13.人の心を読む女再び
橘玲香
今回はこの女の視点で話が始まる。
まずは簡単にこの女のプロフィールを紹介しよう。
橘玲香(たちばなれいか)、29歳。
彼女はごく普通の家庭に生まれ育った長女だ。
彼女の父親は商社のサラリーマン。母親は専業主婦。
年が5つ離れた妹が一人いる。4人暮らしで、家は西東京だった。
玲香は当たり前の家庭に育ってきた。両親は普通に喧嘩もするが、離婚とまで行くこともない。
妹は今風で、玲香はそんな妹があまり好きではなかった。
玲香の見た目は若く、ほしのあきのような感じだ。
彼女は今、某化粧品会社で普通にOLをしている。実家を出て、中野のアパートで一人暮らしをしている。
物語へ。
水道橋駅のベンチに腰掛けていた。玲香は日曜なのに、黒いタイトスカートのスーツを着ていた。
暑い一日で、彼女は首筋から流れ落ちる汗を白いハンカチでぬぐった。
玲香は待っていた。その日、彼女はある男に会える予感を抱いていた。そしてその予感は18時35分に的中した。
彼女はアキバ方面に向かうベンチから反対ホームを眺めていた。向こうのホームから背の高い男が玲香の法をじっと目つめていた。
この物語の主人公、上野響(うえのひびき)だ。
玲香は響を見て微笑んだ。
響は改札方面を回り、玲香のいる反対ホームへとやってきた。
響 :「あんた、暇なんだな。毎日ここにいるのか?」
玲香:「そんなわけないでしょ。予感がしたの。今日あなたがここに来るってね」
響 :「まあ、どっちでもいいさ。俺は別にあんたに会いたいわけじゃないからな」
玲香:「そうね。別にいいのよ。それでも」
響はいつものように女を抱きたいと思って、ナンパをしに来ていた。そこへちょうど玲香がいただけだった。最初の出会いもそうだった。初めて会った日、二人は抱き合った。
玲香:「わたしはあなたに逢いたかったのよ。なんとなく、顔が見たくなったの」
響 :「どっちでもいいけど、どうする?」
二人は飯も食わずに、早速ホテルへ行った。前回はビジネスホテルだったが、今回はわかりやすいラブホテルだ。二人が求め合っている感情はすでに一致していた。だからわざわざ手順を追う必要も、気を遣う必要もなかった。
やりたい事は、セックスだけだ。
前回と同じように玲香はシャワーを浴びた。
獣(けもの)のようにやってくる響に、玲香はシャワーを浴びるよう促(うなが)した。響は素直にそれに従った。
ベッドの上で、玲香はシーツにくるまり、響を待った。響の落ち着かない興奮しきった感情が玲香を興奮させていた。
やがて響がシャワールームから出てきた。ろくに体も拭かず、隠すところも隠さずにベッドのなかにやってきた。そして激しく啜(すす)る音がシーツの中で響いた。まだ慣れ親しまなない響の体が玲香の体をぞくぞくさせた。
玲香:「ちょっと、ちょっと待ってよ」
響 :「なんだよ!」
玲香:「世の中にはいろいろな男がいる。大きい男、小さい男。
あなたは大きい男だけど、ただ大きいだけの男。
そういう男は女を喜ばせようとしないの。
自分のが立派で、それで全てと思っているの。つまらなくて、下手くそ!」
響 :「なんだと」
玲香は笑みを浮かべた。余裕の表情だった。怒る響の目を怖がることもなく、若いライオンを弄(もてあそ)ぶような目をしていた。
玲香:「まあ怒らないでよ。わたしがあなたに教えてあげてるの。
自分が満足すれば、相手も満足?自分のコトばかりで、あなたは早くしたい。
そして早くスッキリしたい。そればかり考えているでしょ?そうでしょ。
たまには女の子を満足させることを考えなさい。教えてあげるから」
響の体は苛立ちと欲望が入り交じり、より激しく興奮していた。支配してやるという響の欲望を玲香は強く感じ取った。
そして玲香はやってくる響に従った。体中は満足させられていっても、そんな響のやり方に玲香は反発したくなった。
「それがあなただと思っているの?そうやって、激しくやって、感情をぶつけることがあなただと、あなたは自分に言い聞かせているの?たまにはそんな思いを途中であきらめればいいのに。最後まで行こうとしないで、途中であきらめてしまえばいいの。わたしはもう満足だから」
口のうるさい女だと言いたいように、響は玲香の唇に唇を重ねた。そして激しく続け、やがて響は終りまで行き着いた。
事が終わり、玲香は裸をむき出しにしたまま、昏睡状態のように動かず、ただ天井を見上げていた。
「何か悪かったか?」と響は玲香に言い捨てた。
玲香は思い出したかのようにその言葉に反応する。
「やり遂げるのは、セックスだけにしておいて。それがあなたのために言えること。醜い連中があなたのやり遂げようとするエネルギーを利用して近づいてくる。心の内にあるそれを、それがない底辺の連中が利用しようとしているの。あなたはそんな事に巻き込まれてはダメよ」
上から物を言うように玲香を感じ取ったのか、響はめんどくさそうに何も答えようとしない。そそくさと脱いだ服を着て、鋭い目を玲香に見せて、去って行こうとする。玲香のまわるい目はその響の目を見返していた。
「もう、あんたに会うこともないな」と、響は玲香に言った。
玲香は何も言わずににっこりと笑みをみせた。
響は不思議に感じた表情を浮かべたが、何も言わずにベッドしかない部屋を出ていった。
「これがわたしの趣味、わたしの楽しみ、わたしの生き方だから」
玲香は一人でつぶやく。
「あなたにはまた会うわ。それが今のわたしの趣味だから」
一人になった響は妙にさくらに会いたい気持ちになっていた。今の時間なら、居酒屋「ふくちゃん」に行けばまだ会える気がしていた。
電車を乗り継いで、上野に着いて、駅を降りた。すると響の考えは変わっていた。さっきまで女を抱いていた体でさくらに会えない気がした。
いつもなら冷静さを取り戻すための行為であるセックスも、その日の玲香とのセックスには苛立ちしか残っていなかった。
響は素直にまっすぐ家に帰り、家に着くなり、熱いシャワーを浴びた。
冷蔵庫からハイネケンを取り出し、グビグビと一気に飲み干すと少しだけ冷静さが戻ってきた気がした。明日になったらさくらに会える気がした。冷静になって、響は思い募るさくらへの気持ちを明日に抑えた。明日はどんな形でもさくらに会いに行こうと、響は考えていた。
14話へ続く。
12.まさの命日(めいにち)
7月8日、響は群馬県南部の利根川沿いにある、あるお寺を訪れていた。天気は曇り、静かな一日だった。
その日はちょうど、響を13歳から育ててくれた、まさの一周忌(いっしゅうき)にあたった。
まさは人付き合いが苦手で、特別な友人もいなかった。母親と弟が今でも群馬県の利根川沿いに住んでいるが、16歳のときに家を出てから彼が亡くなるまでほとんど会うこともなかったそうだ。
昨年のまさの葬儀(そうぎ)は一応親族が集まり行われた。しかしまさは15、16歳の頃、手のつけられないほどのワルだったので、誰も近寄らなかった。親族のほとんどは面倒な奴が死んだとせいせいしていたといったような顔をしていた。
一周忌法要(ほうよう)が行われるかどうかもわからなかったが、響がその日墓を訪れるとしっかり前の日か前々日のあたりに行われたらしい痕跡(こんせき)として、線香の消しくずと供えられた菊の花が見られた。
響はとりあえず墓の前で手を合わせた。他には何も持ってこなかったので、ただそれだけの行為をした。響は自分にとって唯一の存在だったまさに手を合わせないわけにはいかなった。
そこへ一人の男が近づいてきた。
響はその存在に気づいていた。あまりいい予感はしなかったが、それでもここまで来て、わざわざその男の存在を避けるためだけに手も合わせず引き返すわけにはいかなかった。男はずっと前から墓の傍にある木の脇でまさの墓に来る誰かを待っているようだった。響はできる限り気にしないように、まさに手を合わせ、『安らかに休めよ』と祈った。
去り際になってその男は響に声を掛けてきた。
「月島雅弘(つきしままさひろ=まさ)さんのお知り合いですか?」
その男は、身長170cm程度、やせた30歳前後の男だ。
「まあ」と、響はそっけなく答えた。
「ああ、すみません。そうですか。わたくし…」
男は薄手の上着の胸ポケットから警察手帳を取り出した。
「警視庁生活安全課の、馬込純平(まごめじゅんぺい)と申します。それで、わたくし、一年前に亡くなられた月島雅弘さんについて調査してまして、何かご存知ありませんかねえ?」
響は何も言わずに馬込の言葉を待った。
馬込:「昨日、月島さんのお母様と弟さんがこちらに来られまして、
わたくし再度、何か知らないかと訊ねたのですが、
お二人とも最後に会ったのがもうかれこれ9年前になるらしく、どうも何も知らないらしいので。
あの、失礼ですが、月島雅弘さんとはどうようなご関係で?」
響 :「いや、ただ昔少し世話になっただけで」
馬込:「どのようなお世話になったのでしょうか?」
響 :「ちょっと仕事を世話してもらっただけだけど」
馬込:「確か、彼の職業は運送業だったそうで。
でも不思議な事に彼はトラックはおろか、車さえもっていなかったそうで、変わった運送業ですよね」
響 :「…」
馬込:「まあ、世の中にはいろいろな運送業者がいるのでしょうね」
響 :「それで、彼は自殺して亡くなったと聞いてますが、何か問題でも」
(響は逆に自分から相手が何を探ろうとしているか掴んでみようとした)
馬込:「(^~^)、ええ、実は彼の自殺とは関係ないのですが、
日暮里スーパー爆破事件というのをご存知ですか?
あの時に彼を見かけた記憶がありましてねえ」
響 :「話くらいは聞いた事があるけど」
馬込:「実は、わたくし、あの事件の年に、古畑任三郎に憧れて警部補になったのですが、
あの爆破事件が最初に勤務した警察署で起こった最初の大掛かりな事件だったのです。
わたくし、運がいいのか悪いのか、
あの爆発の後、あの場に、最初に駆けつけた警察官となりまして、
そのおかげで日暮里スーパー爆破犯特別捜査班に入りました。
2001年から2005年まで捜査を続けたのですが、結局犯人が見つからないまま、
わたくし人事異動(じんじいどう)となりまして、警視庁の生活安全課に異動となったわけです。
それで現在の職場に異動した後も、自由が利く職場でしたので、
勝手にいろいろと調べさせてもらているのですが、日暮里の辺りをうろうろすると、
前の同僚に煙(けむ)たがられまして、それでこんな場所で捜査をしていたわけです。
まあ、特別捜査班の頃はデータや資料集めばかりでろくな仕事をしてなかったので、
今の方がいいといえばいいのですがねえ。
どちらにしてもせっかく警察官になったのに、
初めての犯罪の犯人も捕まえられないんじゃあ、格好悪いじゃないですか。
このままでは何かすっきりしないという事で、爆破事件の捜査を続けているわけです。
いや、余計な事ばかり喋りすぎました。わたくし母親譲りで口ばかり動いてしまうんですよ」
響 :「あの人の事はよく知らない。俺は少し世話になっただけだ」
馬込 :「そうですか。わたしはどうしても、月島雅弘があの事件に関与している気がしてしかたないんですよ」
響は知ったこったか、というような素振り(そぶり)をする。
「すみませんが、ちょっと帰って仕事をしないとならないんでね」
そしてそんな嘘をつく。
「ああ、これはこれは、どうもすみません。ご協力ありがとうございます」
馬込はそう笑顔で言いながらも、目は冷静に響の顔を捉(とら)えていた。今度どこかであってもすぐに気づけるようにじっと響の顔を覚えているようだった。
響は馬込の話が気になった。
日暮里スーパー爆破事件とまさの関わり、その事を響は予想もしていなかった。響は少なからずあの事件を気にかけている。なぜなら響の実の両親(響がそう信じている両親)はその爆破事件に巻き込まれて亡くなったからだ。そして事件後、響は居所を失い、まさに出逢ったからだ。
お寺を出て、やってきた田んぼ道を戻る中で響は日暮里スーパー爆破事件の事が少しずつ頭から離れなくなってきていた。予想もしていなかったもう一つの復讐(ふくしゅう)を成し遂げるときが歩み寄ってくる気がした。
そしてまさかその復讐の相手が、自分を育てたまさである可能性が浮かんできている事に、どうしようもない困惑(こんわく)を感じ始めていた。
少しだけ雨が降ってきていた。そのうち夕立になるかもしれない。響はふとそんな事を思い、田んぼ道を駆け出した。行き場のない想いが響を走らせていた。
状況整理
響を生まれてから13歳まで育てた親=日暮里スーパー爆破事件 → 死去
響を13歳から19歳まで育てたまさ=嶋咲枝と会う → 死去
日暮里スーパー爆破犯=まさ?(警部補馬込の想像)
響は育ててくれた両親とまさの復讐を考えている。
このようなこんがらがった状況を、響はどう打開(だかい)できるのだろう?
そして真実はどこにあるのだろう?
まさが嶋咲枝に殺されたというのも、響の想像にしか過ぎない。
日暮里スーパー爆破事件の犯人は本当にまさなのだろうか?
その事実を探す方法が響にはわからない。
響は復讐を成し遂げられるのだろうか?そして真実はどこにあるのだろうか?
交錯した物語は続いてゆく。
第2章 完
11. 仕事の日
横浜市金沢区並木、工場や物流倉庫が立ち並んでいる。
本日の響の待ち合わせ場所はそこだった。
響は白い縦じまの半そでシャツに、ジーンズといった、ありきたりの服装で並木北の駅を降りる。
時間は夜も更け始めた21時。休日なので会社員の姿も見受けられない。
海へと繋がる一本の水路、そこで響は待ち合わせの相手を待っている。
たくさんの車は過ぎてゆくが、歩く人の姿はない。せいぜい自転車をこいでいるカップルが通り過ぎていったくらいだ。
工場の脇にはいくつかの監視カメラがついているため、響はそのカメラに映らないように自分の位置を決める。そして壁にもたれて相手が来るのを待っている。
21時35分、遠くからモーターボートの音が鳴り響いてくる。
響は人並み外れた聴力で、その音を聞き取る。
『あと5分以内にここへ来るだろう』
そして事実、音を落としたモーターボートが5分後に響の下へとやってきた。
船に乗った男はガードレールの支柱に縄を結びつけてから、甲板の下に眠る大きなアタッシュケースを持ち上げた。男は雨合羽(あまがっぱ)を深々と被っていて、顔を隠していたが、見る感じでもう60歳前後の男のようだった。響はその男に何度か会った事がある。場所は違うが、同じ仕事で何度か顔を合わせている。
男は慣れた感じでガードレールに手を掛け、重いアタッシュケースを片手で持ったまま、地上へと上がった。
そしてガードレールを跨ぎ、響の前にそのアタッシュケースをどさっと置いた。
響は何も言わずに手を出す。肩掛けかばんの中から先日木崎に預かった封筒を取り出し、その男に渡す。
男はそれを受け取るなり中身を見て、札の枚数を数える。
「ち゛(`ヘ´#)、これっぽっちか。やってられないねえ。だいたい今時、こんな危険なルートでやってて、これっぽっちとは、何をやっても格差だね。格差」
響はアタッシュケースの重さを確認して納得する。
「このルートはしっかりと約束されたルートだ。相当なへまをしなければ、あんたがどうなるって事はない。ただの運び賃(はこびちん)にしては多すぎるくらいだ。それに運び出す前にそこからあんたは別の報酬(ほうしゅう)を受けてるんだろ」
響が男の目を睨(にら)み付けてそう言うと、男は尻込みをした。
「わかったよ。できればあんたのボスにそう(報酬の事)言っておいてくれよ。俺だって周りから白い目で見られてて、生きた心地がしないんだよ。そういう気持ち、あんただってわかるだろ?そういう分の慰謝料(いしゃりょう)っていうようなもの」
「さあな。俺はこれしか知らない(この仕事しかした事がないから、報酬の多い少ないも男の気分もわかない)」
響がそう答えると、男はもう勘弁(かんべん)だ、という態度でひょいっとガードレールを跨ぎ(またぎ)、甲板へと下りていった。
響はそのアタッシュケース、というか旅行用のスーツケースをガラガラ引いて、いかにもただの旅行者といった態度で何気なく来た道を戻っていく。
響はその中身を知っている。しかし確認する必要はない。その立場にはない。さっきの男もそうだ。彼らは渡されたそいつを無事に与えられたルートで届ければいいだけなのだ。大きな金のやり取りは裏でやられている。だから運び屋の分だけが現金で行われる。彼らの分だけが履歴の残らない博打(ばくち)で得たような金としてやり取りされているのだ。大きなマネーゲームはもっと別の頭のいい連中がやり合っている。響がそこに関わることは無い。響はそのロックされたアタッシュケースの開き方さえ知らない。
23時過ぎにはいつものマンションに辿り着いていた。
正面から入って、裏口を出て、裏口にあるドアを開け、地下への階段を下りたところにある部屋に戻る。響はかれこれ4年くらいここに住んでいる。
24時に木崎(きざき)はやってきた。
その日は休日だったので、木崎は休日に合わせたラフなポロシャツにチノパンといった姿をしていた。
響は木崎である事をろくに確認する事もなく、部屋の扉を開けて木崎を中に招き入れた。そしてあそこに置いたと言うように手で指示をする。木崎は何も言わずアタッシュケースに近づく。キーフォルダーにくっついている小さな懐中電灯みたいの装置をアタッシュケースに当てる。するとアタッシュケースはピピッと言って反応する。それからアタッシュケースに付けられた暗証番号式のロックをクルクル回して数字を合わす。最後にありきたりの普通のスーツケース用のキーを差込んで回す。
するとケースは開く。中には白い粉が満杯に詰め込まれている。
木崎はその中の一番小さな袋を少し開けて、味見をする。
その確認が終わる。再び袋を閉じる。
一端差込型のキーを閉じたところで、後ろからそれを見ていた響に尋ねる。
「いくらかいるか?ここらでばら撒いてもいいんだぜ。おまえなら捕まんないだろうし」
響はすぐに断った。
「そうか。まささんの頃はよくそうしてたがな、まあいいや。おまえはいろいろと興味ないみたいだし」
木崎はそう言って、全てのキーを閉じ、大きな図体でアタッシュケースを持ち上げた。ズボンのポケットに入っていた成功報酬50万を響に渡すと、ろくな挨拶もせずに響の部屋を去っていった。
響は部屋の鍵を掛けると、小さなショットグラスにテキーラを注いでそいつを一気に飲み干した。
それから机に向かい、一番上の扉に金をしまうと、今度は一番下を開いた。そこには拳銃が入っている。そいつを取り出し、打つ真似をして標的(ひょうてき)を探す。想像の女=嶋咲枝(しまさきえ)が浮かぶ。
『あんたのボスに言っておいてくれよ』という船の男の言葉が思い返される。
『チャンスはいくらでもあるのかもしれない』と響の脳裏に誰かの声がよぎる。その声は死んだまさの声に似ていた。まさも3ヶ月に一度は嶋咲枝に会っていた。響はその事を知っている。
『なら、俺にも、あの女に会うチャンスはあるはずだ』
響の脳裏にその事が浮かぶ。やがて来るかもしれないチャンス、響は再び木崎がその部屋をノックする日の事を思い浮かべた。そしてそのチャンスを作り出す事を再び考えた。嶋咲枝を殺害する機会について。
次回に続く。
10. かんさんとさくら
いつもの夜だった。
そこにはいつもの夜があった。
居酒屋『ふくちゃん』
なんとも、地味な名前の居酒屋。名前のとおり、ふくちゃんという女性が女手一人で切り盛りしている居酒屋である。
上野響(うえのひびき)はそんな居酒屋に13歳の頃から通っている。
常連(じょうれん)のまさ=響の育ての親に連れられて、毎夜毎夜(まいよまいよ)通っていた。
そこは現実感の与えてくれる明るい場所だった。
ずっと外にも出られず家の中で育てられていた響が、初めて人と接する機会を与えられた公共の場だった。
周りの人はとても愉快で、明るい。
いつからか歌い人と呼ばれる男が現れ、ギターを弾きだすようになったし、いつからかふくちゃんの娘である由佳(ゆか)が店を手伝うようになった。
響はそんな居酒屋を帰る場所としていて、その日も帰ってきて気持ちになってカウンターで飲んでいた。
時間は21時を過ぎていた。
その平日の夜は、神主のかんさんがいて、商店街の活気のなさを響に熱弁していた。バックミュージックとして、「TEACH YOUR CHILDREN」が、歌い人によって歌われていた。
かんさん:「だいたい若い奴らはコンビニだの、スーパーだのあんなところばかりにしか行かねえ。
昔は商店街で話ながら買い物をしたものだ。
そして年に一度の祭り、商店街を中心とした活気に溢れる祭りじゃ。
今じゃ、ただの見世物(みせもの)じゃ。携帯電話なんかで撮って。
祭りは参加するもんだろ」
そんな話を永遠と2時間、一ノ蔵(いちのくら)の一升瓶(いっしょうびん)を響と二人で飲み合いながら、一人で話し続けている。
時間はもうすぐ21時半だ。
この時間になると、いつものかんさんの娘、さくらが迎えに来る。
酒と一緒に並べられたカウンター向こうにあるフクロウの置時計は21時35分を示している。響はその時計が5分進んでいる事も知っている。
『がらがら』と計ったかのように、ふくちゃんの店の扉が開く。そこにはさくらがすらりとした姿で立っている。実はさくらは実際に計って店の中に入ってきたのかもしれない。
ふくちゃん:「こんばんは(⌒¬⌒*)」
さくら :軽く会釈(えしゃく)。
かんさん :「なに、さくら。もう来たか」
さくら :「おじいちゃん。そろそろ帰ろ?」
ふくちゃん:「かんさん、お迎えね。つけとく?」
かんさん:「いやあ、わしはまだ、響と話があるんだよ。もう少し待ってろ」
さくら :響に目をやる。
響 :「話があるならよ、送ってくから、そん時に話な」
かんさん:「ん、なんじゃ、ここで話してもいいだろ?」
ふくちゃん:「ははははは、響君の方が一枚上手(うわて)ね」
響 :軽い笑みを浮かべる。
さくら :「いつもすみません」
そんなわけで響は勘定(かんじょう)を済ませ、外へ行く。昼間は暑かったその日だが、夜はすっかり涼しくなっていた。響は若干(じゃっかん)足取りのおぼつかないかんさんの肩を抱いて、坂道を登ってゆく。
静かな一日だった。
かんさん:「あのな、響」
響 :「なんだ。ホントに話があんのか」
かんさん:「話はある!いいからよく聞け!」
響 :「はいはい」
さくらは後ろからゆっくりついてきて、二人の話を聞いている。
かんさん:「まさとおまえが何の仕事をしてるんか、わしはよく知らんが、もうすぐ一周忌(いっしゅうき)だろ?
それを機(き)におまえはもう別の道へ進め」
響は黙っていた。まさかそんな真面目な話をされるとは思ってもいなかった。
かんさん:「どうせろくでもない仕事。あの男はいいかげんなああいう男だ。
世の中にはああいう男もいる。しかし響、おまえは違う。その道じゃねえだろ?」
さくら :「おじいちゃん、ちょっと今日は飲みすぎよ」
響は黙っていた。
かんさん:「借りをつくった男には感謝せねばいかん。しかし、もういいだろ。
その気持ちを持つ事とおまえの人生とは別だ。あの男にこだわる事はない」
13歳からまさに育てられていた響は実際に感謝の気持ちを十分に持っていた。
やがて、神社脇(じんじゃわき)にある、かんさんの家に着いた。
響はかんさんの部屋まで連れて行き、すでに敷(し)かれていた布団にかんさんを寝かせた。
「じゃあな。おやすみ」と響が言うと、
「いいから、おまえはな」とかんさんは寝言のように響に言った。
「いつもすみません。コーヒーでも飲んでいきます?」とさくらが気を遣う。
「いや、夜風でも当たりたいんで、外で缶ジュースでも」
さくらはそれに頷(うなず)く。「じゃあ」
二人は神社のベンチに腰掛けて、缶ジュースを飲んでいた。
雨の気配もなく、空には東京なりの星空が見えた。喫煙所(きつえんじょ)があって、仕事帰りの二人のサラリーマンがそこで煙草を吸っていた。
さくら:「すみません。いつもおじいちゃんが」
響 :「いや」
会話はそれだけで、しばらくなかった。さくらは何かを話そうとした。でもさくらは響に何も聞く事ができなかった。何について聞いたらいいのか、聞いていいのか、それがさくらにはわからなかった。
響 :「さっきの事」
さくらはぼそっとそう呟(つぶや)いた響の方を見た。
さくら:「はい?」
響 :「あれって、さくらちゃんに言ってたのかもね」
『借りを作った男には感謝しなくちゃいけない。しかしもういいだろ。おまえは別の道を歩め』って」
さくらはその意味を理解した。
さくらは両親を失い、祖父母に育てられた。しかし15の時に祖母を亡くし、祖父であるかんさんにその後を育てられた。といっても、かんさんは15の時から飲んだくれになり、むしろさくらに面倒を掛けていた。4年間、さくらは高校・大学への進学も諦(あきら)め、働かなくなった祖父の代わりに巫女としてその神社を支えてきたのだ。
さくら:「わたしは、この神社で育ちました。おじいちゃんも昔は熱心に神様へ奉納(ほうのう)してました。
わたしはこの神社が好きだし、おじいちゃんも好きです。
好きで、好きな事をやっているんです。だからさっきの事はおじいちゃんが響さんにですよ。
わたしの事じゃありませんよ。勘違い(かんちがい)ですよ」
響 :「そうか」
でも、響には別に自分の道なんてものはなかった。ただ他に何をしていいかわからないから今の仕事を続けているだけだった。
嶋咲枝(しまさきえ)を殺せば、全てが変わるかもしれない。もしくは全てが終わるかもしれない。それ以外の道など響にはなかった。しかしその狙いは今のところ零(ゼロ)に戻ってしまった。
響はグビグビと一気に缶ジュースを飲み干した。そして立ち上がった。
「酔いも覚めたし、もう帰るよ」
さくらも立ち上がった。そして軽く頭を下げた。
「今日はありがとうございました」
「いや、べつに」
響は缶ジュースをゴミ箱に捨てると、さくらを見送る事もなく神社の外へと出て行った。
さくらは想っていた。本当の想いは別にあった。彼女は貧しい国へ行き、恵まれない子に勉強を教えるという夢があった。母親譲り(ゆずり)の教育観(きょういくかん)を持っていた。そして少しだけ響の事を想っていた。そんなふうに考える生き方は、さくらの母親にそっくりだった。
さくらはそういった夢は夢のままにしようとして、もしくは決して進んではいけない道だと決心し、今の生活を続けてきた。
『おまえは別の自分の道を歩め』
確かにその言葉がさくらに向けられた言葉だとしたら、さくらは思い当たる節(ふし)があった。でも、それはきっと気のせいで、あれは響への言葉だと、さくらは決め込み、祖父のそんな言葉を忘れる事にした。
9. 巫女
今回は、響(ひびき)の愛する女性、美坂(みさか)さくらについての話です。
まずはあらためて物語の主人公は上野響(うえのひびき)について語ろう。
職業は麻薬の運び屋。身長190cmと長身だが、気配を消すのが上手な20歳の男である。響は高齢な両親に、家の中で隠されて育てられた。彼が13歳の時に家を飛び出し、まさという麻薬の運び屋で出逢う。まさはそんな裏仕事をしていたが、気さくな男で、響はなぜかそんなまさという男の下で成長した。響が19歳の時、まさは運び屋の親玉である、女政治家 嶋咲枝(しまさきえ)に殺される(響の想像)。響はその事を恨んだ。
そしてこの物語はその1年後、響は斉藤という男に嶋咲枝を殺すように依頼を受けるところから始まった。響は嶋咲枝を殺す一歩手前まで行くが、失敗に終った。斉藤は姿を消し、響にはまたいつもの麻薬運びの依頼が来る。いつもの繰り返しを、響は家で酒を食らい、女を抱いたりしながら不穏な時間を過ごしていた。
美坂さくらは巫女(みこ)である。巫女と言っても、巫女の格好をしているわけではない。職業は巫女だが、いつもラフな格好をしている。シャツに長めのスカート姿が多い。1989年4月4日生まれの19歳である。
彼女の祖父は神主であり、神社を取りしきっている。
しかし祖父の通称・かん(神)さんは仕事をせずに、居酒屋「ふくちゃん」で毎夜のように飲んでばかり。仕事をしない。
さくらは神社を毎日掃除し、賽銭(さいせん)の帳簿(ちょうぼ)をつけ、神社への奉納(ほうのう)を欠かさず行っている。
祖父のかんさんは今でこそ飲んだくれのじいさんになってしまったが、昔はそういう人ではなかった。4年前、さくらの祖母であり、かんさんの妻であるサナさんを癌(がん)で失うまでは厳格(げんかく)で、しっかりと仕事をする神主であった。
かんさんとさくらの物語を1987年に遡る。
かんさんは厳格な神主であり、サナさんは気のよい明るい女性だった。一人娘にユリという女の子がいて、かんさんは一人娘をしっかりと育てた。やがてはよき男性と結婚してもらい、その男性に神社を継いでもらうことがかんさんのユリに対する望みだった。
ユリは真面目でおしとやかな女性だった。中学校から女子中学に通い、高校も女子高へと通った。
大学でも女子大を選ぶと思われてたが、彼女は国語の教師になるためにしっかりした教育を受けたいと都立大へと進学した。
彼女は特別美人ではなかったが、厳格な父親と穏やかな母親に育てられた気品のよさから男性に人気があった。しかし彼女は女子の中で育ったため、男性とあまり接しない女性となっていた。そんな事からユリは恋愛に対しても少し変わった考えも持っていて、付き合い結婚する男性とは初めて会ったときにピンと来るものだと信じていた。だから彼女は普通に付き合おうとはしなかった。それにユリは勉強に力を注いでいた。
しかし彼女を人並み以上に気にかける男が一人いた。和男(かずお)という男だった。和男は特に優れた点を持ち合わせず、見た目も頭脳も人間味もなんかぱっとしない男だった。ユリと同じ学科の和男は何とかユリに近づこうとするのだが、話すくらいがやっとの関係だった。だからユリにとって和男は少し気になる存在ではあったが、特別男性として意識するような男ではなかった。
それでも和男は1年以上諦めずに、機会があればユリに近づき、チャンスがあれば何とか二人きりになろうとした。1年半以上過ぎた夏、和男は何とかデートをすることに誘い出した。ユリもたまには気晴らしに映画でも観に行くのもいいかと思ったのだ。しかもユリは和男を男として見てはいなかった。
和男はこの日は、とばかりに様々なサプライズを用意して、ユリを喜ばせた。その作戦は見事に功を奏し(こうをそうし)、ユリは和男とのデートを楽しんだ。ユリは和男といると楽しめたので、その後も彼の誘いに乗って、何度かデートをした。そしてやがて付き合う事となった。
その年の冬に、二人は和男の下宿先で抱き合う事となった。
それはユリが想像するよりもずっと素敵な事だった。ユリはかつて無い幸福を感じた。和男にとっても初めてだった。二人は真面目だった。
あまりに抱き合う事が素敵だったので、二人はいつの間にか毎夜のように抱き合うようになっていった。二人は学校へ行くか、和男の家で抱き合うか、それだけを繰り返していた。ろくに遊びに出る事もなかった。
その年の夏、二人が大学3年生のとき、ユリは子供を身ごもってしまった。
二人とも最初は迷ったが、結局二人の愛が確かなものである事を確認し合い、二人は結婚し、子供を生む事にした。
しかし二人の両親はその事に強く反発した。どうせ育てられないと頭から否定したのだ。特に父親であるかんさんは二人の事を酷く非難した。和男をぼろくそに怒鳴りつけ、娘のユリに対しても酷く叱った。
誰も二人の結婚を認めてはくれなかった。
それでも愛し合っていた二人は大学に退学届けを出し、二人で生きてゆくことを決めた。当時、仕事はそこらじゅうに転がっていたし、若さもあったから、和男は何でもなんとか食っていけると思っていた。
翌年、さくらが生まれた。1989年4月の事だった。
和男は自分の予想したとおり、肉体労働で何とか3人分の生活費を稼ぐくらいの仕事が出来ていた。なんとか暮らしていくことができていた。さくらも生まれ、これからの楽しい未来を想い描いていた。それはユリにとっても同じ事だった。
ところがその年の10月、和男は思わぬ交通事故に遭(あ)い、足を怪我してしまった。
死に至るほどの大怪我ではなかったが、それでもしばらく仕事を休まなくてはならない事となった。仕事中の事故ではあったが、会社は面倒事を避けて仕事の事故である事を認めなかった。3人はもともとギリギリの生活をしていたので、生活費もなくなってしまった。
そして仕方なく高利貸し(こうりがし)に手を出した。親に見せる顔もなかったし、友達はまだ学生で、他に頼れる人がいなかったのだ。
1ヶ月もすれば直ると思っていた怪我だが、怪我は意外と長引き、再就職の難にもあって、3ヶ月間二人はほとんど借りた金で過ごした。そして借金は膨らんでいた。
その後、和男は無我夢中(むがむちゅう)で働いたが、なぜか借金は増える一方だった。
苦しみを感じるようになった和男とユリは2年後、ついに諦(あきら)めた。
「もうやめましょう?」とユリは言った。
「全部、俺がいけないんだ」と和男は謝った。
二人はやってくる取立てに怯え、もう生きてゆく気力さえ失っていた。
「さくらだけは」
ユリはそう言った。数日後、ユリはさくらを実家の神社の境内(けいだい)に置き去りにし、和男と共に犬吠埼(いぬぼうざき)から身投げした。
かんさんは置き去りにされた孫娘を境内で発見し、さらに数日後変わり果てた姿となった娘のユリと対面する事となった。
かんさんと妻のサナさんはその事を酷く嘆(なげ)いたが、孫娘のさくらの事を思い、暗い顔を捨てて、自分の娘の気持ちでさくらを育てる事を決意した。
さくらはとても綺麗な女の子に育った。頭も賢く、優しさもある女の子だった。かんさんとサナさんはそんなさくらに亡くなった娘のユリを思いながらしっかりとさくらを育てた。
母への想い、父への想い、さくらは記憶のない中にもしっかりとした愛情を注がれて育っていた。そして祖父母からも同様の愛情を注がれた。
かんさんはさくらの成長とともに娘の死に対する悔い(くい)も薄れ、穏やかな生活が取りつつあった。
しかしさくらが14歳になった年、突如、かんさんの妻であるサナが倒れた。癌(がん)だった。癌がすぐに体中に転移し、サナは末期の状態へとなっていった。
さくらはそんなボロボロになってゆく祖母を泣き言一つ言わずに看病した。学校から帰るとすぐに病院へ行き、祖母の傍でいろいろな話をしたり、タオルで体を洗ったり、体をさすってあげたりした。その献身的(けんしんてき)な看病は病院内で大きな話題になるほどだった。
しかし看病の甲斐(かい)もなく、サナは翌年の夏に息を引き取った。
神への祈りを欠かさずに続けていた、かんさんは神に訊ねた。
「どうして、わたしがこれほどまでにあなたの事を思い、あなたのために捧げてきた事を裏切るのでしょう。私はあなたのために祈り続けた。ずっと守り続け、身の回りも綺麗にし続けた。それなのにどうしてあなたは私のわずかな幸せさえ奪ってゆこうというのでしょうか」
かんさんに神の答えは聞こえなかった。
かんさんはついに神を信じる事をやめてしまった。神主でありながら、神と決別(けつべつ)してしまったのだ。そして今までたまに飲みにいっていた居酒屋「ふくちゃん」に通うようになった。最初は黙って飲んでいたが、そのうち壊れたように、世の中の愚痴や世間の愚かさを話し始めた。手出しをしたり、罵倒(ばとう)を浴びせたりはしないが、その酔っ払いっぷりは大したものだった。
さくらは高校への進学が推薦で決まっていたが、それを辞退した。特待だったのでお金の面では何の問題もなかったのだが、神社と祖父の事を思い、巫女になる事を15歳にして決意した。
そして中学卒業後、さくらは毎日のように神社の隅々を綺麗にし、神への奉納をしている。酔っ払った祖父の世話を見ながら、同世代のコたちが町で遊ぶのには目も触れずにそういった生活を毎日を続ける事となった。
まささんとかんさんはいい飲み仲間だった。そしてお互いに、息子代わりの響と娘代わりのさくらの話をし合った。
「最近のガキときたら」
「家の娘はのお」ってな感じで。
気の許せる楽しい酒盛りだった。しかしそのまさも亡くなってしまった。
最近はかんさんが「ふくちゃん」に顔を見せる回数も減っている。減っているといっても毎日来なくなったというくらいで、週の半分は顔を見せる。そして21時が過ぎても帰らない場合は、たいていさくらが迎えに来る。その生活は雨の日も、蒸し暑い日も、寒い日も、暗い日も、騒がしい日も、様々な事件が起きた日も、同じようにここ4年間繰り返されてきた行事だ。
響はまさに連れられ、酒を飲み、さくらはまさと止め処ない話を繰り返すかんさんを迎えに来る。響とさくらは最初会釈をするくらいの中であったが、まさも亡くなってから二人の距離は縮まりつつある。かなり年を取り足元のおぼつかなくなったかんさんを、響が自宅までオブって連れて帰るなんて事もある。そしてかんさんの家で響はさくらと軽い話をする。そのくらいの中になっていった。
それでも響とさくら互いは互いの考えるところがあるから距離は縮まらない。運び屋なんかをしている男とまっとうな人間があまり付き合ってはいけないと響は考えているし、祖父のために神社をしっかりと守っていかなくてはならないとさくらは考えている。互いは何処か似た境遇(きょうぐう)にありながら、世界はまるで正反対のようなところにある。しかしなぜかその二人が一緒の場所を共有し、互いに惹(ひ)かれているのだ。さくらの響に対する想いは微妙だが、響は少なめにとってもかなりさくらに惚れている。
玲香が言うように、響は幸せを掴める力を持っているのだろうか?
物語は10話へ続く。