理系英語の第1のポイントは前回のテーマの Correct(正確)ですが、第2のポイントは Clear(明瞭)すなわち「分かりやすいこと」です。

 

分かりやすさを妨げるものに2つ以上の意味をもつ表現があります。例えば machine language translation は ① マシンによる言語翻訳 ② マシン言語翻訳 ③ マシン言語への翻訳、という3つの解釈が可能です。① は translation of a foreign language by a machine  ② は translation of language produced by a machine  ③ は translation into language that a machine can use とすれば読み手は戸惑うことがなく誤解も生じません。

 

このように特に名詞が連続している複合語は、それを構成する語と語がどのような関係にあるのか、中間の語がどの語を修飾しているかなどによって意味が異なりますから unpack する(かみくだいて説明する)必要があります。なおその際、名詞の単数・複数や冠詞も考慮しなければなりません。

 

これは科学技術の用語に限ったことではありません。例えば The number of IBM project members is increasing. という文の IBM project members は2通りの解釈が可能です。① IBMproject を修飾しているとすれば「IBMプロジェクトのメンバー(IBM社員とは限らない)」であり ② IBMmembers を修飾しているとすれば「IBM社員のプロジェクトメンバー」ということになります。① は members of the IBM project  ② は IBM employees who serve as members of the project のように unpack すれば初めて読む人も直ちに理解することができます。もちろんこの project について知っている人に宛てた文ならば誤解されることはありませんので IBM project members と書くことができます。

 

ただし、誤解されることがない場合でも、名詞をつなぎ合わせた複合語は分かりにくいので、少なくとも最初は unpack したものを示すべきです。air quality regulation announcements(大気環境規制の発表)は announcements about air-quality regulations または announcements of regulations related to air quality のように、前置詞や分詞やハイフンを使って分かりやすく表します。

 

1つの語で2つ以上の意味をもつものにも注意しなければなりません。例えば接続詞 since には「~以来」と「~なので」という2つの意味がありますが、理由を表すならば since ではなく because を使う方がよいとされています。

 

「あなたがその表を作成したのだから、変更する権限はあなたにあります」を英文で Since you created the table, you have authority to change it. とすると Since がどちらの意味なのかを読み手に一瞬でも考えさせることになります。意味を選ぶ手間を読み手に負担させるのは良い英文ではありません。この SinceBecause にすれば迷うことなく直ちに理解されます。

 

次回は 3Cs の3番目 Concise(簡潔)について掘り下げます。

(1) 3歳児の「時」の感覚 -- Three-year-old time sense

 

3歳児が母親に言いました。「むかし生まれればよかった。だって、子供のお母さんと遊べたもん!」

 

新聞に出ていた「子供のことば」特集の傑作です。この日までに覚えた語彙と文法を精一杯使って、嬉しいことを言ってくれたこの子のお母さんは、一日中幸せな気分で過ごしたことでしょう。

 

これを英訳してみましょう。この子は、過去に起こらなかったことが仮に起こっていたとしたら、という仮定の状況での望ましい結果を述べていますから英文は仮定法です。仮定法は、英語では特別な表現をしなければならないので日本語よりも少しやっかいです。日本語はやさしいとはいえ、母国語ならば3歳にして完璧に仮定法も言えるのです。(ただし、日本語の文法には「仮定法」という文法項目はありません)

 

この子供は女の子とすれば次のようになるでしょう。

 

A three-year-old child said to her mother, “I wish I had been born earlier, because I could have played with my child mother!”

 

 

(2) 根本的な矛盾 -- A basic contradiction

 

大人も仮定法を使って理不尽なことを言います。

「こんなに長続きするんだったら、初めにもっといい人を選ぶんだった!」

 

面白い発言です。こんな発想ができるのは恐らく女性でしょう。「そーゆーひとだから長続きしたんでしょうに。マッタク、モー、ぜいたく言っちゃだめですよ」なーんて誰でも言いそうな月並みなコメントはしたくなかったんですが、してしまいましたね。

 

では英訳してみましょう。日本語にはいろいろな省略がありますから、英語にするときはその省略が何であるかを考える必要があります。「こんなに長続きするんだったら、初めに」は、「その人との関係がこんなに長続きするということが最初からわかっていたとしたら」という意味でしょうから、下線の言葉を補って英訳しなければなりません。「もっといい人」の「人」とはどんな種類の人でしょうか。多分ボーイフレンドでしょう。したがって、次のような仮定法の文が成り立ちます。

 

If only I had known that my relationship with him would last this long, I would have chosen a better boyfriend at the very beginning!

 

もしもこれが男性の発言ならば、him her となり、boyfriendgirlfriend となるでしょう。

 

 

(3) 丁寧な依頼 -- A polite way of making a request

 

 仮定法過去は事柄を仮定として述べるので、人にものを頼むときに使うと押し付けがましい感じがなくなります。

 

I would appreciate it if you would write me a letter.

 

この構文の it は if 以下の内容を示すものです。直訳は「もしも私に手紙を書く意志が貴方にあるとしたら、私はありがたく思うのだが」ですが、「読み手に伝わるメッセージは「手紙をいただけたらありがたいのですが」という控え目で丁寧な依頼になります。

 

表現を控えめにするために、過去形の助動詞を使うのは慣用表現に多く見られます。

これは仮定法の条件節(「もしも……ならば」の部分)が省略されて、帰結節(その結果として起きてほしいこと)だけが残ったものと考えられます。次の例文では、ふつうは省略される条件節を敢えて作ってカッコに入れています。

 

I would like to live here (if I could find a house).

(家が見つかれば)ここに住みたいのですが。

 

Would you like a coffee (if I offered you one)?

(差し上げたら)コーヒーを召し上がりますか。

 

          第5話 はこれでおしまいです。

 

 きょうは『ビジネスレターの書き方』を勉強します。 …… これは教室の授業風景です。

 ビジネスレターで「拝啓」に相当する言葉は、宛先が男性でブラウンと言う人ならば Dear Mr. Brown: となります。いいですかァ、書き方は「ディア・ブランク・ミスター・ピリオド・ブランク・ブラウン・コロン」 ですよ!

 

仕事に英語を使っている人でも、たったこれだけのことを正確に知らない人がたくさんいます。「ミスター・ピリオド」の後にはブランクを1つ入れなければなりません。このブランクを入れない人が多いのです。その次にはファミリーネーム、すなわち苗字だけを書くのですよ。Dear Mr. John Brown: のようにファーストネーム(ここではJohn)を付けて書いてはいけません。

 

Dear Mr. John: Dear Mr. Tom: などと Mr. の後にファーストネームだけを書くのはもってのほかです。日本語にすると「ヨシちゃん殿」といった雰囲気になってしまいますが、アメリカ人にとって、ファーストネーム単独にMr.などの敬称をつけることは、重い過去の歴史を蘇らせることになります。すなわち、南部の農園で綿花の栽培に従事していた、苗字をもたない奴隷の呼び名を思わせるのです。

 

苗字の後ろは、米国のフォーマルな手紙ではコロンです。このコロンの前にブランクを入れてはいけません。コロンの代わりにコンマを使うのはインフォーマルな手紙です。親しい相手への手紙で Mr. を付けない場合はファーストネームだけを書くことができますから Dear John, Dear Tom, とすることもできます。きょうの話はビジネスレターですが、Eメールの場合でもこの書き方はそのまま当てはまります。

 

英語の手紙で、次に厄介なのが男性・女性の区別です。日本人には、ヒロミ、マサミ、カオル、シノブなど、男にも女にもある名前がありますが英語にもあります。例えば Pat という名前です。このような場合、この人が男性なのか女性なのかが分かるまでは Mr. Ms.もつけることができません。(Ms. は既婚者、未婚者を問わず女性一般に共通な敬称でビジネスでは普通に使われます。Mrs. Miss を使うのは、特に本人がその使用を望んでいるときに限るのがよいでしょう)

 

性別が不明のとき、その人の苗字が Berg ならば Dear Pat Berg: のようにDear の後ろに Mr. Ms. を付けずに名前と苗字の両方を書くとよいのです。すると、これを受け取った人が注意深くて気配りのある人ならば、返事の手紙の差出人の名前のところに Pat Berg (Ms.) というように、 カッコに入れるなどして男性・女性の区別、そして女性の場合ならば自分にはどの敬称を使って欲しいかを書いてきてくれます。

 

長い間、メールの最初にずっと Mr. Davis: Mr. を使っていた人が、あるときそのデービスさんに電話をしたら女性だった、といったことが、外資系社員には一度くらいはあるでしょう。といっても、メールで直接「あなたは男ですか女ですか」と尋ねるのは非常に失礼なこととされています。

(逆に、ネイティブ・スピーカーは日本人の男性・女性を名前で判断することができませんので、自分から送るメールの差出人の欄には Kazuo Suzuki (Mr.) のように、かっこに入れてそれを示すのが相手への心遣いとなります)

 

男女ともに使われる英語の名前には、Pat ほかに Andy, Chris, Jan, Robin, Terry, Tony, Tracy などがあります。

 

 名前から性別を判断するのにも常識があって、例えば Agatha のように 最後が a で終わる名前は、その95パーセント以上は女性です。日本人ならば「子」で終わる名前はほとんどが女性であるのと同じようなものです。ですから、a で終わる名前には Ms. を付ければたいていの場合正しいわけですが、もしも例外的にこの人が男性であり、Ms. と書かれた手紙を受け取ったとしても、この人は思うでしょう。「ああら、あたしのこと女だと思ったのネ(生徒がクスクス笑いだす)、でも無理ないワ、だって名前が a で終わるんですも・・・(ここでやっと私が気づく)アーッ、逆です、逆です。ウワー、“女形(おやま)”を演(や)ってしまったじゃないですかあ」(とテレ笑い。教室は笑いの渦)

 

英米人の名前で、辞書にも出ているようなポピュラーなものは、男性・女性の区別をまちがえてはいけません。Catherine Smith 女史に Mr. Smith としたり、Robert Johnson 氏に Ms. Johnson と書いたりしてはなりません。もしもこのように書いたとしたら、一体どれほど変に感じられるかを、日本語の場合で考えてみませう。(みませう?)

 

例えば、アメリカ人が、日本人の「奈平 鎌太郎(なひら かまたろう)」という人に日本語で手紙を書いて、文面に「貴女は」などと書いてあったら、鎌太郎クンはうす気味悪く思うでしょう。アメリカに出張しても、会わないようにしようと思うにちがいありません。だれかが、「鎌太郎」は男だよ、と彼に指摘したとすると、彼はびっくりして反論するかもしれません。「ボクが日本で暮らしていたときには、芸者サンに『太郎』のつく人がいたぞ」って。一瞬、「あのなあ!」と言いたくなる人もいるでしょう。こーゆー片寄った知識を持ったガイジンを納得させるのも一苦労です。

 

                                          第3話はこれでおしまいです。

 

 英米人の男性で名前が a で終わるものには Ezra(エズラ)やJoshua(ジョシュア)などがあります。

 

 「女ことば」 の話題が出たついでに言いましょう。「いたしますワ」 のように、音程の上がる語尾の 「ワ」 を自然につけてお話しのできる女性は魅力倍増、いつまでも心に残ります。 ……え? そういう言葉遣いをしてあげたくなるような人がいない? うーん、一理ありますかね。

 

 

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  もしもホワイトハウスから――ホワイトハウスといっても、よくある若者向けのアパートの名前ではなく、正真正銘のアメリカ大統領の官邸と思ってください――そのホワイトハウスから、パーティーの招待状が来たときに、それを断ることができるのは次の4つの場合に限られます、と物の本にでています。

 

   ● 本人が病気                Illness

   ● 家族の死                  A death in the family

   ● 家族の結婚式と重なる      A family wedding

   ● 旅行の予定と重なる        Prior travel plans

 

 したがって、カップルに宛てられた招待状ならば、「別居中だから」 というのは断る理由にはなりません。何とかして相手を説得し、二人で出席しなければなりません。

 

 もしも、そんなあなた方に、心当たりがないのにホワイトハウスからパーティーの招待状が来たら、・・・・・・ 絶対に「何かの間違いでは」 などと言ってはいけません。

 

ホワイトハウスにもメンツというものがあります。間違いなどするはずがない、というメンツです。このメンツを保ってあげる必要があります。さりげなく、ポーカーフェイスで出席しなければなりません。

 

 そして、あなたが女性ならば欧米の女性に体格で見劣りがしますので、パーティーではドレス姿では映えません。民族衣装でよいことを確かめた上で、豪華な和服姿で行くことをおすすめします。

 

 この衣装代は後でホワイトハウスに請求できるはずです。あなたへの招待状が手違いであったことにうすうす気付いているホワイトハウスですから、メンツが保てる数百万円のお金なんて安いものです。

 

 パーティーでは、あなたの絢爛(けんらん)な和服と、自然で優雅な立ち居振る舞い、絶やさぬ微笑で多くの人の注目の的となり、あなたを囲んだ人たちから、あなたの衣装や装身具について質問の嵐を受けることになります。それは、髪飾り (ornamental hairpin)――から足袋 (traditional split-toed socks) や草履 (thonged sandals) ――にまで至ります。

 

 しかしあなたは身に着けているものすべてについて、英語で説明のできる準備ができ上がっているのです。(あなたは日本の伝統文化を紹介する親善大使ということになっています)

 

  ・・・・・・「はい、これは菊 (chrysanthemum) の刺繍 (embroidery) です。今年のこの季節に合わせて、京都のキモノ・テーラーに3年前に注文いたしましたが、刺繍だけで2年かかったと聞いております」と、少し誇張して答えます。

 

 「これは帯 (broadsash for a kimono)、これは帯揚げ (sash bustle)、これは帯締め (sash cord)、 これは帯留め (sash clip through which the sash cord is passed) でございます」 「かんざしは七宝焼き (cloisonné = 英語ではクロイゾネイと発音します)です」

 

 「ハンドバッグの紐に付いているべっ甲製の小物は『根付け』と申します (The small toggle-like object dart attached to the cord of the purse is called Netsuke‚” which is carved from turtle shell.)

 

 約270年前、江戸中期の有名な彫り物師の作品で、10代前の曽々々々々々々々祖母 (great-great-great-great-great-great- great-great-grandmother) が十五才になったとき、その父、つまり11代前の私の曽々々々々々々々々祖父が誕生日のお祝いとして、半年分の禄(ろく)(samurais stipend = 武士の給料)で買ってあげたとのことでございます・・・・・・」

 

 “曽々・・・祖父”のところでは、上げた左手の指の1本1本を右手の人差し指で触れながら great を5回まで、6回目からは右手の指先を左指で示しながら、きっちり9回まで繰り返します。

 

 このとき、あなたの周りに集まっていた人たちは途中から一斉にgreat-great-と唱和し始めます ・・・・・・ great-great-grandfather! ・・・・・・ 言い終えて歓声と拍手が響きます。東の端にある小さな国が、アメリカの独立宣言よりも昔の文化を、こうして保っていることへの賞賛です。

 

 深々とお辞儀をするとき、あなたの髪飾りが、キラキラ、キラと輝きます。

 

  ・・・・・・ 別居中だったカップルは、ホワイトハウスでヨリが戻った(got back together)とします ・・・・・・ そして、パーティーから数週間後、今度は「本物の招待状」(a genuine letter of invitation) が舞い込むことになるのです。

 

 「あなたー! パーティーで知り合ったゴールドマウンテンさんご夫妻から、こんどはご自宅でパーティーを開くから、いらしてくださいって招待状がきたわよー!」

 

  ・・・・・・ このカップルの幸せを祈って、乾杯!

 

                   第4話 はこれでおしまいです。

 

 今回は理系英語のポイントの1つ、 Correct(正確さ)について考えます。理系の英語では、「正しい表現」をするためには適切な語句を使い、正しい文法でセンテンスを書かなければなりません。まず、正しくない英語の多くは和製の「カタカナ英語」から生じています。具体例を見てみましょう。以下の「×」は誤り、「→」の後が正しい英語です。

クレーム × claim → complaint / グレードアップ(する)× grade up → upgrade / コストダウン × cost down → cost reduction / スピードダウン × speed down → slowdown / (車が)スリップ(する)× slip → skid  / ミス(する)× miss → mistake / リストアップする × list up → list  / リフォームする × reform → renovate, remodel

 

車の部品にも「カタカナ英語」はたくさんあります。ここでは正しい英語のみを記します。ウィンカー → blinkers / チェンジレバー → gearshift / バックミラー → rearview mirror / ハンドブレーキ → parking brake / ハンドル → steering wheel / フロントガラス → windshield

 

次に文法事項を1つ取り上げます。More than one ________ replaced. この英文の空欄に入る語句は次のうちのどれでしょうか。また選択した後、日本語に訳してください。

(A) switches were (B) switch were (C) switches was (D) switch was

 

[解答]one の次にくる名詞は可算名詞の単数形なので switch です。More than one は複数を意味するので switches だと考えてはいけません。また「More than one+名詞」が主語の文には単数動詞を使うことになっていますから、動詞は was です。したがって正解は (D) です。

 

More than one は「1を超える数」という意味です。「1以上」という日本語は1も含まれますから日本語訳としては正しくありません。「1を超える数」には 1.2 のように小数を含む数もありますが、この文ではスイッチを1つ、2つと数えるための数ですから「1を超える数」とは2、3、4、・・・ すなわち「2以上の数」です。したがって、この文の訳は「2個以上のスイッチが交換された」です。これは Two or more switches were replaced. と同じ意味です。

 

このように理系英語では数の範囲を厳密に述べなければなりません。ただし非常に大きい数の場合、たとえば More than 1,000 people などの場合 1,000人と 1,001人との差はふつう意味がありませんので、「千人を超える人」のほかに「千人以上の人」と訳すこともできます。

 

次回は 3Cs のうち、特に Clear について掘り下げます。

第2話   『上人の感涙』

 

  「できるだけ早く」は英語で as soon as possible と言いますが、これを略して英文メールなどにASAP または asap(エイエスエイピー または エイサップ)と書く人がいます。アメリカ人にも、その真似をする日本人にもいます。これは、一語でも短くすると安上がりになる大昔のテレックス時代(皆さんのお父さんかお爺さんが現役の頃)ならば意味のある略語ですが、今ではよくありません。a sap のように思われて語呂が悪いからです。sap は「まぬけ」の意味なので鈍感な人は別として、受け取った人の気分を害するのです。略さずに as soon as possible と書きましょう。asap と書いても差し支えないのは、非常に親しい間柄のみです。

 

  ついでに言いますと、この as soon as possible というフレーズは本当に緊急の時にだけ使うべきです。できるだけ by May 29(5月29日までに)のように期日を書くようにしましょう。as soon as possible を頻発すると、「計画性のない人だ」と思われてあなたの信用をなくすることになります。また「できるだけ早く」といっても受け取る人が感じる「緊急度」はまちまちです。このフレーズにしばしば出会う人は慣れっこになっていて「急がなければ」という気持ちが湧かないかも知れません。

 

このフレーズは、その前か後ろの文章が大切です。つまり、「緊急にして欲しい」ことの理由が、説得力のある文章で書かれているか否かです。理由付けに説得力があれば as soon as possible というフレーズが生きてきます。もっとも、相手もその緊急性を十分認識している場合ならばくどくど説明する必要もないでしょうが、よくあるケースは、理由をあまり述べずにいきなり as soon as possible と書くことで、これが一番いけません。

 

  語呂には問題がなくても、略語を文章中に使うことには気をつけなければなりません。特に「月」や「曜日」の名前を略して書くのはカジュアルなメールならOKですが、ビジネス上のレターやEメールでは、書き手の「ずぼらな性格」がなせる仕業(しわざ)と思われてしまいます。たとえば、日本人の書いた仕事上のEメールにこんなセンテンスを時々見かけます。

 

    Our next meeting is scheduled for Mon., Aug. 7, at 10:30 a.m.

 

このセンテンスの Mon.Aug. はこのままでも意味は通じますが、真面目なビジネス文書のスタイルに合わず、またスムーズな読みの流れを阻害します。それぞれ Monday August にスペルアウトするべきです。文字数の少ない略語の方が読み手にとっても都合がよいのでは、と考えるのは日本人の当て推量であって、ネイティブスピーカーは文のスタイルに違和感を持ち印象を悪くしますから、そのデメリットは無視できません。スタイルとは表現方法や文体のことで、これは文書が使われる人間関係や文書の目的によってある程度決まっているものですから、それを逸脱するとちぐはぐな印象を与えるのです。なお、a.m. はラテン語からの略語ですが文章中にも使える略語として定着しており、このままの方が読みやすいので書き換えません。

 

  別のフレーズの話です。依頼をするための手紙の最後に、「ご協力をお願いいたします」の意味で、Thank you in advance for your cooperation. と書く人がいます。ところが、この中の in advance「前もって」がいけません。この2語は削除するべきです。「前もって」今お礼を言うからには当然やってくれるね、という押しつけがましさと、やってもらった後にはお礼は言わないよ、という言外の傲慢さが感じられるために、ネイティブスピーカーにはこのフレーズを嫌う人がいるからです。ただし、言葉に対する感受性の鈍い人や、ごく親しい人どうしのEメールなどには使われます。

 

  ところが、アメリカ人からもらったEメールにこのフレーズがあるのを見て、本当は憤慨しなければならないのに、「前もってお礼を言います」とは何と丁寧で気のきいた言い方なんだろうか、と勝手に感激してしまった人が、皆さんの先輩にたくさんいたのです。「こんなよい表現は、ぜひ自分も真似をしなくては」と、依頼のEメールのフォーマットに予めタイプしておく人もいるほどです。

 

 このように、よく調べもせずにひとり合点をして失敗した話で思い出しますのは、出雲の神社に参拝に行ったある上人(しょうにん)が、入口の獅子(しし)と狛犬(こまいぬ)が、普通の神社ならば内側を向いているのに、ここでは外側に向けて置かれているのを見て、「これにはきっと深いわけがあるのだろう」と涙を流して感激し、どんな有難い話が聞けるのだろうかと期待して、その理由を神官に尋ねたところ、「いやあ、子供がいたずらをして困っているんですよ」で、ダアーとなった話。高校のとき古文で習いましたね。徒然草です。

 

                                   第2話 はこれでおしまいです。

 

 

第1話  『お湯を沸かす』
 
 英語は日本語よりも論理的だ、と言う人がよくいます。こういう人が挙げる例として、日本語では「お湯を沸かす」というが、英語では boil water(水を沸騰させる)という。お湯ならもう沸す必要がないのだから日本語は論理的でない、と。

 こんな人に私は反論するのです。「井戸を掘る」は、英語でも dig a well といいます。井戸ならもう掘る必要がないじゃありませんか。「セーターを編む」は、英語でも knit a sweater です。セーターならもう編む必要がないじゃありませんか。「手紙を書く」は、英語でも write a letter です。手紙なら・・・・・・。

 

 これをどうしても論理的に言いたいのなら、日本語でも英語でも「文字を書いて手紙を作る」と言わなければなりません。あ、これも問題がありますね。文字だったらもう書く必要がありません。それなら「線を引いて文字にし、文字を組み合わせて文にし、・・・・・・」線ならもう引く必要がないでしょ。それなら、「ペンを動かしてその結果文字になるようにし、・・・・・・」こうなるともう、パラノイアです。

 

 つまり「地面を掘って井戸を造る」というべきところを「井戸を掘る」といい、「毛糸を編んでセーターを作る」というべきところを「セーターを編む」と言って、場所や原材料である「地面」や「毛糸」を省略して、製品の「井戸」や「セーター」に直接「掘る」や「編む」を使ってしまうから論理的におかしくなるのです。しかし慣用的にそのように言っているので、ふだんは何の矛盾も感じません。

 

 もちろん、たとえば「編む」の目的語を「毛糸」にすることもできますので knit wool into a sweater と言えば正確になりますが wool という材料を知らせる必要がなければくどくなります。同様に「コンピューターを組み立てる」は、原材料である「部品」を目的語にすれば assemble parts into a computer となりますが、この parts は原材料として当然のものであり、さしたる情報ではありませんから、ふつうは assemble a computer とします。

 

 こうした矛盾は材料と製品との関係だけではなく、手段と目的との間にも存在します。たとえば「橋を渡る」です。よく考えると、「橋を渡る」 cross a bridge は、日本語でも英語でもおかしい表現です。「橋を使って川を渡る」というのが正しいわけです。道路を渡るように、すなわち横切って反対側に行くように、橋の上で「渡って」幅の方向に移動しても、目的を達することができないじゃありませんか。「橋」と「渡る」の間にあるべき「を使って川を」または「を通って川を」という言葉を略してしまうから論理的ではなくなるのですが、慣用的に「橋を渡る」と言っているので仕方がありません。論理的に言えば cross the river over a bridge ですが冗長になります。日本語でも英語でも、よく考えると論理的ではない部分がある、ということがわかります。

 

 最初の「お湯を沸す」に戻りますと、もしも英語に「湯」を意味する1語があったならば――その単語を、例えば netto (「熱湯」をもじって)とすると――日本語と同じように boil netto となるはずです。この、1語で事物を表せるかどうかがキーポイントです。1語で表すことのできる事物は、その言語の最初の認識レベルを表しています。形容詞をつけて言わなければならない事物は、二次的な認識レベルです。日本語では「水」も「湯」もそれぞれが1つの単語であるということは、第一の認識レベルです。これに対して、「水」も「湯」も英語で表す1語は water です。「湯」に対する hot water のように、形容詞 hot をつけてしまうと、二次的な認識レベルとなります。

 

 日本語では1語、英語では形容詞つきの2語となる言葉で目立つものは、「兄・姉・弟・妹」を表す言葉でしょう。すなわち、兄ならば older brother (イギリス英語では elder brother)、妹ならば younger sister ですが、ネイティブスピーカーは、ふつうはいちいち older や younger をつけません。日本と違って、長幼の序にはあまり関心がないからです。日本語の「おじ・おば」に至っては、それぞれ2種類ずつあって漢字が異なります。すなわち、父母の兄は「伯父」、父母の弟は「叔父」、父母の姉は「伯母」、父母の妹は「叔母」なのですが、漢字で書かなければ煩わしくありません。

 

 1語の「湯」と2語の hot water の関係とは逆の例を挙げましょう。つまり、日本語では形容詞付きとなるのに、英語では1語となる場合です。それは「客」と、それに対応する英語です。日本語では店の客も芝居の客も家に招いた客も、さらには招かれざる客も全部「形容詞+客」ですが、英語はこれらに対していちいち単語が異なります。

 

 「店の顧客」は customer、「買ってくれそうな見込み客」は prospect、「美容院や弁護士の依頼客」は client、「芝居の観客」は audience、「招待客」は guest、「訪問客」は visitor、「バスや電車の乗客」は passenger、「おしかけ客」は gatecrasher(これは合成語ですから2語に近いといえます)となります。従って、「今朝、お客さんが見えました」という日本語を英訳しようとしても、客の種類がわからないと正しく訳せないことになります。

 

 「客」を意味する古来の日本語「まろうど」は「まれびと」すなわち「稀にくる人」が転じたもので、客の種類には関係なく「もてなすべき人」であったはずです。

 

 このように詳しく見てゆきますと、ことばは文化を表している、ということがわかります。ところで冒頭の「英語は日本語よりも論理的か」については本格的な議論に入りませんでしたが、この『まじめ半分「英語」の話』に継続して出席されますと、どちらがどのような点で論理的かについての一定の理解が得られと思います。

 

                                                第1話 はこれで終わりです。

 

 この、『まじめ半分「英語」の話』は英語に関する硬軟のバラエティー記事です。

筆者が過去に日本IBMで『英文ライティングセミナー』を実施していたときに、このような「話」も社内のイントラネットで発信し、多くの社員に読まれました。

 

 第2話 は約2週間後にお届けする予定です。

 

 

 

 

「まじめ半分」(half-serious) は「冗談半分」(half-joking) でもあります

 
  『英文ライティングセミナー』を日本IBMで行うようになってから二十数年にもなってしまいました。この辺で、セミナーでの「脱線話」や、授業中に考えた「奇想・妄想」をご披露することも、ひょっとすると読者諸氏の英語アレルギーの緩和、ストレスの解消、閉塞状態からの脱出、活力の増強、野生への回帰、創造性の発揮、生産性の向上、明るい職場、ひいては世界の平和に役立つのでは!と思った次第です。目標は大きく、することは細かく、ほんとは私のボケ防止も捨てがたい目的です。
 コラムの大多数はセミナーの実況中継の趣(おもむき)です。英語は単なる話のきっかけ、というものもあります。耳寄りな話、耳障りな話、耳の痛い話、耳っちい話、といろいろですが、少しの時間耳を貸していただけたら幸いです。
 内容は英語に関する目の薬、目から鱗(うろこ)となるものを目指しますが、中には目の毒、目に余る話があるかも知れません。目の肥えた読者諸氏が目を光らせて、お目付け役をしてくださるようお願いします。
 理想的な読者像は「こんな口幅ったいことをよく口にするもんだ、よっぽど口軽(くちがる)で口任(くちまか)せなんだァ」と著者を見下しつつ、何となく気がかりで先を読まずにはいられない、そして多少は心当たりがあっても決してエキサイトしない人たちです。
  では、始めましょう。第1話は『お湯を沸かす』です。
○■□☰☱☲☳☴☵☶☷▁ ▂ ▃ ▅ ▆ ▇ █ ▉ ▉ █ ▇ ▆ ▅ ▃ ▂ ▁☷☶☵☴☳☲☱☰□■○

 

 
 

   理系の英文のポイントは、「正確」・「明瞭」・「簡潔」の3つです。言い換えれば「正しく」、「分かりやすく」、「短く」書くことです。英語で言えば Correct, Clear, Concise であり、この3つの頭文字がすべて C なので、まとめて 3Cs(three seas と同じ発音)と言っています。

 

    Correct は、記述される数値など内容自体が正しくなければならないことはもちろんですが、言語的には、正しい語句を選択することと文法的に正しく記述することです。正しくない記述は情報としての価値がないからです。たとえば「コンデンサーは、空気や紙といった絶縁物で隔てられた2つの導体から成る」の英訳を考えてみましょう。よくありがちな誤文を示しますので誤りの個所を考えてください。[誤文]A condenser consists of two conductors separated by the insulator such as the air or the paper. 先ず、語句の選択に誤りがあります。電気回路に使われるコンデンサーは capacitor です。condenser は現在では「(気体や液体の)濃縮器」を指すのが普通だからです。また insulator は文意から特定のものではなく任意のものですから the ではなく an にします。「空気」と「紙」も特定のものではなく一般的なものですから the をつけることができず、物質名詞なので無冠詞とします。結局正しい文は A capacitor consists of two conductors separated by an insulator such as air or paper. となります。

 

   Clear は、一度読むだけで直ちに理解できるように書くことですが、これに反する例として「2つ以上の解釈ができる表現」があります。operator message は「オペレーターへのメッセージ」、「オペレーターからのメッセージ」、「オペレーターに関するメッセージ」の3つの解釈が可能です。そのうちのどれに該当するのかを読み手に考えさせてはなりません。少なくとも最初は message to the operator, message from the operator, message about the operator のいずれかで書くべきです。この場合、2回目以降は operator message で済ますことができます。

 

   Concise は、冗長ではないことです。無駄な語句を省き、できるだけ語数の少ない文にすることです。ただし短くした結果、必要な情報を失ったり、分かりにくくなってしまったりすることは避けなければなりません。「占有スペースが最小のプリンターを選ぶ必要があります」の英訳 It is necessary for us to select a printer that has the smallest footprint.(14語)は正しい文ですが冗長です。同じ意味を We must select a printer that has the smallest footprint.(10語)で表すことができますからこの方が better です。

 

  次回は 3Cs のうち、特に Correct について掘り下げます。

 

  理系の英語の中心は文書であり、取り扱い説明書、技術報告書、特許、技術論文などがあります。これらは、それぞれに読んでもらいたい人の特定の集団がいて、その読み手の全員に正しく理解してもらうことが目的です。理解しにくい表現は避けなければなりません。”You don’t need it.” で済むところを “It’s like carrying coals to Newcastle.”(それは〔石炭の産地である〕ニューカッスルに石炭を持って行くような)、無駄なことです」といった比喩や言葉のあやを用いるのは、正しく理解されない可能性がありますから不適切です。

 

  技術文書では、誤解される表現をした場合、事の重大さによってはその読者の全員に直接、または新聞広告に載せるなどして訂正のお知らせをしなければなりません。たとえば、薬の使用法に誤りがあり人命にかかわるような場合です。

読者に意図が正しく伝わらない文書は書き手の責任なのです。

 

  一方、「理系の英語」とは対極の「文系の英語」、すなわち文学作品の文章は、すべての読者に同じ解釈、同じ深さで理解してもらおうとしているわけではありません。抽象的な表現が多い文章は読み手の人生経験や教養によって読みの深さが異なります。文学作品では読者が誤解した部分について、著者が正しい解釈を知らせたり、作品の訂正をしたりしたといった話は聞いたことがありません。発表された後の文学作品は一人歩きをし、それが許されるのです。

 

  技術文書では、そもそも対象とする読み手に読んでもらわなければなりません。読み手の理解を超える難しい書き方や、内容がやさしすぎて読む意欲をなくさせるような書き方をしている文書は読んでもらえないので目的を果たせません。読み手がどのような人であるのかを事前によく調べ、読み手のレベルに合う文章にすることが大切です。

 

  また、長すぎる文章も敬遠されます。「理系の英語」は、微妙なニュアンスの相違といったことはほとんど問題になりませんので、同じことを述べるならば1語でも短い文を使うべきです。たとえば、「このアンテナは長さが2メートルです」の英訳はアンテナを主語にすると次のようになります:

 

① The antenna has a length of 2 meters.  

② The antenna is 2 meters in length.  

③ The antenna is 2 meters long.

 

  すべて正しい英文ですが最も語数の少ない③が最良です。短く書く努力を怠ると、語数はすぐに3~4割も増えてしまいます。冗長な文章は、わかりにくい文章と同様に、読んでもらえなくなる原因です。

 

次回は 理系の英語の「表現」について考えます。

 

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