ターナー症候群の自然妊娠率は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ターナー症候群の自然妊娠率を、フランスの国家規模の統計調査で明らかにしたものです。

Hum Reprod 2016; 31: 782(フランス)
要約:1999~2014年にターナー症候群と診断された480名の成人女性について、フランス全国のデータベースCEMARAからデータ解析を後方視的に行いました。27名(5.6%)の方が合計52回自然妊娠しました。自然妊娠を予測する因子として、モザイク型のターナー症候群と初潮発来が抽出されました。流産率は30.8%(16/52)であり、フランス人の平均15%より有意に高い数値でした。また、出産率は57.7%(30/52)であり、帝王切開率46.7%(14/30)、妊娠高血圧13.3%(4/30)、平均出生児体重3030gでした。お子さんに大動脈関連の疾患は認めませんでしたが、女児のうち2名がターナー症候群(2/17)でした。

解説:ターナー症候群は、出産した女児の1/2000~1/2500に認められます。低身長、無月経、先天性心疾患(大動脈縮窄症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症など)をきっかけに診断されることがしばしばあります。X染色体が1本であるために、卵胞の早期閉鎖が生じ、早期の卵巣機能低下のため最初から無月経になると考えられています。一方、5~20%の女児では卵胞が存在し、初潮が発来しますが、残存卵子数が少ないため、早期に閉経に至ります。このため、ドナー卵子を用いた治療が行われています。ドナー卵子では妊娠率は高いですが、妊娠出産に伴う合併症が多くなります。何も問題なく出産に至るのは40%程度であり、妊娠高血圧38%、母体死亡も2件(2/82)報告されています。また、他のオプションとしては、卵子凍結や卵巣凍結がありますが、これにより出産した報告は現在までありません。唯一、ターナーモザイクの一卵性双胎の片方からの卵巣移植により1例の出産報告があります。本論文は、ターナー症候群の自然妊娠では、ドナー卵子を用いた場合の妊娠より妊娠経過が良好であることを示しています。一方で、染色体異常率は高くなり、流産が多く、ターナー症候群の児も出産しています。このような情報は、ターナー症候群の方への判断材料として提供する意味が十分あると思います。

ターナー症候群の方の卵巣生検によって卵胞の有無を確認した論文が報告されていますが、卵胞存在の可能性が高いのは、初潮発来、正常FSH、正常AMHの場合です。つまり、本論文で自然妊娠しやすい方と同じような条件の方と考えてよさそうです。

下記の記事を参照してください。
2013.7.25「ターナー症候群とAMH」
2013.6.25「ターナー症候群の妊娠」