ターナー症候群の卵巣内の染色体 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ターナー症候群の卵巣内の染色体について検討した症例報告です。

 

Fertil Steril 2021; 115: 1280(オランダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.11.006

Fertil Steril 2021; 115: 1173(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.003

要約:患者さんは、血液検査ではリンパ球の染色体分析により、4歳の時にターナー症候群(45,X)と診断されました。14歳時に検査したリンパ球30個、頬細胞100個、尿細胞50個全ての染色体が45,Xであり、乳房発育と恥毛発育はありませんでした。卵巣凍結を選択され、片側卵巣を摘出し、卵巣皮質の凍結を実施しました。その際に得られたサンプルを用いて、卵子、顆粒膜細胞、間質細胞の染色体をFISH法で分析しました。また、卵巣組織を培養し二次卵胞までの発育を観察しました。結果は下記の通り。

 

          染色体

卵子     90,XX/92,XXXX*=2/14

顆粒膜細胞   45,Xのみ(500個)

間質細胞   45,X/47,XXX=126/74

*卵子では92,XXXXが正常

 

卵巣組織培養では、単層での卵胞は二次卵胞まで発育するものの、顆粒膜細胞がスカスカの状態でした。

 

解説:ターナー症候群は、出産した女児の1/2000~1/2500に認められます。低身長、無月経、先天性心疾患(大動脈縮窄症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症など)をきっかけに診断されることがしばしばあります。X染色体が1本であるために、卵胞の早期閉鎖が生じ、早期の卵巣機能低下のため最初から無月経になると考えられています。一方、5~20%の女児では卵胞が存在し、初潮が発来しますが、残存卵子数が少ないため、早期に閉経に至ります。このため、ドナー卵子を用いた治療が行われていますが、ターナー症候群の自然妊娠は5〜8%に認められます。また、血液検査では、ターナーモザイクの方も約20%に認められます。血液検査ではリンパ球の染色体を分析していますが、卵巣内の染色体も全く同じかと言うと必ずしもそうではありません。本論文は、ターナー症候群の卵巣内の染色体を、卵子、顆粒膜細胞、間質細胞それぞれについて検討した症例報告であり、それぞれのX染色体のバランスが異なり、正常な卵子が多く含まれるものの、顆粒膜細胞と間質細胞の染色体はモノソミーあるいはトリソミーであることを示しています。

 

コメントでは、ターナー症候群の方が妊娠したり妊娠しなかったりするのは、卵巣内での卵子の染色体の正常率だけではなく、顆粒膜細胞や間質細胞の染色体の正常率(異常率)に左右されるのではないかとしていますが、結論を出すには今後の検討を待たねばなりません。

 

ターナー症候群については、下記の記事を参照してください。

2019.9.27「ターナー症候群の卵巣のX染色体

2019.9.10「ターナー症候群のドナー卵子による妊娠治療

2019.6.27「ターナー症候群の卵巣凍結

2019.3.30「ターナー症候群:卵巣刺激による採卵
2016.12.2「Q&A1292 娘がターナー症候群です

2016.4.25「ターナー症候群の自然妊娠率は?

2013.7.25「ターナー症候群とAMH」
2013.6.25「ターナー症候群の妊娠」