軽自動車に乗せられ、
キャベツ畑に行くことを、
順平はドナドナするって言っていました。

ドナドナの唄、ご存知でしょうか?
ユダヤ系アメリカ人ショロム・セクンダが作曲、
同じくユダヤ系アメリカ人アーロン・ゼイトリンが
詞を書いた唄です。
1940年頃、
ミュージカルで使われてたそうで、
市場へ売られていく子牛を
なんともかわいそうにせつなく唄っています。
ナチスによるホロコーストで、
ユダヤ人が連行される描写なんて話もあります。

話がそれました。
とにかく順平は、
他のアルバイト連中とともに、
毎朝ドナドナでキャベツ畑に連れて行かれ、
来る日も来る日も、
日暮れまでキャベツをむしりつづけました。

むしるっていうのは、
ようはキャベツを掘り起こして
畑から採るってことなんですが、
なぜか順平は
そういう表現をしていました。
まあ、軍手してへらみたいなものを道具にして、
ひたすらむしる感じだったんでしょう、
想像できます。

朝4時起床、5時頃くらいから働いて、
8時すぎに弁当が配られ、
畑のへりでそのまま朝食、
また仕事、
昼にも弁当が配給され、
日暮れ前に終了、

夕食は、寄宿舎にあてがわれている手狭な食堂で、
まかない作るおばちゃんがいて、
ご飯と味噌汁と、
それなりのおかずを食べていました。

小林多喜二の蟹工船や、
葉山嘉樹の海に生くる人々に比べたら、
労働運動なんて起すのもおこがましい、
恵まれた環境の仕事です。
三食出て、
朝早いっていっても、
なにも夜働かされるわけじゃないんですから。
日給は、たしか12,000円くらいって言ってました。
1ヶ月半、45日、うち5日くらい休むとして40日、
なんと48万円!(僕の奨学金が35万です)
当時の僕らにしたら、そりゃあ大金です。
しかも遊ぶとこもなく、
浪費がないので、
とにかくお金が溜まりそうです。

もっとも、やりとげたらってことですけど。

順平は、最初の頃は強い意志を持って、
黙々とキャベツを
むしっていたようです。
1時間も作業を続けると、
かがみつづけた腰が
がちがちになるそうで、
頻繁にストレッチしろなんて
従業員に言われていたようです。

腰を伸ばして、目を上げます。
溶けていく朝もやの先には、
巨大な浅間山が仰ぎ見れました。

あの山が
江戸時代の中期に噴火して、
1つの村を飲み込んだということを、
順平は誰かに教えてもらっていました。
吹き上げる火砕流は、
巨大な火の柱となって、
天を突くように立ち上ったのです。
しかし、
それはもう250年近く前のことで、
緩やかな山稜をしめす山からは、
活火山であることを、とても想像させません。

「噴火したらどうなんのかな?」
近くで作業している
同年代のバイトが言いました。
順平は、
「キャベツ燃えちゃうんじゃない」
そう答えて、
2人で力なく笑っていました。

バイトは最初15人ほどいたんだそうです。
それが、はじめの4日あまりで、
夜のうちに脱走したりして、
1週間経つ頃には、8人になっていました。

 

プロジェクト560日目。

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2020/1/20 560日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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