Q&A1070 ☆治療の終結について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 松林先生のブログに出会い、失いかけた希望を持って、今の日本で出来る最先端高度治療を信じて挑んできました。不育症と男性不妊、年齢も私が42歳、主人が44歳。先生や看護師さん、培養士さんには本当に感謝しています。回数を重ねて希望を持って挑んだ移植も、残念な結果の連続で、ただただ、今は心身共に脱力の日々です。

ただ、今回は陰性の結果に悲しいというよりも、冷静で心の奥にほっとしたような、もう頑張らなくていいという感情があることに気づきました。と同時に子どもが欲しいと思っていた感情をもう手放そうかな…という感情をもう一人の自分が持っていることにも気づきました。我が子が欲しいという感情を手放そうというのは、割り切れるものではありません。

すごく難しい判断になると思いますが、先生にお聞きしたいのです。医師の立場から治療を終わりにしたほうが良いと思われる目安などを教えていただきたいです。卵子提供や特別養子縁組なども考えたりしましたが、私達夫婦は、今はそれを希望していません。今の日本の生殖医療の現場の裏側にある大きなテーマでもあるのかなと考えたりします。医学的な質問とはかけはなれているかもしれませんが、松林先生のお話を聞かせていただけたら、少なくとも救いの言葉になります。

あと、嬉しいことがありました。ブログで学んだことを、なかなか子どもが出来なかった職場の後輩に丁寧に伝えたところ、自然妊娠しました。後輩に、先輩のアドバイスをもらって気持ちも楽になって、妊娠できましたと言ってもらえました。私の今までの経験や知識が誰かの役に立ち、ありがとうって言ってもらえたのは、すごく嬉しい出来事でした。

A 治療の終結を決断するのは、なかなか難しいところです。

当院は年齢制限を設けていませんし、私は年齢のせいにしないようにしています。年齢のせいにしてしまうと、そこで思考が停止してしまい、医療の向上を望むことができなくなります。治療が難しい方ほど、知恵を絞って、何か新しい解決策がないか模索します。しかし、打つ手全てを施しても結果が得られないことがあります。このような時が、私が治療終結の提案をする時です。

妊娠治療は「降り場のないジェットコースター」に乗っているようなものとしばしば例えられます。様々な場面で一喜一憂しますが、一度乗ってしまうとなかなか降りられなくなります。ですから、患者さんご自身が自ら治療終結を考える場合には、強い勇気が必要です。この勇気を持つには、何かの区切り(線引き)が必要です。例えば、次の誕生日まで、年度末まで、助成金が切れるまで、など具体的な日付です。このような線を引いておかないと、ジェットコースターから降りられません。



「私のブログが様々な形で皆さんのお役に立てること」それが私の喜びです。日本全国同じレベルの医療が受けられれば良いのですが、残念ながらそうではありません。知識や技術のアップデートを止めてしまった医師が少なくないのは、新しい情報源が英語だからというのも理由のひとつだと思います。私のブログの読者の半数は医療関係者(妊娠治療クリニックのスタッフ)ではないかと推測しています。私のブログで日本全国の妊娠治療のレベルアップができるのなら、それはまさに私の本望でもあり、患者さんの願いでもあります。

下記の記事を参照してください。
2014.6.18「☆私の目指す生殖医療:ブログ読者のお便りから」