FT(ファイストタイマー)のアヤは、まだ来日1週間。このPPでは一番の新顔だ。とても小柄で痩せっぽち、身長は140cmあるの?ちゃんとご飯食べてる?という感じ。
出身は、ミンダナオの田舎だそうだ。
田舎といっても日本のそれとは、ちょいと違う。
日本人から見ればジャングルそのものである。
『みんな食べな。好きなもの飲んでいいぞ』
先輩の顔が父親になっている。(笑)
それぞれのコミュニケイーションも深まり、歌って飲んで楽しい時間が過ぎてゆく。
深夜の1時も近くなるとスタッフも今日の売上げ達成は諦めムード。
店内のピリピリした感じもなくなってきた。
カラオケのリクエストも私達だけで、ネタが尽きるとスタッフが勝手に盛り上げ曲を自動選曲。
イントロがかかれば勝手にオンステージ♪
ウェイティングのタレント達も観客状態になっていた。
それは、閉店まで残すところ1セットという時に来た。
入り口のドアが開きエントランスの蛍光灯の眩しい光が店内へこぼれた。
オーバーラップしてウェイティングにいるタレント達が、やや遅れ気味に且つ投槍に「イラッシャイマセー!!!」と狂気の叫びが轟く。
入店してきたのは、見るからにガラの悪い3人組。
こちらは、気にもせず、飲めや歌えやドンチャン騒ぎ。
言い忘れていたが、浅輪先輩のエクステリアは、怖表な顔にド派手なシャツ、おまけに変ったアクセサリーに新興宗教の教祖様のような髪型、付け加えて見ようによれば挙動不審者の要素も大きい。
その証拠に、よく警官から職務質問される。
私の見るところ、間違えなく向こう岸の諸君は、こちらを意識している。
それに対して、こちらの御大将はお構えなし!のドンチャン騒ぎ。
30分もしただろうか。向こう岸の連中がスタッフを呼び、なにやらクレームをつけ始めた。
必死に対応するスタッフ。
内容は「なんで向こうには、女が山ほどいて、こっちは3人だけなんだ!」という感じ。こっちのタレントは全員、指名なのがわかってない様子である。
この後、しばらくは懸念した通りの展開に進展する。
『ふざけんな!もう閉店だろうが。ウェイティングの女もサービスできないのか!この店は!』
胸倉を掴んで、白熱した茶番劇が始まる。
しかたなく店長が行ってなだめたが、収拾つかずに数人のタレントを紹介に送り込んだ。
★この手の店のシステムは前にも説明したが、まずは何はともあれ1セット(各店により様々)60~90分=\3,000~\6,000が基本。
★次に■「メイン指名」:入場時に「指名」する相場は\2,000~\2,500をプラスして入店するか?フリー(指名なし)ではいるのか?を決めて入る。
あとは、店内に座ってからの■「場内指名」というものがあって価格はメイン指名と同じ場合が多いが、タレントへのバックが少ない。
先ほど我々が「場内指名」して、ここで楽しそうに騒いでいるタレントもタダではない。
したがって、いくら店が暇でも、ウェイティングのタレントをサービスで着けるというのでは、指名した客に示しがつかないのである。
そこで、指名は入っていないのだが、今後の売上げの為に「紹介」という無料お試しのようなシステムがある。
今回は、私達の手前、店長はこの「紹介」で、この窮地を逃げた。
するとまた
『おい!おいちょっと店長こっち来いよ!
なんだ!こりゃ。ブスばっかよこしやがってぇ』
かなり酔っているようなのに、しっかりと品定めはできるようだ。
『店ぇ潰しちゃうよ!わかってんのかよ!こらっ』
気がつくと私と先輩以外の客は、ソソクサと帰ってしまった。
そこに、トイレから帰ってきたジーナが向こう岸正面を通る。
『おっ!あの女、あの女呼べや』
『お時間あと40分程ですけど、ジーナさんは指名入ってますので、場内指名でよろしいですか?』
と店長が聞いた。
チンピラは承諾した。
まあ、仕事だから仕方がない、指名されれば「逆指名のシステム」がない限り、拒否はできない。
この店には「逆指名」のシステムはない。
店長がこちらに歩いてくる。
『すいません。ジーナさんお借りします。』
ジーナが意味ありげな笑顔を浮かべて席を立つ。
『ハニー。チョットスイマセン シツレイシマス。カエル ダメァ!』
嫌な予感である。
いつになく背筋をピン!と伸ばし、パリコレのように悠々とジーナは歩いて行った。
【これから蛇道(卑劣)な世界をちょいと披露しよう】
★ラストの1セットくらいで毎回お出ます客には要注意!
だいたい深夜の1時・2時に毎晩飲み歩いているのをみても只者ではないのに加えて、ラストまでいれば、安上がりにアフターで連れ出して「何とかしたい」という邪(ヨコシマ)な考えがみえみえである。
★そして、最悪なテクニックとしては必殺「タオ(客)茶づけ」!
これは、客もとれず連日、針の筵に座らされているタレントを、ある日から、同伴して、店側の株を上げる。楽な仕事に慣れないタレントをぬるま湯に浸けるのだ。
そして、数週間こんな生湯にドップリと浸かると、彼女達は安心して集客活動を止めてしまう。
もう、タレントが自分なしではやっていけないと判断すると!いきなり体を要求する。
もし、そのタレントが応じなければ、同伴も指名も止め、たとえ店に来ても他のタレントを指名して、ターゲットのタレントを精神的に揺さぶる。
特にFTだと効果は覿面。タレントによっては、どんなクソ爺でも体を許すケースも少なくない。
★また、この応用手法での「FT食い」狙いの客も多いのが実情だ。
もちろん、我々はこのような手法はご法度。軽蔑すらしているのだが目の前で落ちてゆくタレントを数多く見てきたのも事実である。
この辺りがP業界・数十万人売春組織と呼ばれる所以(ユエン)であろう。
もちろん、店側が固くガードしていたり、貞操の固いタレントも居るにはいるが、往々にしてさっきの悪い例に陥る方が多いように思われる。
ゆえにタレント達も、この手の日本人に狙われ続けるのである。
あと40分もないのに、客がバンバン注文をしている。
あっという間に、向こう岸のテーブルには、こちらに対向してか、ビール10本、フルーツとスペアリブ、アタリメなんどが所狭しと並んだ。
そして、ウェイティングのタレントも全員呼ばれる。
(何、考えてんだ。あいつ等(^o^;。。。。。)
次に、流行もしないゲームが始まった。
空のグラスの口を一周、水で濡らす。
その上にペーパー・ナプキンを1枚にしてピンと張る。
そして、周りの余分なペーパー・ナプキンを切り落とし、その中心に¥1玉を置く。
最後に、タバコに火をつけて準備完了。
順番を決めて、タバコの火で¥1玉の周囲のペーパー・ナプキンを焼いてゆく。
そう、¥1玉を落としたものが敗者のゲームだ。
この手のゲームをやるヤツの目的は大きく2つ。
①ババエが自分自身、嫌な事を忘れる為に酔いつぶれるまで酒が飲みた為にけしかける。
②客側がババエを酔わせてどうにかしたいか!or 間が持てないのか?
今日は、見るからに後者である。
第一戦は、さっきから一言も叫んでない貫禄のパンチパーマが負けて、ウィスキーのストレートを一気飲み。
第二戦は、大声を出した角刈りが負けて、同じくストレートを一気。
第三戦~四戦とチンピラどもが連敗。
世の中、そう上手くはゆかない。
呂律(ロレツ)も危なげに
『なぁ~んか!姉さん。仕掛けがあんじゃないの!なんで俺ばっか負けんダァ』
『ハイハイ。ガンバッテクダサイ(^Q^)/マケ ナイト ワタシタチ BEER ノメナイデショ!』
『飲みたきゃ飲んでいいんだよぉ~
おい。お前達も飲め飲め』
紹介のタレント達にもビールを振舞う。
そして五戦も、ジーナは決して負けない。
『姉さん。強いや。じゃあ他の子に挑戦。』
結局、このあとのタレントが負け1~2杯のビールの一気飲み。ジーナは負けなしで、店内が暗くなった。閉店5分前である。
私の予想は裏切られた、何も起こらなかった。
ジーナが店長に連れられて戻ってきた。
『タダイマァ ハニー』
『お帰り。しかし、見事だなぁ』
『ナニガ?』
『あんなに騒いでた客がジーナにかかったら。釈迦の掌(テノヒラ)だなぁ。』
『(・・?) ? ・・・・!ハニー チーク オドル(^.^)b
シゲナァーシゲナァ~』
無理やり手を引かれてステージへ、浅輪先輩もルビーとFTの2人を相手に上がってきた。
その姿を、チンピラは恨めしそうに見ていた・・・・・気がした。(;^_^A
チークも終わり照明が明るくなる。
あとは会計を済ませて、帰るだけだ。
席に戻り伝票を見て、カードを出してスタッフに渡す。
『ハニー マダ カエル ダメナァ。(^_-)』
タレントは指名客がいる場合には、各自の帰りがけを出口まで見送らなければならない。ジーナは、あのチンピラ達の後に我々を帰そうということだ。
それにしても、意味ありげなウィンク。。。すると
『キョウハ マダ イッショ アァ』
『えっ?! 今日はもう帰る・・・・・・。』
私が全てを言い終わらないうちに、ジーナは私の言葉を人差し指で制し、スタッフのコールもないのに、自分から席を立ち去り、向こう岸に行ってしまった。
カードとレシートがきたので、金額を確かめてサインをする。
ジーナが気になり、そっと覗いて見れば、何やら向こう岸は伝票の内容に目を凝らして不服そうな雲ゆきである。
すると大きな声で幕は開いた。
『なんじゃ~あ。こりゃ』
あの角刈りのチンピラが大声で言った。
応対する店長が伝票を確認する。
『ぼったくりじゃ!お前、誰に恥かかせようとしてんのか。わかってんのか!』
店長の顔に伝票をぶつけて、勢いよく立ち上がろうとした角刈りはフルーツの載ったテーブルに足をぶつける。
次の瞬間、フルーツとボトルが、その反動で落ちる。
「ガシャーン!」
『キャー!』
同席のタレント数名が驚いて悲鳴をあげてた。
しかし、ジーナは角刈りの直ぐ隣に座っているのに微塵たりとも動かない。
こんな時にも背筋を伸ばして姿勢がいい。(拍手)
『おい!お前じゃ話にならん。社長かオーナー呼べ!
でなきゃ、交番行って垂れ込むぞ!みんなパスポート持ってんのか?あぁ~』
ジーナの形相が変った。
しかも、今までこのセリフを待っていたかのように角刈りをみら目付ける。
ちょっと、ひるんだ角刈りは、ジーナのご機嫌をとるように言った。
『おい。この店、潰れたら。ジーナさんだけは、面倒見てやるからな。』
と、やめときゃいいのに加えてジーナのあごに手をやる。
『あっ!痛てててててててて』
すばやく!ジーナの右手が角刈りの左手を後ろでに、ねじり伏せる。
角刈りは、酔いも手伝ってか、防ぎようもなく頭(コウベ)を垂れる。
次の瞬間、ジーナがその手をポイっと捨てた。
『何すんだヨォ!』
出たァ。以前にも見たジーナの毅然たる態度。
彼女は立ったまま、左斜め下45°に角刈りを見下ろしながら目を大きくして言った。
『ワタシタチハ ドック(犬) ジャナイ デ~ス!』
角刈りはジーナに許しを得るように微笑みかける。
そして浅輪先輩が、その光景を見ながら言った。
言わなきゃいいのに!言ってしまった。
『まったく、Pinaにブッ飛ばされてるようじゃ。ヤクザも実も蓋もねぇな。がはははは』
(;^_^A 聞こえた!絶対に聞こえた。。。。。。。。完全に聞こえた!
BGMもない、静寂な店内である。小声で言っても聞こえていた。
この先輩、自己中のB型天才肌の典型。周囲が見えないのは、言うまでもない。
これまでにも、この手のトラブルは数知れず。
やっぱり、聞こえていた。
『おーい。そこのオッサン!誰がヤクザじゃあ?』
恰幅のいい方が立ち上がって怒った。
浅輪先輩は、ヤバって顔はしたものの「忍法知らんふり」を決め込んで苦笑している。
これが、余計に火に油を注ぐ。
当然、燃え上がった二人は、こっちに向かって歩いて来る。
先輩の後ろから胸倉を締め上げてさらに言った。
『こらぁ~!なめてんのか?』
先輩も精一杯の抵抗をしながら言い返す。
『こっ、こっちの話で、あんた達には関係ないでしょ。』
先輩も切れると相手が誰であろうと頑固なのだ。
『やめてくださいよぉ!』
と言いながら先輩は、チンピラの手を両手で掴み、振り切ろうと腕力合戦になってしまった。
角刈りもババエに制された腹癒せをこちらに向けて、矛先は完全に誰が見ても我々に。
最悪の事態である。
(しゃあねえや。こうなったら行くとこまで行くか?) とも思った。
でも、出来ればもめたくない!ってのが本音。
しかし、(ジーナにも勇敢なところみせとかないとなぁ。)
などと考えて立ち上がろうとした瞬間。
また、ガシャーン!とガラスの割れる音。
今度はカウンター上に並んでいた空のグラスが落ちて割れる音である。
誰かがカウンターを飛び越え厨房へ入った。
皆が音につられてカウンターを見る。
それは、これから何が起こるのかが、直ぐにわかる場面がそこにあった。
厨房から凄い勢いで帰ってくるアヤの姿がそこにあった。
一瞬にして、みんなの視線がアヤを釘付けにした。
しかし、アヤはその釘を撥ね退けるようにクルッ!と身を翻(ヒルガエ)した。
次の瞬間アヤが包丁を手に持ち走ってくる。その姿は、まるで忍者のような身のこなしで、包丁を持つ手も洒落にならないほど板についている。
我々4人は、アヤの行動が視界には入っているのだが、呆気にとられて身動きが取れない。私も先輩も座ったままだ。
いや瞬時に「立ったら間違えて刺されるかも?」と思うほどである。
いち早く、先を予見するかのように待ち構えていた者がいた。
ジーナである。
ジーナはアヤの包丁を握る手を抑えて、体でアヤの目的を阻むように立ちはだかった。
アヤは、すごい形相でチンピラ達に叫び続ける。
これには、店内はおろか、チンピラ達も完全に畏縮している。
私もテーブルを乗り越えてジーナに加勢した。
ジーナが現地語でアヤを説得するが、アヤの興奮状態は治まらない。
続けざまにジーナがチンピラに言い放った。
『ハヤク!ハヤクゥ!クヤータチ コロサレルヨ!サラバース(外へ)!!!』
チンピラ2人は引きつりながら言った。
『しょ、、しょうがねえなぁ。フィリピン人はこれだからなぁ。。。。。わかった、わかったよぉ』
と言いながら、完全に顔は引きつっている。
先輩から手を離し、向こう岸に戻る。
駆けつけたスタッフや店長もチンピラをまるでガードするように取り囲む。
角刈りとデブを迎える1人は、騒ぎもせず苦笑いを浮かべていた。
アテ達もアヤを宥(ナダ)めに入る。
チンピラ達は、そんな姿を横目に会計を済まして矢継ぎ早に店を出ようとする。
一番、最初に出て行った男は今日一言も発せず騒がず、ちょっと不気味な雰囲気を持つ男。3人の中でも一番の格上という感じであった。
残る2人の顔は、うっすら笑いはしているが内心は、酔いからも覚めて「あ~ぁクワバラ、クワバラ」といったところであろう。
とにかく、店内から本日の悪玉菌は排出された。
一件、落着かと思いきや・・・・・・・・ポタッ!ポタッ!
(;^_^A 私はアヤの持つ包丁で手を切ってしまったようだ。(ドジった)
とりあえず、4人掛かりでアヤの包丁を取り上げて、アテ達がトイレにアヤを連れてゆく。
スタッフがティッシュペーパーと救急箱を持ち寄り。
『大丈夫ですか?すいません!すいません』
と駆け寄る。
とりあえず、傷はたいした事なかったので、ポケットティッシュで圧迫して止血した。
あまり大事にしてしまっては、来難くなってしまうので、平静を装って店から出た。

