小説と未来 -131ページ目
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3. ナンパ

  

 拳銃を受け取ってから、数日が経つ。


 それでも響(ひびき)の環境は何も変わらない。


 落ち着かない響は、「ふくちゃん」の常連客の一人、式羽(しきば)に会いに行った。式羽は「MAKE LOVE 1 HOLE」(フィクションである)という風俗店を経営している。


 昼の14時、MAKE LOVE 1 HOLE に行くと式羽は事務所にいた。事務所と言っても、会員専用のショットバーとなっている部屋だ。式羽はそこでマティーニをちびちび飲んでいた。


式羽:「あれ、ひびきちゃんじゃんか。どうしたの?」


響 :「いや」


式羽:「何だ。例のごとく、ビンビンて感じ?」


響は否定しない。


 そんな会話を経て、二人は渋谷のスクランブル交差点に出掛ける

 そして、109近くにたむろする女に声を掛ける

 声を掛けるのは、式羽の役目だ。


式羽:「ねえ、ねえ、飯喰いいかない?」


 女は二人組、いわゆるギャル系である。最初はなあにおじさんというような目で式羽を見ている。


 やがて式羽は手口2を使う。


式羽:「俺の友達が君の事が気になって仕方ないっていうんだよ。

    シャイな奴でよお、俺もこんな事したくないんだけどさ。付き合ってやってよ」


 金髪の女はどうでもいいように、それでも式羽の目線の先をちら見する。

そこにはすらっと背の高い響が立っている。まんざらでもない顔をする


「知り合いなの?」

「ああ、もちろん。ていうか、友達、おい、響、こっちこいよ」


 そして響は近寄ってくる。

 すらりと背の高い男は二人のギャルの前にすらりと立つ。式羽にふり掛けられた甘い香りの香水が女の鼻をくすぐる。

 響は何も話さない。


「よう、いいだろ。飯はおごるからさあ、いい店知ってんだよ」

「何、どこ?」と、もう一人の赤毛の女が話に乗ってくる。

「ああ、まあ、フレンチ風のアレンジ料理なのね。普通、予約とか要るんだけどさあ、まあ、俺は顔パスでねえ」

「ほんと、おごり?」

「ああ、もちろん」

「どうする?」と、もう金髪に訊ねる。

「ごはんだけなら、いいけど」

おし、決まりね!」


 そんなわけで、4人はある店へと向かう。

 その店は恵比寿から白金に続く方の道を歩いて、10分程度行った所にある。静かなダイニングバーで弱い黄色の光が観葉植物を照らし、落ち着いた雰囲気をかもし出している感じのいい店だ。

 式羽の言うようにそこは顔パスだ。

「ああどうも」と主人が言って、入ってゆく。

 まだ時間は17時だ。


 飯を平らげ、ワインを呷(あお)って、そんなこんなはお手のもの、気がつけば、女たちはホテルへと連れ込まれていた。


 金髪の女を抱きながら、響は気持ちを吐き出す。異様なほどに激しく、体を動かす。女はその勢いにたまらなく興奮している。


 恐れている部分がある事を、響は気づいている。

 いつでも引き金を引きたい想いが気持ちを落ち着かせない。今はこんな事でしか気を紛らわせない。

 明日の朝、部屋に帰れば、留守番電話にあの男の指示が入っているかもしれない。殺したい感情と人殺しをする恐れが響の感情を混乱させていた。

 あえぐ女の声を聞きながら、感情の全てをその女にぶつけてしまうことでくらいしか、今を落ち着けることができずにいた。


 時はまだ来ない。そしてこんな一日もあるのだと、自分に言い聞かせている。


第4話へ続く。

2. ふくちゃんの店

本日の話は、居酒屋「ふくちゃん」から始まる。

(簡略化のため、人の話の部分は芝居の台本のように書かれています)


ふくちゃん:「あら、いらっしゃい」


 ふくちゃんは、推定40代後半のおばちゃんです。ふくちゃんというくらいで、福耳で福の神のようにぷっくりしている。東京台東区上野のある場所で、女手一人、15年間そこで商売を続けている。

 娘が一人いる夫とは15年前に別れ、その後、一人で商売を始め、娘を育ててきた。


ふくちゃん:「今日は早いのねえ」


響(ひびき):「ええ、まあ」


響はすらっと背の高いいい男である。無口で、あまり会話をしない。


ふくちゃん:「でもあれだねえ。まささんも亡くなってもうすぐ一年だろう?響君もどうだい?

        一人でやっていけそう?」


     響:「まあ、なんとかやってます」


ふくちゃん:「あまり込み入った事は聞かないけど、無理しないでね。

       何かきつい事あったら家みたいなところでよければおいでね」


     響:無口に微笑む。


 客はまだ響以外にいない。7つのカウンター席と座敷にある4人用テーブル席にはまだ客一人もいない。

 響はちびちびと酒を飲む。そして金目鯛の煮付けをつまむ。


 18時30分くらいになると、店には客が集まりだす。

 背広姿のサラリーマンと、常連客。

常連客の紹介 通称である。


① 歌い人(うたいびと)

 本名は誰も知らない。いつもギターを持って現れる。

 「歌ってもいいですか?」と笑顔で、ふくちゃんに了承を得て、一人でギターを弾き始める。

 客も喜ぶので、ふくちゃんはいつも了承している。

 歌は尾崎豊の曲や徳永英明の曲をしっとりと歌い上げる。

 年齢は30手前くらい。身長165くらい。体格は普通である。

 とにかく笑顔が似合う人の良さそうな男である。


その日も現れ、彼は歌った。「17歳の地図」と「夢を信じて」を歌った。


② 式羽(しきば)

 近くで風俗店を経営している。いい男である響は、彼のナンパ目的で利用されている。

 この男と響も、もとはといえば、まささんとの関係。まささんが式羽の店の常連客だった。

 年齢はまだ25歳、背は低く、体重は軽そう。足も手も早い、チンピラ風だ。

 顔は元ホスト風だ。


その日、彼は現れなかった。響はちょっと女を抱きたい気分だったので、内心落ち込んでいた。


③ とっちゃん

 いかにもとっちゃんというあだ名があうおじさんだ。

 近くで印刷会社を営んでいる。不景気ではあるが一応社長で気前がいい。

 若い頃はふくちゃん目当てでやってきたが、徐々にぷくぷくしてゆく、

 ふくちゃんに今では特に何も求めずにただやってきてしまう。

 本名は、岸野さんという、がたいのいい男だ。


その日もやってきて、世の中の不景気を嘆いていた。

「値上げ、値上げって、うちが上げたいよ。ばあっろってんだ」と(響君が聞き役)


④ 神(かん)さん

 近くにある立派な神社の神主さんである。もう70過ぎている。

 19年前に一人娘が駆け落ちし、数年前には奥さんを癌で亡くした悲しいおじいちゃんだ。

 しかし本人は至って明るい性格だ。ただのアル中でもある。

 唯一の希望は娘の娘、要するに孫娘

 いつもおじいちゃんを迎えに来る。

 奥さんを亡くし、仕事をせずに毎晩飲んだくれているおじいちゃんの代わりに、

 神社を綺麗にしているよき娘だ。


 その日はやってこなかった。

 ふくちゃんは「たぶん孫娘に止められたんじゃないの?」と話していた。


以上が主な常連である。もちろん、常連さんは他にもいる。けど、主に紹介必要な常連さんは以上の4人だ。


 それから、ふくちゃんの娘、由佳(ゆか)ちゃんは高校生だが、お店を手伝いにやってくる。響にひそかな恋心を抱く。一応、ひそか。でも皆には、ばればれである。

 しかし残念ながら、響の心は、神じいさんの孫娘、さくらにあるようだ。残念な話である。

 そのさくらの恋心がどこにあるのかは不明だ。さくらは19歳。とても綺麗な女性だ。おとなしく心の内を見せてはくれない。


 響は少なくとも2日に一度は「ふくちゃん」を訪れる。そして好物の魚をつまむ。

 似たような日々がここ一年続いている。

 もうすぐまさの一周忌だ。

 話の盛り上がっている居酒屋の中で、響は一年が過ぎた事をシミジミと思っている。

 そして一丁の拳銃が手に入った事が頭の中から離れる事なく続いていた。


さて話は次、3話に続く。

1. ある男

 響(ひびき)は隠れ家でぼーっと過ごしていた。


 隠れ家は、台東区上野にある、マンションの一階の通路を裏口まで通り抜け、その出口から出て、袋小路になっている通路の脇にあるドアを開き、地下に下ってゆくとある。

 このマンションの所有者は、響の親玉である人物と関係する者が所有者となっている。


 親玉は、響の知る限りでは、響の育ての親を殺した女政治家だ。しかし、殺しの真実に繋がる根拠はない。育ての親を殺したという点は、響がまさの生前の話から知る限りの推測でしかない。

 育ての親であるまさが死んだ今となっては根拠がない。かといって響はその犯人探しに行動的な態度を取っておるわけなく、毎日を送っている。



 そんな響の元にも客が来る。

 昨日は一人の客がやってきた。


 響はいつものかと思い、何気なく対応したが、訪れた男はいつもの男ではなかった。

 響がいつもの男と思う人物とは、響に麻薬の受け取りを指示する男だ。その男は普通にスーツを着て、普通のサラリーマンのように現れる。そして一枚の紙切れと諸費用を渡し、響に取引場所を指示する。

 響はいつもその指示に従い、所定の場所へ行き、別の運び屋からぶつを受け取る。

 そしてぶつの変わりに男から受け取っていた報酬を、その運び屋に渡す。彼はぶつを自分の家に持ち帰る。するといつもの男が再び現れ、ぶつを確認し、今度は響の報酬を渡し、ぶつを受け取って去ってゆく。

 一ヶ月に一度くらい、そんな日がある。


 でも昨日は違っていた。麻薬の受け取りを指示する男ではなかった。

 その男は黒いスーツを着て、サングラスを掛けていた。

 響の知る限り、隠れ家を知る人物は、いつもの男とマンションの所有者、そして響の3人しかいないはずだった。でも黒いスーツの男はどこからともなく現れて、彼に尋ねてきた。


「人を殺せるか?」

(これは、まだ扉越しでの話だ。響はその男を部屋の中にはいれていない)


 響は人殺しをするつもりはなかったので、その依頼にノーと答えた。

俺は人殺しはしない。俺の仕事はものを運ぶだけだ。それに信用のない男の依頼を受けない。あんたがどうやってここに入ってきたかわからないが、これ以上俺に関わるな。組織にあんたの存在を知らせ、消してもらう事だってありえるんだ。あんたも死にたくなかったら、もうここには来ないことだな」

 響はドキドキしながら、慣れない言葉をまさに真似て、ずらりと並べてみた。


「殺してほしい相手の名も聞かずに断るのは気が早いんじゃないか?」

 スーツの男はそう答えた。響は黙っていた。

 男は話を続けた。

ある女政治家を殺して欲しい。準備は整っている。後は君次第なんだが」


 しばらく沈黙していた。響は何も答えずに黙っていた。

 やがて、男が去ってゆく気配がした。


 咄嗟(とっさ)に、響は家の扉を開いていた。それがイエスを意味する態度の全てだった。


 その男は響に一丁の拳銃を渡した。

 そしてあらためて依頼を告げると、自分が何者なのかを告げる事もなく去っていった。


 全ては作られた罠だろうと、響は感じていた。

 考えれば、考えるほど、おかしな出来事であるような気がしていた。でもそれが何なのか、はっきりとした答えを今の響に見出す事はできなかった。

 響はただどうしても、その女政治家を許す事ができなかった。育ての親であるまさを殺した女政治家への復讐心は彼の意識を諦めから強い決意に替えた。だから響は誰かが仕掛けたと感じられる甘い罠にかかることさえも認めた。


 女を殺せる。それだけで響はよかった。

 その後の生活も、何もかも、響にはどうでもよく思えた。


もともと何もない人生だ。存在さえ、不透明。仕事も表ざたにはできない。まっとうには生きられない。楽しみはくだらない事ばかりだ。だから、どうなるかはどうでもよかった。ただ、復讐を果たせる』


 響は心の中でそう呟いた。


 あとは黒服の男からの次の知らせを待つだけだった。

 興奮を抑える時間は続く。拳銃にタマを込める練習をして、気を紛らわせていた。


2話へ続く。

作品紹介

作品内容の紹介



 主人公は 上野 響(うえの ひびき) 20歳。 職業 麻薬の運び屋、 ひょんな事情からそんな仕事に関わる事となった彼は、さらに思いもよらない様々な人間関係に翻弄(ほんろう)されてゆきます。


 まずはそんな主人公像を追ってみましょう。


 身長 190cm 体重 70kg すらりと背が高く、とてもいい男です。

 髪はさらりとしていて、耳にかぶるくらいの長さ、目は細く、顔も細い。はやみもこみちといったイメージでしょうか。見た目はロックンローラーっぽい雰囲気を漂わせています。


 彼に会える場所は、東京上野の小さな居酒屋「ふくちゃん」という名のお店です〈この物語はフィクションです)。


 彼は夜になると仲町近くのその居酒屋に現れ、食事をしています。好きな食べ物はおかみのふくちゃんによると、魚料理とのことです。「刺身より煮魚が好きみたいねえ」と、彼の事を紹介していました。


 もちろん、おかみは響君の本当の職業は知りません。この居酒屋には以前、通称まささんという常連さんが通っておりました。この男は響を13歳から19歳まで育てました。そのまささんという男がいわゆる運び屋だったわけです。

 響はまさの教えを忠実に守り、警察に捕まらない特別な察知能力で、この仕事を極めました。彼は背が高く、普通に考えればとても目立つはずなのですが、なぜか気配を消すのがうまいのです。そして周囲の気配を察知し、見つからないように逃げるのが得意なのです。

 まさは響がこの能力=捕まらない力に長けている事をすぐに見抜き、彼を運び屋のプロとしました。そしてそういった生活が、二人に訪れ、13歳から19歳という思春期を響はそうやって過ごしきたわけであります。


 さてもう少し、響の過去=生い立ちを探ってみましょう。

つまり、彼が人に捕まらない能力をなぜ持ったのか、その理由をお教えします。


 早速そこを紹介しましょう。


 響の父親は、彼が生まれた時、すでに60歳でした。母親は47歳、いわゆる高齢出産の子として生まれたわけであります。でも事実は異なります響は拾い子でした。彼にはその両親と何の繋がりもありません。でも響はその事を未だに知りません。彼は自分がその高齢の両親から生まれた子だと信じています。

 そしてその両親は拾い子である響を隠して育てることにしました。両親は響が本当の親に戻されてしまう事、もしくは何処かの養護施設に入れられてしまうことを恐れ、彼を隠して育てました。だから彼は気配を消すのが上手だったわけです。両親からはいつも「外は危険よ」とか「静かにしていないと鬼に連れ去れてしまうぞ」などといわれて育ったものだから、気配を消し、周囲の声に耳を済まして過ごす子になりました


 13年の月日、響はそうやって過ごしました。もちろん物心が付くにつれて両親のいう事に疑念を抱いてはおりました。でも響はその両親の事が好きでしたから、両親に心配かけないように自分を押し殺していました。

 13歳になったある日両親は出掛け、家に帰ってきませんでした。かわりに家の玄関にやってきていたのは警察でした。響は母親から一通りの教育を受けていたので、たいていの事は理解できていました。

 危機的状況を感じた響はその場から逃げました。人生初めて家の外に飛び出しました。そして、まさに出逢いました。運命の出逢いでした。


 まさは死にました。今から1年前です。理由は、殺されたからです。響はその相手が誰だか何となく分かっています。名目上は自殺になっていますが、彼は殺された、響はその事を感じています。


 プロローグとしましてはこんなところです。


 さて、この物語の行き先、また他のキャラクターにつきましては今後紹介してまいりたいと思います。

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