Q&A3135 初期胚移植で一卵性のDDツイン→バニシングツイン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 47歳、妊娠9週

 

44歳:正常胚をホルモン補充周期移植で妊娠、帝王切開で出産

 

今回は、42歳採卵時の初期胚(8G1)を自然排卵周期で移植し妊娠、一卵性のDDツイン(二絨毛膜二羊膜双胎)、7週6日にて1人心拍停止でバニシングツイン。一卵性双生児だと全く同じ染色体であること、初期流産は6〜8割染色体が原因であると認識していて染色体異常による障害やこの先無事に出産できるかとても不安です。染色体の問題以外にもたくさん障害はあるとは分かっているのですが。この先、出生前診断を受けてから怪しそうであれば最終的に羊水検査を受けるつもりです。

二卵性なら染色体が違う2人なので染色体による流産は納得できるのですが、一卵性のバニシングツインはそんなに多いものでしょうか。論文で一卵性の多胎妊娠からのバニシングツインでの出生率や障害の無有などの統計は出てるのでしょうか。
 

A DDツインは、胎嚢が二つ見えることを指します。自然排卵周期の単一胚移植では、排卵していますので、その時の排卵による胎嚢と凍結胚による胎嚢の二つが見える可能性があります。この場合は、通常通り二卵性のDDツインです。しかし、今回の排卵で性行為がない場合には、凍結胚による一卵性のDDツインになります。

 

受精後3日目まで(桑実胚未満)に分裂すればDD twinに、8日目までに分裂すればMD twinに、12日目までに分裂すればMM twinになると考えられていました(下図参照)。今回移植したのは3日目初期胚ですので、一卵性のDDツインが出来ても不思議ではありません。

 

 

この図からは理論的に、単一胚盤胞移植でDD双胎(2絨毛膜性2羊膜性)は起こらないことになります。受精後3日目まで(桑実胚未満)に分裂した場合にDD双胎になると考えられていましたので、胚盤胞移植の段階ではすでに細胞が2つに分かれているはずの時期だからです。しかし最近、単一胚盤胞移植でのDD双胎の報告が散見されます(Twin Res Hum Genet 2013; 16: 827、J Assist Reprod Genet 2018; 35: 2109、2020.2.9「Q&A2469 単一胚盤胞移植でDD双胎!?」と2021.2.17「1卵性2絨毛膜性2羊膜性双胎」の記事)。胚盤胞が完全に2個に分離するのを顕微鏡で確認したとの報告もあります。従って、この図は修正すべき時期にきています。

 

一つの胚が二つに分かれる「スプリット率」は1.36%であることが、日本産科婦人科学会の100万件にも及ぶメガデータから判明しました(2018.11.18「☆体外受精における一卵性双胎のリスク因子は?」の記事でご紹介)。スプリットのリスク因子は、凍結融解、胚盤胞培養、補助孵化療法などの胚操作です。

 

今回の妊娠では、記載されている通り、まずNIPTを行い、必要なら羊水検査が推奨されます。

 

下記の記事を参照してください:リスク因子

2021.2.17「1卵性2絨毛膜性2羊膜性双胎」(症例報告)

2020.2.9「Q&A2469 単一胚盤胞移植でDD双胎!?」(症例報告)

2019.3.7「☆MD双胎のリスク因子:メタアナリシス」:胚盤胞移植、35歳未満、体外受精、AHA

2018.11.18「☆体外受精における一卵性双胎のリスク因子は?」:凍結融解胚移植、胚盤胞移植、AHA

2018.7.25「MD双胎は長期培養がリスクとなる」:長期培養(4日目以降)

2016.11.9「1絨毛膜性双胎のリスク因子は?」:胚盤胞移植

2016.8.27「妊娠方法によるふたご妊娠のリスクの違い」:妊娠方法による差はない

2015.4.19「1卵性の双子の原因は家系にあり」:家系

2013.8.2「ふたごは寒い地域に多い?」:高緯度

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。