Dr. Mの診療録 その17:オンコールがつかまらない! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

 産婦人科の緊急事態で一刻を争う手術が必要なのは、赤ちゃんや母体が危ない超緊急帝王切開の時か子宮外妊娠破裂のショックである。このために、当直医とは別に待機のオンコール医がいる。ある日曜日の昼間、私がまだ医師として2・3年目の頃日直をしていると、ショック状態の患者さんが救急車で搬送されて来た。お腹に大量の出血があり、妊娠反応が陽性だが、子宮内には妊娠していない。子宮外妊娠破裂の典型的な状態である。一刻も早く手術が必要だ。しかし、その日はどういうわけかオンコール医だけではなく産婦人科医の誰とも連絡がとれなかった。患者さんの容態はみるみる悪くなって行く。そんなことで時間を費やしているわけにはいかない。すぐに手術しないと命にも関わってくる問題だ。そこで、外科の日直の先生と手術をしようと思った。ところが、外科の先生は私と同期であることがわかった。でも、そんな事を言っている場合ではない。すぐに手術だ。外科の先生も頼りなさそうに承諾してくれた。手術は無事終了した。やはり、子宮外妊娠の破裂だった。翌日、上司の先生に、「昨日こんな事がありました。先生が誰もつかまらず、どうしようかと思って、同期の外科の先生と手術しました。どこに行ってたんですか」と言うと、「いやー、ごめん。ちょっと出かけていてね。それにしても。子宮外妊娠破裂をきちんと診断して、外科の先生と手術できたのは、もう卒業っていうことだ。何でも任せられるよ。」ハラハラ、ドキドキした一方で、本当に一人前になった気がした。その後、オンコールがつかまらなくて困ったことはなかったが、産婦人科医はある日突然緊急事態に直面する、そしてそれを分単位はたまた秒単位で解決しないと大変な事態になってしまう。この時どう対処できるか、結局は自分一人なのであることを知らされた。

 

Dr. Mの診療録シリーズは下記の記事をご覧ください。

2019.4.1「Dr. Mの診療録 その16:妊娠らしからぬ基礎体温に要注意

2019.2.1「Dr. Mの診療録 その15:突然死の連絡

2018.12.1「Dr. Mの診療録 その14:兄弟&姉妹のカップル

2018.11.1「Dr. Mの診療録 その13:妊娠中の性交渉にご用心

2018.2.1「Dr.Mの診療録:占いを信じる? パート2

2017.12.1「Dr.Mの診療録:「癌なら手術を受けません」

2017.11.1「Dr.Mの診療録:卵巣癌の皮膚転移とのイタチごっこ

2017.10.1「Dr.Mの診療録:舶来の新薬

2017.9.1「Dr. Mの診療録 その8:春菜ちゃん

2017.8.1 「Dr. Mの診療録 その7:妊娠して内膜症を治療しよう!?

2017.7.1「Dr. Mの診療録 その6:妊娠するには心身共に健康が大切

2017.6.1「Dr.Mの診療録 その5:色黒の赤ちゃん

2017.5.1「Dr.Mの診療録 その4:占いを信じる?

2017.3.1「Dr.Mの診療録 その3:スーパーボール

2017.2.1「Dr.Mの診療録 その2:警察から電話です

2017.1.1「Dr.Mの診療録 その1:産科は若い頃の体力勝負