報酬系、もしくはプライミングの対概念をもし想定するとしたらそれは「メリット」ということになります(「なります」と断定していますが、とりあえずここではそう規定するという感じです)。
メリットを提示することが、プライミングの対概念であり、我々の悪しき習慣です。
人はメリットのみに生きるにあらず、なのですが、ついメリットで人を動かそうとしてしまいます。そして自分に対してもです。
端的に言えば、
プライミングvsメリット
という二項対立があります。
プライミングと言えば、ドーパミン、ドーパミンと言えばドーパミン経路(A10神経系)です。
*ドーパミン経路。「中脳の腹側被蓋野(VTA)から大脳皮質に投射するドーパミン神経系(別名A10神経系)」
しばしば「報酬系(ほうしゅうけい、英: reward system)とは、ヒト・動物の脳において、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快の感覚を与える神経系のことである」とされますが、どちらかと言えば「報酬系が活性化するのは、必ずしも欲求が満たされたときだけではなく、報酬を得ることを期待して行動をしている時にも活性化する」ほうが大きいと最近では考えられているようです。(引用は図と共にWikipedia)
プライミングが情動的であり、衝動的であり、Want toな響きがあるのに対して、メリットはいわゆる「理性的」で、計算可能で、スペックを提示されている感じです。
Apple vs Dell
という感じです。
Appleが家族の団欒であったり、新製品を使ってみての新しい世界をいつも提示するのに対して、機種の素晴らしさが全面に出てくるのがたとえばSurafceのCMです。
Surfaceを使う人は背景に追いやられている印象です。引き立て役になっている感じです。
ここではSurfaceではなくDellのCMを出すのが筋でしょう。
Dellは見事にトーンがWant toではなくHave toです。
プライミングとは端的に言えば、自分が望ましいと思う可能世界を脳内にリアルに提示することです(ここで重要なのは提示する主体は自分自身ということです。星の王子さまの羊の絵と同じです。我々飛行士側がするのはいつも「呼び水」を差すことだけです。Appleはいつも上手に差します)
*機能を紹介しているように見せて、我々に新しいライフスタイルをプライミングさせます。
メリットの提示は全く必要ないわけではないのですが、メリットで人が動くと考えるのは間違いです。
人はプライミングで決定し、そのあと付けとしてメリットを数え上げます。
それを選択する理由をメリットとして後からCreateするだけです(自分への言い訳としてw)。
メリット以前に選択自体はすでに済んでいるのです。
これは人をコントロールしたり、集団をコントロールするのにも使えるテクニックですが、最も使えるのは自分自身に対してです。
自分自身がゴールに向かって移動できるようにデザインしたり、自分自身の身体をデザインするのにこの「報酬系と刺激」はフルに活用できます。
言うなれば、身体は我々の外側にあります(だからこそ、本当は身体を正確にコントロールすることなどできないのです)。意識の外側にあり、いわば外部として、他者として機能すると考えます。
その立場からスタートすると、逆説的ですが、身体を結果的にコントロールできるようになります。
(神なりロゴスもそうですが、絶対的に外にあるという現実からスタートすべきです)
そのときのポイントがデザインであり、そのデザインのコアの考え方が「報酬系と刺激」です(4月のスクールではこれを「意志力」という観点から再び考えます)。
メリットの提示とは何でしょう。
たとえば、スペックであったり、「限定」や「希少性」や「割安」「お得感」、「こんな良いことがありますよ」と具体的に提示することです。
たとえば「幸せになります」「お金持ちになります」「人間関係が改善します」「成功します」などはメリットの提示の一例です。
もしくは個人的なことで言えば、「痩せるために毎朝走る」「健康のために野菜を食べる」などはメリットに動かされています(とは言え、どう表現するかというより、内なる動機にかなり依存します。動機がメリットから来ている場合は、高い確率でうまくいきません。プライミングから来てるとうまくいく可能性が高くなります)
たとえば、我々はメリットによって、ある商品を衝動買いしそうですが、実は冷静な計算が後ろにあります。「今なら半額」に反応する人は、衝動ではなく、その計算(と浮くお金)に対してプライミングが働くのです。
それに対して、プライミングというのはかなりぼんやりとしています。
実際に抽象度は高くならざるを得ません。
なぜならプライミングの源泉は高い抽象度の望ましい可能世界の臨場感だからです。
では表現方法は抽象的になるかと言えば、これまたパラドキシカルですが、逆です。
抽象的なプライミングのほうが具象的であり、具体的なメリットのほうが抽象的になりがちです。
たとえば非常に抽象度が高い情報として我々が思いつくのは哲学書や古典や聖書です。
しかし、これらの書籍はどこを開いてもきわめて具体的な叙述にあふれています。
洞窟の中の人を描くプラトン(ソクラテス)、ぶどう園の労働者について語るイエス、辛子種について語る仏陀。抽象的で難解とされるカントやヘーゲルもきわめて具体的なことから始めています。
イソップ物語の「ここがロードスだ、ここで跳べ」を引いたのはヘーゲルです。
今回、その一例として選択についてのTEDレクチャーのアイエンガー先生を紹介しました。
きわめて具体的で個人的なところからスタートします。
選択については是非、シュワルツ博士のTEDレクチャーも見ておいて下さい。
「意志のリソース」を考える上で重要です。
報酬系とメリットの二項対立はどこかで止揚されるべきですが、まずは切り分けることが大事です。
そして面白いことに報酬系は自己実現命題として機能し、メリットは失望しか生みません。
(なぜなら報酬系はそのコストを回収しにくるからです)
パンドラの箱は開けてはいけないのです。
箱を提示するとそこには「希望」を勝手には脳は見出します。
しかし箱を開けてしまうと、それは世界に災厄しかもたらしません。
*箱をのぞくパンドラ(ウォーターハウス)
【書籍紹介】
ちなみに今日、紹介した皮膚運動学についてはこちら。
ゴムゴムという気功技術のベースとなる技術を見せてくれたパーソナルトレーナーさんがブログで紹介されていました。かなり面白いです。
マッサージやドレナージュ、リンパマッサージ、オステオパシー、トリガーポイント、筋膜リリース、鍼灸、整体、PNFなどなどが目指したかったところが、この新しい学問によって整理されるのではないかという希望が持てます(希望はいつも壺の中にありますw)
まあ、僕等はヒーラーなので、研究は研究者にお任せして、どんどん楽しく実践していきましょう!!!
皮膚運動学―機能と治療の考え方/三輪書店
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そしてもう一つ(One more thing)
5分間ユニバーシティについてはこちら。
地政学でお馴染みの奥山真司先生がスティーブン・ウォルト氏の「大学の国際関係論の学科を5分でマスターする方法」を抄訳されています。オリジナルはこちら。
ここで話題になっている“Five Minute University.” なる概念がとても素敵だなと思ったら、ウォルト氏いわくこれはコメディのネタなのだそうです。
“Five Minute University.”とは「It was brilliantly simple: in five minutes he promised to teach you everything you’d actually remember five years after you graduated. For example: Economics? Easy: “supply and demand.” That’s it. Theology? “God Loves You.” And so forth.」
(5分間大学というのは、非常にシンプルなものだ。
たった5分で、大学を卒業して5年後にもまだ実際に覚えているようなことをすべて教える。
たとえば、、、経済学?? 簡単だ。受容と供給、それだけ!。
神学? 神はあなたを愛している。そんな感じだ!!)
*20秒くらいから(^o^)
繰り返しの紹介となり、恐縮ですが、、、、意志のリソースについてはこちら。
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こちらも繰り返しになりますが、神経生理学的な視点から「運動」を捉え直したいときはこちら。
脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方/日本放送出版協会
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