ターナー症候群の妊娠 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ドナー卵子を用いた妊娠では、妊娠高血圧症候群が最大の問題になります(2013.6.6「ドナー卵子の妊娠は妊娠高血圧症候群になりやすい」)。本論文は、ターナー症候群におけるドナー卵子を用いた妊娠予後を北欧3国で調査したところ、妊娠高血圧症候群と母体心疾患が重要であることを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 1598(フィンランド、スエーデン、デンマーク
要約:1992~2011年にターナー症候群の方でドナー卵子を用いた妊娠•出産に成功した106名、122分娩、131新生児を調査しました(実際は110名で4名ドロップアウト)。染色体が45, X である方が44%、もともと心疾患を持つ方が9.4%、単一胚移植が70%になされました。全妊娠のうち35%が妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)となり、生命の危機を経験した方が3.3%(4名:解離性大動脈、心弁膜症、HELLP症候群29週、双胎&癒着胎盤→出血多量→子宮全摘術)でした。一方、新生児の状況は概ね良好で、早産8.0%、低体重児8.8%、胎児奇形3.8%、新生児死亡2.3%(双胎の早産)でした。

解説:ターナー症候群の有無にかかわらず、ドナー卵子の妊娠は妊娠高血圧症候群になりやすいことになります。一方、ターナー症候群で特徴的なのは、もともと心疾患を持つ方が多い(25~50%)ため、出産時の心疾患が母体の予後を判断する上でキーポイントになることです。本論文の中で、解離性大動脈、心弁膜症の方がそれに該当します。また、HELLP症候群は妊娠高血圧症候群の一種であり、出血多量は双胎妊娠と癒着胎盤の合併がありました。妊娠高血圧症候群と癒着胎盤は、胎盤形成の不備という観点で共通しており、第3者の胚(精子も卵子も他人)を用いる場合の免疫学的拒絶反応のひとつと考えられます。本論文には双胎の早産による新生児死亡もありますので、ドナー卵子を用いた妊娠では、「ふたご」はやはり避けなければなりません(詳細は、2013.6.6「ドナー卵子の妊娠は妊娠高血圧症候群になりやすい」をご覧ください)。

北欧諸国では、国の疾患統計と人口動態がリンクしていますので、このような大規模な調査が可能になります。それでも北欧3国で20年間でわずか110名の方しか対象者がおられないわけで、ターナー症候群&ドナー卵子&妊娠というキーワードを考えた場合に、世界レベルでの調査が必要になるでしょう。

ここで、ターナー症候群の方で妊娠を目指す場合のポイントを整理してみましょう。
(ターナー症候群の方は極めて少ない数の卵子しかありません)
1 なるべく早く診断する(疑いのある場合すぐに染色体検査
2 診断がついたらすぐにピルの処方開始(残存卵胞の温存のため):詳細は2013.5.21「ピル(OC)のメリット」参照
3 妊娠を目指す段階になったら、心臓の状態をチェックし、ピルをやめる
4 卵子が無くなったら、ドナー卵子をトライ(実施可能な国のみ)し、胚移植は1個
5 妊娠中は心臓に特に注意を払う