On the Cusp | 生命医科学雑記帳

生命医科学雑記帳

evernoteのバックアップ、twitterに投下した内容のまとめとして使います。
細心の注意は払っているつもりですが、未だ専門分野を持たない研修医であるため、正確性に欠けることがあります。悪しからず。

【患者】27歳男性

【主訴】発熱

【現病歴】同僚が上気道感染を患っており、1週間前に鼻閉、鼻汁、咳、疲労感を自覚した。同時に口腔内潰瘍を認めたが、すぐに治癒した。5日前より39℃の発熱を認め、持続するため救急受診した。嘔気、嘔吐、悪寒、全身の関節痛あり。下痢、頭痛、羞明、発疹、呼吸困難なし。最近ダニや昆虫に刺されていない。

【併存疾患】小児期に心室中隔欠損を発見された

【服薬歴】なし

【家族歴】母 うつ病、父 薬物乱用

【職業歴】レストラン

【嗜好歴】飲酒:週に10本まで

【性活動歴】付き合っている女性は1人

 

【身体診察所見】ill appearing、血圧 127/63 mmHg、脈拍 108 bpm, reg.、呼吸数 18 /min、体温 39.4℃、SpO2 95%(室内気)

HEENT:瞳孔左右差なし、対光反射あり、眼瞼結膜に出血なし、口腔内湿潤・潰瘍なし、頸部柔軟、頸部リンパ節腫大なし

心:頸静脈圧 10 cmH2O、過剰心音なし、胸骨縁を最大点とする4/6の汎収縮期雑音(以前と変化なし)、傍胸骨拍動なし

肺:呼吸音清、胸膜摩擦音あり

腹部:圧痛なし、肝脾腫なし

皮膚:皮疹なし

四肢:下腿浮腫なし、関節に圧痛・腫脹・発赤・結節なし

神経:顔面対称、脳神経異常なし、筋力左右差なし、触覚・痛覚左右差なし、腱反射左右差なし

【検査所見】

血液検査:WBC 7450 /μl (Neutro 82%, Lympho 0%), Hb 13.8 g/dl, Plt 49000 /μl, Na 134 mEq/l, K 3.1 mEq/l, Cl 91 mEq/l, BUN 23 mg/dl, Cre 1.2 mg/dl, Glu 125 mg/dl, NT-proBNP 1731 pg/ml

 

胸部単純X線

心拡大なし、両肺の軽度の血管陰影増強、左上肺野に小さな不規則な結節影を認める、肺炎を示唆する浸潤影を認めない

 

心電図

正常洞調律、伝導遅延なし

 

血液培養:24時間後に嫌気性培養にて微生物の発育が見られた。

培養液のグラム染色

抗菌薬感受性試験

抗菌薬

感受性

MIC (μg/ml)

バンコマイシン

Susceptible

1.0

ダプトマイシン

Susceptible

1

リネゾリド

Susceptible

2

オキサシリン-セファロスポリン

Resistant

≧4

 

MRSA疑い例・確定例での第一選択はバンコマイシン静脈投与

代替がダプトマイシン

その代替がリネゾリド、セフタロリン

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌の第一選択はナフシリン、オキサシリン

 代替がセファゾリン

 

【臨床経過】

8時間おきにバンコマイシン1750 mg(20 mg/kg)の静脈内投与を開始したが、バンコマイシン濃度は4.1-6.2 μg/mlと治療量(15-20 μg/ml)以下であった。

敗血症の存在とバンコマイシンの速い代謝を考慮して、48時間後にダプトマイシン8 mg/kg静脈内投与に切り替えた。

 

黄色ブドウ球菌菌血症患者には全例心エコーを実施し、感染性心内膜炎を探す!

先天性心疾患は心内膜炎のリスクを上げる

違法薬物の静脈注射や歯科治療による一過性の菌血症はさらにリスクを上げる

 

感染性心内膜炎に典型的な病原菌

  1. 黄色ブドウ球菌
  2. 緑色連鎖球菌
  3. ウシ連鎖球菌
  4. HACEK群:Haemophilus species(インフルエンザ菌)、A. actinomycetemcomitansC. hominisE. corrodensK. kingae
  5. エンテロコッカス

黄色ブドウ球菌は感染性心内膜炎の最も頻度の高い病原菌である。

歯科治療による緑色連鎖球菌菌血症は少ない

 

感染性心内膜炎の身体診察

・発熱、低血圧、頻脈、rigor(いつもより症状がひどい)

・精神状態の変化、脳神経の巣症状、運動・感覚神経の障害は脳塞栓で出現する

・Roth斑

 

 中心の白い網膜出血

 

 眼瞼結膜の出血

・心不全患者では頸静脈の怒張が見られる

 心室中隔欠損や新規or変化した逆流性雑音がある

・敗血症性肺塞栓症では頻呼吸、呼吸補助筋の使用が認められる

・septic emboliにより腸間膜虚血、腎梗塞、脾梗塞が出現することあり(稀)

・Janeway発疹

 

 圧痛のない小さな紅斑性出血斑が手掌や足底に出現する

・線状出血

 

 septic emboliにより爪に線状の病変が出現する

・Osler結節

 

 手や足に免疫複合体が沈着することにより、有痛性の赤い病変が出現する

 

modified Duke criteria

覚え方:Bacterial Endocarditis FIVE PM

大基準

Blood culture陽性

 IEに典型的な病原菌が別の2つの検体で検出される

 持続的に血液培養が陽性

 C. burnetiiが1回でも陽性

Endocardial involvement

 心エコーにて弁や支持組織に可動性の腫瘤、膿瘍、人工弁に新たな部分的裂開

 新たな弁閉鎖不全(心雑音の変化では十分ではない)

小基準

Fever > 38℃

Immunologic phenomena:糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマチ因子陽性

Vascular phenomena:動脈塞栓、肺梗塞、結膜出血、頭蓋内出血、感染性動脈瘤、Janeway病変

Echocardiography finding:心エコーではIEを疑うが、大基準を満たさない

Predisposition:IV drug使用者、人工弁などリスクのある心

Microbiologic evidence:大基準に含まれない血液培養陽性

 

【追加検査】

経胸壁心エコー:vegetationは検出されず

経食道心エコー

大動脈弁は二尖弁

右室から右室流出路に伸びる可動性のある蛇行状のエコーデンシティーを認める(vegetation)

 

患者のSpO2は89%まで低下したので3 L酸素投与

 

胸部単純CT

胸膜直下に境界明瞭な病変を多数認め、septic emboliが示唆された

そのうちの一つは胸部単純X線で見られた結節影に一致していた

 

手術適応

治療困難な病原体(アスペルギルスなど)→脳塞栓などの合併が多い

膿瘍の形成

頻回の塞栓

心不全の悪化

人工弁に伴う

 

細菌性心内膜炎患者に対する抗菌薬の経口予防投与

第一選択:アモキシシリン

←グラム陽性菌をカバーする(口腔内でcommonなβ溶連菌を含む)

第二選択:クリンダマイシン

←streptococcus speciesやstaphylococcus speciesをカバーする

 

ペニシリンアレルギーのある患者ではセファロスポリンは慎重投与

←10-15%に交叉反応性が認められる

 

【経過】

ダプトマイシンを6日間静脈投与したところで発熱は消失し、血液培養で黄色ブドウ球菌は検出されなくなった。バンコマイシン静脈投与(8時間おきに1750 mg)を再度開始し、ダプトマイシンと48時間併用した。バンコマイシンの血中濃度は治療域に達した。

8時間おきにバンコマイシン1500 mg静脈投与を6週間行った。

歯科的治療を行う際はアモキシシリンを経口で服用するように指示した。

 

ref.

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMimc1612773