町の本屋さん -19ページ目

幸せのありか

私は家にかえりたくなかった。
家に帰ると拓実を思い出してしまう。
あの部屋にはあちらこちらに拓実の気配がある。
私はまだそれを敏感に感じ取ってしまうんだ。
「一人になりたくない。」
と私が言うと、山崎さんは動揺した。
私の大胆発言に驚いたようだ。
「一人になりたくないの。」
私の顔を見て、本気だとわかったらしい。
「帰さなくていいの?」山崎さんは静かに行った。
「うん。」
と私はうなずいた。
すると山崎さんは黙って車を走らせた。車は山崎さんの家に向かった。
二人はずっと無言だった。緊張と動揺とが入り混じって、重い空気が流れた。
それでも幸せの沈黙だった。
私は黙って山崎さんの手を握っていた。
握ってないと不安だった。
いきなりこんなことを言う私を軽蔑するんじゃないかと、怖かった。
どうか、この手を振りほどかないで。
そう思って、力強く握りしめた。

幸せのありか

拓実ともよくラーメンを食べに行った。
拓実は近所のラーメン屋にしか行かなかった。
二人で外に出るのを嫌がった。
出不精でも何でもなく、他に女がいたから。その女に見つかったら困るからなんだと、今は思う。山崎さんが連れて来た店は近所の寂れたラーメン屋ではなく、行列ができるほど流行っている店だった。
並んでまでしてラーメンを食べないといけないのか。
と最初は思っていたけど、一口食べて行列に納得した。
ラーメンがご馳走になった。
「美味しい。」
と私が言うと、
「でしょ!」
とだけ言って、ラーメンをすする。
美味しい物の前では会話はいらない。
美味しいって言うだけで幸せな気分になれる。
私もラーメンを音をたててすすった。
音も含めて旨い!
二人の会話もなく、あっという間に平らげてしまった。

幸せのありか

帰り道も話が弾んで楽しかった。
年も近いせいか話が合う。
山崎さんのこと、もっと知りたいと思う。
知ったらもっともっと好きになれると思う。
「お腹すいたなぁ。何か食べていかない?」
と山崎さんが言った。
「うん、何か食べたい。」
「何にする?」
「ん~、山崎さんにお任せ。」
と私が言うと、山崎さんは申し訳なさそうに言った。
「俺、ラーメン食べたいんだけど、いいのかな?」
「いいですよ。」
「あのさ、俺、前から気になってたんだけど。女の人ってラーメン食べに行ったりするの?」
「行きますよ。ラーメン好きだもん。」
「そうなんだ。女の人ってあんまりラーメン、食べないって感じしてさ。」
「えっ、山崎さんの女のイメージってどんな感じ?私、イメージ崩すんじゃない?」
「そしたらもっと薫ちゃんのこと知りたくなる。それでもっともっと好きになる。」
と山崎さんは言ってくれた。
私も同じだよ。
って言うのはちょっと照れくさかったから、変わりに山崎さんの手を握った。