上室性頻脈
①心房由来
・洞性頻脈
【心電図所見】
P波形状は正常
心房のrateは 100-200 bpm
心室のリズムは規則正しい
心室のrateも100-200 bpm
1つのP波の後に必ず1つのQRSが続く
【原因】
生理:運動、不安、疼痛
病理:発熱、貧血、循環血液量減少、低酸素
内分泌:甲状腺機能亢進症
薬理:褐色細胞腫によるアドレナリン放出、サルブタモール(短時間作用性β2受容体刺激)、アルコール、カフェイン
・心房性頻脈
【電気生理】
異所性の心房のフォーカスから発生するため、P波は洞調律とは異なる形状
【心電図所見】
P波形状は異常(上では陰性P波)
心房のrateは 100-250 bpm
心室のリズムは通常規則正しい
心室のrateは様々
【種類】
良性:高齢者に多く、発作性で持続時間は短い。心房のrateは 80-140 bpm
Incessant ectopic:稀、小児や若年者で見られることあり。rateは 100-160 bpm。未治療では拡張型心筋症を発症することあり。
多源性:心室のrateは不規則。典型的にはCOPDで見られる。
ブロックを伴う心房性頻脈(上では2:1ブロック):ジゴキシン中毒で見られる。
【関連する病態】
心筋症
COPD
虚血性心疾患
リウマチ性心疾患
洞不全症候群
ジゴキシン中毒
・心房粗動
【電気生理】
右房内のリエントリー回路により、二次的に左房も活性化する。その結果 300 bpmのrateで心房は収縮し、心電図上ではF波として見られる。F波は下壁誘導やV1で見やすい。
【心電図所見】
波打つような鋸歯状の基線F波
心房のrateは 250-350 bpm
心室のリズムは規則正しい
心室のrateは典型的には 150 bpm(2:1房室ブロック)
4:1がよく見られる(3:1や1:1ブロックは稀)
・心房細動
【電気生理】
心房心筋周囲を這うような多数のリエントリー回路("wavelet")の活性化により生じる。インパルスの一部しか房室結節を介して伝達されず、心室のリズムは不整になる。
【心電図所見】
P波はない、基線の周期的振動f波
心房のrateは 350-600 bpm
心室のリズムは不整
心室のrateは 100-180 bpm
【原因】
虚血性心疾患
高血圧性心疾患
リウマチ性心疾患
甲状腺機能亢進症
飲酒(急性、慢性)
心筋症(拡張型、肥大型)
洞不全症候群
心臓手術後
慢性肺疾患
特発性
②房室接合部由来
・房室結節回帰性頻拍:発作性リズム整narrow QRSの頻脈の中で最もcommon
【電気生理】
房室結節回帰性頻拍では房室結節内に機能的・解剖学的に異なる2つの経路がある。
Fast pathway:伝達速度は速いが不応期は長い
Slow pathway:伝達速度は遅いが不応期は短い
洞調律においては心房からの刺激はFast pathwayを介して心室に伝えられる。入力刺激はSlow pathwayも流れるが、最終の共通経路(ヒス束など)は不応期となっているため、この経路では心房からの刺激は心室に伝わらない。
例えば心房性期外収縮がFast pathwayの不応期に生じると房室結節回帰性頻拍が始まる。入力刺激はSlow pathwayを通り、不応期から脱したFast pathwayを逆行性に拡がる。その結果リエントリー回路が形成される。このような"slow-fast"リエントリー回路は房室結節回帰性頻拍患者の90%で認められる。
残りの10%の患者では"fast-slow"回路が見られる。この回路は、心室性期外収縮によって開始され、Slow pathwayを逆行性に伝導し、形成される。心電図上ではRP間隔が延長する所見が見られる。
【心電図所見】(洞調律では心電図は正常)
頻脈時
リズム整、narrow QRS complex、rateは 130-250 bpm
Ⅱ, Ⅲ, aVFにて逆行性P波←心房を逆行性に進むことを反映
P波がQRSに埋没すること多←心房と心室の脱分極が同時
P波がQRSの終わりに出現すると下壁誘導で"偽"S波、V1で"偽"R波として見られる
・房室回帰性頻拍:解剖学的に異なる房室伝導路が存在することによる。WPW症候群の頻度が多い
ーWPW症候群
副伝導路のケント束が心房と心室を直接つなぐ。心臓発生において心房と心室の分離が不完全であった結果である。Ebstein病に高率に合併。
【電気生理】
副伝導路はリエントリー回路の形成に関与し、房室結節を介する経路か副伝導路のどちらを順行性に伝達したかによってnarrowかbroadの頻脈になる。通常、副伝導路は心室から心房へ逆行性に刺激を伝える。洞調律時には副伝導路を介した心室の早期興奮が起こらず、心電図は正常である。
順行性房室回帰性頻拍(上図左)はWPW症候群のほとんどの患者で見られる。心房性期外収縮の刺激が房室結節を介して心室に伝わると副伝導路を介して逆行性に心房へ刺激が戻る。その後心房と心室の間でリエントリー回路を形成し、narrowな頻脈となる。
逆行性房室回帰性頻拍(上図右)は比較的少ないが、WPW症候群の10%に認められる。この場合、副伝導路が順行性に刺激を伝えることができるため、心房から心室へ副伝導路を介して刺激が伝えられる。非特殊心筋を介して脱分極が拡がるため、QRSはbroadである。その後、刺激は房室結節を介して心房へ戻る。
【心電図所見】
・洞調律時:副伝導路を経由した刺激と房室結節を介した経路を経由した刺激が会合する。
PR間隔短縮←会合した刺激はすぐに心室の心筋へ伝えられる
⊿波←非特殊心筋に刺激が入るので心筋の脱分極は最初緩徐(心室の早期興奮)であり、R波の始まりを歪める
⊿波に続くQRS成分は比較的正常←脱分極はすぐに通常の伝達系に拡がり、⊿波をつくる緩徐な脱分極を上回る
Type A:副伝導路が左房-左室
胸部誘導で⊿波
V1でR波増高
Type B:副伝導路が右房-右室
V1とV2で⊿波とQRSはnegative、その他の胸部誘導でpositive
Type C:副伝導路が中隔
・頻拍時
順行性
P波はQRS波の後に続く←心房の脱分極は心室の脱分極に遅れる
⊿波は見られず、QRS幅正常
rateは通常 140-250 bpm
逆行性
QRS幅broad
・心房細動時(偽性心室頻拍)
副伝導路が存在しない場合、心房細動時に房室結節は心房の速い活動から心室を保護する。しかし、WPW症候群の患者では心房の刺激は副伝導路を通じて心室の早期興奮を起こし、⊿波を伴うbroad QRS波を作り出す。時に房室結節を介して刺激が伝わることがあり、その場合は通常のQRS波になる。
【治療】
房室結節を抑制する薬物(ジゴキシン、ベラパミル、アデノシン)は禁忌:副伝導路の不応期を短縮し、伝達の頻度を上げ、心室細動につながる。
参考文献
Atrial arrhythmias:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1122515/
Junctional tachycardias:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1122581/