理系の英語の中心は文書であり、取り扱い説明書、技術報告書、特許、技術論文などがあります。これらは、それぞれに読んでもらいたい人の特定の集団がいて、その読み手の全員に正しく理解してもらうことが目的です。理解しにくい表現は避けなければなりません。”You don’t need it.” で済むところを “It’s like carrying coals to Newcastle.”(それは〔石炭の産地である〕ニューカッスルに石炭を持って行くような)、無駄なことです」といった比喩や言葉のあやを用いるのは、正しく理解されない可能性がありますから不適切です。

 

  技術文書では、誤解される表現をした場合、事の重大さによってはその読者の全員に直接、または新聞広告に載せるなどして訂正のお知らせをしなければなりません。たとえば、薬の使用法に誤りがあり人命にかかわるような場合です。

読者に意図が正しく伝わらない文書は書き手の責任なのです。

 

  一方、「理系の英語」とは対極の「文系の英語」、すなわち文学作品の文章は、すべての読者に同じ解釈、同じ深さで理解してもらおうとしているわけではありません。抽象的な表現が多い文章は読み手の人生経験や教養によって読みの深さが異なります。文学作品では読者が誤解した部分について、著者が正しい解釈を知らせたり、作品の訂正をしたりしたといった話は聞いたことがありません。発表された後の文学作品は一人歩きをし、それが許されるのです。

 

  技術文書では、そもそも対象とする読み手に読んでもらわなければなりません。読み手の理解を超える難しい書き方や、内容がやさしすぎて読む意欲をなくさせるような書き方をしている文書は読んでもらえないので目的を果たせません。読み手がどのような人であるのかを事前によく調べ、読み手のレベルに合う文章にすることが大切です。

 

  また、長すぎる文章も敬遠されます。「理系の英語」は、微妙なニュアンスの相違といったことはほとんど問題になりませんので、同じことを述べるならば1語でも短い文を使うべきです。たとえば、「このアンテナは長さが2メートルです」の英訳はアンテナを主語にすると次のようになります:

 

① The antenna has a length of 2 meters.  

② The antenna is 2 meters in length.  

③ The antenna is 2 meters long.

 

  すべて正しい英文ですが最も語数の少ない③が最良です。短く書く努力を怠ると、語数はすぐに3~4割も増えてしまいます。冗長な文章は、わかりにくい文章と同様に、読んでもらえなくなる原因です。

 

次回は 理系の英語の「表現」について考えます。

 

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