小説と未来 -96ページ目

新世界7-伝文 2

こんな時代に生きる価値はあるのか!?


そんなふうに生へ対する疑問が生まれたんだ。



そして僕は何かの夢を見せられた。


その夢は僕を疲れさせるだけのようだった。


それでも夢の中は夢のために生きろと僕を眠りに就かせる。


現実に生きる事は無駄になったんだ!と言ってくる。


現実よ!一日一食飯を食って生きてゆけ!


そして僕は夢に生かされて、眠りが誘う。


夢が僕を呼んでる。


僕は眠りに囚われてゆく。


僕は生きる意味を失ってゆく。


夢だけが僕を生かしてくれる。



いつからか、僕は会社へ行かなくなった。


当然のごとく会社を辞める事となった。


でも僕は生きる事に対して何の恐れも不安も感じなかった。


ただこれから失われていくだろう、たくさんの事が悲しく感じられた。


きっと僕はたくさんの物を失う。



失い、無くし、消え失せて、僕は何かを得られるだろうか?


何かを得たい。


得たく獲りたくて、僕は眠りに落ちる。


その夢だけを信じる事しか、僕には生きる意味がないのだから。


新世界6-無職の暇人 2

とても残念な事に、青色のクマには逢えていない。



光は夏よりも柔らかく、秋よりは強い。2012年10月の晴れた1日だった。


土手に生える草草は特別な事など何もない一日を今日もこの川べりで送っている。

青々しくもなく、枯れもしていないその草草は種を付け、また翌年への引継ぎを始めている。


雲が覆い、光が弱まって、影が増して、見えない物が形になり始める。


僕は眩しさに目が眩んでいただけだったのかもしれない。


こんなくさはらで暇を潰しているわけにはいけないはずなのに。



カフェテリアに落ち着き、西日になって、過ぎてゆく一日を感じる。

自転車で走ってやってきたばかりでまだ気分が落ち着かない。

周囲のダベリ声が気になる。最近のドラマの話や個人的な話が耳に触れる。

青色のクマの噂は聞こえない。噂は僕の勘違いだろうか?

耳を澄ますと、彼女らの声は微妙に聞きにくい。徐々に何を言っているのかわからなくなる。


五分後、僕は人の話を聞くという無駄な作業に疲れてグッタリしていた。

周囲が気にならなくなった瞬間から、周囲の音がよく聞こえだす。

しかしその音はBGMのようになだらかで、僕の耳に障るような音ではない。


 ごそごそ、ぐあなになになに、けあきるめかなへ?


どこか異国の言葉のように女性たちの声が流れてゆく。

フランス語でも聞いていたい。


僕は紺色の肩掛けバックから自分が生きていた印となる過去のデータが書かれた書類を取り出す。


俺にはやらなくてならない事がある!


履歴書を書かなくてはならなかった。面倒くさい。とりあえずどこをどう書くかを考えるためにここへ来た。カフェテリアでおしゃべりをしている暇人とは少し訳が違う。

大して変わらないか。むしろダメ人間?


2013年春には職に就いておかないと、生きてゆくための金がなくなってしまう。使い尽くした貯金はその頃に残高0を迎える。


美しき春の始まりには永遠に辿り着けないようだ。


カフェテリアで楽しく過ごせる時間はまだまだ見果てぬ夢の先


青色のクマ、黒いトカゲ、僕は意味もない産物を想像し続けている。


新世界5-夢世界 2

2019年9月は家具に困らない生活を送っている。


僕の家は家具に溢れている。



詳しくは覚えていないが、この地下0.5階にある家はかつて家具屋だった。


そして僕はこの家具屋でアルバイトをした。


老婆は僕にたいしてする事のない仕事をさせてくれた。


もはや家具屋に客が来る事はほとんどなかったので、僕の仕事は掃除と在庫整理のみだった。



そんな老婆も1年くらい前に亡くなってしまった。


老婆は結婚もしておらず、家族も親戚もいないようだった。


僕は世話になった老婆の葬式を開き、その老婆を無縁仏に埋葬した。


代わりに僕はこの家をそっくりそのまま譲り受けた。


とはいっても家具しかないが



ソファーが三つ、机が八つ、椅子が二十五個、とにかく無駄に要らない家具がたくさんある。片付ければ広い部屋なのだろうが、捨てるほうが数十倍金が掛かる。時代はこんな家具など必要としておらず、ただのゴミにしかならない世界へと変わってしまったのだ。


老婆はろくに遺産も残していなかった。一応何とか生きてゆく分のお金は持っていたようだが、葬式を終えると、そのお金はほとんどゼロに等しくなっていた。

僕に与えられたのはこの住処と十三個の箪笥などだ。


時代は変わった。

こんな薄暗く狭い共同ビルの地下0.5階を必要としている業者はいない。2~8階までそのほとんどががらんどうになっている。

開かずの間がたくさんある。土地の利用価値もなく、何の使い道もない場所に僕は住んでいる。ただここに住む権利だけ僕には与えられている。


大きなダブルベットは一つしかない。一つあれば十分だが、この家具屋にはベットは一つしかなかった。そこが僕の寝床だ。


今では電気も止められてしまったこの部屋には少し高いところにある窓から入り込む薄明かりのみ。


うすぐら、ああ憂うつになる。

気もめいるぜ。


2019年9月、僕は住所のある生活を何とか送っている。

大したものだ。


新世界4-無職の暇人 1

2012年秋、その日も僕は欠け者だった。


柿の実を握り締めて秋の町を歩いていた。



青色のクマに逢いたくて、僕は石畳の町を歩いていた。


この町の噂で青色のクマに逢えたら幸せになれる。


それがこの町の少女たちの間に広まった噂だ。



僕は少女じゃなく、34歳のおっさんだが、その噂を信じてみたい。


青色のクマはどこかにいる。


秋の日差しの届かない影に隠れて、クマは木の実を探し求めて歩いている。


青色のクマ、青色のクマ、赤い夕陽が苦手な青色のクマ


そんなクマを僕は探している。


新世界3-孤島の物語 1

岬に咲く花は黄色い小さな花の集合体


淡い黄色や濃い黄色がモザイクのように、ちかちかしている。


波音、風音、花揺らす音、ハナは風に浮く雲を眺めて、今を明日へと繋げている。


陽だまりの下、誰もいない孤島の高台から海を臨む。


遠い雲の下に貴方がいるでしょう。


人のいない孤独な島、ハナは今も夢叶う事を待ち望んでいる。


いつか離れ離れになってしまった貴方に会いたい。



昼にはユーカイスと名乗る女中がやってくる。


生活には困らない。


孤独や不安を忘れて、ハナは穏やかな心を心を保っている。



風に吹かれて漂う花の香り


仄かに甘いその香りを鼻を使って十分に吸い込む。


優しい香りは体中に浸透してゆく。


今日も穏やかな一日が過ごせる。


何もない孤島で、ハナは僅かな変化を楽しんでいる。