ふたごは寒い地域に多い? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.7.22「季節により妊娠率•流産率は違うか?」の記事を書くにあたって論文を調べていた時、偶然みつけた面白い論文をご紹介します。37年前に発表された論文ですが、本論文は、自然のふたご妊娠が寒い地域に多いことを疫学(統計)調査により示しています。

Brit J Prev Soc Med 1976; 30: 175(日本)
要約:1955~1959年の日本全国の統計から、都道府県別の双胎妊娠率を比較しました。合計9,088,233回の出産のうち58,570組のふたご(0.644%)が産まれています。1絨毛膜性双胎が0.404%、2絨毛膜性双胎が0.240%でした。双胎妊娠は日本の南西に少なく、北東に多くなっていました。この傾向は2絨毛膜性双胎でより顕著に認められ、双胎妊娠率は年間の平均気温と負の相関を示していました。季節性変動をみると、春秋の妊娠にふたごが多い傾向がありました。

解説:双胎妊娠率は人種間で異なり黒人が最も高く、次に白人、黄色人種の順であることが知られています。1絨毛膜性双胎の頻度は人種間に差がなく、2絨毛膜性双胎の頻度が人種によって異なります。

人種以外に地域性の双胎妊娠率の違いが見られるかを示した論文として、1930年に熱帯地方では北部の方が南部より高いこと、1960年にフランスでは北東部が南西部より高いという報告があります。しかし、欧米では様々な人種が混在しているため、地域差に特化した調査がしにくいというデメリットがあり、本当に地域差があるのか結論が出ていませんでした。本論文は、単一民族である日本人での地域差の比較を行っており、双胎妊娠が寒い地域(北部)に多いことを示したものとして意義のある研究と言えます。

本論文では、自然妊娠におけるふたごの出産は155回に1回です。学生時代には双胎妊娠は80回に1回と習いましたから、その半分くらいの数値になります。「1/80」は、おそらく欧米の(黒人の)データではないかと思います。

1絨毛膜性双胎と2絨毛膜性双胎について補足します。絨毛とは胎盤のことです。一般には、1卵性や2卵性といわれますが、医学的にはもう少し複雑です(下図を参照してください)。
$松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ-twin
確かに、「2卵性→2絨毛膜性双胎(2つの卵だから2つの胎盤に2人の胎児)」となりますが、「1卵性→1絨毛膜性双胎か2絨毛膜性双胎」のどちらにもなります。1つの卵が2つに分裂する時期によって下記の様々なパターンとなります。
2絨毛膜性2羊膜性双胎(DD twin
1絨毛膜性2羊膜性双胎(MD twin
1絨毛膜性1羊膜性双胎(MM twin
結合体(2人の胎児の一部が癒合している)
受精後3日目まで(桑実胚未満)に分裂すればDD twinに、8日目までに分裂すればMD twinに、12日目までに分裂すればMM twinになります。DD twinは、2つの胎嚢があり、それぞれに卵黄嚢と胎児を認めます。MD twinは、1つの胎嚢内に卵黄嚢が2つ、あるいは胎嚢内に隔壁があります(隔壁はその時々でわからないことがあります)。MM twinは、1つの胎嚢内に卵黄嚢が1つで、隔壁がなく胎児が2人です。
妊娠に伴う様々なリスクは高い順にMM→MD→DDですので、これらの識別は大変重要です。妊娠初期の超音波が最も診断精度が高いため、最初の超音波が肝腎です。1絨毛膜性双胎は双胎間輸血症候群(TTTS: twin-twin transfusion syndrome)となる率が高く、周産期死亡率も2絨毛膜性双胎と比べ高くなります。顕微授精やアシステッドハッチングを行った際には1絨毛膜性双胎になる確率が少し高くなることが報告されています。また、単一胚盤胞移植では、もはや2絨毛膜性双胎になることはありません。