きょうは『ビジネスレターの書き方』を勉強します。 …… これは教室の授業風景です。

 ビジネスレターで「拝啓」に相当する言葉は、宛先が男性でブラウンと言う人ならば Dear Mr. Brown: となります。いいですかァ、書き方は「ディア・ブランク・ミスター・ピリオド・ブランク・ブラウン・コロン」 ですよ!

 

仕事に英語を使っている人でも、たったこれだけのことを正確に知らない人がたくさんいます。「ミスター・ピリオド」の後にはブランクを1つ入れなければなりません。このブランクを入れない人が多いのです。その次にはファミリーネーム、すなわち苗字だけを書くのですよ。Dear Mr. John Brown: のようにファーストネーム(ここではJohn)を付けて書いてはいけません。

 

Dear Mr. John: Dear Mr. Tom: などと Mr. の後にファーストネームだけを書くのはもってのほかです。日本語にすると「ヨシちゃん殿」といった雰囲気になってしまいますが、アメリカ人にとって、ファーストネーム単独にMr.などの敬称をつけることは、重い過去の歴史を蘇らせることになります。すなわち、南部の農園で綿花の栽培に従事していた、苗字をもたない奴隷の呼び名を思わせるのです。

 

苗字の後ろは、米国のフォーマルな手紙ではコロンです。このコロンの前にブランクを入れてはいけません。コロンの代わりにコンマを使うのはインフォーマルな手紙です。親しい相手への手紙で Mr. を付けない場合はファーストネームだけを書くことができますから Dear John, Dear Tom, とすることもできます。きょうの話はビジネスレターですが、Eメールの場合でもこの書き方はそのまま当てはまります。

 

英語の手紙で、次に厄介なのが男性・女性の区別です。日本人には、ヒロミ、マサミ、カオル、シノブなど、男にも女にもある名前がありますが英語にもあります。例えば Pat という名前です。このような場合、この人が男性なのか女性なのかが分かるまでは Mr. Ms.もつけることができません。(Ms. は既婚者、未婚者を問わず女性一般に共通な敬称でビジネスでは普通に使われます。Mrs. Miss を使うのは、特に本人がその使用を望んでいるときに限るのがよいでしょう)

 

性別が不明のとき、その人の苗字が Berg ならば Dear Pat Berg: のようにDear の後ろに Mr. Ms. を付けずに名前と苗字の両方を書くとよいのです。すると、これを受け取った人が注意深くて気配りのある人ならば、返事の手紙の差出人の名前のところに Pat Berg (Ms.) というように、 カッコに入れるなどして男性・女性の区別、そして女性の場合ならば自分にはどの敬称を使って欲しいかを書いてきてくれます。

 

長い間、メールの最初にずっと Mr. Davis: Mr. を使っていた人が、あるときそのデービスさんに電話をしたら女性だった、といったことが、外資系社員には一度くらいはあるでしょう。といっても、メールで直接「あなたは男ですか女ですか」と尋ねるのは非常に失礼なこととされています。

(逆に、ネイティブ・スピーカーは日本人の男性・女性を名前で判断することができませんので、自分から送るメールの差出人の欄には Kazuo Suzuki (Mr.) のように、かっこに入れてそれを示すのが相手への心遣いとなります)

 

男女ともに使われる英語の名前には、Pat ほかに Andy, Chris, Jan, Robin, Terry, Tony, Tracy などがあります。

 

 名前から性別を判断するのにも常識があって、例えば Agatha のように 最後が a で終わる名前は、その95パーセント以上は女性です。日本人ならば「子」で終わる名前はほとんどが女性であるのと同じようなものです。ですから、a で終わる名前には Ms. を付ければたいていの場合正しいわけですが、もしも例外的にこの人が男性であり、Ms. と書かれた手紙を受け取ったとしても、この人は思うでしょう。「ああら、あたしのこと女だと思ったのネ(生徒がクスクス笑いだす)、でも無理ないワ、だって名前が a で終わるんですも・・・(ここでやっと私が気づく)アーッ、逆です、逆です。ウワー、“女形(おやま)”を演(や)ってしまったじゃないですかあ」(とテレ笑い。教室は笑いの渦)

 

英米人の名前で、辞書にも出ているようなポピュラーなものは、男性・女性の区別をまちがえてはいけません。Catherine Smith 女史に Mr. Smith としたり、Robert Johnson 氏に Ms. Johnson と書いたりしてはなりません。もしもこのように書いたとしたら、一体どれほど変に感じられるかを、日本語の場合で考えてみませう。(みませう?)

 

例えば、アメリカ人が、日本人の「奈平 鎌太郎(なひら かまたろう)」という人に日本語で手紙を書いて、文面に「貴女は」などと書いてあったら、鎌太郎クンはうす気味悪く思うでしょう。アメリカに出張しても、会わないようにしようと思うにちがいありません。だれかが、「鎌太郎」は男だよ、と彼に指摘したとすると、彼はびっくりして反論するかもしれません。「ボクが日本で暮らしていたときには、芸者サンに『太郎』のつく人がいたぞ」って。一瞬、「あのなあ!」と言いたくなる人もいるでしょう。こーゆー片寄った知識を持ったガイジンを納得させるのも一苦労です。

 

                                          第3話はこれでおしまいです。

 

 英米人の男性で名前が a で終わるものには Ezra(エズラ)やJoshua(ジョシュア)などがあります。

 

 「女ことば」 の話題が出たついでに言いましょう。「いたしますワ」 のように、音程の上がる語尾の 「ワ」 を自然につけてお話しのできる女性は魅力倍増、いつまでも心に残ります。 ……え? そういう言葉遣いをしてあげたくなるような人がいない? うーん、一理ありますかね。