笠原は、田舎から出てきて、
まだ数ヶ月の少年でした。
最初はとても純朴そうで、
東京での暮らしに、
戸惑っているように思えたものです。

それがどうでしょう、
彼が上京して3ヶ月です。
少し見ないうちに、
目つきもなにもかも変わっていました。
山野井に感化されたというか、
とにかく、目つきまで、
とってつけたような鋭さで、
僕を見ています。
「俺っすかねえ、やっぱ」
笠原は、なにか勝ち誇った感じです。
僕は口元を歪ませ、
「なにがあったの、一体…、」
「へへっ、俺があいつ殴っちかったから」
「どういうこと?」
「へへっ」

山野井は立ち上がり、
「おい笠原教えてやれよ、デビュー戦なんだろう」
僕は山野井と笠原を交互に見ながら、
眉をひそめて、
「デビュー戦?」
「へへへっ」
それにしても、
彼の笑いは下卑ていて、
嫌悪を感じます。
とても、こないだまで純朴そうにしていたやつとは
思えませんでした。
「どういうことだよ」
僕は少し語気を強めました。
「あいつさ、夜中になんかうるさいわけ」
笠原は、森作さんの隣の部屋でした。
「何やってんだか、ごそごそしてよ、
そいで俺、部屋いって呼び出したんだよ、
で、外に引きずり出して」

少年は終始笑いを混ぜながら、
その一部始終を話しました。

それは小雨の振る晩のことです。
森作さんは一体なにしていたのか、
夜中に物音をたてていたんでしょう。
笠原は森作さんを外に出して、
アパートの前の公園で、
暴力におよんだのです。
森作さんは、土下座をさせられ、
何度も謝罪の言葉を言ったといいます。

僕の胸は、
重い鈍器でぎゅうっと
潰されていくようでした。

「で俺、勝っちゃったわけ、へへへっ」
僕は下品な笑い声で口にする、
笠原をじっと見つめました。
彼の中に、
どこかに、
数ヶ月前の純朴さを探していました。
だけれど、
そんなもの、
もう木っ端微塵も残っていません。
「一勝だろ、一勝、初勝利」
山野井がはやし立てます。
僕は一度視線を路面に落とし、
それからまた上げ、
笠原を睨みつけると、
強い口調で、
「お前さ、素人に勝ったっていうの?」
「あん?」
「森作さん殴って、それで勝ったって?」
僕は笠原のTシャツの襟首を、
ぐっと掴みました。

 

プロジェクト534日目。

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2019/12/25 534日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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