小説と未来 -94ページ目

新世界17-無職の暇人 5

彼女の長い髪の毛に絡まる水色いも虫、僕はその事ばかりが気にかかる。



2012年秋、使い慣れた喫茶店で、僕は二度目の履歴書作成に取り掛かる。



だがしかし、

通路向こうに座る女の子の髪に絡まる水色いも虫が気になって仕方ない!


頭の上を這いつくばる水色いも虫、君がどこから来て、どこへ行こうとしているのか!?



僕は8度の疑いを持って、女性の髪の上を這っているのが水色いも虫である事を認めた。


そのゆるやかなくねくねした動きは、埃やゴミではないし、もちろん飾りではない。

確かにそいつはいも虫だ!


その子とお喋りをしている、彼女の向こうに座る女の子にこっそり教えてやりたい!

直接言うのはきついだろう。だからそっとそうやって向こうにいる女の子に教えてやるんだ。そしてその子にいも虫をでこピンしてもらうんだ!



僕は水色いも虫ばかりが気になって履歴書が進まない。


水色いも虫はどんな成虫に生まれ変わるのだろう?

そこから生まれてくるのは美しい羽の生えた蝶の妖精かもしれない。それとも毒々しい体液を体中にまとった陰気な毒蛾かもしれない。

僕は安らぎと不安の両面をそのいも虫に抱く。


いも虫付きの女の子とダベる向こう側の女の子が僕の視線に気づき始める。

きっと彼女はいも虫の存在に気づいていないだろう。ただ単にどこかのおっさんがちらちら見ている事を気持ち悪く感じているだけだろう。

そんな勘違いをされて、これ以上いも虫を気にするわけにはいかない。


水色いも虫は忘れよう!僕は履歴書を書くべきだ!



嘘の連なる履歴書だ。いや、嘘っぽいが読みようによっては、また気持ちの持ちようによっては本当の事が書かれている履歴書だ。

あほんだらソースのおっさんに言われたとおりに書いているんだ!気持ちが強くなくてはいけないって、ねえ。


僕は嘘を付きに付いて、それでも金を稼いで生きてゆく事に拘らなくてはならないのだろうか!?

水色いも虫が本当で、ここに書かれている履歴書の全てが嘘だ!



僕は書かれた履歴書をクシャクシャに丸め、そいつを空になった紙製コーヒーカップに詰め込んだ。そしてコーヒーカップの乗ったトレーを返却口に置いて、喫茶店を後にした。



ああ、水色いも虫!


君はどんな風に生まれ変わる事ができるだろう!?


僕はその事だけが気がかりだ。


新世界16-孤島の物語 4

青がオレンジに変わって、水色木の実が溜息をつく。


ピンク色電球のシャンデリアが輝き、金色花らっきょが照らされる。


全人類が滅んで、ただ一人生き残っても、最後まで死を拒んで生きてゆこう。



金星人がやってきて、


この星一面を赤と黄色の花々で覆いつくしてしまう。


一年中咲き続ける花々が、幸せな気分にさせてくれるだろう。


焼肉、おまんじゅう、チヨコレイトはないけれど、


オリーブ色のオレンジ味の果実が熟れるから、


味覚が満足を失うことはないだろう。



毎日、おかわりなく お元気です。


知っている明日があるから安全です。


知らない明日が来たら、とても恐いです。



ハナは齢を取るのも忘れてしまっています。


人はやがて死ぬのでしょうか?


ハナはそんな疑いをも持っています。



毎日は穏やかです。


雨が降っても、カンカン日照りでも、


風速50mの風が吹いて、黒い雲が吹き飛んできて、一瞬にして空一面を覆いつくし、


降水量一時間に250mmになる雨が降って、雷が島の避雷針に35回落ちても、


また雲は退け、太陽は照り始め、青空は広がるのですから、


毎日は穏やかそのものです。



だから今日もハナは島の中でしっとりと暮らしています。


しっとりと、毎日は平穏そのものです。

新世界15-夢世界 5

白い息を吐きながら、大きな手袋をして、大きなニット帽を被って、ゴミの山の上で宝探しを続けている。


2020年になっていた。元旦が過ぎてもう2週間が経った。そんな行事などなかったかのように、ここで作業をする人間はいつもの労働を続けている。ゴミの山からの金属探し。



いつの時代からか、人は無駄な物を大量に作るようになっていた。全ての物は多種多様化してゆき、いくつかの必要な物と、いくつもの不必要な物が生まれていた。

いくつかの必要な物は金持ちの道具となり、いくつもの不必要な物の集まりはここに十数平方キロメートルにもおよぶゴミの山を作る事となった。今もゴミの山は広がり続けている。


低賃金労働者は自分が無駄な物を作らされている事に気づいていた。無駄な時間を費やし、無駄な材料を費やし、無駄な不用品を作っていった。

そんな無駄な事は止めてしまえばいいのだが、低賃金労働者はそうする事によって仕事を失う事を恐れていた。一度失ってしまえば、もう二度とまともな職にありつけることはない。そんな時代の中で多くの人々は生きていた。その事を低賃金労働者たちはよく理解していた。


無駄な物を作る根源となっていたのが、上流消費者の無駄な欲望だ。上流消費者は無駄な選択を好み、無駄な選択を楽しんでいた。安くていい物を選ぶのが暇な上流消費者の楽しみだった。

上流消費者は全人口の極一部にしか過ぎないが、そんな上流消費者もたくさんも品定めをした後、極一部の物しか買わない。買われなかった物の一部はバーゲンにより一部の中流消費者の買い物に移ってゆくが、多くの物はゴミとなって捨てられる。人口の大半を占める低賃金労働者はろくに物を買う事もできないからだ。

低賃金労働者は毎日の生活に追われている。それでもたくさんの会社が潰れ、たくさんの非労働者が増えてゆく。物も人も不必要に溢れ、社会爆発が起きている。やがて淘汰が起こり、たくさんの物が無くなり、たくさんの人が死に消えてゆくだろう。


僕らはやがて消えてゆく。

痕跡も残らない塵と変わるであろう。



そんな事を思考しながら、ゴミくずを集める。

重い物を掘り起こし、体を動かし、熱を増しながら体を温めて、冬の労働を続ける。腹がぐうぐう鳴っている。毎日生きてゆくのはつらいことばかりだ。


2020年始まりの夢に僕はいた。

空腹と寒さに心はだいぶすさんでいるようだった。

心のままに僕はどこかへ行ってしまいそうだった。


新世界14-無職の暇人 4

2012の秋の夜、


今日はワインに酔って眠るしかない。


人付き合いは苦手だ。



あほんだらソースのおっさんは僕を攻め立てて、明日の生き方を説教してきた。


あほんだらソースのおっさんとは、

職紹介会社の男の事で、どこかのお好み屋でお好みを焼いてそうなツラをしてたから、僕がそう名づけてやった。


あほんだらソースのおっさんと話していると、僕のテンションは1298%くらい下がる。


永久に人類は滅んでしまったほうがいいって思わせるくらい気分は悪くなる。

軍隊も兵隊もみんな死んでしまえばいい。

俺はやる気を起こさせられている奴隷人形じゃないんだ!

そんなに素直にはなれない。



僕は上手に生きられない、、、、泣き。



上手な言葉遣いも、、上手な自己アピールも、、上手な文章も、、僕を形作るものの全てが嫌いだ。


ただ生きていたいだけの僕なのに、世の中は生き難い。



だからワインを飲んで眠るわけ。


渋味を含んで、一癖も二癖も持って、

そんな飲み難いワインのような人物になって、全てから阻害されていたい。

世が嫌なら、そうなるしかないだろう?



反感生まれた34歳おっさんの一夜が暮れてゆく。


ああ、明日はないかな、、、

新世界13-夢世界 4

2019年 冬がやってきた。


温暖化の進む世界だが、今日は酷く肌寒く、やがて雪は降り始めた。

今年は雪の降る冬になりそうだ。

こんな日は日の当たらない冷たい家具に囲まれた家の中で、布団に包まって寝ていればいい。

だけれど、僕はあえて家の外にいた。



街頭の大型スクリーンでは、路上で亡くなるホームレスが急増している問題を取り上げていた。

『この冬の寒さは多くのホームレスを死に追いやる事になるだろう』

そんなニュースをホームレスが包まる歩道橋の下の傍で観ていた。



まともを守り抜いた人間は足早に街の中を過ぎ去って行き、僕らダメ人間は死体のように路肩にうずくまっている。この光景が当り前になったのは何年前からだろう?僕はふとそんな事を考えるが、大元は思い浮かばない。そんな記憶はどこか遠い過去に捨てられてしまった。


今はこれが当り前だ。

でもこの当り前の光景はずっと昔、どこかからともなく生まれ始めていた。

どうにも出来なかったのに、今になって騒いでいるのはアホらしい


止められなかった世の流れ、政治もできなかったし、僕もできなかったのだよ。


報道は、政治家に対してホームレス問題を解決するよう訴えていた。

たしか12月始めに見たニュースじゃ政治家は福祉の充実をうたっていた。

民間企業の代表者は自分たちの税金負担が増す事を懸念していた。

世の中ではそんな国家と民間団体との抗争が生まれていた。

僕は街頭で見られるテレビでそんな状況を理解している。


でも、そんな全てはどうでもいい事だった。

僕にとっては国家も民間企業もただの金持ちにしかすぎない。

偉そうに自分の立場を守り抜いているアホ野郎にしか見えない。

どんなに優れた人間も、僕にとっては皆敵なんだ!


生まれてくる怒りが瞳を鋭くさせる。

心はすさむ。すさみの色が増してゆく。

冬の白い雪が僕ら駄目人間のすさみ色を消え隠してゆこうとする。僕は熱を持ってその雪を溶かす。

自分はここにいるんだ!と小さな抵抗をしている。


ネオンの光に輝く年老いたホームレスの目が輝いていた。


彼は何のために生きているんだろう。


何のために生かされているのだろう。


希望はあるのかな?


希望を作ることはできるのかな?


この夢はきっと始まりにしかすぎないだろう。