:ASRM | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

米国生殖医学会(ASRM)から、無症状の子宮筋腫に関するガイドラインが発表されましたので、ご紹介いたします。

 

Fertil Steril 2017; 108: 416(ASRM)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.06.034.

要約:無症状の方における子宮筋腫の手術の有効性(妊娠率改善、流産率改善)についてのガイドラインとして下記を提唱します。

 

A 根拠十分

   該当なし

B 根拠中等度

 1 子宮筋腫摘出術により体外受精の臨床妊娠率と出産率は改善しない

 2 粘膜下子宮筋腫摘出術(子宮鏡手術)により臨床妊娠率が改善する

C 根拠不十分

 1 妊娠治療の有無に関わらず、子宮筋腫の存在が妊娠率を低下させる

 2 子宮内腔に影響を与えるタイプ以外の子宮筋腫の存在が妊娠率を低下させ、流産率を増加させる

 3 漿膜下子宮筋腫摘出術により妊娠率が改善する

 4 子宮筋腫摘出術(腹腔鏡手術、開腹術)により流産率が改善する

 5 不妊症の方において、粘膜下子宮筋腫摘出術(子宮鏡手術)により流産率が改善する

 

なお、子宮筋腫の位置が重要であることが本文中に明記されてあり、子宮内腔に突出するもの、あるいは子宮内腔が偏移するものは妊娠に悪影響と記載されています。

 

解明されていない問題点として下記のものがあります。

1 子宮筋腫の妊孕性(妊娠できる力)への影響は?

2 子宮内腔の偏移の程度がどの程度なら子宮筋腫摘出術が有効か?

3 子宮内腔に影響しない筋層内筋腫の妊娠成績(妊娠率、流産率、出産率)への影響は?

4 体外受精における子宮筋腫摘出術の有効性は?

 

解説:子宮筋腫は生殖年齢の女性の70%に認められる極めてポピュラーな疾患です。米国では、2007年に年間35万人の方が子宮筋腫のために通院しましたが、2050年には1,2倍になるとの試算が報告されています。2007年には、子宮筋腫摘出術が3万人の方に実施されました(1万人あたり、黒人9.2人、白人1.3人)。症状のある方における子宮筋腫の手術の有効性は証明されていますが、無症状の方における子宮筋腫の手術の有効性(妊娠率改善、流産率改善)については賛否両論があります。本論文は、無症状の子宮筋腫に関するASRMのガイドラインを示しています。さしあたり、子宮内腔に影響する子宮筋腫は手術すべきとの結論ですが、その他の筋腫については不明のままです。解明されていない問題点が多数残されていますので、筋層内筋腫の場合に、絶対ダメとか絶対大丈夫とは言えないのが現状です。