本論文は、ビスフェノールAによる男系子孫への影響をマウスで検討したものです。
Hum Reprod 2020; 35: 1740(韓国)doi: 10.1093/humrep/deaa139
要約:CD1系雄マウスに、ビスフェノールA(5, 50 mg/kg/日)、E2製剤(400 ng/kg/日、陽性対照群)、コーン油(陰性対照群)を6週間投与し(F0)、無処置の雌マウスと交配させ、被爆2世 (F1)、被曝3世(F2)、被爆4世(F3)の精子および精巣の状態を検討しました。なお、ビスフェノールAは初回のみ(F0)に投与し、その後の投与はありません。ビスフェノールA投与群では、F0〜F2で精細管の太さと数が減少し、総精子数が有意に減少しました。また、高用量のビスフェノールA投与群では、F0〜F2で精子の運動率が有意に減少し、精子の活性酸素(ROS)増加(F0〜F1)あるいは細胞内ATP減少(F0〜F2)を伴っていました。これらの変化は、有意なDNAメチル化異常(F0〜F3)を伴っていました。さらに、低濃度ビスフェノールA投与群はF0〜F2の妊孕性を低下させ、高濃度ビスフェノールA投与群はF0〜F3の妊孕性を低下させました。これらの変化は、E2製剤と同程度かそれ以上に認められました。
解説:環境ホルモンのひとつであるビスフェノールAは、ポリカーボネート製のプラスチックを製造する際や、エポキシ樹脂の原料として広く利用されています。ポリカーボネートやエポキシ樹脂は現在、哺乳瓶、水道管、食品や飲料品の容器、歯科の詰め物、コピー用紙、レシートの紙などに使われています。これらを強力な洗剤で洗浄した場合、酸や高温の液体に接触させた場合にビスフェノールAが溶け出し、それを口にすることで体内に入ります。ビスフェノールAを摂取すると、エストロゲン(女性ホルモン)受容体が活性化されて、女性ホルモン的な働きを示すため「環境ホルモン」という名前がつきました。ビスフェノールAは、食品と非食品のいずれからも暴露することが知られており、米国では90%以上の方の尿中に検出されます。ビスフェノールAは、卵子や精子にマイナスの作用があることが報告されており、妊孕性に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
女性がビスフェノールAに暴露した際には、世代を超えて子孫の生殖機能に影響する可能性が示唆されています。しかし、男性がビスフェノールAに暴露した際に子孫の生殖機能に影響するか否かの検討は行われていませんでした。本論文は、ビスフェノールAによる男系子孫への影響をマウスで検討したものであり、投与世代を含め4世代にまで妊孕性への悪影響が波及することを示しています。職業的にビスフェノールAに被爆している男性への警鐘を鳴らす貴重な報告です。
ビスフェノールAについては、下記の記事を参照してください。
2018.5.23「ビスフェノールによる卵子の異常」
2017.3.9「ビスフェノールAによる顆粒膜細胞の遺伝子変化」
2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係」
2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?」
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症」
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」