「歴史探偵」…NHKの番組ですが、ファンの方も多いのではないかと察します。
小職は今年(2025年)10月1日に放送された「ゴジラ」にて、映画のテーマ音楽についての解説者として出演しました。
放送の中では、伊福部昭作曲の有名な「ドシラ・ドシラ・・・・」がなぜヴァイオリンのG線を使ったのか、という作曲と弦楽器の音響について、解説をしました。
と、公式コメント(?)としては、上記の通りなのですが。
いやー、ホントは撮影の時は実はもっといろんなことをしゃべり、いろんな資料を用意していたのですが、、、
そこはテレビあるあるで、だいぶカットされてしまいました…。大人の事情ってヤツですかね。
ということで、「撮影秘話」ってほどの大げさなものではないですが、本ブログではそのボツったネタがもったいないので披露しようかと思い筆を、いやキーボードをとった次第であります!
そもそも話をすると、
小職がヴァイオリンの音響や現代音楽の作曲についてホームページなどで発信をしているのを、テレビ局のディレクターさんが見つけてくれまして、大学の広報を通して取材依頼が来ました。電話で直接話したりメールでのやり取りをもとに取材内容が決まったのですが、本記事ではそのストーリの中から「ボツった」(まあ、たぶん放送の尺の都合から削られてしまった)内容について、かつ補足的に書こうと思います。

撮影の様子。ヴァイオリンの演奏は竹重夏野さん、アナウンサーは木村穂乃さん。@明星大学のスタジオにて
放送では、メインテーマのゴジラの音楽について解説!となっていましたが、
ヴァイオリンの低い音域(一番太いG線)を使ったのかという話題でした。
ゴジラのメインテーマを楽譜にすると次の図1のようになります。

図1ゴジラの冒頭のテーマ
この音域は、ヴァイオリンだと4本ある弦のうち最も太く低い音の出るG線を使います。この弦で力強く弾くには、腕に重さをのせて圧力をかけて弦をこすることになるのでノイズが多い音色になります。
それで、テレビの放送では、「このノイズ成分が今回のゴジラのテーマの強さや恐怖感に一役かっているかもしれない!」という仮定を検証するという内容でした。
ここで「音色」を語るのに、音響屋さんは音波のスペクトル解析(離散フーリエ解析)という解析手法を使います。
それが下にある図2や図3に示すパワースペクトルと呼ばれるグラフで、音波に含まれる様々な周波数成分を示すものになります。
楽器の音はたくさんの周波数(つまりピッチ)が重なってできているので、フーリエ解析をするとどのピッチの波形がどのくらいの割合で含まれているかが分かります。楽器の場合は、演奏している音のピッチ(ラなら440Hzとか)の周波数を基音といい、その整数倍のピッチの波形が顕著に含まれ(倍音成分という)、あとはそのピッチ間のノイズ成分でできています。
解説では、
圧力をかけて弾くとノイズ成分が多く含まれ、
このノイズ感が大きな音量と共に聞き手に強さや荒々しさを与えています。
作曲家の伊福部はこの音響的効果を狙って作曲したのかもしれない。
ということ。
まあ、本人に聞いたわけではないのであくまでも想像ですが…(^^;
でもこのヴァイオリンのG線を使って力強さや荒々しさ、さらには情熱を表現するという手法は歴代の作曲家に大変よく見られます。
有名なところでは、死の舞踏、仮面舞踏会、さらにはチゴイネルワイゼンやチャルダッシュ、スペイン協奏曲、などなど枚挙にいとまはありませんね。
太い弦で圧力をかけてバリバリひくと、文字通りノイズの多い、一種のつぶれた音色になります。一般的に圧力をかけるとノイズ成分が増えるのですが、特にG線では増えやすい。
下の図2はスペクトログラムといって、音色の成分分析とも言える手法です。ある音を周波数ごとに分解して、それぞれがどのくらいの量で混ざっているかがわかる図です。

図2 ヴァイオリンでゴジラのテーマ「ドシラ・ドシラ」を普通に弾いた場合と圧力をかけて弾いた時のスペクトログラムの比較
色の濃いところは成分が大きいところで、その周波数成分が多いところを意味します。ヴァイオリンのような弦楽器は一番下の黒い線(音符で書かれた音の高さに相当する)に対してその倍音成分がきれいに縞模様としてみえる。
ここで、図の左をみると普通に(柔らかく美しく)ひくとこの縞模様がきれいに見え、これはノイズが少ないということ。一方で、力強くひくと縞模様の間が濃くなっているのが分かりますね。これは倍音成分以外の別の周波数成分がより含まれることを意味していて、行ってみれば雑音成分が増えたということ。特に上下の真ん中付近が濃くなってつぶれているように見えますが(オレンジの枠)、G線を強く弾くとこの周波数帯の雑音が増えるのが分かります。そのバリバリとした雑音を多く含む音色によって、聞き手に力強さと共にゴジラという醜いゴツゴツした生物をイメージさせるのに適していると言えます。
ついでに、縦の周波数方向のデータ(黄色いところ)を抜き出してみると次のように(図3)もう少し分かりやすく比較できます。
比べてみると倍音のピーク列(針のようにとげとげ、倍音成分という)の間の非倍音成分が、赤い線の力強く押し付けてひいたときには大きくなっているのが分かりますね。ピークとその間の差をPeak-to-Noiseといい、この差がないと倍音成分が聞こえづらくなりノイズのざらざら感が感じられようになります。

図3 ヴァイオリンの弓の圧力の違いによるパワースペクトルの比較
単にノイズというとイメージが悪いですが、むしろ逆にゴジラという怪獣や、怪獣と戦うといった映画のイメージには適しているでしょう。
低い音域でノイズがあった音は、ゴツゴツしたとか荒々しいとか、緊迫感を出すのに適しているといえます。
それに、低音域を使うことでゴジラの大きさとか強さも表現できますね。
ふつう、人は大きい物体に対しては低い音や大きい音を連想しますよね。
例えば象とかを表現するのに、高くて小さい音楽はちょっとイメージ合わないですよね。
ここで、低い音ならチェロでもいいんじゃないのか?という疑問もあるかと思います。
テレビではこの点にも触れていて、結論的には同じ音域だとチェロの場合は、ヴァイオリンと異なり一番細いA線を使うことになります。そうすると、このA線はチェロの音色としてはブリリアントな張りのある音色となってしまって、ちょっとゴジラ的な重さと怖さを出すには、ちょっとメロディックになってしまいます。
もちろん、圧力をかけてゴシゴシ弾けばノイズ成分は増しますが…作曲家としてはオーケストレーションの常識上、そうは使わないですね。もしチェロを使うとしたらもう1オクターブ下げて、G線やC線の音域にします。
余談ですが、あとは、オーケストレーション(オーケストラの中での楽器の使い方)の面からになりますが、バイオリンからチェロまでみんながメロディーを引いてしまうと、伴奏のボンボンといったリズムがコントラバスだけになってしまい、そうなると強いリズム感が弱くなってしまいますね。
と、ここまでが放送された内容! (+追加の解説)
ですが、収録の時はもっといろいろネタがあったんです!( ;∀;)
だいぶ長くなってしまうので、次のブログにてそれを書きます。