幸せのありか | 町の本屋さん

幸せのありか

私は家にかえりたくなかった。
家に帰ると拓実を思い出してしまう。
あの部屋にはあちらこちらに拓実の気配がある。
私はまだそれを敏感に感じ取ってしまうんだ。
「一人になりたくない。」
と私が言うと、山崎さんは動揺した。
私の大胆発言に驚いたようだ。
「一人になりたくないの。」
私の顔を見て、本気だとわかったらしい。
「帰さなくていいの?」山崎さんは静かに行った。
「うん。」
と私はうなずいた。
すると山崎さんは黙って車を走らせた。車は山崎さんの家に向かった。
二人はずっと無言だった。緊張と動揺とが入り混じって、重い空気が流れた。
それでも幸せの沈黙だった。
私は黙って山崎さんの手を握っていた。
握ってないと不安だった。
いきなりこんなことを言う私を軽蔑するんじゃないかと、怖かった。
どうか、この手を振りほどかないで。
そう思って、力強く握りしめた。