「やっぱ赤井さんは受かったのかあ、
真面目だったもんな」
僕と健太郎さんは、
湖岸をずっと歩き続けていました。
少し風が出てきていて、
湖面がゆらゆらと揺れて見えました。
「なんか精神的に強そうでしたよね」
僕は言いながら、
赤井さんが、まるで周囲を意に介さず、
みなが食堂で駄弁っていても、
さっさと帰っていく姿を思い浮かべていました。
受かった時だってそうです。
宮嶋さんたちに、
別に嬉しいことって感じじゃなく、
ただ淡々と伝えていました。

人間味がないといえばそれまでですが、
やっぱり、ああいう、
どこか一般の人を
超越したようなタイプの人間が、
きっとこの世界で成功していくんでしょう。
僕は当時、赤井さんに
あまり接することはありませんでしたが、
何か努力しなきゃならないって時に限って、
彼の、あの何を思っているのかしれない、
メガネの奥の
深い眼差しを思い出したりします。

健太郎さんは、
伸びをしながら、
「にしても、森作すげえなあ、
あんな牢獄みたいなとこで、
もう1年やろうって思えるかねえ」
「…」
僕は目をそらし、
まるで海岸のように
細やかな砂の浜が続く
湖岸沿いの道を見ました。
「やっぱ人間根性だな、
俺には無理だなあ、
そんなに頑張れない、
自分はダメだあってなっちゃうからな」
「根性って、なんですかね~」
僕は少しおどけた調子で言ったんですが、
健太郎さんの
次の言葉までには間がありました。
中々話し出さないので、
僕がちらっと彼を見ると、
「根性って…、そりゃあまあ、
続けるってことじゃねえかな
結果が出ないと、やめちゃうじゃん、
あと何の成果も見えないとかさ、
そうなったら、人って努力すんの萎えるじゃん
少なくとも俺はそうだかんな、
だからさ森作すげえよ、1年目失敗したら、
もうダメってなるよな普通」
「いや」
僕は強い口調になって、
健太郎さんの話をさえぎりました。
そして、
「森作さん、結局どうなったのか…、」
「え?2年目も失敗したの?」
「いや…、」
僕は首を横に振って、
「それは、俺にはもうわかんないんですけど、」
なんとも、話しづらいことです。
それでも僕は、
ゆっくりと口を開いて、
「途中までなんです、俺知ってんのは、」

いよいよ、
あの販売所での話は、
最後になります。

 

プロジェクト528日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/19 528日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

「最初から無理だったんだよ、」
華やかな街灯りから目をそらすように、
下を向いた森作さんは言いました。
僕は投げかける言葉も見つからず、
それでも彼とは対照的に、
上を向いて歩を進めていました。
「やっぱ夏が勝負だよなあ、
夏を制すものが
受験を制すって言うんだよ、
俺、全然勉強してなかったから」
「夏…、」
僕はまだ肌寒い
初春の街の光景を眺めながら、
去年の夏の頃、思い出していました。
朝から、
うだるような暑さの中、
汗だくになって新聞を配っていたことが、
脳裏をよぎっていきました。

「映画みたいには
全然行かないかんね、」
彼は、さっきの映画館の
たとえ話をしていました。
2人はいつのまにか歓楽街を抜け、
また、あまり人気のない
裏路地のような道を
歩いていました。
「映画みたいに終わって、
それでまたやり直しってわけには、
さすがに行かないから、
落ちちゃったのは事実で、
やっぱいくら目擦っても、
これが現実で、
まあ、もういくら考えたって、
なんにもなんないんだけどね」

僕は、なんて言えばいいのか、
散々悩んだあとで、
「なんにもないって、
まだあるじゃないですか」
「そうだね、まだあるよ、」
森作さんからは、
意外な答えが返ってきて、
僕は思わず、
横を歩く彼を見ました。
口元に、笑みがありました。
「まだまだ、これからだって、
気持ち切り替えるよ」
僕は目を見張ります。
森作さんは、ちょっと首を傾げて、
「そんなに驚いた?」
「え、だって、
もう1回受験やるってことですよね?」
「そうだよ、そのつもり、
今度はちゃんと夏も集中して」
「埼玉帰るんですか?」
森作さんの実家は、
埼玉でも北部にあります。
多少通学が困難でも、
もうこんな販売所の奨学生なんてやめて、
勉強できる環境を作ると思ったのです。
ところが、
彼は首を強く振って、
「いや、ここでやる」
「え!新聞配ってですか?」

2人は立ち止まりました。
人通りはほとんどない、住宅街です。
街灯に照らされた、2人の影が、
黒いアスファルトにぼんやりと伸びていました。

「もう体も慣れたから、
ま、こんな生活すんのに
1年かかっちゃったわけだけどさ、
どうせ実家帰っても
親に学費出してもらえそうもないし、
俺、もう1年ここでやるよ」
森作さんの声は、
いつになく力強く聞こえました。
 
プロジェクト527日目。

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2019/12/18 527日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

森作さんと僕は、
池袋の郊外の街並みを、
通行人を避けながら、
淡々と歩き続けていました。

森作さんは、
「映画ってなんかほっとするよ」
「ほっと?そんなもんですかね、
ホラーとかだってあるじゃないですかあ」
「違う違う、内容じゃない、
だってさあ、」
彼はここで、
少し照れくさそうにして、
「全部夢じゃん、全部、うそっていうか、
ここにないから、終わっても、
ああ、夢だったか、みたいになるじゃん」
「夢って、映画がですか」
「すっげえアクションしても、
汗だくになっても、なんか痛い思いしても、
全部スクリーンの中だかんね、
目閉じたら終わるし、
ほんとに終わっても、
ソファに座ってんだけだし…、」

そのソファは、
居心地のよいものなんでしょうか、
今度は目を閉じて、
そして醒めても、
ソファにじっとしている自分は変わらない、
なぜなら、
それは人生そのもの…、

僕は森作さんが、
なぜ恥ずかしそうにしたのか
わかりませんでした。
多分、子どもがいつまでも
幻想にしがみついて、
そういう気分だったのでしょうか、

「夢…、ですか、」
ただの合いの手のようなことしか、
僕は答えられませんでした。
森作さんは、
「ほら、終わっても、
まあ夢だったからいいじゃん、
みたいな感じだよ、続かないから」
「…」
「全部ダメだったよ」
「…」
僕は無言で、彼から目をそむけて、
徐々に近づいてきた
歓楽街のアーケードの方に
視線を移しました。
「3つ受けて、全部ダメだった」
賑やかな街中へと、
いつのまにか入り込んでいました。
居酒屋の前で、
スーツ姿の
サラリーマンらしき人の群れがあって、
飛び跳ねて笑っている
女性の嬌声なんかが聞こえてきます。

僕は街行く人々を見るともなく、
「3つとも、」
「ははっ、まあこんだけさぼってりゃ、
当たり前だよなあ、
最後追い込もうとしても、
全然おっつけなかったよ、
これなら受験なんかしなきゃよかった、
受験料っていくらすると思う?」
「受験にもお金かかるんですか?」
僕がそう言うと、
森作さんは笑っていました。
そんなことも、
僕は知りませんでした。

 

プロジェクト526日目。

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2019/12/17 526日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

森作さんの部屋に向ったんです。
販売所から商店街の角を曲がり、
公園の前を走り抜けます。

学校にも行かなきゃなりません。
それで、急いでいました。

森作さんの部屋を訪れるのは、
数ヶ月ぶりでした。
前にも話しましたが、
彼の部屋は、
おんぼろアパートの一番手前、
公園を挟んだ道路に面しています。

カーテンはしまっていました。
いつもなら、新聞配達を終えて
部屋に戻っている時間です。
僕は何回か扉を叩きましたが、
森作さんが

出てくることはありませんでした。
しかたなく、
朝は諦めて、
学校が終わって夜になって、
販売所で夕食を食べてから、
また彼の部屋を訪ねました。

部屋のカーテン越しに
灯りが漏れています。
僕は扉をまた叩きました。
数秒おいて、
立て付けの悪い木盤のドアが、
ぎいっと音を立てて開きました。
寝てたような顔で、
森作さんが出てきました。

「どうしたの?」
彼は開口一番、

そう口にしました。
たしかに、
受験の結果聞きにきたなんて、
そんなことも言えず、
「そろそろ時間もあるかなって思って、
どうしてるかなと」
なんだか、

たどたどしく答えました。
彼は一度部屋の中を見て、
「ちょっとぶらつく?」
そう言うので、
2人で、公園から夜の街へと
歩き始めました。


気落ちしているようには見えないし、
もしかして、
滑り止めでも
どこか受かったんでしょうか、
僕は勘ぐりながら、
それでも、中々話題を
そっちには持っていけずにいました。

販売所やアパートのあった住宅街から、
徒歩で15分ほど歩くと、
池袋の街中へと続いていきます。

失踪した小林さんに絡まれた、
モール街という商店街を歩いています。
住宅地への帰路を急ぐ人たちと、
歓楽街へ向う足並みが
交錯していきます。

僕は森作さんと
気の向くまま歩いていました。
どこへ向うというでもなさそうです。
彼は、
「そこの映画館あるじゃない、」
と、前方を指差しました。

1度の入場券で
テーマ別に何本も見ることができる、
深夜営業の映画館です。
僕もアクション映画なんかを、
何度か観に行ったことがありました。
「結構通っちゃったなあ、」
森作さんがそう言って、
僕は、
「でも、1回で何本くらい観るんですか?」
「え、何本って、5本くらいかな、
まあ5本目で
もう寝ちゃってるけどね」
「すごいですね、俺なんか2本が限界です」
森作さんは、

僕の方を見て笑うと、
「俺だって、そんなちゃんと観てないから、
なんとなくだらだらね、」
「アクションとか?」
彼は首を傾げて、
「う~ん、なんでも観るよ、

サスペンスでも、恋愛もんでも、

古いやつとか邦画も、

ほんとなんでもね、」

2人は通行人を避けながら、
淡々と歩き続けました。

 

プロジェクト525日目。

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2019/12/16 525日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

眼前に広がる
田沢湖を眺めながら、
20年ぶりに再会した健太郎さんと、
当時のことを話しているのです。

やっぱり、何年経っても、
健太郎さんは、
あの頃のこと、
気にしているみたいでした。
僕が受験の直前まで話を進めると、
彼はその先を促すように、
「みんなちゃんとやってたんだな」
「どうなんですかね、
ただ、夏の頃までみたいには、
わいわいやってるようなこともなくて、
俺も邪魔しちゃまずいでしょ、
だから森作さんとこ
遊びいったりとかもしなくて」

僕はそう口にしながら、
湖の対岸の方をじっと見つめている、
健太郎さんの横顔を見ました。

それは、
自分が逃げるように
東京を去ったからなんでしょうか?
悔いが残っているというのでしょうか?
あんなにさっぱりした笑顔で、
郷里へ帰っていったというのに、
僕は彼の心情的ないろいろなことを、
聞いてみたい衝動を抑えて、
話を先へと進めていきます。

………

そして、春がやってきました。
正確には、
まだ春の暖かさは遠くにあって、
冷たい風の中に、
かすかに草の萌える匂いを
かぎ分けられる程度の、
初春の頃です。

僕の高校生活も、
1年を終えようとしています。
親元を離れての暮らしにも、
大分慣れてきていて、
せわしなく生きていたと思います。
奨学生のこととかばかり、
気にしていたわけじゃないのです。

話を聞くまで、
彼らのことは、忘れていました。
また販売所です。
朝の配達を終えて、
朝食を食べ終えたくらいの時間です。

奨学生の1人、赤井さんが、
宮嶋さんたちに挨拶をしていたのです。
小さな声で会話していて、
話は途中から聞こえたんですが、
どうやら、赤井さんが、
早稲田に受かったって
ことらしかったのです。
僕はそれで、最近忘れていた、
彼らの受験のことが、
さあっと頭によぎっていきました。
森作さんの自信なさげな表情が、
一気に脳裏に浮かんできます。
僕は立ち上がり、
赤井さんたちの間に入ると、
「みんな、その…、
受験終わったんですか?」
「ふふっ、そりゃそうだろ」
答えたのは宮嶋さんです。
僕は赤井さんの方を向いて、
「森作さんは?森作さん、
どうだったんですかね?」
彼は首を傾げて、
いきなり話してくる僕に
困ったような笑みを浮かべました。
「お前なあ、そういうのはさ、
べらべら喋るもんじゃねえんだよ」
従業員のほかの人が言いました。
僕はその言葉、
もう背中に聞いていて、
販売所をいそいそと飛び出していました。

 

プロジェクト524日目。

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2019/12/15 524日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

季節は過ぎていきます。
生活に追われ、
寒風の吹きすさぶ中での、
新聞配達を繰り返す日々です。

こんな僕は、
まだ人生にたくさんのトラップ、
つまり挫折があって、
それを乗り越えていかなきゃ、
本当の意味では
ステップがないということも、
全然知らない時期でした。
どういうことかというと、
まあ、なんとかなるさってとこです。
根負けしないで、
努力さえし続ければ、
人生はそれなりに開けてくる、
そういう短絡的な
思いはありました。

そして1年目の年は暮れ、
やがて、
僕とは無縁だった
受験のシーズンを迎えます。

もはや、
夏の終わりにいなくなった健太郎さんは、
はるか昔のことのように
思えました。
みな、彼のことを
口にすることもなかったし、
奨学生たちは、
最初の頃ほど弛緩した雰囲気じゃなく、
なんとなく、
ぴりぴりした感じは、
ただ居間でご飯を食べている僕にも
伝わってきました。

「みんな受かるといいですね」
僕は夕食のとき、
社員の宮嶋さんに話したことがあります。
小太りのおじさんは、
ただ俯いた感じで笑って、
「そう簡単じゃないだろう」
その場に、
もう奨学生はいなくて、
ボクサーや従業員が数人、
ご飯を食べています。
僕は周囲を見渡してから、
「え、でも、そのために1年間頑張ってきて、」
「1年やってないんじゃないか」
「やってない、ですか?」
僕は夕食を食べ終え、箸を置くと、
宮嶋さんをじっと見ます。
彼はお茶をすすって、
「最初のうちは、
この生活に慣れんのに必死だかんな、
体もついてけなくて、
勉強どころじゃないんじゃないか」

僕はこの言葉を聞いて、
なぜだかふと、
このおじさんが、
挫折をしていく奨学生たちを
毎年見ているんだと感じました。

今年の奨学生だけを言えば、
勉強どころじゃなかった、
て言う気がしたんです。

宮嶋さんの中では、
毎年1年きりの付き合いで
流れていく若者たち、
そのほとんどが、
挫折していく印象があったんでしょう。

僕は軽い憤りを覚えて、
「だったら雇わなきゃ
いいじゃないですか…」
小さな声でした。
宮嶋さんは口元をゆがめて、
「んなこと言ったって、しょうがねえだろお、」
と大きな身振りをして肩をすくめ、
「そういう制度なんだからさ」

卓についていたほかの従業員たちは、
僕と宮嶋さんの会話には無関心で、
誰もこの話題に
入ってくる人はありませんでした。

 

プロジェクト523日目。

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2019/12/14 523日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕は数部の新聞を、
濡れないようにビニル袋に入れて、
急いで彼が待っている場所へと
走って行きました。
そして、思わず息を飲んで、
その場に
立ち尽くしてしまいました。

森作さんは、
さっき転んだまま、
濡れた地面に
お尻をつけたままで、
しゃがみ込んでいたんです。
「大丈夫ですか?どうしました?」
怪我でもしたんでしょうか、
僕は彼の肩に手をかけました。
「ほっといてくれよ!」
森作さんはかなり強い力で、
僕の手を払いのけました。

水滴が飛び散ります。
僕は頬に
冷たいしぶきを感じながら、
「一体どうしたっていうんですかあ、
腰打ったんじゃないですか?」
かがみ込んで、
彼の顔を覗き込みました。
「起きれないんだ…」
森作さんはそう呟きました。

僕はそれを、
立ち上がれない怪我をしたって、
最初は思ったんですが、
実はそうじゃなくて、
彼は続けて、
「朝、全然起きれないんだ」

毎日寝坊して、
配達に遅刻していることを、
彼は言っていたのです。

「勉強、大変なんですね…」
僕がそう言うと、
彼はきっと僕を睨んで、
「違うって言ったろう、こないだ!
勉強なんて全然手ぇつかないって!」

初めて聞く、怒鳴り声でした。
周囲にはまだ人通りもなくて、
静まり返っています。
振り続ける雪の中、
そのしゃがれた大声が響いていました。

「風邪引いちゃいます、
冷たくないですか、おしり?」
僕はひどく冷静になって、
彼の腕に再び手を伸ばしました。
また、森作さんは拒むんですが、
今度はぐっと力を入れて、
無理矢理に立たせました。
「しっかりしてください、あと4部、
配っちゃいましょうよ、
ほんと風邪引いちゃうから」

それから、
新聞を配り終えて、
2人して自転車を引いて
販売所へと歩いていました。
ようやく雪はやみましたが、
もう、後の祭りのように、
路面はぬかるみだらけになっていました。

僕が、彼の少し前を歩いていました。
「ごめん、さっき…」
そう背中に、
森作さんの声をききました。
僕は何も答えませんでした。
「俺、もうだめだなって、なんかね…、
なにやってもだめだなって、」
そんな話聞きたくない、
僕はそう思っていて、
後ろを軽く振り返り、
「お尻冷たくないっすか?」
森作さんは、
ばつの悪そうな顔して、
「凍ってるみたい」
そう答えました。
 

プロジェクト522日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/13  522日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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夜半からの雪は、

朝になっても、まだ降り続いていました。
雨のようなぼた雪で、
路面にはそれほど積もっていませんが、
泥に汚れた雪が、
ところどころに
うずたかく置かれていました。
朝方の冷え込みで、
少し凍っているところもあります。
足場が悪いと、
滑って転びそうでした。

僕は森作さんの残り分、
その半分くらいの新聞を
自転車に積むと、
短冊(配布する家を記したもので、
慣れてくると必要としません)を片手に、
彼の作業を手伝いました。

小1時間もかからずに、
全ての作業を終えて、
森作さんとの
合流地点に来ました。

僕が彼を見つける前に、
自転車が倒れ、水溜りを弾くような、
バシャンっという音がしました。
僕はそれを聞くと、
自転車を急いで立てかけ、
走り寄っていきました。

「いってえ」
腰を抑えながら、
森作さんがしりもちをついていました。
地面は濡れていますから、
たぶんお尻はびしょびしょです。
ビニルやら、残った新聞が散乱しています。
「大丈夫ですか?」
僕がかがんで、
彼の手を取ろうとすると、
森作さんはその手を軽く払いのけて、
「大丈夫大丈夫、こけちったよ、
危ないなあアイスバーン」
腰を摩りながら
座り込んだままでした。
僕は水溜りに浸かってしまった
新聞を拾い上げます。

「もうだめでしょそれ」
彼は言うので、
「あと何部残ってたんですか?」
配り終えていない戸数を
聞いていたのです。
「4部、足りなくて、
花村くんとこ余った?」
濡れた新聞は
さすがに配れそうもありません。
僕は首を振って、
「こっちはぴったしでした、
今、取ってきますね」
「え」
少し驚いた彼の声を背中に聞きながら、
僕は自転車はおいたまま、
雪の中を販売所へ向かって
走り始めました。

それほど遠くはありません。
200メートルくらいの距離です。
僕はさっと販売所へ行って、
かわいた新聞を4部ビニル袋に入れると、
さっきの場所にとってかえしました。

雪はまだ降り続いています。
森作さんは、
さっきの場所で、
ぐしゃぐしゃになった地面に、
まだお尻をつけたまま、
座り込んでいました。
 

プロジェクト521日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/12/12 521日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

その雪の日、
僕が新聞配達を終えると、
さすがに冬の遅い陽もあがっていました。
しかし、
分厚い雲に空は覆われ、
雪は相変わらず降り続けています。
あたりは夕方のように暗く、
どんよりとしていました。

商店街の角を曲がって、
自転車を引いている
森作さんを見かけたんです。


彼は俯きがちに、
いやに重そうに自転車を引いていて、
僕に気づきそうもないので、
「森作さん、おはようございます、
今日は大変でしたね~」
と、僕から声をかけました。
彼はようやく気づいて、
重そうに首を上げました。
僕は自転車を降りて、
近づいていくと、
「雪、全然やまないですね」

「まだ、終わってないんだ」
彼は聞き取りづらい、
かすれた声で答えました。
「え、」
「今半分くらい終わって、
残り、取りに行かなくちゃいけない」

雨や雪の日は、
新聞が濡れないように
ビニルに入れたりしなくちゃなりません。
くわえてこの日は
運悪くチラシの多い日でした。
一度では、自分の配達分を
全部自転車に積めないのです。

それにしても、
もう終わってもよい時間でした。

「花村くんは終わったの?」
僕はこくりと頷いて、
彼と並んで自転車を引きながら、
販売所へと歩き始めていました。
「俺さ、また寝坊しちゃって、
最悪だよなあ、こんな日まで」
彼は恨めしそうに、
濃い灰色した曇り空から、
延々と降り続く雪を仰ぎ見ました。
小さなしずくが、
森作さんのカッパのフードから滴り落ちて、
鼻梁を伝い、
アゴへと流れていきました。

彼は販売所へ行くと、
宮嶋さんから叱られていました。
とにかく急げ、
そろそろ不着(新聞が着てない)って、
電話が鳴り始めるだろう、
そう言われていました。

僕は、新聞を自転車のカゴに積んでいる
森作さんに走りよって、
「手伝います」
「ええ、いいよ、学校あるんだろう?」
「まだ間に合いますから」
時間には、まだ余裕はありました。
僕は彼がなにか言ってる先から、
残りの新聞を、
自分の自転車の荷台に
積み込み始めていました。
 

プロジェクト520日目。

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2019/12/11 520日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

1人暮らしをしながらの、
僕の高校生活が続きます。
始めたばかりのボクシングも、
だいぶ上達してきていました。

自転車の盗難で警察に捕まったり、
一時は色々ありましたが、
それでも、
徐々に生活にも慣れていきました。

新聞配達は、
特に天候に左右されるという点で、
雨の日が一番辛かったです。
なにしろ新聞は紙ですから、
すぐに濡れてしまいます。
自転車のカゴにビニルを被せますが、
それでも注意しないと、
はしっこから新聞紙が、
ぐしゃぐしゃになってしまったこともありました。
濡れてしまった新聞を
配達することはできません。
そうすると、
すぐに販売所に電話がかかってきて、
クレームになるからです。

そして、
季節はやがて冬に入っていきます。
朝起きるのが辛くなってきます。
雪の日もありました。
遅い夜明け、
夏であれば
とっくに日が昇っている時間、
街灯に照らされた雪を見ながら、
白い息をもうもうと吐き出して、
新聞を配達していました。
自転車ですべって、
新聞を撒き散らしてしまったこともありました。
膝を打ち付けてひどく痛みました。
でもそんなこと後回しにして、
雪に埋もれていく新聞を

急いで拾い集め、
また、黙々と配達を続けるのです。

手はかじかんで、
感覚を失っていました。
その手のひらに自らの息を吹きかけ、
また自転車のハンドルを握り締めます。

そうしたこと、
今思い出してみると、
とてもやれる気もしませんが、
あの頃は、
それをあまり
苦にしていなかった自分がいます。
大変だったには違いないのですが、
なぜかいつも、
次の小さな、
ささやかな出来事に向って、
苦を苦とは感じていなかった気もします。
ささやかとは、
一杯のあついコーヒーとか、
そんなものでいいんです。

それだけで、
浮かばれた気持ちになって、
また、前へと向っていました。

そんな雪の日でした。
僕はようやく配り終えて、
滑りやすい路面を、
ゆっくりと自転車をこいで、
販売所へ帰ろうとしていました。

商店街に入る角を曲がると、
向こうから、
自転車を引いている人に
出くわしました。
森作さんです。
彼はとぼとぼと、
最初は僕にも気づかないで、
カゴが空になった自転車を
引いて歩いていました。

 

プロジェクト519日目。

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2019/12/10  519日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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