これまで音楽にまつわる研究紹介記事を書いてきましたが、どうしても「研究」というと難しいイメージになりがちかなと思います。
じゃあ軽い読み物的な「入門」シリーズを始めてみようかと、思い立って3本目。
西洋音楽、特にこのシリーズではクラシック音楽って何?ということについて理系的に書いてみました。
前回は日本の伝統音楽である邦楽と西洋のクラシック音楽の考え方の違いについて考察しました。西洋音楽は数による支配された整備された音楽ということを書きましたが、それはどういうことなのかをまとめようと思います。
ヨーロッパにおける音楽のルーツは「グレゴリオ聖歌」と書かれた記事がしばし見受けられますが、音楽はそのはるか昔の古代ギリシャ時代からあり、4世紀後半にアンブロシウス聖歌が歌われていました。口伝か文字譜かは謎ですがヨーロッパ各地で伝承された聖歌が整理され、グレゴリオ聖歌は現存する最古の音楽の記録(楽譜)ということがいえます。
そのグレゴリオ聖歌もかつてはグレゴリオ1世による編纂とか記念して名付けられたといわれ7世紀前後のものと思われていましたが、近年ではもっとあとの8世紀後半のフランク王国カロリング朝のものとされているそうです。いずれにせよ、聖歌を正しく広めるために整備されたものであって、今日のように人間の感情の表現や芸術的創作としての音楽ではなかったわけですね。神のための儀式としての音楽でした。
では、庶民の音楽(世俗音楽)はどうだったのか。これについてはどうやら記録がなく不明の様です。確かに、教会や宮廷の音楽ですらやっと記録するために楽譜が開発されたような時代だから、それもしょうがないですよね。どのような楽器が使われていたかは絵として残っていて、吟遊詩人(ドラクエにでてくるあれか!(笑))ジョングルールとかミンストレルと呼ばれる演奏家がいたそうです。
1.ピタゴラスの発明
さて、音楽と科学の話に戻りますが、この音楽のルーツとなると
やはり古代ギリシャのピタゴラスがどうしてもからみますね・・・
12のドレミの音階の生成理論はピタゴラスによって発明されたという話は有名で、
いろいろな書籍やサイトでも紹介されてます。
例として、ドの音(261.6Hz)を1.5倍(3/2倍)するとソの音(392.4Hz)になります。
これは、ピタゴラスが基準となる音(ここではド)を3倍して2で割った音が、元の音と良く調和して心地よく響くことを発見したという言い伝えによるもの。(この音の調和は完全五度という)
さて、このピタゴラスの5度音程の発見は、身近にある輪ゴムで簡単に体験ができます!
お菓子の箱に輪ゴムを巻きましょう。そして割りばしを1本用意します。
輪ゴムの長さが2:1つまり3等分されるところで、駒のように輪ゴムの下に挟みます。
すると、元の輪ゴムの音より5度高い音がでます。弦の長さに反比例して音の高さが上下する法則があります。つまり長さが2/3に短くなれば、その逆の3/2だけ音が高くなります。
箱に巻いたのは箱が共鳴するために音が聞こえやすくするためです。(弦楽器の原理です)
ちなみに、真ん中に割りばしをおくとオクターブ(弦長が半分になるので周波数が2倍)になります。

では、輪ゴムをピンピンはじいてもらって体験していただいたところで!
12の音階に話を進めましょう。
順番に次々と1.5倍していくと、だいたい12回繰り返したら元の音に近くなります。
譜面にすると以下のようになるのですが、隣り合う音程を完全五度(ドレミファソと5音上昇)といいますが、この五度を繰り返していくとほぼほぼ基準のドになります。

これをグルっと円状に配置すると五度圏といいます。
「ほぼほぼ」といったのは、3/2をいくら掛けても2の指数には一致しなく、式で書くと、
(3/2)n≠2m
このために必ず「ずれ」が生じます。これがいわゆる「ピタゴラスのコンマ」と呼ばれるもので、これがあるために何世紀もの間、ミーントーンだとかヴェルクマイスタだのといった音律が考えられ、いやもっと言ってしまえば、永遠に純正律と平均律の論争が残るわけなのです。解決しないことが数学で証明されているとも言えます。
再度、おさらになりますが、ドレミファソラシ…と順に音階を上がっていくとまた高いドになりますね。この下のドから上のドの関係を1オクターブといい、ピッチ差(周波数の差)はちょうど2倍です。
音階を構成する音はド#やミ♭といった半音も含め12あります。前述のように現代ではこれらの音のピッチは1オクターブを12等分された「平均律」が多く用いられます。
いま12等分と書きましたが、正確には1オクターブという2倍のピッチ差を「12乗根」で分けます。単純にピッチの差を12等分したのではありません。
半音の音程は12乗して2になる数値で区切るということになります。もちろん筆算では大変なのでパソコンや電卓で計算しましょう。
半音のピッチの比aを求めてみましょう。
12回かけて2になるので、a×a×…a = a12 = 2となるaを求めるには、
逆の12乗根を計算すると、a = 12√2≒ 1.0595と約6%周波数がアップします。
半音の違いというのはパーセントで聞くと意外と小さい気がしますね。
全音は半音1.0595の二乗で1.122で約12%アップです。
次の図はドから順に各音が何Hzになるかを図にしたものです。少しカーブして指数的に増大していることがよく分かりますね。
もう一つ、音程の尺度として良く用いられるセントについても説明しておきます。
セントは半音より細かい周波数比を示すときに使われるものでチューナーなどに表示されています。100セント = 半音と定義され、1オクターブは1200セントです。よって、1セントcはオクターブの周波数比2を1200で等比分割するのでc = 1200√2 = 1.000578となります。よって、約0.06%のピッチ変化ですので耳で識別するのは不可能に等しいです。
2.ピタゴラス音律×純正律×平均律
電子楽器は平均律ですが、クラシック音楽において弦楽四重奏のようにピッチが自由になる楽器同士の合奏(アンサンブル)では純正律による和音の方が美しく響きます。
和音が美しく聞こえるためにはピタゴラスが発見したような2:3の完全5度や完全4度のように、単純な比率であるほうが良いのです。次に比率がシンプルなのは4:5の長3度です。
ピタゴラス音律では長三度は64: 81ですが、これは濁って聞こえます。
そこで、純正律ではエイや!と近い5:4とよりシンプルな比率にすることで、濁りが少なくより調和した響きになります。
次の表はピタゴラス音律と純正律の比をまとめたものです。この表から純性律には2種類の全音程があることになります。ドに対してレのピッチは9/8倍ですが、レに対するミのピッチは、5/4÷9/8 = 10/9で計算できます。前者の全音は幅の広い大全音と呼ばれ、後者は幅が狭い小全音と呼ばれます。同様に、半音程では4つの比率があることになります。このように音程が不均一だとピアノやオルガンでは問題が生じます。調性が変わると響きも変わってしまい、ある調性では美しく響いても、別のある調性では美しく響かないことになります。よって、曲の調が変わるごとに調律をしなければいけなくなってしまいます。また、曲の途中で転調もできなくなってしまいますので、作曲上の足かせとなってしまいます。その観点において、音楽の歴史的な発展と共に多様な調変化に対応するためにも、多少の濁りを許容した実用的な平均律が結果的に選択されたと言えます。下の表に純正律と平均律の周波数比の違いの例を挙げておきます。

このピッチの違いを体験できるように音源を用意しました。
音源はリンク先にありますので、聞き比べてみてください。
↓のリンクよりどうぞ
3.協和度曲線
いよいよ、「音階と数学」の話もレベル3です。
周波数の比がシンプルに2倍となるオクターブや3:2(1.5倍)の完全五度は良く協和します。2つのピッチが同時に鳴った場合、その和音の協和度は周波数の比に依存します。ドイツの物理学者ヘルムホルツ(Helmholtz)によると、2音の不協和感の原因は、和音から感じられるうなりとざらつき感にあるとしています。
人間の聴覚には臨界帯域幅というフィルタがあり、2つの和音のピッチ差が臨界帯域幅以内ですと、うなりやざらつき感を感じます。臨界帯域幅以上の差があると2音のピッチは別のものとして感知されます。そして、このうなりやざらつき感は臨界帯域幅の1/4の周波数差で最大になると言われます。
プロンプら(Plomp & Levelt, 1965)の実験及び論文によると純音の不協和度D(x)は次のように表せます。
D(x)= e^(-ax)-e^(-bx)
xは2つの周波数f1とf2の差、すなわちx = f2 – f1です。また、eはネイピア数(=約2.718)、起伏の大きさを決めるある正の定数aとbを伴った指数関数の差で表されます。
この関数の描く形をパソコンで計算すると、下の図のグラフのようになります。2つの純音の不協和に感じる度合いは赤の太線のように約半音ずれた場合に最も不協和感を感じ、その後は差が広がるにつれてざらつき感もなくなり、やがて2つの分離した音に感じられます。
一般的に楽器の音は整数倍音を多く含みますので、楽音の不協和度はこの倍音成分を考慮する必要があります。
つまり、例えばド(C4, 261.3Hz)とミ♭(E♭4, 311.1Hz)の楽音の不協和度は、2倍音まで考慮するのであれば、純音でのC4とE♭4の不協和度に加え、ドの2倍音C5 (522.6Hz)とE♭4の不協和度、さらにC4とE♭5、C5とE♭5の計4つの不協和度を足し合わせたグラフになります。その足し合わせた結果は図の2倍音の線になります。図には、さらに3倍、4倍、6倍の各倍音まで考慮にいれて計算したグラフを載せておきました。
不協和度曲線の落ち込んでいるところが、逆に協和する周波数差を示しています。ドを基準にして協和度の高い音程は、同音とオクターブの他には完全5度であることが分かります。また、ラは平均律で計算すると440Hzであるはずなのですが、この理論値によるとドを基準音にしたときのきれいに調和する長六度のラは436Hz付近になり、平均律と約4Hzもずれていることになります。

ド(261.63H)に対する不協和度曲線と平均律によるピッチ
#音と音楽の科学, 岩宮眞一郎, 技術評論社
# R. Plompand and W. J. M. Levelt, Tonal Consonance and Critical Bandwidth, 1965
※以上の記事の詳細は、下記の書籍にて販売してます。
















