順平は、夏の初めから、
キャベツの出荷のアルバイトで、
群馬嬬恋に行っていました。
リゾートバイトというやつで、
僕も那須のコテージで
プールの監視員をやったり、
スキー場で働いたり、
湖畔の和菓子屋で
夏を過ごしたりしたことがありました。

長いルームシェアの生活で、
時折そういうことはあって、
誰かが
しばらくいないってことはあったのです。

彼なりに、
なにか思うところがあったのでしょう、
この夏、
アルバイト雑誌をよく見ていたと思ったら、
ちょっと行ってくる、
みたいに言い残して出かけていたんです。

帰ってくるのは、夏の終わりのはずでした。
それが、まだ行って
2週間も経っていませんでした。

僕らは驚いて、
玄関に現れた順平を見ていました。
「よお、帰ってきちゃったよ」
少し、照れくさそうです。
「どうしたの~?」
サトちゃんが叫ぶよう言いました。
順平は靴を脱いで、
「あがらしてあがらして」
と口にしながら、
居間に入ると、
どかっと座ります。
僕らはその前に座り、
口々にどうしたどうしたって聞くのです。

「まあまあ落ち着けって」
それを順平は手で制すと、
手を出します。
僕は濡れたタオルを持ってきて、
彼に渡しました。
「さんきゅ」
順平は排気ガスで
真っ黒になっていた首元を
拭いながら、
「帰ってきたんだよ」
「そりゃわかんだけど、
8月末じゃなかった?」
と、サトちゃん。
まだ7月の中旬です。
「キャベツ、出荷終わっちゃったの?」
僕が聞くと、
順平は手を振って笑い出して、
「んなわけないじゃん、
帰ってきちゃっただけだよ、
ていうか、」
ちょっと間をおいて、
「首になった」
「くび?」
僕とサトちゃんは一斉に声を上げました。
順平は繕ったようなすました顔して、
「まあね、なんか首になった」

旅に出る夕方のことです。
何度も言いましたが、
僕とサトちゃんは、
この日の夜に、
夜行列車で西へと向う予定でした。
しかしその前に、
少し順平の話を聞くことにしましょう。

順平は、煙草に火をつけ、
煙を吐き出すと、
「まあ、まいっちゃったよ」
そう、話を始めたのです。

 

プロジェクト558日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/18 558日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

さあ、いつ旅に出るのか、
話が長くなりましたが、
その当日です。
僕らは0時前の
品川発鈍行列車に乗る予定です。

夏の盛りです。
夕方、少し昼寝した僕とサトちゃんは、
汗ばんで目覚めました。
ヒグラシの鳴き声が
外に聞こえています。
窓からは、薄暗い紫色した空が、
カーテンの隙間から見えていました。

本当は物悲しいシチュエーションにも思えましたが、
今日の夜から旅立つんです。
なんか浮いた気分になって、
僕は起き上がり、
サトちゃんも起しました。

2人は荷造りを始めました。
まあ、5日でも6日でも、
大した荷物はないんですが、
おまけに夏なので、軽装です。
代えのTシャツは、2枚、
途中で洗ってもいいでしょう。

「何時頃出る?」
とサトちゃん。僕は、
「10時過ぎでいいんじゃない、」
ここからその時間に出ても、
列車の出発には十分に間に合います。
ところがサトちゃんは、
「え~、だめだよ、結構並ぶらしいよ、」
「ほんと?」
「夏休みでしょ、朝まで立つってなったらやじゃん」
「そうなの?」
どうやらその夜行列車、
知る人ぞ知る、有名な長距離列車で、
夏季休暇中なんかは、それなりに混むらしいのです。
「じゃ、少し早く行く?」
「そうだよ、お弁当も買わなきゃ」
サトちゃんと、
こんな会話をしている時でした。

外に、聞きなれたバイクのエンジン音が聞こえたのです。
僕らは顔を見合わせました。
サトちゃんは、
まさかって顔しました。

前にも触れましたが、
一緒に暮らしていた順平は、
この時群馬の嬬恋のキャベツ畑に、
泊り込みでアルバイトに行っていました。
帰ってくるのは、8月の末の予定です。

その、順平の愛車、
バンディッドのエンジン音でした。

「まさか、ね」
僕が言うと、サトちゃんは、
「でも、あれ…、」
玄関に足音がします。
チャイムを鳴らすでもなく、
鍵穴をがちゃがちゃする音がして、
扉が開きました。

僕らは一斉に立ち上がり、
玄関のある台所に行きました。
「よお~、ただいま~」
やっぱり、順平でした。
彼はリュックしょって、
片手にフルフェイスのメットを抱え、
手を振っていました。

 

プロジェクト557日目。

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2020/1/17 557日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

それから、2日とあけず、
真菜ちゃんからは
電話があるようになりました。

着信拒否にするとか、
はっきりもう会えないって言うとか、
本当に嫌なら、
そうするべきでしょう、
だけれど、僕は何かを引きずっている、
しかし、会うことはしない、
一体どうしたいのか、
自分でもよくわからぬまま過ごしていました。

そして、サトちゃんとの
旅行の日を迎えるのです。
僕らは0時前の品川発、
大垣行きの列車に乗る予定です。
日中、少し寝ておいた方がいいだろう、
てことになって、
昼間からサトちゃんと
布団敷いて寝ようとしていました。

うとうとし始めた頃、
机の上に置きっぱなしにしていた携帯電話が、
ぶるぶると振動し始めました。

「うるさいよ~」
寝返りを打ちながら、
サトちゃんが言います。
僕は舌打ちして起き上がると、
自分の携帯を取ります。
そう、真菜ちゃんからです。
切ろうとして、
結局、寝室を出ると、
電話に出ました。

なにか話していて、
その途中で、
「今日から、夜行で旅行行くんだ」
僕はそう言ったんです。
だから、少し寝かせてくれって意味で。
彼女は少し驚いた感じで、
「え~、私も行きたい、
なんでサトちゃんなの」
「え、行こうってなったから、」
「他の女の人?」
「違うよ、だから、サトちゃんだって」
この場合、
別に他の女性だとしたって、
僕に非はないんですが、
言い訳がましく話している自分が
なんだか悲しいものです。
「私も行きたい」
真菜ちゃんはそう言うんですが、
彼女は大学卒業後、
一度キャビンアテンダントの試験に落ち、
この時は、まるで就職浪人のようにして、
スポーツセンターの事務をやっていました。
社会人です。
突発的に休めるはずもないんですが、
「会社あるんでしょ、6日くらい行くんだから、
絶対無理でしょ」
「ううん」
結局行く気もないんです。
でも目の前にあることへの願望が、
そのまま口に出てくる、
彼女はそういう性分です。

僕はため息を吐きながら、
「もう、電話もあんましちゃダメだよ」
ようやく、曖昧ながら、
思っていたことを口にしました。
彼女は、だって、を連呼するばかりで、
まるで駄々っ子のようでした。

旅から帰ったら、
今度は私とも出かけてほしい、
そう言われて、
僕はまた煮え切らない返答して、
それで、この電話は終わりました。

 

プロジェクト556日目。

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2020/1/16 556日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

「どうしたの?」
電話越し、真菜ちゃんの鼻にかかる声。
どうしたもこうしたもないでしょう、
別れて大分経っているのに、
平静な話もないと思うんですが、、

しかし、彼女のペースは、
揺るぎがないもので、
「あのね、川口のきゅりあんで、
今度パイプオルガンのコンサートあるんだよ、」
そこは、僕の住む家の近所です。
「ぱいぴ…、オルガン」
思わず、そう言った僕に、
彼女の弾けた笑い声が聞こえます。
「ははははっ、パイピだってえ、
パイピ!」
「やめてよ、パイプだよ、
パイプオルガンでしょ」
「かわいい、パイピオルガン」
話は進まず、しばらくこれで引っ張られて、
ようやく電話の向こうの笑いはおさまり、
真菜ちゃんは、
「ねえ、行こうよ、
好きだったからパイプオルガン」
「ああ…、」
僕は気のない返事。
別に、パイプオルガンが
好きだってこともなかったのです。
たまたまコンサートがあって、
付き合い始める前の、
真菜ちゃんと僕の、
会う口実だったような気がします。

「ねえ、行こうよ」
「どうして?」
どうして、今さら会ったりするんだろう、
それとも別々で鑑賞してってことだろうか、
まさかそんなことないでしょう、
彼女が僕とまた会いたいってことは、
それなりに分かったんです。
だからと言って、
じゃあそうしようなんてのは、
あまりに早計でしょう。

この時から
半年以上前に別れた真菜ちゃんは、
僕がその後、
受験していたのは知っているのに、
その合否とか、今僕がどうしているかなんて、
ついぞ聞いてきもしませんでした。

彼女は何を思っているんでしょう、
僕のこと、どう捉えているんでしょう、
軽薄にも思えるし、
僕は首を横に振って、
「無理だよ、」
「え~、どうして、行こうよお」
「いや、」
僕は携帯電話から一度顔を放し、
コンビニの駐車場を見回しました。
なんとなくです。
それから、また電話を口元に近づけると、
「もう会えないでしょ、いまさら、」

いまさら、
降られたのは、僕の方で、

そんなこと、口にはしませんでしたが、
とにかく、この時はうやむやに断りました。
しかし、さっぱりしていないのが、
僕の性分で、
まあ、一度は純粋に恋愛していた相手ですから、
情も蒸し返されるといいますか、
大分薄くなっていた彼女の存在が、
僕の中にまた居座るようになっていました。
 

プロジェクト555日目。

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2020/1/15 555日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

さて、いよいよ、
明日からサトちゃんと
電車で旅行って前の日です。

僕は実は、裏のテーマというか、
旅行したい理由が他にもありました。

懸命な読者の方なら、
もしかしたら
ご記憶にあるかもしれません。
大学1年のこの時期から、
数ヶ月前、
つまり受験真っ只中だった頃に、
真菜ちゃんという女の子に降られています。

#169 『僕を知らない君へ』 169日目 -小説『美臭』について70-参照
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12449274412.html

彼女が付き合い始めた頃に言っていた、
「わたしね、寂しいのだけはほんと駄目なんだ、
だから、ちゃんと一緒にいてね、
わたしのこと、ずっと考えててね、」
それを僕は、
その頃もしばらくずるずると思っていました。
僕は、
「ずっと?」
と聞いたんです。彼女は、
「いいよ、小説書きたいんでしょ、その時はいいから、
でも他の時間は、
わたしがいつも頭の中にいてほしいな、」
その言葉に、僕の口元は少し歪みました。
おそらく彼女は気づいていなくて、
だから僕は、ふとした心の陰りを隠すように、
「そうだね…」
とだけ答えたんです。

自信がなかったんでしょう。
ずっと彼女だけを見ているとか、
恋愛を究極までつきつめていくことに、
絶対的なものが、僕にはない気がしていました。


クリスマスに降られて、
少しセンチな感じが、僕になかったわけじゃありません。
だけれど、もういいんじゃないかって、
夏の日差しを仰ぎ見ながら思うのです。

そんな頃でした。
再び真菜ちゃんから
連絡が来るようになりました。

旅に出ることを決めた数日前のことです。
携帯電話に、
消していなかった彼女の名前が表示されています。
実はその前にも1回着信があって、
その時は出そびれて、
そのままだったんですが、

僕は単車で学校へ行った帰り道で、
コンビニで、バイクに跨ったまま、
煙草を吸っていたんですが、
息をふうっと吐き出して、
電話に出ました。

「どうして、出てくれないの?」
半年振りで聞く、
懐かしい彼女の第一声でした。
「いや…、」
僕は、あの頃の、
彼女のぐいぐいくるペースの予兆を、
その瞬間にも感じて、
すでに劣勢な、
弱々しい声を返していました。
 

プロジェクト554日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/14 554日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

話はぐっと戻って、
大学1年の夏です。
僕はすでに24歳になっていました。

最初の奨学金を手にして、
家に帰ったのです。
30万ほどだったと思いますが、
僕はそれを
キャッシュディスペンサーで引き落とし、
財布に入れました。

実はその年の夏、
順平は群馬嬬恋のキャベツ畑に、
1ヶ月ほどの
住み込みアルバイトに行っていました。
家にはサトちゃんだけがいました。

僕は彼に金の話をしたんです。
サトちゃんは、
「それ、どうするの?」
僕はちょっと考えるふうにしてから、
「一応奨学金だからね、
学費の足しにするんだけど、」
まあ、この30万があってもなくても、
初年度は
なんとかやってけそうです。

「どっか行ってこようかなあ」
僕は、ちょっと思いついていてことを、
口にしました。

そう、灯台巡りしようって、話した、
あの時と全く同じ感じで、

サトちゃんは身を乗り出すと、
「俺も行く行く、」
「バイトは?」
2人ともアルバイトはしていました。
僕は5日ほど
休もうとしていたんですが、
サトちゃんもそれでいいと言うんです。

これで、2人は、
数日後に出かけることを決めました。
「どこ行く?」
と、サトちゃん、
僕は、なんとなく、
「西の方行ってみる?
京都とか、もっと先でもいいし」
「いいねえ」

青春18キップというのを、
みなさんはご存知でしょうか?
1枚2000円くらいで
5枚綴りでJRで売ってるやつです。
このキップ、鈍行列車なら、
1日中乗り放題で、
どこまでも行けるのです。
僕らはさっそく
新橋のチケットショップに行って、
キップを購入してきました。

この前の年、
僕は受験料と入学金のために、
死ぬほど警備員のアルバイトを
していました。
そろそろ大学にも慣れ、
鬱積したなにかから、
自分を解放したい気分で
いっぱいでした。

そんな時に、
当時じゃ想像できないような、
30万という大金が
転がり込んできたのです。
ん??
転がり込んできたわけでも、
目的も違うのですが、

まあ、あとは何とかなるでしょう、
僕らはさっそく
旅の準備をはじめました。
 

プロジェクト553日目。

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2020/1/13 553日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

サトちゃんとの
伊豆半島への旅は、
2泊3日くらいで、
いつものように単車で辿る
計画を立て始めていました。

「来年かね、」
と、サトちゃん。
「そうだね、卒論、
終わったらにしよっかなあ」
僕はそう答えながら、
卒論の提出の先には、
もうモラトリアムは続かないんだと、
ふと思ったりもしました。

「2月?」
「2月末かなあ、寒いかな」
「寒いね」
サトちゃんは笑って言います。
バイクなので、寒いにきまってます。
だけれどこの頃は、
それをあんまり厭わず、
なんとかなるような
軽い気分がありました。

高速は使わず、
国道1号で小田原から、
湯河原の海岸道に入り、
伊豆のつけね、
熱海から南下していくコースを、
2人で額をよせて、
地図を見ながら考えていました。

思えば、よくこうして旅に出たものです。
用意周到に
計画的であった時もありますし、
全く行き当たりばったりで、
なんとなく出かけたこともありました。


そこで、
伊豆への旅は少し待って、
大学4年から少し時間を遡り、
サトちゃんと出かけた旅について
触れようと思います。
それは4年前、
大学1年の夏季休暇のことです。

この旅が、
『灯台サム』に流れる
異郷感であるとか、
封建的な地方社会について、
そうしたものを吸収するのに、
なんらかのエッセンスを与えたのは、
おそらく間違いがありません。

僕は大学に入って
初めての奨学金を手にして、
家に帰宅しました。
話はそこから始まります。
 

プロジェクト552日目。

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2020/1/12 552日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 
「灯台巡りいいねえ、行っちゃう?」
サトちゃんが言います。
このノリ、いつもの感じでした。
僕もわくわくして、
「そうなんだよね、灯台、
とにかく見てみなくっちゃ、
全然わかんないじゃん、」
そういえば、灯台なんて、
なかなか目指して行くものじゃありません。
観光施設になっていて、
風光明媚な、
岬の先にある感じなので、
ドライブなんかして
寄るとかでしょうか。

海路にとって、
交通の要衝、
目立つ場所ってことは、
必然、陸地からははずれにあるわけで、
それが僕なりの、
灯台のイメージになっていました。

つまり、
あの白く楚々として屹立する姿が、
清廉さの中の孤高感を、
あらわしているようでした。

孤高、
それは孤独であっても、
気高い、

それは、どういう意味だろうか、

「灯台は、孤高のイメージがするよ、」
僕は独り言のように、
それでもサトちゃんに伝わるよう、
はっきりとした口調で言いました。
「ここう…、ね」
サトちゃんは、ただそう、
合いの手を入れました。

僕はそこに、1人の老人を見たのです。
老人が、
老いで腰が曲がるのとは少し違くて、
若い頃から猫背で、
俯きがちに、風の強い岬の道を、
灯台に向って歩いていく、
そういう光景を書いてみたいと、
考えるようになっていました。

そこに、
ただ漠然とした
孤高のイメージが醸成されていました。

「灯台、回ってみる?」
サトちゃんが言い出して、
僕は奥の部屋から
地図帳をひっぱりだしてきました。
広げたのは、
静岡県の伊豆半島です。
それを指で示して、
「ほら見てよ、伊豆半島ってさ、
海岸に沿って、点々と灯台があるんだよね、」
「ほんとだあ、10個以上あんねこれ」
サトちゃんものぞきこみます。
僕は、
「半島一周したら、
相当見れるよね、灯台」

それで、僕らは、
伊豆半島を巡る旅の計画を始めたのです。
 

―・―・―・―・―・―・―・―・
画像は北海道積丹半島の神威岬灯台
かつて女人禁制とされていた
岬の先に立ちます。
明治21年初点灯、
北海道で現存する灯台では、
5番目に古いものです。
灯質:単閃白光 毎15秒に1閃光
光度:17万カンデラ
光達距離:21海里(約39キロ)
高さ:12メートル

 

プロジェクト551日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/11 551日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

「灯台さむって言うんだ」
僕は、全くの思いつきで、
サトちゃんにそう口にしました。

「とうだいのさむ?」
「うん」
うんもなにもありません。
ただ、思いついただけなので。
「なにそれ?さむって」
とサトちゃん。
「まあ、なんか語呂いいじゃん、
灯台サム」
「東大生?受験の?」
「ふふっ」
僕は笑って、
「灯台ってあの海のやつ、
でサムは名前みたいな感じかな」
「灯台?灯台書くの?」
「そうだね」
この時点で、
『灯台サム』のなにかは、
まだほとんど決まっていませんでした。
あの幽霊灯台を、
幽霊の力を使わないで
どう再現するか、
つまり、みなが幽霊の仕業だって
思えるシチュエーションで、
どう灯台に点火して、
海を照らさせるか、
そればかりを考えていました。

そこには、
1人の老人の登場が、
なんとなく必要である気もしていました。
「三國連太郎みたいな
おじいちゃんを主人公にして、」
「なにそれ~」
サトちゃんはさっきまでの
引越し話が打って変わって、
身を乗り出すと、
興味津々に聞いてきます。

それで、僕も興に乗ったのかもしれません。

灯台の雑誌で見つけた
幽霊灯台について彼に話しました。

サトちゃんは、まだ話の骨格の
あまりない内容を聞き終わると、
「じゃあ、まずは灯台見ないとね」
「そうだね」
「灯台、そうだ、
モデルにする灯台とかね、」

それは、
幽霊灯台の実際の舞台になった、
青森の竜飛岬灯台、
そう思っていたんですが、
なにもそう限らなくても
いい気がしてきました。

「灯台、巡ってみようかな」
僕は就活や卒業のことを
すっかり忘れて、
岬の灯台へと
思いを巡らせていました。
 

プロジェクト550日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/10 550日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

27歳での大学卒業を、
あと4ヶ月後に控え、 
就職は準氷河期で、
年かさのいった僕なんて、
とてもじゃないけど
無難な就職先も見つからない、
かといって、
もう、ルームシェアして生活する、
その理由というか、
言い訳もない、

そんな時期でしたが、
僕の頭には、それを理解しつつも、
不思議と焦りのようなものは
ありませんでした。

なんとかなるって、
思ってたわけじゃないんです。
間違いなく、来年以降、
僕は今とは違った環境にいて、
もっと切実に
人生と向き合っているというのに、
肝心の小説なんて、
賞に出してうんぬん言う前に、
まだまだ成長途上にあることは、
自分が一番よく分かっていました。

『溺れる時代』という、
1つの長編を書き上げたことで、
小説を書くことが、
その下調べや調査渉猟を含めて、
楽しいと感じてはいました。
しかし、
とてもそれで食べていけるなんて、

やはり、
荒唐無稽な夢なのかもしれない、
そう思っていたのも事実で、

小説を書くなんて、
このままいけば、
金と手間ひまのかかる趣味だな、

そう思うと、
僕はひとりでに、
口元に緩い笑みを
浮かべていました。

サトちゃんと、
今後について、
部屋で話していたんです。
知らず知らず
物思いに耽っていました。

サトちゃんは、
「どうしたの?笑って」
「いや、」
僕はもう一度笑みを浮かべて、
「なんか、小説書くの、
趣味って書けばよかったなって、」
「なにそれ?」
「いや就活ん時さ、
履歴書に、趣味とか、
なんて書いていいか悩んじゃって、
読書って単純じゃん、本読むって、
一言で済んじゃうし、
普通だし、
趣味のないやつの趣味みたいだし、
でもほんとは、
一言では、
とてもじゃないけど
言い表せないものがあんのにさ、
それは、小説を書くための、
俺なりの必死な学習のことで、
でも、、」
なんでこんなこと、
サトちゃんに話したりしてんだろう、
僕は息を大きく吐いて、
続けて、
「どうせなら、
小説書くの趣味ってことにしたら、
もう少し目立てたり、」
それで口を噤みました。

小説書くの趣味ってことにしたら、
もう少し目立ったりして、
内定もらえたり、したんだろうか、
そんなふうに考えていました。

僕はそれで黙ってしまいました。
サトちゃんは、
それについては、
何も答えませんでした。
もっとも、何か言われても、
仕方がないんですが、
彼はかわりに、
「今、またなんか書いてんでしょ?」
「…」
「溺れる、なんだっけ、ほら、
溺れる時代、
あれ書いてから、もう書いてないの?」
「書くよ」
僕は首を振って、
「今、構想中」
そう答えました。
 

プロジェクト549日目。

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2020/1/9  549日目
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