2. ふくちゃんの店 | 小説と未来

2. ふくちゃんの店

本日の話は、居酒屋「ふくちゃん」から始まる。

(簡略化のため、人の話の部分は芝居の台本のように書かれています)


ふくちゃん:「あら、いらっしゃい」


 ふくちゃんは、推定40代後半のおばちゃんです。ふくちゃんというくらいで、福耳で福の神のようにぷっくりしている。東京台東区上野のある場所で、女手一人、15年間そこで商売を続けている。

 娘が一人いる夫とは15年前に別れ、その後、一人で商売を始め、娘を育ててきた。


ふくちゃん:「今日は早いのねえ」


響(ひびき):「ええ、まあ」


響はすらっと背の高いいい男である。無口で、あまり会話をしない。


ふくちゃん:「でもあれだねえ。まささんも亡くなってもうすぐ一年だろう?響君もどうだい?

        一人でやっていけそう?」


     響:「まあ、なんとかやってます」


ふくちゃん:「あまり込み入った事は聞かないけど、無理しないでね。

       何かきつい事あったら家みたいなところでよければおいでね」


     響:無口に微笑む。


 客はまだ響以外にいない。7つのカウンター席と座敷にある4人用テーブル席にはまだ客一人もいない。

 響はちびちびと酒を飲む。そして金目鯛の煮付けをつまむ。


 18時30分くらいになると、店には客が集まりだす。

 背広姿のサラリーマンと、常連客。

常連客の紹介 通称である。


① 歌い人(うたいびと)

 本名は誰も知らない。いつもギターを持って現れる。

 「歌ってもいいですか?」と笑顔で、ふくちゃんに了承を得て、一人でギターを弾き始める。

 客も喜ぶので、ふくちゃんはいつも了承している。

 歌は尾崎豊の曲や徳永英明の曲をしっとりと歌い上げる。

 年齢は30手前くらい。身長165くらい。体格は普通である。

 とにかく笑顔が似合う人の良さそうな男である。


その日も現れ、彼は歌った。「17歳の地図」と「夢を信じて」を歌った。


② 式羽(しきば)

 近くで風俗店を経営している。いい男である響は、彼のナンパ目的で利用されている。

 この男と響も、もとはといえば、まささんとの関係。まささんが式羽の店の常連客だった。

 年齢はまだ25歳、背は低く、体重は軽そう。足も手も早い、チンピラ風だ。

 顔は元ホスト風だ。


その日、彼は現れなかった。響はちょっと女を抱きたい気分だったので、内心落ち込んでいた。


③ とっちゃん

 いかにもとっちゃんというあだ名があうおじさんだ。

 近くで印刷会社を営んでいる。不景気ではあるが一応社長で気前がいい。

 若い頃はふくちゃん目当てでやってきたが、徐々にぷくぷくしてゆく、

 ふくちゃんに今では特に何も求めずにただやってきてしまう。

 本名は、岸野さんという、がたいのいい男だ。


その日もやってきて、世の中の不景気を嘆いていた。

「値上げ、値上げって、うちが上げたいよ。ばあっろってんだ」と(響君が聞き役)


④ 神(かん)さん

 近くにある立派な神社の神主さんである。もう70過ぎている。

 19年前に一人娘が駆け落ちし、数年前には奥さんを癌で亡くした悲しいおじいちゃんだ。

 しかし本人は至って明るい性格だ。ただのアル中でもある。

 唯一の希望は娘の娘、要するに孫娘

 いつもおじいちゃんを迎えに来る。

 奥さんを亡くし、仕事をせずに毎晩飲んだくれているおじいちゃんの代わりに、

 神社を綺麗にしているよき娘だ。


 その日はやってこなかった。

 ふくちゃんは「たぶん孫娘に止められたんじゃないの?」と話していた。


以上が主な常連である。もちろん、常連さんは他にもいる。けど、主に紹介必要な常連さんは以上の4人だ。


 それから、ふくちゃんの娘、由佳(ゆか)ちゃんは高校生だが、お店を手伝いにやってくる。響にひそかな恋心を抱く。一応、ひそか。でも皆には、ばればれである。

 しかし残念ながら、響の心は、神じいさんの孫娘、さくらにあるようだ。残念な話である。

 そのさくらの恋心がどこにあるのかは不明だ。さくらは19歳。とても綺麗な女性だ。おとなしく心の内を見せてはくれない。


 響は少なくとも2日に一度は「ふくちゃん」を訪れる。そして好物の魚をつまむ。

 似たような日々がここ一年続いている。

 もうすぐまさの一周忌だ。

 話の盛り上がっている居酒屋の中で、響は一年が過ぎた事をシミジミと思っている。

 そして一丁の拳銃が手に入った事が頭の中から離れる事なく続いていた。


さて話は次、3話に続く。