田舎の女の子と、
都会の女の子、
その違いなんて、
順平にはわかりません。

もっとファッションに詳しくて、
あれは青山でしか売ってないとか、
これなら国道沿いの
しまむら(企業関係の人すみません)でもあるとか、
そういうの分かれば違ったんですが、
とにかく順平には、
そこにいるのは、
久しぶりに見る
同世代の女性なだけでした。

金髪さらさらロングヘアーの子が目立ったのは、
顔立ちも整い、少しハデメなメーク、
まわりの男たちと変わらない
背の高さなんかでしょう。

それから、
なんか雑談に混じります。
順平にとってそれは、
別に楽しいってことなかったでしょう。
彼らの話は、
テレビのことか、地元の噂か、
センスのない、
どこかで聞きかじったギャグを飛ばすばかりです。

それでも順平がここにいるのは、
禁欲生活への
かすかな溜飲に過ぎず、
彼らとの接触で、
心の底洗いざらい浸すなんて、
そんなふうには考えていませんでした。

だから、
「なんか順平さんさ、とっぽいよなあ」
誰かが言いました。
一応年上なんでさんづけです。
「とっぽい?」
順平はきょとんとして聞きます。
それでまた笑いが起こります。
「あんだよお、とっぽいだよとっぽい、
東京でも言うだろお、とっぽい」
そう誰かが言うのですが、
順平にはよく意味がわかっていませんでした。
まあ、すかしてるとか、
落ち着いてるなんてことだと思うんですが。

「ねえ、背ぇ、高いね」
いつのまにとなりにいた金髪の女の子です。
彼女は、ミクちゃんと言いました。
「そうだね、けっこうね、」
順平は答えながら、
サトちゃんのことなんか思い出しながら、
「でも俺よりでかいやつ、まだいるからね」
「でもおっきいよねえ」
順平はミクちゃんの座っている姿を、
さっと上下に見ました。
すらりとした彼女は、
どんなに田舎に埋もれていても、
ぬきんでてきそうな
雰囲気を持っていました。

こういう子が、
東京に出て、原宿なんかでスカウトされて、
垢抜けていったりしちゃうんだろうな、

順平はそう思いながら、
また、彼女を見ました。

カラオケボックスの暗い照明の中で、
膝上の短いスカートから、
真ん丸い膝小僧が
白く浮き上がって見えます。
その真ん中に、
なにか傷のようなものが見えて、
「これ、怪我?」
思わず順平が口にしかけると、
ミクちゃんは慌ててスカートの裾をひっぱり、
膝を隠すようにして(実際には隠れていません)、
「やだあ、虫さされ」
「ああ」
蚊に、刺された跡だったみたいです。

夜は更けていきます。
時計に目をやると、
すでに12時近くでした。
誰かがカラオケを唄いはじめました。

スピーカーが
割れんばかりの歌声を流しています。
そのうねりの中で、
キャベツ畑の日の出の光景が、
頭の中をよぎっていました。
 

プロジェクト568日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/28 568日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

順平は、
カラオケボックスに富田君といます。

居酒屋では周囲の目もあるし、
すぐに知り合いに出くわしますが、
彼らにとっては、
個室のボックスの密閉された空間が、
中々よかったのです。
まわりに気兼ねなく騒げます。

曲を唄うこともありましたが、
飲み物とお菓子を食べて、
ほとんどはおしゃべりして過ごしていました。

後輩を買出しに行かせた後、
富田君は、向かいに座った順平に、
「俺もさ、東京出て働こうとしたことあんだ」
と言うのです。
「へえ」
順平のどうでもよさそうな返事。
「高校出たら、まんま就職しちゃったからよ、」
「まんま?」
「へへっ」
富田君が口を開いて笑うと、
欠けた歯が見えます。
「ストレートでってことだよ、まんま、
東京じゃ言わねえ?」
「いや、俺が言わないだけ」
順平はそう答えました。

富田君だけじゃなく、
ここの連中はやたらと東京と比較したがります。

単車ですっ飛ばせば、
東京からたかだか2、3時間の距離です。
そんなに違うもんなんだろうか、
いな違うにせよ、
距離を縮めることなんて、
そんな難しいことでもないのに、
順平はそう思いながら、
「東京は、いろんな人いるからね、
逆にさ、地方の人が
集まってできたのが東京でしょ」
「ほえ~」
よくわからない、
富田君の、なにか関心したようなリアクション。
「じゃあよ、東京は、
田舎もんが集まってるってわげ?」
順平は低い天井の、
安っぽいミラーボールを見上げながら、
「まあ、全部が全部って
わけじゃないだろうけど、
そうなんじゃない」
「ほえ~」
口をまんまるくあける、
富田君のリアクション。

のりしおポテチが大好きで、
地元のヤンキーの中じゃ、
結構幅きかしている富田君、
それでも日中は
懸命にホームセンターで働いている、
順平は仕事の話も聞いたりしましたが、
愚痴の中にも、
富田君が慣れない仕事を
努力して覚えていった感じや、
工具やあらゆる部品を取り扱うことで、
今後の自分のためにも活かされるという、
有意義な思いが伝わってきました。

田舎にいるって、
こういうことじゃないか、
順平はふとひらめきのように思いました。

つまり、
邪念がないというのか、
1つことに、真剣に取り組めるというのか、
信じることができる、
東京じゃ、いろんなことが多すぎて、
人間は、自分がどの位置にいて、
どうしなきゃいけないっていう規範を、
常に他人との比較で
考えている気がする、

順平は、そんなことぼんやり考えながら、
だからと言って、
やっぱ、こんな場所には、
住み続けられないな、
そう、思っていました。

やがて、
追加の買出しに行った連中が、
ぞろぞろとやってきました。
8人くらいです。
その中に、女の子も数人混じっていました。

ここ数日、順平が見る女性といえば、
寄宿舎のまかないをやっている、
皺だらけのおばあちゃんくらいです。
彼は顔を上げて、
ドアから入ってくる連中を見渡しました。

「たばこくさい~」
そう言った、金髪のロングヘアーの女の子に、
目がとまりました。
 

プロジェクト567日目。

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2020/1/27 567日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

順平が地元の不良連中とカラオケに行って、
数日もおかずに、
また彼らから誘いがありました。
携帯電話のメールです。
女子もくるから、と書いてあります。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

「それ、やっぱ行っちゃうんだ?」
僕は話し続ける順平に、
ふいに口をはさみました。
彼はあぐらをかいて、
腕を組むと、
ちょっと考え込むようにしてから、
「まあねえ、、それよか、
田舎じゃ、女の子のこと、
女子って言うんだね」
「へええ、おなごかと思ったあ、おなご」
笑ってそう返したのはサトちゃん、
「おなごはないでしょ」
順平も笑いながら、
「ギャルとかかも、そう思ったんだけどさ、
女子が、女子がって言ってんだ、
なんだろな、なんか風習かな」
「じゃあ男は男子なんかねえ」
と、サトちゃん。
順平もけらけら笑って、
「そうかもね、でも聞けなかった、
男ばっかだったから」


僕は、そんなのたまたまだろう、
そう思いながら、
別に2人に反論するわけでもなく、
「で、また行ったの?」
それで、順平はこくりと頷いて、
「ま、しょうがないっつうかさ、
普通行っちゃうでしょ、缶詰なんだよ、
ぼろい寄宿舎にさ、
そっから毎日畑まで行ったり来たりだろ」
そう、また話を始めました。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

彼は2度目の誘いに乗って、
また、町へと単車を走らせました。
夜、8時過ぎです。
まあ、少しだけ遊んで、
今夜は早めに帰ればいいんだ、
そう思っていました。

一番仲良くなっていたのは、
リーダー格っぽい富田君です。
24歳だった順平や僕らの1つ下、
日中は、地元のホームセンターの
従業員をやっていました。

富田君は、上あごの前歯が少し欠けていて、
それはバイクでこけた時やったと
言ってたそうですが、
笑うと妙に愛嬌のある
人懐っこい笑顔になるようでした。
それでも、
仲間連中には幅をきかせていて、
後輩っぽいやつは、
アゴで使われていて、
ジュースなんかすぐ買ってきたりするのです。

この日もカラオケボックスに
最初に入ったのは富田君と順平で、
あとから後輩らしい男たちが、
飲み物やお菓子なんかを
買出しに行って持ってきました。
「あ、のりしおねえ」
と富田君、その目つきは、
喧嘩するときみたいに鋭くなって、
坊主頭でジャージ姿の
後輩を睨みつけます。
睨みつけられた少年っぽい子は、
「すいません、」
そう言うと、
また外へと飛び出していきました。

その当時はよくあった、
プレハブみたいな離れの建物が
いくつかあるカラオケボックスです。
「いま、女子もくっからよ、」
富田君は順平に言うと、
安っぽいソファにあぐらかいて座ると、
ぷかぷかと煙草を吹かしながら、
「東京の友だち来るって言っだからよ」
そう言いました。
順平は口だけ笑って、
「まあ、東京つったって、
ほんとは川口なんだけどさあ」

僕らのシェアハウスは、
赤羽から荒川1つこえた
埼玉の川口市にありました。

「そこ、東京じゃねえの?」
「まあ、東京、みたいなとこだけど」
「そだろお」
それで、
何がおかしいのか
富田君は手を叩いて笑うと、
「俺もいっがいくらい、
東京出ようって思ってたけどな」
そう言いました。
 

プロジェクト566日目。

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2020/1/26 566日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

嬬恋の地元ヤンキーと
カラオケに行った翌日は、
さすがに目まいがするほど疲れたようです。

高原の夏の朝は
少し寒いんですが、
日中はずっと作業をして汗ばんできます。
キャベツをむしる手を休め、
空を見上げると、
ぐるぐる回って見えます。

じっとりと体にはりつく汗、
浅間山から吹き降ろす涼風は、
ささやかすぎて、
身体を覚醒はさせてくれないみたいです。

順平は、
そもそも起床が4時の仕事で、
2時過ぎまで遊んで帰って、
身体がもつわけがない、
それを身をもって感じていました。

これじゃ、続かない、
彼は彼なりに考え、
もう2度と、単車で夜の町へ出かけるのは
やめようと思いました。

「昨日出かけてたんだって?」
昼休憩の時です。
畑のせまい畦にしゃがんで、
弁当を食べているときでした。
言ってきたのは、今朝暴走族のこと話していた
アルバイト仲間でした。
順平は弁当を機械的にほうばっていた箸をとめて、
「うん…、単車あるからさ」
「いいなあ、」
「そうかな」
「俺らなんて単車なんてないから」
そう、他のほとんどの連中は、
電車とバスを乗り継いで、
東京からここまでやってきているのです。
仲間は続けて、
「単車なんかあったら、すぐ町出られるし、
いざとなれば、帰れんじゃん」
「ふふっ」
順平は笑って、
「単車なくたって、帰っちゃったやつ、
もう結構いるじゃん」

すでに、数人のアルバイトが、
早朝から日暮れまでの畑仕事に根負けして、
東京へと帰っていました。

「でもさ、バイクあったら余裕じゃん、
帰りたくなったら、夜中でもなんでもさ」
「そうかなあ」
順平は答えながら、
目の前に広がる、
収穫を待つ大振りなキャベツが、
地平線まで伸びる光景を眺めました。
なだらかな丘陵は、
薄緑に縁どられ、
空との境界までずっと続いていました。

給料は毎日終業時に、
茶封筒に入れられて手渡されます。
まるで、
その日で消えてもいいみたいに、
それを促すように、

順平は寝不足の頭を軽く振りました。

これは、挑戦だな、
自分自身の弱さと、、、、
そう考えていました。
 

プロジェクト565日目。

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2020/1/25 565日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

田舎のコンビニで
不良連中に絡まれた順平でしたが、
その危機を回避したばかりでなく、
なんと打ち解けて、
その夜、彼らと町にある
カラオケに行ったんだそうです。

順平はその日、
いつもだったら寝る時間に
寄宿舎に帰ってきました。
それも、なぜか意気投合した、
暴走族の連中が、
併走して走って帰ってきたのです。

翌日、バイト仲間の1人が、
眠そうな目を擦りながら、
「昨日うっさかったなあ、
田舎の族だろああいうのさ」
順平はそれを聞いて、
すぐに彼らのバイクの
排気音だと気づいたんですが、
「え、なになに」
「ほらあ、9時くらいにさ、
暴走族っぽい音、すっごいしてたじゃん」
「ほんと?」
「もう寝てたの?」
順平はただこくりと頷きました。
仲間はそれで一度起きてしまい、
今日は寝不足だって言ってました。

順平は、懸念があれば、
まだぼやのうちに気づく性質です。
まずいな、これから、
とは思っていたみたいです。

3日とあけず、族の連中からは、
携帯電話に連絡が入るようになりました。
また、遊びに行こう、て話です。
順平は別に
どっちでも良かったんですが、
断るのもなんだと思い、
結局また遊びに行くのです。

そして、だんだん寄宿舎に
戻るのも遅くなって、
とうとう、朝起きれないことがありました。

もう軽トラが出発する時間です。
従業員が扉をけたたましく叩きます。
彼はそれで無理矢理起き出して、
また、ドナドナになって、
荷台でうつぶせになって
寝込んでいました。

畑に到着して、他の連中が降りて
作業に取り掛かり始めても、
順平はそのまま
軽トラの荷台で寝込んでいました。

陽が、登り始めます。
白々とした空気にくるまれた、
高原の朝は、
夏にしても寒すぎるくらいです。
彼は身震いして、
ようやくうっすらと目を開きます。
荷台の中を、
40代のおじさんが覗き込んでいます。
従業員の1人です。
男は、
「おいおい、体調悪いのか、どした?」
「いえ、」
順平は立ち上がり、
ようやく荷台から飛び降りました。

続けられない、
こんなこと、いつまでも続けられない、
どうして俺は、弱いんだろうか、

朝陽に目を伏せながら、
そんなこと、ぼんやり思っていました。
 

プロジェクト564日目。

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2020/1/24 564日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

場所は田舎の国道沿いのコンビニ、
灰皿が1つだけおかれた喫煙スペースで、
順平はバイクからおりて
煙草を吸っていました。 

頭にパーマあてたり、金髪だったり、
田舎のヤンキーが、10人ほど、
敵対心むき出しで順平を見ています。
彼は大柄です。
サトちゃんほどではないですが、
身長は180センチ以上ありますので、
必然的に、
その不良たちを見下ろすようにしました。

それを見上げた、
1人の男が、
「おい、さっぎから見てんだろ!おい!」
ちょっと訛りのあるだみ声です。
「え…、なにを?」
順平は少し怯みながら、
また、あたりを見渡しました。
彼らの背後には、
竹やりのようなチャンバーや、
盛り上がったカールをつけた
改造バイクが並んでいました。
いわゆる町の暴走族ってやつですね。
「俺らのバイグ、見でんだろ、さっぎがらよお」
並んでた黄色いTシャツの男が叫びます。

順平は、なにも見ていませんでした。
彼らにだって、
声をかけられるまで
気づかなかったくらいです。
順平は、ただ自由について、
その行き着く先について
考えていただけなのです。

それでも彼は、
「バイク?」
最初の男は、さらに順平に近づいて、
「そだよ!なんでさっぎからよ、じろじろ見でんだろが!」

見ていない、興味ない、
そう順平は考えながらも、
「いや…、」
それでまた
彼らを見下ろし見回して、
「なんか、単車かっこいいなって思って」
と、思ってもないことを言いました。
それは、なにも詭弁を弄すとか、
逃れるためにでは
なかったんだと順平は言います。
ただ思いついて、
そう口にしたんです。

ところが、
敵愾心いっぱいだった不良たちの態度は、
それで少し変わりました。
順平はすぐそれに気づいて、
「え~、だってめっちゃかっこいいじゃん、
そのテールとか、まじやばいなって」
彼らが近づいてきます。
「お前のも、まじかっこいい」
誰かが、
順平のブルーメタルのバンディッドを指差しました。
「ほんと?あんま手入れてないから、
ほとんど純正だし」
順平はサトちゃんのように、
バイクをいじり倒すことはあまりありませんでした。

とにかく、それで危険を回避した順平は、
なぜかその場で彼らと打ち解けてしまいました。



「こわいね、怖くなかったの?」
僕は淡々と話す順平に聞きました。
彼は首を横に振りながらも、
「すげえ怖かったよ、やべえなって思ったもん、
あのまま上手くやんなかったら、たこ殴りだったな多分、」
「ひえ~」
とおどけた感じで、
あんまり神妙な感じもしないサトちゃん。
順平は細い目をちらっとサトちゃんに向けて、
「ま、怖いってのより、その後がまずかったよ」
「なんで?」
僕が聞くと、
彼は口元を歪め、小さく笑うと、
「あいつらに会わなきゃ、今日ここいないから」
そう言いました。
 

プロジェクト563日目。

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2020/1/23 563日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

1週間ぶりに愛車に跨ると、
それはもうずいぶん
ひさしぶりな気が
順平にはしていました。
毎日ドナドナで、
キャベツ畑と寄宿舎の往復だけ、
決められた時間に就寝して起きて、
決められた場所で食事をとり、
ただただ単調な畑作業を
繰り返していた身には、
まるで自由に羽ばたける
翼を得たようなものです。

自然、アクセルハンドルを握る手にも力が入り、
カーブを大げさに車体を倒して曲がっていきます。

夜道を疾走し、行きかう車もほとんどありません。
鼻歌も出てきます。
どうせ誰にも聞こえませんが、
彼の口元から流れる歌は、
次々に風に流され、
自分にも聞こえません。

やはりキャベツ畑では抑圧を感じ、
それを開放する走りに、
順平は、
頭で、言葉として
意識したわけじゃなかったんでしょうが、
自由とはなんだろうと、
少しは感じていたんでしょう。

自由は、確かに良いものだけれど、
それには際限がなく、
その先にはまた、
遅滞や、倦怠があるかもしれない、
そんなことも、ちょっとは思ったかもしれません。

とにかく彼は単車を走らせて、
なだらかな丘陵の道を、
街の方へと下っていきました。

彼の寄宿していた農場のまわりは、
とにかく隣家もない、
コンビニなんてもちろんない、
街灯さえ疎らな場所でしたから、
やがて眼下に見えてきた街明かりに、
妙な懐かしささえ感じたものでした。

順平は、
駅前のコンビニに、
最初にバイクを停めました。
実は彼、
リゾートバイトに行く前は
煙草もやめていました。

それは自然気胸という、
肺の病気を患ったのもあったんですが、
まずライターと煙草を買って、
店の前の喫煙所で
大きく吸い込みました。



「煙草、やめたんじゃなかったの?」
僕は彼がキャベツ畑の話をしている時に、
あんまりにも美味しそうに吸うのを見て、
聞いてみたのです。
順平は、
「いやまあ、これやめれないって、
だってうまいじゃん、
それに、一回やめれたからね、2ヶ月くらい、
だからまた、だめになったやめりゃいいしね」
なんだか、
理屈が通ってんのか通ってないのか、
よくわかりませんでしたが、
僕は返す言葉も持たず、
彼につられるようにして、
自分も煙草を吸いました。



まあ、ともかく、
順平はそうして、
ささやかな自由を得た気がして、
それで、自由ってなんだっけ、
つまり、あんまりにも
呆気なく得られる自由は、
本当の自由なんだかわからない、
そういう気持ちでいました。

彼はこれからどうするか、
もちろん、キャベツ畑で
夏の終わりまで働くってことなんですが、
それをあれこれ考え事していました。

1本目の、数ヶ月ぶりの煙草を吸い終わり、
よほど物思いに耽っていたのか、
順平は周囲の異変に気づかずにいました。
「おい!」
いきなりドスのきいた声が耳元にします。
見回すと、
いかにも田舎の不良といった感じの男たちが、
彼を睨みつけるようにして見ていました。
 

プロジェクト562日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2020/1/22 562日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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とかく現代人の
禁欲生活に対する姿勢について、
考えるところがあるのです。

蟹工船は、抑圧された労働で、
著しく自由を制御された、
いわば、あまり選択肢のない、
逃げ場のない労働であって、
根本的に資源の豊富になった現代では、
中々生まれにくい環境ではあります。

だから、このキャベツ畑だって、
逃げ場はあるのです。
船板一枚海の底、
そんな遠洋漁業船に乗って、
大海原のど真ん中にいるんじゃないのですから、
逃げる場所はどこにでもあって、
選択肢は存在します。
要は、たとえ逃げたって、
次の日の食い扶持に困るなんてことは、
まあ、あまり考えにくい世の中ですから、
荷物まとめて、
とっとと夜中出て行けばいいんです。

給料は、毎日茶封筒で渡されていました。
それが逃げやすい環境を助長している、
とも思われますが、
管理上楽なのか、とにかく、
日々働いた分だけ支給され、
稼いだ分だけもって、
その日のうちに去ってしまうこともできたわけですね。

しかし、少なくとも最初の頃の順平には、
そんな逃避行なんて頭は毛頭ありませんでした。
彼は、現代人が中々味わえない
そんな禁欲状態を自ら望んだのですから。

あとで聞いた話ですが、
順平は高校の頃から
6年ほど交際していた子と別れ、
バンドもやめて、
自分にはなんの目標も見えなくなっていて、
くわえて、同居していた僕が
大学に行き始めたことなんか含め、
自分を見つめるというか、
律せるものか、
そういうこと、色々考えていたようです。

自らを律することができれば、
ある程度の努力を持って、
苦渋をしのぐことができて、
ある目的に到達することが
できるかもしれない、

それは、若者が、
若者であることを
持て余し始めるこの時期に、
往々にしてあることなんだと僕は思っています。

うまく表現できるかわかりませんが、
それは、もしかしたら、
禁欲的生活さえ、
遊興かもしれないってことです。

現代人が、
あえてお金を払いスポーツジムで、
自らの身体を酷使し、
それに満足する、
それに、少し似ているかもしれません。

とにかく、順平は最初のうちは頑張ってたんでしょう、
もっとも慣れない重労働でくたくたになって、
高原の下界には、
彼の慣れ親しんだ遊興があることも、
忘れていたのかもしれません。

ところが、
アルバイトが8人になったその晩、
彼はふと、乗ってきた単車にまたがり、
真っ暗な夜道を街へと降りて行ったのです。
 

プロジェクト561日目。

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2020/1/21 561日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

軽自動車に乗せられ、
キャベツ畑に行くことを、
順平はドナドナするって言っていました。

ドナドナの唄、ご存知でしょうか?
ユダヤ系アメリカ人ショロム・セクンダが作曲、
同じくユダヤ系アメリカ人アーロン・ゼイトリンが
詞を書いた唄です。
1940年頃、
ミュージカルで使われてたそうで、
市場へ売られていく子牛を
なんともかわいそうにせつなく唄っています。
ナチスによるホロコーストで、
ユダヤ人が連行される描写なんて話もあります。

話がそれました。
とにかく順平は、
他のアルバイト連中とともに、
毎朝ドナドナでキャベツ畑に連れて行かれ、
来る日も来る日も、
日暮れまでキャベツをむしりつづけました。

むしるっていうのは、
ようはキャベツを掘り起こして
畑から採るってことなんですが、
なぜか順平は
そういう表現をしていました。
まあ、軍手してへらみたいなものを道具にして、
ひたすらむしる感じだったんでしょう、
想像できます。

朝4時起床、5時頃くらいから働いて、
8時すぎに弁当が配られ、
畑のへりでそのまま朝食、
また仕事、
昼にも弁当が配給され、
日暮れ前に終了、

夕食は、寄宿舎にあてがわれている手狭な食堂で、
まかない作るおばちゃんがいて、
ご飯と味噌汁と、
それなりのおかずを食べていました。

小林多喜二の蟹工船や、
葉山嘉樹の海に生くる人々に比べたら、
労働運動なんて起すのもおこがましい、
恵まれた環境の仕事です。
三食出て、
朝早いっていっても、
なにも夜働かされるわけじゃないんですから。
日給は、たしか12,000円くらいって言ってました。
1ヶ月半、45日、うち5日くらい休むとして40日、
なんと48万円!(僕の奨学金が35万です)
当時の僕らにしたら、そりゃあ大金です。
しかも遊ぶとこもなく、
浪費がないので、
とにかくお金が溜まりそうです。

もっとも、やりとげたらってことですけど。

順平は、最初の頃は強い意志を持って、
黙々とキャベツを
むしっていたようです。
1時間も作業を続けると、
かがみつづけた腰が
がちがちになるそうで、
頻繁にストレッチしろなんて
従業員に言われていたようです。

腰を伸ばして、目を上げます。
溶けていく朝もやの先には、
巨大な浅間山が仰ぎ見れました。

あの山が
江戸時代の中期に噴火して、
1つの村を飲み込んだということを、
順平は誰かに教えてもらっていました。
吹き上げる火砕流は、
巨大な火の柱となって、
天を突くように立ち上ったのです。
しかし、
それはもう250年近く前のことで、
緩やかな山稜をしめす山からは、
活火山であることを、とても想像させません。

「噴火したらどうなんのかな?」
近くで作業している
同年代のバイトが言いました。
順平は、
「キャベツ燃えちゃうんじゃない」
そう答えて、
2人で力なく笑っていました。

バイトは最初15人ほどいたんだそうです。
それが、はじめの4日あまりで、
夜のうちに脱走したりして、
1週間経つ頃には、8人になっていました。

 

プロジェクト560日目。

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2020/1/20 560日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

順平が、なぜ嬬恋から、
リゾートバイトの期間にならずして、
帰ってきたのかです。

彼は、少し照れくさそうにしながらも、
淡々とことの経緯を語り始めました。

「ま…、」
彼はちょっと考えるふうに天井を見て、
それから、
「とにかくきっついってのも
あったかなあ、とにかくきつかったよ
だいたいさ」
と、僕を睨むように見つめると、
「花ちゃんがいっつも
楽しそうに帰ってきたじゃん?
あれないや、」
リゾートバイトのことです。
僕は長野蓼科湖と那須高原に
行ったことがありましたが、
それは、
いずれレベルブックでも書くことになる、
とにかく、いろんな意味で充実したものでした。
「そりゃあ…、キャベツ畑だかんね」
と、僕。
「やっぱそう?」
「そりゃね」
それで3人でなぜかカラカラと笑った後で、
順平は、
「朝4時起床だぜ、朝じゃないよ、
夜中みたいなもんだろ」
「夜中じゃないでしょ」
どうでもいいのに、
サトちゃんがそう口を挟みます。
順平はかまわず、
「まあ、最初は頑張ってたんだわ、気合入れてさ、
はるばる嬬恋まで来て、
すぐ帰るわけいかねえしさ、
すげえよ、9時前に寝てたからね、
よい子だよよい子」
僕とサトちゃんは笑いながら聞いています。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


真っ黒に乗り込められた巨大な暗幕が、
瞬きするたびに、次第に、
紫を帯びた
空の色に変わっていくのです。
その下には、広大な高原の、
キャベツ畑が広がっています。

朝露を滴らせた、キャベツの葉が、
やがて日の光に照らされ、
キラキラしています。
牧歌的なその風景は、
のどかで、どこまでも澄んだ空気が、
清涼感をもたらしてくれます。

そんな中です。
ぎこちない、
なにかのん気なエンジン音が聞こえてきます。
畑の中央のでこぼこ道を、
白い軽自動車がやってきました。

軽自動車の荷台に乗った、
バイトで来た連中、
そう順平も含めた若者たちが、
半分寝たまま、連れてこられていました。

彼らは、白っぽい外気の中で、

青白くみえる顔して、
「さみい…」とか、
「も少し寝させて」
みたいなことを、
誰に言うともなく口にしながら、
自動車の酷い揺れに身を任せ、
浮遊するみたいに
くらくらと動いていました。

 

プロジェクト559日目。

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2020/1/19 559日目
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