痛風・高尿酸血症 | 生命医科学雑記帳

生命医科学雑記帳

evernoteのバックアップ、twitterに投下した内容のまとめとして使います。
細心の注意は払っているつもりですが、未だ専門分野を持たない研修医であるため、正確性に欠けることがあります。悪しからず。

診断基準(ARA, 1977)

  1. 2回以上の急性関節炎
  2. 24時間以内に炎症がピークに達する
  3. 単関節のみ
  4. 関節の発赤
  5. 第1MTP関節の腫脹と疼痛

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痛風結節とMSU(monosodium urate:尿酸ナトリウム)結晶

 

痛風

足の拇指MTP関節を代表とする急性の関節炎

痛みが起こり始めてから24時間で痛みがピークに達し、数日で自然軽快する

発作・寛解を繰り返す内に再発期間は短くなっていく(6年に1回→1年に1回)

関節の周囲にぼやーと炎症が生じる←蜂窩織炎のようであるが、1ヶ所の関節に限局する

 

穿刺すると黄色→化膿性関節炎のようなので偏光顕微鏡で鑑別

 

骨びらんの関節リウマチとの鑑別点

関節裂隙の狭小化が見られない←軟骨の破壊はない

びらんの周りが炎症により骨硬化

 

鑑別診断

・外反母趾

・変形性関節炎

・偽痛風

・種子骨炎

・嵌入爪・爪周囲炎

・蜂窩織炎

・Morton病(趾間神経腫)

・腰椎由来の下肢症状

・開張足障害

・骨折

・靭帯損傷

・アキレス腱炎

・踵骨後滑液包炎

・足底腱膜炎

・踵骨疲労骨折

・ライター病

・反応性関節炎

・関節リウマチ

 

痛風診断に有用な所見

 

診断基準 2015

ステップ1. 1回以上の急性関節炎

ステップ2. 尿酸Na結晶:あり→痛風

ステップ3. ACR-EULAR Gout Classification Criteria

 

3つのパラドックス

①高尿酸血症

1億~2千年前 霊長類におけるUreaseが偽遺伝子化

安土桃山時代 日本に痛風はないと報告

現代       common

 

成因

産生↑:食品、核酸、プリン体

プリン体の過剰摂取

ATP大量消費無酸素運動、果糖のとりすぎ)

排泄↓:トランスポーターの活性低下、インスリン抵抗性、エタノール、薬剤、脱水による血液濃縮

 

痛風発作中の尿酸値は必ずしも高くない

炎症が存在すると血清尿酸値は低い

IL-6に尿酸排泄作用がある
 

②尿酸降下薬

尿酸動態の3指標

血中尿酸値(Sua):4-6 mg/dl

尿中尿酸値(Eua)

尿酸クリアランス(Cua)≒ Eua/Sua ←腎からの排泄効率を示す

 

健常人対してイノシン(尿酸前駆物質)負荷時の尿酸値を測定

尿酸クリアランスは一定であった

→ Eua/Sua = Cua (定数)

→ Sua = 1/Cua × Eua

Cua (ml/min)

 

頻度:排泄低下 60%、混合型 25%、産生過剰 12%

排泄低下型が多い

 

治療薬

排泄促進:ベンズブロマロン、プロベネシド、ブコローム、(ロサルタン)、(フェノフィブラート)

産生阻害:アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタット

分解(水溶性のアラントインに代謝):ラスプリカーゼ→腫瘍崩壊症候群など特殊な状況で使用

 

排泄促進

尿酸排泄促進薬は近位尿細管のURAT1の尿酸再吸収を阻害する

 

産生阻害

尿酸産生阻害薬はキサンチン酸化還元酵素(XOR)を阻害する

飲酒や無酸素運動によりATPが増加し、尿酸値は上昇する

過剰摂取によりGTPが増加し、尿酸値は上昇する

 

使い分け

基本原則:排泄低下型には排泄促進薬を、産生過剰型には産生阻害薬を使用する

アロプリノール

 腎障害時にはオキシプリノール(アロプリノールの活性体)の蓄積→DNA傷害による貧血、白血球減少

ベンズブロマロン

 産生過剰時には尿酸排泄がさらに亢進し、尿路結石を誘発する

 

発作中に尿酸値降下薬を出すと発作が悪化する

←関節にたまっている尿酸Na結晶が剥離する

 

血清尿酸値をどこまで下げるか

Treat to target:6.0 mg/dl

 

Con 1. XORと酸化ストレス

XORは脱水素酵素と酸化酵素の2つの酵素からなる

脱水素酵素はNADを補因子として利用し、副産物としてNADHを生成する

酸化酵素はO2を補因子として利用し、副産物として・O2-やH2O2を生成する

通常は脱水素酵素>酸化酵素であるが、虚血・組織障害で脱水素酵素<酸化酵素になり、ROSが多く産生される

低酸素、慢性炎症、肥満では産生阻害薬を使用することによりROSの産生を抑制できる

 

Con 2. 産生阻害薬は排泄低下型で効きやすい

Euaを下げると排泄低下型(例. Cua 4 ml/min)の方が顕著にSuaが低下する

 

Con 3. 腎機能障害時の薬剤選択

ベンズブロマロン:効果減弱

アロプリノール:血液毒性

フェブキソスタット、トピロキソスタット:有効

 

Pro 1. URAT1の新たな作用

URAT1:尿酸を細胞内へ

酸化促進(内皮細胞):NADPH酸化酵素による

尿酸結晶の生成(尿細管細胞)

→尿酸排泄促進薬の方が良い?

 

Pro 2. 腎外性排泄低下型

ABCG2の機能低下により腎外排泄の低下をきたす

尿中排泄は他のトランスポーターが過剰に働くことであまり影響を受けない

ABCG2の活性が低いほど若年性に発症する

 

・産生阻害薬だと尿酸値が変動しやすい

・病型分類問題点

本邦では30年以上前の10例の健常人データを使用している

 

③MSU結晶

1億5000万~6600万年前(白亜紀) Tレックス

古代エジプト ミイラに見られた痛風結晶

 

MSU結晶は本当に悪者か?

血清尿酸値がある程度までいくとマイクロクリスタルが細胞内に形成され、これがdanger signal(=腫瘍免疫、感染)として機能すると想定されている

 

ref.

痛風診断総論:https://academic.oup.com/rheumatology/article/48/suppl_2/ii2/1773077

痛風診断に有用な所見:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1798330/

痛風結節と偏光顕微鏡:http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1110969

高尿酸血症の病型分類:https://www.nature.com/articles/ncomms1756

尿細管の尿酸トランスポーター:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3619397/

キサンチン酸化還元酵素のform:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4961276/