部屋で、
サトちゃんと2人きりのとき、
僕から、ルームシェアを来年の3月までで
やめようって話しをました。
あまり、反応がありませんでした。
なんと言っていいのか、
賛成とも反対ともなくて、
ただ、
「そうか、わかった、」
一言口にしただけでした。
だから、今でもあの時、
サトちゃんが
何を考えていたのかはわかりません。

彼に話していて、
僕がバンドをやめようと言い出した、
あの、4年以上前の日のことを
思い出していました。
あの時、サトちゃんは、
反対したりしたわけじゃなく、
なにか諦めのような感じで、
ただ淡々と聞くばかりでした。

サトちゃんは、
結構自分の意志を貫くタイプです。
時に融通が効かなかったり、
難しいところがあるのです。
しかし、こうした大きな内容、
つまりなにか
岐路にあることについては、
けして否定はしませんでしたが、
心から肯定もしませんでした。

だからこの時も、
たぶん、嫌なんだろうな、
僕はそう思いながら、
順平と話したことを、
ただ淡々と彼に伝えていました。

「どうするの?」
部屋の床にぺたっと座って、
サトちゃんは言いました。
「どうするって?」
僕が言うと、
静かな笑みを浮かべ、
「花ちゃんだよ、」
「ああ、俺」
僕は、実のところ、
順平が来年の4月に
引っ越すからといって、
何も自分たちまで
引き上げる必要はないかもしれない、
そういう気分もありました。
しかし、当時付き合っていた彼女から、
同棲したいって話もあったり、
このまま、
共同生活を続けることで、
自分の人生が進歩しない気もしたりで、
まだ悩んでいる感じでもありました。
サトちゃんは、
「順平が言ったんだろ?
花ちゃんはどうなの?」
「…」
僕は一息おいて、
「わかんない」
「そうなの?」
サトちゃんが身を乗り出した気がしました。
僕は、
「だけど、そろそろ
考えなきゃって思ってる
それは確かで…、」

なにを、考えるというんでしょうか、
大学の卒業は目前に迫り、
小説はまだ、
何の手ごたえもありません。
地道に社会生活をスタートさせないと、
食べていくことさえ
出来ないかもしれません。

「わかんないな、
とりあえず、順平が引越した後も、
しばらくはいっかなって思ってる」
僕は、自分の気持ちもわからず、
そんなことを口にしていました。
 

プロジェクト548日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/8 548日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕と順平はまたベンチに座って、
飽きもせず続く少年と父親の、
マンツーマンのバッティングを
眺めていました。

「そろそろ、
考えなきゃなんないなって、
俺も思ってた」
僕がぽそっと口にすると、
順平はなぜか疑うように、
「ほんと?」
僕は笑って、
「そりゃそうだろう、いつまでもさ、
このまんまなわけないじゃん、
いつかは解散しないと」
そう言いながら、
そのいつかを、
誰かが決めなきゃ、
僕らは永遠に、
それこそ、白髪になって年金もらうまで、
一緒に暮らしかねない、
そんなこと思って、
思わず、
また声にだして笑いました。

しかし、解散って言葉は、
あんまりそぐわないかもしれません。
僕らは元々、
音楽を一緒にやるために、
ともに暮らし始めたはずでした。
それが、この時から4年前、
つまり、僕が大学へ
入りなおす前のことです。
その時には、僕らは1つの夢について、
すでに解散していたんです。

場内には、
バットがボールをとらえた
乾いた小気味いい音が響いていました。

「解散ってなんか変?」
しばらくの沈黙の後で僕が言うと、
順平は、
「ふふっ、まあ、とっくだかんね、
バンド解散したのは、」
僕もつられるように乾いた声で笑うと、
「そう言った意味じゃ、
あとはきっかけだけだったのかね、」

大学4年の初冬のことです。
あと順平の案では、
順当に彼が大学に受かったとして、
3月末で引っ越そうとの話でした。
あと4ヶ月あまりです。

思えば20歳からですから、
実に7年もの長い間、
友人3人で暮らしてきたわけで、
それは生活の全てでした。

僕は、口にこそ出しませんでしたが、
それは長い
モラトリアムだったと思うのです。
なにか、社会で生きていく資質というか、
それがなんなのか、
決断をずっと先延ばしにして、
温床で生きていた、
そんな感じです。

「甘えちゃうからなあ、
金でもなんでもなんとかなるし」
順平は、またレーンの方見入りながら、
そう口にしました。
「サトちゃんには、」
僕が言いかけると、
「まあ、言うしかないけど、
反対しそうだな、
ていうか、1人でも、
あそこで暮らすって言いそう」
僕はそれで、力なく笑って、
「まあ、わかってんだろ、
俺たち、もう27歳だろ、
あとちょっとで30歳だよ、
いつまでも、こんなふうに…、」

いつまでも、結論を先延ばしにしちゃ、
みながダメになることだってある、
僕はそう考えていました。

 

プロジェクト547日目。

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2020/1/7 547日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

順平とバッティングセンターにいる続きです。

左用レーンは
数も場所も限られています。
僕は左利きなので、
はしっこのレーンに入り、
コインを入れるとかまえました。

となりが、さっきの
スパルタ親子です。
背後から、父の叱責ともとれる
コーチングの声が聞こえてきます。
ちらっと振り返ると、
40代とおぼしき父親が、
もはやバッターボックスの中に一緒に入って、
手取り足取り少年の体を触っていました。
少年は、真剣な眼差しでした。
坊主頭には
きらきら汗が光っています。
「おらあ、腰を沈めろって言ったろうが!」
親父は自らのがっちりとした腰を
低く構えて見せました。

僕はそこまで見ると、
自らのバッターボックスに入りました。
これはこれでいいんだけれど、
もう少し、
柔らかい言葉で
言えないものなんだろうか、
それとも、厳しい怒声が、
少年の気持ちを
奮い立たせるというんだろうか、

アームがガシャンっと音をたてて、
ボールが投げ出されました。
僕は思い切り空振りしました。

僕も、少年を意識して、
目にぐっと力を入れてみました。
真剣ってなんだろう、
そう考えていたんです。

少年には
邪心がないのかもしれない、
親父が怒るのは当然の環境で、
ただまっしぐらに
野球に打ち込んでいて、
もしかしたら、
自分はなんでこんなに下手なんだろう、
そんなふうに日常思っていて、
練習し続ければ、
もっともっと上達すると、
そう信じているのかもしれない、

僕に、
そんな気持ちはあっただろうか、
いや、あるはずだろう、

僕は、またぐっと体に力を入れます。
120キロの速球が投げ出されます。
球の軌道が、白い弧を描いて、
見えた気がしました。
バットをすっと出して、
最短距離で体をひねります。
スカーンッ、
快音でした。

打球は見る見る伸びて、
ホームランボードの
わずか数10センチのネットに当たりました。

「惜しいじゃあん」
いつの間にか背後にいた順平です。
「うん、惜しかった」
「狙った?」
僕は構えて、
次のボールを待ちながら、
「少しね」
また、ボールが投げ出されます。
軌道が、見える、
そんな気が続いていて、
自然にバットが出ます。
強振しました。
またジャストミートです。

今度は、ホームランボードの
さらに上のネットへと当たりました。

「なんか今日調子いいじゃあん」
と、順平。
僕はにんまりして、
また構えました。
順平は、
「あのさ、サトちゃんにまだ
言ってないけどさ、」
僕はさっきのお父さんが
言っていたこと思い出して、、
腰を落ち着かせるように沈めてみました。
「やっぱ来年って、俺、
家帰ろうと思うんだよ」
その順平の言葉、
要は、ルームシェアを
解散しようってことです。

バットが空を切りました。
僕はレーンの後ろにいる彼に振り返り、
「まあ、そうだよな」
と、口にしました。
 

プロジェクト546日目。

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2020/1/6 546日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 
順平と行ったのは、
住宅街の中にある、
よく通ったバッティングセンターでした。
ネットの一番深いところ、
ちょうど中央に、
ホームランの的があります。
年間で、何回か当てることがありました。
すると、第なん号って、
入り口のとこに掲示されます。
マイバット持ってくるような本格的な人は、
それこそ
20本も30本も打つんですが、
それでも僕らも
4、5回は当てていました。
サトちゃんと順平とは、
ささやかなことでしたが競ったものでした。

僕らは思い思いのレーンに入って、
1000円分、4回、
1回で20球ですから、
全部で80球、ひたすら打ち続けます。

真冬の寒い時期です。
それでもうっすらと汗をかいて、
ベンチに腰かけました。

「もう草野球やんないの?」
缶コーラを渡してくれながら、
順平は言うと、となりに座ります。
「サンキュ」
僕は缶を開けて、
コーラを最初の一口で
ぐびぐび飲みます。
「ふうっ」
と一息ついてから、
「もうやってないね、
みんなも就職活動で
やんなくなってから、
あんま集まんなくなったから」
以前も書きましたが、
僕は大学の同級たちと
野球サークルをやっていました。
大学4年のこの冬には、
もうすっかり
やらなくなっていましたが。

「打てた?」
レーンで打っている
小学高学年らしい少年のバッティングを
眺めながら、僕は言います。
「ぼちぼち」
と、順平が答えたので、
「結構いい音してたじゃん」
「あれ俺じゃねえよ、あの子だろ、」
僕が見ていた少年の方を指差しました。
よく見ると、父親らしい男が、
入り口のドアをあけて、
ネット越しに
さかんに何か言っています。
口汚い感じでした。
やれ、とか見ろ、とか、
なんか指導しているみたいです。

順平は気だるい笑いにまじえて、
「なんかやだな、こええし」
「怒ってるのかな?」
僕が口にすると、
また、彼は笑って、
「そりゃあ、怒ってんだろう、
家でもあんなんじゃないの」
僕は腕を組んで、
「やだな…、でもちょっと
羨ましくもあるよな、
俺子どもの頃、あそこまで真剣に、
親と向き合ったことないし」
すかさず順平は、
「あれ、真剣って言うのかね」
「違うの、かな?」
「誰と真剣かって話だよ、
子どもと?ありゃ違うよ、
自分が出来なかったこと、子どもにやらせて、
情けない自分に真剣に向き合ってんじゃないの」
いろんなこと知悉したふうに言うのが、
順平の癖、というか、性質でした。
僕は力なく笑って、
「そんなもん?」
「そんなもんだよ」

親子の野球レッスンは、
微笑ましいなんてもんじゃなくて、
それこそスパルタでした。

「もう1回やってくる」
僕はポケットの小銭を確かめてから
すくっと立ち上がりました。
レーンに近づくと、
必死にバットを握ってかまえる少年が見えて、
その表情、真剣そのものでした。
 

プロジェクト545日目。

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2020/1/5 545日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

高原と別れ、
バイクで家へと帰ります。
キャンパス沿いのマロニエの葉も、
かさかさになって枯れ落ちて、
木枯らしが吹き抜けていきます。

だいぶ、寒くなってきていました。
この身に沁みる寒さが、
まるで条件反射的に、
4年前の受験の際にやっていた
真冬の警備員を思い出させ、
そして、連想して、
今追い込み中の
順平へと考えが及んでいました。

順平は、
去年1度受験に失敗しています。
上手くいっていれば、
僕が4年生で彼が1年、
今年だけ同じ大学に通う
可能性がありました。
とにかく、
もう1度だけやると言っていた彼には、
今が本当に正念場なわけです。


夜7時くらい、家に戻ると、
サトちゃんはまだ帰ってなくて、
順平が奥の部屋で
机に向っていました。

僕はそっと居間に入ると、
買ってきた暖かい缶コーヒーを飲みながら、
煙草を吹かしていました。

しばらくして、
順平が襖をあけて出てきました。
彼は伸びをしながら、
「おかえり、」
僕は顔を上げて、
「おう、順調?」
と勉強の様子を聞いてみました。
順平はそれには何も答えず、
テーブルを挟んで
僕の向かいに
あぐらをかいて座ると、
「バッティングセンター行かない?」
「え、大丈夫なの?」
彼は笑って、
「いいでしょ~、たまには、
勉強ばっかしてらんないじゃん」

僕ら3人は、
それぞれ単車を持っています。
だから、駅から遠い、
家賃の安いこの部屋で
共同生活をしていました。

バッティングセンターは、
郊外の町外れにあって、
僕は再び単車にまたがり、
順平と走り始めました。

僕らの不規則で
無軌道な部分のある生活には、
単車は不可欠なアイテムでした。
思い立って

バッティングセンター行こうとか、
夜中に出かけようとか、
そんなこと、
バイクがないと

出来ないことでしたので。
 

プロジェクト544日目。

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2020/1/4  544日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

高原は大学の同級生です。
彼はサッカーで大学に入学して、
将来を嘱望されていましたが、
膝を故障し断念しました。

今は僕と同じように
就活真っ只中だった、
はずなんですが、
なにか思うところがあるのか、
高原は不動産業にまい進しており、
2年3年後の計画を
語ることはあっても、
これといった就職先を
決めていませんでした。

「映画見てん?」
僕は彼が来たのをしおに、
ライブラリィの映像をとめました。
「いや、映画っていうか、
なんか記録フィルム」
彼は座席をギシッと鳴らせて、
僕の座っている椅子の背もたれに
寄りかかりました。
「記録フィルム?それなんやろ?」
僕は立ち上がり、
彼の方を見ながら、
「なんつうか、灯台のね、灯台の記録映像とか」
「とうだい?」
鑑賞室は静かです。
他の連中はヘッドフォンして
それぞれ個別のブースで
映像を鑑賞しているんですが、
それでも、大きな声で話す
高原の方をちらっと見ていました。
僕はそれを避けるように、
いそいそと部屋を出ました。

高原も後に続いて部屋を出てきます。
廊下を歩きながら、
「とうだいって、あの白い灯台?」
「そうだよ」
僕はそう答えて、
「灯台って、日本に何個あるか知ってる?」
「知るわけないやん」
「3,300くらいある、日本は島国だから、
海岸線長いでしょ、
だからそこら中の岬にあるんだよ」
「へえ~」
高原は、あんまり興味のない返事です。
僕はちょっとその気になって、
「でも徐々に減ってるんだよ、」
「へえ、」
僕は立ち止まり、彼を見ると、
「なんでだと思う?」
高原は少しだけ考えてるふうでしたが、
「知らん、知らんよそんなの」
僕は渋い顔して、
「ちょっと考えてみてよ、
灯台ってなんであるのかわかる?」
「知らん、ん、展望台」
まあ、普段灯台を意識する人なんて、
そうそういるもんじゃないでしょう、
灯台の役割を正確に知っている人だって、
あまりいないのかもしれません。
「遠くを見るって意味じゃ、
展望台も合ってるかもね、
だけどさ、灯台は光放つでしょ、閃光」
「閃光?」
「ほら、夜の海にさあっと光線が流れていくわけ」
「見たことないやんそんなん」
僕もまだ、見たことがありませんでした。
小説を書くには、
そのうち必ず見る必要があると思いながら、
「あれを船に見つけてもらうわけ、
で、船は灯台の光を頼りに
航海する道を
知るってことなんだけど」
「ナビとかないんやな、船」
高原は少し興味を持ったようです。

2人は構内のエントランスにある
ベンチに腰かけました。
僕は手を軽く叩いて、
「いいとこ気づいたじゃん、それ、
最近では船舶のシステムもハイテク化してて、
人工衛星からナビできるようになってきてて」
僕は話しながら、
さっきまで見ていた昭和初期の
古い灯台の映像を
思い出していました。
あの当時じゃ、
想像もできない技術の進歩です。
「あ、」
高原は僕を指差して、
「そいで灯台必要ない、なった、
正解やろ?」
「まあ、そうだね」
ここまで言えば、
そりゃわかりそうなもんでしょう。
「でもナビ壊れたら、灯台ないとダメやんなあ」
と、高原。僕は、
「灯台も壊れたらダメだけどね、」
「壊れるんか、灯台も?」
僕の頭には、
空襲を受けた灯台の、
様々な想像が広がっていって、
「まあ、壊れたりするんじゃん」
「倒れたりすんかな」
「そこまでしなくても、ライト故障したりとかね」

それで、しばらくの沈黙。
あいかわらず、構内には
学生がひっきりなしに行き来しています。

「花ちゃん、就職どないなった?」
「…」
僕は深く息を吐き出して、
「なんで急に」
「いやだって、暇なんかと思って」
彼は、僕が映像室で、
のんびり映画見ているから、
そう考えたんでしょう。
僕はスーツ姿の、おそらく3年生でしょう、
その後姿を目で追いながら、
「まあ、暇だね、一応ね」
それで、高原は
ひきつった笑いを上げて、
「なんやそれ、」
「暇なりに、やることあんだよ」
僕の声は小さくて、
彼にはよく聞こえなかったかもしれません。
高原はからからと笑っていました。

―・―・―・―・―・―・―・―・
画像は北茨城市の大津岬灯台
昭和35年に点灯されましたが、
東日本大震災で被災、
平成24年に改めて竣工されたものです。
立替にあわせ、
電源が太陽光発電になりました。
灯質:単閃白光 毎8秒に1閃光
光度:13万カンデラ
光達距離:20海里(約37キロ)
高さ:16メートル

 

プロジェクト543日目。

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2020/1/3 543日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

憶えている読者の方も
いるかもしれませんが、
『地上の足音』で取り扱った
環境測定のアルバイト、
あれはもう、
この頃にはやめていました。

就職も覚束なくなった僕は、
ひとまず、ある中小のソフトウェア会社で
アルバイトを始めていました。
環境測定は、受水槽の掃除や、
とにかく肉体労働です。
体を使うのが
嫌だったわけじゃないんですが、
少しは頭を使う、というか、
手に職がつきそうな仕事を
したかったのもあります。
パソコンで、
簡単なシステムツール類をあれこれ試して、
不具合を検知して
記録するような作業を繰り返します。

最初はこうしたバグ取りがメインでしたが、
そのうち、
今のBIツールのようなものの
開発補助とか、
分析集計の
手伝いをするようになりました。

時給は1,000円です。
残業がある時は、進んでやらせてもらって、
それで月20万くらいの収入になりました。

まさかこの後10数年、
僕が小説を書きつつ、
生業とする仕事の原点が
ここにありました。
当時はそこまでは
思いもしませんでしたが、
ひとまず社会で生きていくためには、
技術や知識が必要なんです。
僕は今まで想像だにしなかった
ITシステムや会社機構の中へと、
そろりと足を踏み出していました。

そうした最中にあったわけです。
そうした最中でも、
僕の頭の片隅には、
いつも小説があって、
それは『灯台サム』へと
繋がる道のりでした。

灯台を舞台にした小説を書く、
それはずっと考え続けていたものですが、
毎日のように思いを巡らせていても、
中々いい案も
浮かんでくるものじゃありません。
灯台の関する
あらゆる本を渉猟していきます。
灯台守を主人公にした、
古いニュースフィルムなんかも見ました。
大学の図書館には、
一般には流布していない、
こうしたモノクロ映画なんかのライブラリがあって、
それを見つけ出してくるのです。

白黒の、画質の悪いフィルム映像が
流れていきます。
トーキー映画のようなもんです。
チャップリンでも出てきそうな雰囲気です。

目を凝らさないと、
見落としてしまいそうな、
細かな作業を
灯台守がしています。
ロープは引っ張ったり、
頭頂部のカンデラを磨いたりしています。

僕は個室になっている映像室で、
何度もそのフィルムを
流し見していました。

そんな時は、
将来のことなんて、
何一つ考えていませんでした。
まだ形にならない
僕の灯台への憧憬というか、
夢想の中で、
確実に岬の灯台が舞台装置化して、
流れる雲を背景に広がっていました。

「おう花ちゃん、おったおった」
いきなり背後から声をかけられ、
僕は思わず肩をびくつかせました。
振り向くと、
大学の友人、高原が立っていました。

 

プロジェクト542日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/2 542日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

同居人の1人、順平は、
僕が大学3年の時に、
僕と同じ大学を受験しました。

僕が大学へ行ったこともあって、
多分、多少の影響を
彼は受けたんでしょう、
そもそも、僕が行ってなかったら、
彼の人生には
大学は無縁だったかもしれません。

ただ僕は、
本来は文学の研鑽のためと
考えていたのに、
結局、社会的な学歴だけに
とどまってしまいました。
しかし順平は、
本気で学問をしたいようでした。
彼は中国史が好きだったのもあり、
本気で史学を
やっていこうとするものでした。

「本気なの?」
部屋で向かい合って、
彼の表情を窺いながら
聞いたことがあります。
順平は照れながら、
「なんか花ちゃんが通ってんの
いろいろ聞いててさ、
俺、やっぱやりたいなって思ったんだ」
「勉強?」
「そうだよ、勉強っていうとなんだけどさ、
中国史とか、歴史ね」
「…」
彼は本気のようでした。
僕は、自分が小説家になるために、
本当に大学が必要だったのか、
ふと考え込むようでした。

もしかしたら、
作家になれなかった時、
せめて学歴だけは、
そう思っていた感じもあるのです。
だけれど、
せっかく学歴を身につけても、
結局27歳で社会に出る僕には、
就職も間々ならないのが現状でした。

なにやってるんだろう、
どっちつかずで中途半端なのが
いけないんだろうか、

どうせやるなら、
順平みたいに、本気でやらないと、
僕はそういう目で彼を見つめました。

「受験、大変だよ」
僕が囁くように言うと、
順平は軽く笑いながら、
「そうだよね、俺頭悪いしさ、
そこは頑張らないとな」
「俺、なんか手伝えるかな?」
僕が言うと、
「英語教えてよ、得意でしょ英語、
俺中学くらいでとまってっからさあ」

それで、僕が大学3年の時、
彼に受験の
手ほどきなんかをしたのです。
しかし、
1年目はあえなく不合格でした。
それでも順平は、
もう1年やると言い出して、
今、まさに受験勉強の真っ最中でした。

部屋の隅の座卓にかじりついて
勉強している彼を尻目に、
僕は自分のままならない人生に
思いをめぐらせていました。
 

プロジェクト541日目。
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2020/1/1 541日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

灯台にまつわる何かを書いてみたい、
まずはそう思い立ってみたんですが、
そう簡単に、
なにか話が広がるわけじゃありません。
このあともずっとそうですが、
僕が長編を書く切欠は、
本当に些細なことで、
書き上げた後で見ると、
それは長い線上の
一点に過ぎなかったりします。

この時もそうです。
灯台にひかれる気持ちはあっても、
そこから新たなストーリーが
紡がれるまでには、
どうにも時間がかかるものです。
灯台は白亜であることと、
尖塔に近いフォルムから、
どこかモニュメントや
ランドマーク的な要素があります。
しかし、本来の目的は違うのです。
灯台は、道なき航道を知らせるため、
岬から海へと光を放っているのです。
それは機能的で、
きわめて合理的な要素で組み込まれた
建築物にほかなりません。

無機質に建造されたはずが、
偶然にも、
人間の情緒に訴えるものがあるとすれば、
それは一体なんなのか、
そんなことを考えていました。

僕は大判の灯台雑誌を閉じると、
静かな大学の図書館内を見渡しました。

大学は、あと4ヶ月もすれば
卒業を迎えます。
就職は、
結局ままならないままで、
僕は来年の4月以降、
どうやって暮らしていこうかなんてことも、
あまり深く
考えてはいませんでした。

まあ、なんとかなるさ、
また大学へ入る前と同じように、
アルバイトでもして
小説を書き続ければいい、
だけれど、
それじゃなんで大学まで出たのか、
そんなこと周囲は言ったりもします。

どうしたものだろうか、、、

僕はこの当時、
高校時代の同級、
サトちゃんと順平と
3人で暮らしていたわけですが、
そうした人生の長いモラトリアムも、
もうそろそろ
終わりにしなきゃならない、
それも、なんとなく分かっていて、

まあ、結局、
なんとかなるだろう、

僕はややもすると、
根拠のない安心感の元に、
この時もそうした未来への不安を
簡単に払拭していました。

灯台について、
なにか小説を書こう、
書き始めれば、
また没頭できる、

そんな思いだったかもしれません。
灯台のグラビア雑誌は
借り出し禁止なので、
元あった書棚に戻すと、
僕は図書館を後にして、
バイクに跨り
家への道へと走り出していました。
 

プロジェクト540日目。

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2019/12/31 540日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

青森県の竜飛岬、
そこにある灯台が幽霊灯台と言われたのは、
終戦直後の話です。

太平洋戦争末期、
日本はアメリカからの
本土空襲を受けていたわけですが、
灯台は陸の一番最初にあるので、
格好の目標物となりました。
まず、真っ先に爆撃を受けるのです。

竜飛岬も太平洋戦争の末期、
海上からやってきた
アメリカ軍戦闘機によって、
甚大なる被害を蒙りました。
塔自体は倒れずに残ったのですが、
階下の執務室と、
灯台に登る階段は、
完全に破壊されてしまいました。

終戦後しばらくは、
その状態が続いたのです。

灯台は灯ることもなく、
時が経っていきました。

竜飛岬から見下ろす津軽海峡は、
時化が多く、
波も荒い航海の難所です。
岬の灯台が稼動しないことは、
航海の安全が間々ならない状態が
続いたということです。

ところが、ところがです。
ある船が航海の途中、
海峡で大時化にでくわしながら、
無事に航行を終えました。
乗組員たちは、
竜飛岬の灯台が復旧したおかげで、
無事に航海できた、
と口々に言いました。
しかし、この時点で、
まだあの灯台は、
修復なんて始まっておらず、
空襲で破壊されたそのままでした。

地元の人々は、
横浜港に無事にたどり着いた船員たちから、
その話を伝え聞いても、
首をかしげるばかりでした。

そのうち、
誰かが言い出したのです。
灯台は空襲を受け、
看守していた1人の軍人が戦死していました。
もしかしたら、
彼は幽霊になって、
灯台に灯を点しているじゃないかと。
近隣の人々は、
村はずれ、岬のとっぱずれにある
灯台を見に行きました。
そこで、
灯台が煌々と光を放ち、
光線が闇夜を薙いでいくのを、
目撃したのでした。

とまあ、記事の内容は、
こんなところです。

僕は、神秘的現象に、
興味をそそられたというよりも、
なぜ破壊され、
機能不全だった灯台が灯ったのか、
そこに深く興味を抱きました。
はじめから、
幽霊話としては見ていなかったようです。
謎かけのように考えるのです。
頂上部に上がることができない灯台を点す方法、
それが、
『灯台サム』を書くことになる、
最初のきっかけでした。
 

プロジェクト539日目。

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2019/12/30 539日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html