順平と行ったのは、
住宅街の中にある、
よく通ったバッティングセンターでした。
ネットの一番深いところ、
ちょうど中央に、
ホームランの的があります。
年間で、何回か当てることがありました。
すると、第なん号って、
入り口のとこに掲示されます。
マイバット持ってくるような本格的な人は、
それこそ
20本も30本も打つんですが、
それでも僕らも
4、5回は当てていました。
サトちゃんと順平とは、
ささやかなことでしたが競ったものでした。

僕らは思い思いのレーンに入って、
1000円分、4回、
1回で20球ですから、
全部で80球、ひたすら打ち続けます。

真冬の寒い時期です。
それでもうっすらと汗をかいて、
ベンチに腰かけました。

「もう草野球やんないの?」
缶コーラを渡してくれながら、
順平は言うと、となりに座ります。
「サンキュ」
僕は缶を開けて、
コーラを最初の一口で
ぐびぐび飲みます。
「ふうっ」
と一息ついてから、
「もうやってないね、
みんなも就職活動で
やんなくなってから、
あんま集まんなくなったから」
以前も書きましたが、
僕は大学の同級たちと
野球サークルをやっていました。
大学4年のこの冬には、
もうすっかり
やらなくなっていましたが。

「打てた?」
レーンで打っている
小学高学年らしい少年のバッティングを
眺めながら、僕は言います。
「ぼちぼち」
と、順平が答えたので、
「結構いい音してたじゃん」
「あれ俺じゃねえよ、あの子だろ、」
僕が見ていた少年の方を指差しました。
よく見ると、父親らしい男が、
入り口のドアをあけて、
ネット越しに
さかんに何か言っています。
口汚い感じでした。
やれ、とか見ろ、とか、
なんか指導しているみたいです。

順平は気だるい笑いにまじえて、
「なんかやだな、こええし」
「怒ってるのかな?」
僕が口にすると、
また、彼は笑って、
「そりゃあ、怒ってんだろう、
家でもあんなんじゃないの」
僕は腕を組んで、
「やだな…、でもちょっと
羨ましくもあるよな、
俺子どもの頃、あそこまで真剣に、
親と向き合ったことないし」
すかさず順平は、
「あれ、真剣って言うのかね」
「違うの、かな?」
「誰と真剣かって話だよ、
子どもと?ありゃ違うよ、
自分が出来なかったこと、子どもにやらせて、
情けない自分に真剣に向き合ってんじゃないの」
いろんなこと知悉したふうに言うのが、
順平の癖、というか、性質でした。
僕は力なく笑って、
「そんなもん?」
「そんなもんだよ」

親子の野球レッスンは、
微笑ましいなんてもんじゃなくて、
それこそスパルタでした。

「もう1回やってくる」
僕はポケットの小銭を確かめてから
すくっと立ち上がりました。
レーンに近づくと、
必死にバットを握ってかまえる少年が見えて、
その表情、真剣そのものでした。
 

プロジェクト545日目。

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2020/1/5 545日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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