学生最後の年に書いた『溺れる時代』は、
その内容いかんに関わらず、
僕に長編を書く
自信を与えてくれました。

これ以降、
僕は数編の短編をのぞいては、
基本的には、
原稿用紙400枚ほどのボリュームでの物語を、
ひたすら構想して
書いていくことになります。

荒削りで、
文章が持つ
本当の文意を意識するまでには
まだ到底至っていませんでしたが、
技術的なことはさておき、
僕には、
この頃からようやく、
自分が小説を生涯書いていくという、
その後の人生全部のベースになる感覚を
持つことになります。


さて、話を学生時代に戻してみましょう。

大学は卒論を書くばかりになっていましたが、
環境測定のアルバイトをしている時間以外は、
よく学校の図書館に通っていました。

小説の種になるようなこと、
探していました。

そんな時です。
よく見ていたのは、
灯台のグラビア雑誌でした。
世の中にはいろんなマニアがあって、
とにかく灯台をこよなく愛し、
そのフォルムからメカニズム、
まつわる話を
収集している人たちがいるものです。

昭和40年代の古い雑誌です。
図書館で丁寧に保管されているとはいえ、
ガリ版みたいな紙は、
少し波打ってめくるたびに、
がさっと音がします。

小さな記事に目がとまり、
僕はしばらくそれに見入っていました。
タイトルには、
竜飛岬の幽霊灯台、
とありました。
短い文です。
それを何回も読み直し、
それから、顔を上げると、
静かな、人影もまばらな広い館内を見渡し、
ひとつため息をつきました。

ため息は、嘆息のようなものじゃなく、
身震いみたいなものでした。
『溺れる時代』を書き終え、
2週間くらい経った初冬のことです。
僕は次の題材を
見つけた気がしていました。

幽霊灯台、
灯台が幽霊なんじゃなくて、
そこにまつわる人間模様があったのです。

 

プロジェクト538日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/29 538日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

これで、『溺れる時代』についてを
終わりにしようと思います。
実に206日に渡って、
僕はこの小説を書くにいたった、
自分の経験について書き綴ってきました。

思えば、気を抜いたり、
努力を怠ったら、
いつだって奈落の底に
落ちてしまうかもしれない、
そんな気分が、
若い頃には
多少なりともあった気がします。

危ない瀬戸際で、
僕はなんとか持ちこたえたようでもあるし、
実はそうでなかったかもしれないし、
結局のところ、
よくわかっていません。

『溺れる時代』は、
とかく底流の中に、
ずっと悲劇が流れています。
それは、救いようがなく、
目を覆うばかりの羞恥と、
苦難に彩られています。
しかし僕は、
ただ端的に、
1人の青年が通り魔を起すまでの
不幸を描きたかったのではありません。
青年には、何度かチャンスがあったのです。
底から這い上がり、
縁に手をかけて、
あと少しで、
這い上がることができたかもしれない、
それを、何度も何度も繰り返し、
彼は全てを諦めて、
人を殺めることでしか、
自分の存在を意識できない、
そういう境地に至った、
そういうこと、書こうとしていました。

そこには、
若い頃、
路上生活者を見かけると、
明日はわが身かもしれない、
そう夢想していた僕が、
多少なりとも投影されているかもしれません。

無論、
殺人を擁護する気は僕にはないのです。
しかし、
そう至らしめずにはいられなかったのか、
それが、書き手として葛藤でした。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「誰にも僕は見えないのだ。
僕はきっと違うのだ。
皆とは違う色をしているのだ。」
灼熱の太陽が輝く夏の日、
ひとりの青年が包丁と金槌を握り締め
人混みの中へと消えていった。

幼少期から愛情とは
無縁に育った明夫は、
常に孤独を感じながら生きていた。
不幸な出来事が
彼を襲うたびに
自らの運命を呪った。
それでも明夫は、
小さな希望を見つけ、
前向きに生きようとしていた。
しかし、ある出来事をきっかけに、
明夫はゆっくりと
一段ずつ階段を下るように
真っ暗な闇へと入り込んでいった。

丁寧に紡いでいた細い糸が切れたとき、
すべての希望が絶望へと変わるとき
人は何を思い、
何処へ向かおうとするのか。
明夫が選択した終末は
誰もが知る凶悪な事件だった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

 

『溺れる時代』は、
今日から、
以下のアマゾンURLから購入して読むことができます。
もしご興味があれば、
手にとってみてください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0836GPXXB/ref=sr_1_1?qid=1577460784&s=digital-text&sr=1-1&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80


『溺れる時代』編 了

 

プロジェクト537日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/28 537日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕は健太郎さんが
販売所をやめて帰郷してから、
森作さんがいなくなるまでの
一部始終を話しました。

場所はみちのく、
秋田の山間地の田沢湖です。

「結局やめちゃったんだあ」
湖岸から離れ、
木立に囲われた遊歩道を歩きながら、
健太郎さんは嘆息まじりに口にしました。
「俺も知らなくて、いつのまにか」
と僕が言いかけると、
「違うよ、花村くんもさ、
やめちゃったんだって思って」
「ああ…、まあ、
あのまんまやってても、」
2人は並んで歩いています。
向こうから親子連れがやってきて、
狭い遊歩道で、
僕らは立ち止まり道を譲りました。

また歩き始めると、
健太郎さんは、
「花村くんはやり続けると思ったよ、」
「そうですか?でも俺の場合、
奨学生でもないし、朝刊だけでしたし、」
「いやそれだってさ、高校生でやってくのは、
結構大変だったと思うぜ、
でも根性ありそうだからさ」
「ふふっ」
僕は笑って、
「根性なんてないですよ、
それに…、」
一度言葉を切ると、
「それに、別に根性のせいじゃないです。
親が仕送りくれるようになったのもあったし、
夕方ファーストフードでバイトだけして、
それでなんとか
出来るようになったんで」
「そんなもん?」
健太郎さんの問いかけは、
僕にはよくわからくて、
首を傾げながら、
「そんなもんですよ」
と答えました。

「なんかさ、花村くんならさ、
嫌でもやり続けんじゃないかって、」
「なんですかそれ?」
「たまにあるじゃん、苦しいからやりたい、
みたいな、苦しいから、
なんか成果出そうだし、
それで労力惜しまないで、
やり遂げるって、そういうタイプかなってな」
「エムっ気みたいだな…、」
僕が言うと、健太郎さんは、
からからと笑って、
「そそ、それだよ、
苦しめられるの好き、みたいなやつ」
「そんなことないですよ」
僕はそこは、強く否定しました。

僕は、苦しくなんていられません。
山野井たちとからんで、
笠原ととっくみあいしたあの帰り道、
僕はどうしようもないくらいの
虚無感に襲われていたんです。

あれは、ただの虚脱じゃなくて、
苦しさからの逃避に似ている、
そう思っていました。

健太郎さんと僕は、
遊歩道から
また湖岸へと足を運びました。
桟橋があったからです。
ボートは繋留されていませんでした。
ただ、板敷きの桟橋が、
湖面に向って伸びていて、
波に洗われていました。

「森作さんは、」
健太郎さんが言いかけたので、
僕は、
「そ、あれっきり、会ってません。
どうしてんのかなって、
よく思ったりしたんですけどね、
大学、行けたのかなって」
「大学なんて」
健太郎さんはそう言いながら、
小石を拾うと、
湖に向って思い切り投げました。

 

プロジェクト536日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/27 536日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕が胸ぐらを掴むと、
笠原はへらへらした顔を
一変させました。
「あんだよお前」
僕の手を振りほどこうとします。
僕は腕にぐっと力を入れると、
「森作さんは素人でしょ、
そんな人殴って、
何が勝利だって言いたいんだよ、
そんなボクサーいないだろ」
「っせーよお前!」
彼は体をくねらせ、
とうとう僕の締め付けから逃れました。
「やんのか?あ!!」
一触即発のにらみ合いです。
にやにやしていた山野井が、
「やめとけやめとけ、
花村も何が気にくわねえんだよ、
森作なんて関係ねえだろお前に」
「関係?」
僕は考えていました。
森作さんはいつも弱音ばかりはいて、
一緒にいて楽しい相手でもありませんでした。
僕はなんであの人に、
こんなに肩入れしているんだろう、
全然、わかりません。

「やんのか!」
笠原は興奮が冷めていません。
僕にくってかかってきました。
山野井は腕を伸ばし、
彼の胸のあたりを抑えると、
「だからやめとけって、
こいつ、」
と、僕を細い目で睨むと、
「結構やるから、黒ついちゃうぞ」
負けるってことです。

くだらない、僕はもう腕も下ろしていて、
さっきまでの憤慨もなく、
ただぼうっと、
坊主頭の少年を眺めていました。

彼は、諦めたようです。
本当は、こんな血気盛んにかかってこられたら、
僕は勝てる気なんてしませんでした。
山野井はそれでもやっぱり、
僕にボクシングを手ほどきをした人です。
何かを知っているような視線で、
僕を見ていました。

くだらない、
本当にくだらない、
僕は妙な、湿っぽい虚無感に襲われ、
何も言わずに、
その場を立ち去りました。
森作さんにも腹立ちを覚えました。
なぜ、逃げてしまったんでしょうか、
人間には、
そんなにも
耐えられないことがあるなんて、
たかがいがぐり頭の
少年の恫喝なんて、
払いのけてしまえばよかったのに、

虚無感の中を、
彼らの表情が交錯していました。
僕が1人暮らしをして、
もう1年以上が経っていました。

この事件をきっかけにして、
僕はとうとう、
配達所でのアルバイトをやめました。
 

プロジェクト535日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/26 535日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

笠原は、田舎から出てきて、
まだ数ヶ月の少年でした。
最初はとても純朴そうで、
東京での暮らしに、
戸惑っているように思えたものです。

それがどうでしょう、
彼が上京して3ヶ月です。
少し見ないうちに、
目つきもなにもかも変わっていました。
山野井に感化されたというか、
とにかく、目つきまで、
とってつけたような鋭さで、
僕を見ています。
「俺っすかねえ、やっぱ」
笠原は、なにか勝ち誇った感じです。
僕は口元を歪ませ、
「なにがあったの、一体…、」
「へへっ、俺があいつ殴っちかったから」
「どういうこと?」
「へへっ」

山野井は立ち上がり、
「おい笠原教えてやれよ、デビュー戦なんだろう」
僕は山野井と笠原を交互に見ながら、
眉をひそめて、
「デビュー戦?」
「へへへっ」
それにしても、
彼の笑いは下卑ていて、
嫌悪を感じます。
とても、こないだまで純朴そうにしていたやつとは
思えませんでした。
「どういうことだよ」
僕は少し語気を強めました。
「あいつさ、夜中になんかうるさいわけ」
笠原は、森作さんの隣の部屋でした。
「何やってんだか、ごそごそしてよ、
そいで俺、部屋いって呼び出したんだよ、
で、外に引きずり出して」

少年は終始笑いを混ぜながら、
その一部始終を話しました。

それは小雨の振る晩のことです。
森作さんは一体なにしていたのか、
夜中に物音をたてていたんでしょう。
笠原は森作さんを外に出して、
アパートの前の公園で、
暴力におよんだのです。
森作さんは、土下座をさせられ、
何度も謝罪の言葉を言ったといいます。

僕の胸は、
重い鈍器でぎゅうっと
潰されていくようでした。

「で俺、勝っちゃったわけ、へへへっ」
僕は下品な笑い声で口にする、
笠原をじっと見つめました。
彼の中に、
どこかに、
数ヶ月前の純朴さを探していました。
だけれど、
そんなもの、
もう木っ端微塵も残っていません。
「一勝だろ、一勝、初勝利」
山野井がはやし立てます。
僕は一度視線を路面に落とし、
それからまた上げ、
笠原を睨みつけると、
強い口調で、
「お前さ、素人に勝ったっていうの?」
「あん?」
「森作さん殴って、それで勝ったって?」
僕は笠原のTシャツの襟首を、
ぐっと掴みました。

 

プロジェクト534日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/25 534日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕はその足で、
今度はとぼとぼと
販売所へ戻ったのです。
山野井と宮嶋さんの話を聞いて、
急に飛び出してきて、
夕食は食べかけでしたから。

19時をまわっていて、
商店街はすでに薄暗く、
その先に、販売所だけが、
煌々と灯りをつけていました。
戻ると、
販売所の外で、
自転車にまたがって
数人がだべっていました。
ボクサー連中です。

その中に、
さっき宮嶋さんに注意されていた
山野井がいました。
彼は僕を見つけると、
「おう、森作んとこ行ってたのか?」
「…」
僕は強い視線を彼に投げかけました。
周りには、この年から入った、
新しいボクサー連中がいました。
みな、にやにやして僕を見ています。
「いるわけねえじゃん、」
彼のその言葉、
僕は言い終わる前に食いついて、
「いつ、いつですか?」
「あにがだよ」
僕は他の連中に割って入ると、
自転車の荷台に跨っていた
山野井の正面に行って、
「だから、森作さん、
いついなくなったんですか?」
「へへっ、いなくなったんじゃねえよ、
ちゃんと言ってったんだろ」
販売所に話して、
きちんとやめたんだと、
山野井は言うようでした。
「部屋、なんにもなくなってました」
「そりゃそうだろお、やめたんだからよ」
「やめさせたんですか?」
僕は挑むように、
結構強い口調になっていました。
山野井の態度も少しづつ変わっていきます。
「あ?お前、何言いてえの」
「さっき、宮嶋さんと、、」
僕が言いかけると、
山野井は怒気を強めて、
「は?俺じゃねえよ、俺知らねえし、
なんかお前、勘違いしてねえか」
「じゃあなんで、」
僕は一瞬だけ怯みましたが、
ぐっと彼に近づいて、
「なんで森作さん、いきなりやめたんですか?
おかしいじゃないですか、
今年はちゃんと受験するって言ってましたし」
「そんな知るかよてめえ、
まいんち遅刻してきてよ、
笑わせんじゃねえよ!」
山野井は口元に笑みを浮かべ、
「こいつに聞いてみな」
と、となりにいた、
新人のボクサーをアゴでしめしました。
笠原という、
中卒で地方から出てきて、
ボクシングを始めた
16歳の少年でした。
僕より年下です。

いきなり話をふられた笠原は、
少しはにかみながら、
「あ、やっぱ俺のせいっすか」
そう言うと、
坊主頭をかきながら、
僕には奇妙にも思える、
不敵な笑いを浮かべました。

 

プロジェクト533日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/24  533日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕は、
森作さんの部屋に向ったんです。
自転車には乗らず、
走って、公園の前の
アパートへと向いました。
もう全て、
終わっているとわかっていて、
僕がなにをしても、
遅いということも知っていました。

それでも、
走らずにはいられませんでした。

いろんなこと考えていました。
大雪の日に、
森作さんの配達の手伝いをしたこと、
池袋の街中を歩きながら、
映画の話なんかしていたこと、
そして彼は、
1年の浪人生活のあと、
もう1度受験をすると
決めていた筈でした。

道路に面した、1階の部屋、
僕はいつになく
ドアを強く叩きました。
そうしながら、
彼が扉を叩く音に、
慢性的に恐怖感を抱いていたことを、
思い出していました。
だけれど僕は、
手加減なんてできませんでした。
彼を呼び止めるような気持ちが、
強い拳にかわっていました。

誰も、出てきません。
鍵は開いていました。
部屋に入って、灯りをつけました。
そこにはもう、
アイドルのポスターも、
小さな勉強机も、
積み上げられた
参考書もありませんでした。
もぬけの殻です。

僕は走ってきて、
荒い息をはぁはぁと吐いたまま、
しばらく呆然と
部屋の中を眺めていました。
僕の視線が、
何度も狭い部屋を
行ったりきたりしました。
しかし、
何もないものはないのだから、
いくら瞬きしても、
もう森作さんは
帰ってきやしないのです。

細い糸で、かろうじて彼は奮起して、
ぎりぎりのところで、
この生活をしていたんだと、
もうそんなことわかっていて、
だから、こういう日が来ることも、、、

僕は靴を履いたまま、
すれた畳に膝だけつくと、
「森作さん、」
そう、呼んでみました。
その声は虚しく狭い部屋に響きました。

なにがいけなかったんだろう、
僕は唇をきつく噛んで、
薄汚れた天井を見つめました。

 

プロジェクト532日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/23 532日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

森作さんが、
部屋の隅でうなだれていた、
あの日から、
数日経ったときでした。

いつものように、
夕食に販売所へ行くと、
社員の宮嶋さんと
山野井の2人だけがいました。

僕はあんまり気にしないで、
1人で夕食を
食べようとしていました。
ところが、
彼らが妙に
深刻な感じだったので、
思わず聞き耳をたてます。

「で、殴ったのか?」
と、宮嶋さん。
山野井はちらっと僕の方に
視線を向けましたが、
「知らないっすよ、
そこまでしてないんじゃないすか、」
「だったらなんでえ、
急にやめるなんて言うんだよ、
あんまいじめんじゃないよ、
ただでさえ、最近はよ、
人集まんないんだからよ、
穴あいちゃって、代配すんの俺だぞ」
「だから、殴っちゃいないっすよ」
「お前に代配やらすぞ」
宮嶋さんは、
不機嫌な感じで、
山野井に注意をしていました。

代配とは、担当者が欠員して、
その地区を、
代わりに新聞配るってことです。

「勘弁してくださいよ、なんで俺なんすか、」
「だからよ、お前らが
いじったりしてっからだよ、」
「だってあいつ、なあんかむかつくんすよ、
俺ら馬鹿にしてるっつうか、
自分だって大学行けねえでいんのに」
そこでまた、
山野井は僕の方を見たのです。
僕は、食べていた箸をとめました。

山野井は、
また宮嶋さんの方に向き直って、
「どうせ朝遅刻ばっかしてたんでしょ、
だったらいらないっすよね」

遅刻、
山野井の口から、
その言葉を聞いた瞬間、
僕の中に、
森作さんが言っていた、
悲痛な叫びが聞こえてきました。

「もう、心臓がばくばくして、
飛び出しそうになって、
もう…、こんな生活、
続けられそうもない」

森作さんのことだろうか、
僕は立ち上がって、
「どうしたんですか?だれか、
やめたんですか?」
それでいきなり、
山野井に言い寄ったんです。
「あんだよ急によ、」
「なんかあったんですか?」
「知らねえよ、お前に関係ねえだろ」
「…」
僕は山野井を睨みつけ、
唇を強く噛むと、
食べかけの夕食をそのままに、
外へと飛び出していきました。

 

プロジェクト531日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/22  531日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕は目を凝らします。
はじめ、うずくまっているのが、
何か、ゴミ袋か、

ふとんのかたまりか、
人間だと思えなかったからです。

息を殺して、
のぞきこみます。
ようやく、かよわい声になって、
「森作さん…」
僕はそう口にしました。

彼は、何も答えず、
両膝に腕をおいて、
顔をつっぷしていました。
「森作さん、どうしたんですか?
具合悪いんですか?」
「ああ…、」
ようやく彼は、
生気のない声で答えました。
「大丈夫ですか?」
「ドア、閉めてくんないか」
「え…、」
「風がすうすうして、

少し寒いから、ドア…、」
「あ、すいません」
僕は開け放っていた扉を、
あわてて閉め、
部屋の中へと

入っていきました。

しばらく、
何の会話もありませんでした。
弱い風が、立て付けの悪い窓を、
かたかたと鳴らす音だけが
妙に耳について響いていました。

「どうしたんですか?」
なにかタダならぬ空気を
僕は感じ取りました。
乾いた声になって聞きます。

森作さんは、
中々顔を

上げようとしませんでしたが、
5分ほど経ってようやく、
「だめなんだ、やっぱ俺…」
消え入りそうな声で

そう口にすると、
暗い影になった顔を
音もなく上げました。
それが、
頬のあたり光って見えて、
泣いていたんでしょうか、
僕はハッとして彼を見つめます。
「だめなんだよ…」
「どうしたっていうんですか一体」
僕は彼と向かい合って、
その場に座り込みます。
森作さんは額に手を当てて、
「ドア、バンバン叩かれると、
びっくりしすぎて、ほんとやばい、
動悸がとまらなくなる…、」

彼は、やはり今でも
よく遅刻をしていたようです。
毎朝宮嶋さんが、
起こしに来ると言っていました。

続けて、
「もう、心臓がばくばくして、
飛び出しそうになって、
もう…、こんな生活、
続けられそうもない」
「起きれないんですか?」
「そういうんじゃないんだ…」
彼の声は涙声でした。
「そういうんじゃない、俺は、
起きれないんじゃない、
なんか全部怖くて、だから、」

僕はもう、それ以上のこと、
聞けませんでした。
そしてこれが、
彼と話した、
最後の時間になりました。

 

プロジェクト530日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/21  530日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

4月に入って販売所の人々は、
社員以外、ガラッと変わりました。
ボクサーの中には、
山野井
(僕にボクシングの手ほどきをしてくれた人です)
のほか、
何人かは2年目を迎えていましたが、
さすがに奨学生は、
森作さん以外は
全員新しい人になっていました。

新奨学生たちは、
健太郎さんや森作さんらが味わった、
あの苦悩の日々を
まだ何にも知らずに、
心なしか抱いている不安感の中にも、
生き生きとしていました。



僕が最後に森作さんを見たのは、
あの部屋でした。
暗い部屋の隅っこで、
せつせつと話していた彼の姿を、
僕は20年近くなった今でも、
かびた畳の匂いとあいまって
はっきりと憶えています。


晩御飯の帰り、
僕はまた、彼の部屋に寄ったんです。
公園の桜も
すっかり葉桜になった頃でした。

その頃、すっかり森作さんを、
配達所で見かけなくなっていました。
ほかの人に聞いたら、
いつも配達を終えると、
夕食も食べずに、
すぐに帰っちゃうと言っていました。

夕方、陽は長くなっていて、
まだ外も明るいので、
部屋の灯りはついていません。
扉を軽く叩きます。
応答はありませんでした。
何度かトントン叩いてみました。
部屋の中から、
がさっと音がした気がしましたが、
森作さんは出てきませんでした。

僕はふと、ドアノブを握って、
扉を手前に引いていました。
鍵が、かかっていませんでした。
ぎいいっと音を立てて、
扉を開き、
中へと入り込みました。
狭いタタキには、
いつも森作さんが履いている、
象げ色の、
汚れてくたびれた運動靴が、
きちんと並べられていました。

「森作さん、います?」
僕は中に入ると、
部屋の奥へと声をかけました。
せまい空間に、
僕の声が響きました。

応答は、やはりありませんでしたが、
少し暗くなりかけた部屋の隅に、
森作さんがうずくまっていました。

 

プロジェクト529日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/20 529日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html