1卵性2絨毛膜性2羊膜性双胎 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、1卵性2絨毛膜性2羊膜性双胎の症例報告です。

 

JBRA Assist Reprod 2021; 25: 168(ブラジル)doi:10.5935/1518-0557.20200052

要約:妻38歳、夫39歳、妊娠歴なし、5年前にピル服用をやめ、5年前に不妊検査を実施したところ、AMH 1.0 ng/mL、子宮内膜ポリープ、卵管閉塞、奇形精子症(クルーガーテスト正常率2%)を認めました。顕微授精の適応と判断し、アンタゴニスト法+pFSH 1950単位+HMG 1050単位+オビドレル250で刺激し、5個の成熟卵を獲得しました。顕微授精により5個受精し、3AAを1個凍結、ホルモン補充周期で補助孵化療法(AHA)を実施し胚移植を行いました(移植時5AA)。移植10日後(BT10)のhCG 209 IU/Lであり、BT35で2絨毛膜性2羊膜性双胎を確認しました。なお、この夫婦は移植周期の性交はなく、卵胞発育もありませんでした。

 

解説:2008年に日本産科婦人科学会(日産婦)は世界に先駆け、多胎妊娠防止策として「原則として単一胚移植」にするよう勧告を発表しました。その後、急速に多胎妊娠が減少し、海外でも単一胚移植を推進する現在の流れが誕生しました。単一胚移植でも双子ができることがありますが、これは一つの胚が二つに分かれる(スプリット)ためです。2018.11.18「☆体外受精における一卵性双胎のリスク因子は?」の記事でご紹介した、日産婦の100万件にも及ぶメガデータから、スプリット率は1.36%であることが判明しました。スプリットのリスク因子は、凍結融解、胚盤胞培養、補助孵化療法などの胚操作によることを明らかにしました。

 

理論的に、単一胚盤胞移植でDD双胎(2絨毛膜性2羊膜性)は起こらないとされていました。受精後3日目まで(桑実胚未満)に分裂した場合にDD双胎になると考えられていましたので、胚盤胞移植の段階ではすでに細胞が2つに分かれているはずの時期だからです。しかし、最近単一胚盤胞移植でのDD双胎の報告が散見されます(Twin Res Hum Genet 2013; 16: 827、J Assist Reprod Genet 2018; 35: 2109)。胚盤胞が完全に2個に分離するのを顕微鏡で確認したとの報告もありますので、教科書に記載されていたかつての常識が誤りであった可能性が高いと思います。

 

下記の記事を参照してください:リスク因子

2020.2.9「Q&A2469 単一胚盤胞移植でDD双胎!?

2019.3.7「☆MD双胎のリスク因子:メタアナリシス」:胚盤胞移植、35歳未満、体外受精、AHA

2018.11.18「☆体外受精における一卵性双胎のリスク因子は?」:凍結融解胚移植、胚盤胞移植、AHA

2018.7.25「MD双胎は長期培養がリスクとなる」:長期培養(4日目以降)

2016.11.9「1絨毛膜性双胎のリスク因子は?」:胚盤胞移植

2016.8.27「妊娠方法によるふたご妊娠のリスクの違い」:妊娠方法による差はない

2015.4.19「1卵性の双子の原因は家系にあり」:家系

2013.8.2「ふたごは寒い地域に多い?」:高緯度