町の本屋さん -15ページ目

幸せのありか

私は哲生が片付けたり、洗濯物を干したりしているのをぼんやり見ていた。
右に左にテキパキ動く。「何か手伝おうか?」
何だか具合が悪くて言ってみるけど、
「いい。気にしないで。」
って言うし。
私は呆れてソファーに座ってテレビを見る。
暇だ。
暇だ。
暇だ。
ここに私のいる意味ってあるのかな?
そう思うと哲生がつまらない男に見えてきた。
壁があるのは彼自身。元カノでもなんでもないのかもしれない。
「私、帰ろうかな。」
と私は言った。
「えっ、なんで?」
哲生は驚いて言った。
私は言い訳に困った。
「私も家を片付けたいし、服も着替えたいし。」
「そっか。じゃあ送って行くよ。」
「うん、ありがと。」

幸せのありか

哲生は本当に家事が好きなんだと思う。
朝食の後片付けをして洗濯機をまわして掃除機をかける。
手際よく家事をこなす。
女がいるのに…。
「掃除好きなんだね。」と私は言った。
「そうだね。きれい好きなほうだと思う。」
と哲生は得意気に言った。
「何でも完璧なんだ。」
と私が言うと哲生は驚いた。
「俺が完璧?」
「そう。何でもさらっとこなしてそう。」
「俺はそんな器用じゃないよ。」
「そうかな。」
「さらっとこなす影にはとてつもない努力があるんだよ。」
と哲生は言った。
私は仕事でも哲生の要領の良さには感心していた。
できる男。
そんなイメージ。
できる男の影の努力なんて誰も知らない。
「完璧な人間に俺もなりたいよ。」
哲生は小さな声で言った。
そう言った哲生の顔はとても淋しげだった。

幸せのありか

テレビを見ながら
「薫が俺にとって最後の恋になるといいな。」
と哲生は言った。
「うん。一生、哲生に恋してたい。」
「おじいちゃんになっても?」
「うん。おじいちゃんの哲生に恋する。」
「どんな言葉よりうれしいね。」
と哲生は言った。
私はそれだけ恋愛に疲れただけだった。
嬉しくて期待しすぎるとどん底に突き落とされるような想いは体力を消耗させる。
二人で黙って寄り添って生きていくような、そんな恋愛をこれからはしていこうと思う。
私達はコーヒーをのみながらこんな会話をしてたんだ。
絵に書いたような穏やかな光景。
哲生の優しさが空気に溶けて込んで私の気持ちを落ち着かせてくれる。
いい人。
神様みたいにいい人。
でも、それだけの人。