彼女は最初うつで初診している① | kyupinの日記 気が向けば更新

彼女は最初うつで初診している①


Walls(Tom Petty & the Heartbreakers)映画「She's the One」のサウンドトラック盤から。このアルバムはサウンドトラック盤ながら、Tom Petty & the Heartbreakersのオリジナルアルバムと言って良い。Tom Pettyの暖かいヴォーカルが聴ける。

$kyupinの日記 気が向けば更新 (精神科医のブログ)

このエントリはかなり長いので、いくつかに分割してアップすることにする。今日は初回である。最後まで読んでもらうとわかるが、この患者さんの治療は相当に迷走している。

あと、この一連のエントリは治療中に北米に行ってしまった彼女にちなんで、Tom Petty & the Heartbreakersの楽曲を平行してアップすることにした(必ずしも歌詞は合っていない)。


ある時、間一髪で交通事故になりそうになった。

その際に、相手の男性が突然車から降りてきて怒鳴られ、髪の毛を引っ張られ、車から引っ張り出され蹴られたりしたという。嘘みたいな話である。

その日以降、「知らない人は何をするかわからない」と思うようになった。外出するといつも緊張するようになったらしい。

常にドキドキし集中できない。ずっと気分が上がってこないなどの主訴で初診している。当時、パキシルを10㎎処方している。

彼女にはパキシルは大きな副作用もなく良かった。診察時に感想を聞くと、「パキシルを飲むと飲まないでは全然違います」などと話していた。ただ、パキシルの欠点はイライラ感がそこまで良くならないこと。そのためメイラックス2㎎を併用していた。

いわゆるアクシデント由来の社会不安障害?はパキシルが奏功し、さほど不便がない程度には生活できるようになった。ある日の彼女の言葉。

今は緊張感はだいぶん良くなった。仕事にも支障はありません。気分が晴れない感じにも良いみたい。

という。イライラ感にはメイラックスよりレキソタンが良いらしい。(2㎎)

その後、彼女は仕事を退職し北米に行ってしまった。これは以前から本人が決めていたものだ。体調も良くなったので決心したようである。当時、パキシルの10㎎を大量に溜め込み渡航している。

彼女によれば、北米に住み始めると、嘘みたいに症状が消失したという。これは元々の発病の経緯とも関係があるように思われる。彼女は現地でもパキシル10㎎だけは服用していたらしい。

過去ログの「虐待とラミクタール」のエントリの中でこのような記載がある。

特に・・非現実的な生活を入れると良いみたいです。

これは曖昧な内容なので何のことがわからなかったと思う。あのエントリの女性は運動神経がプロ並に優れているのである。彼女がプロの競技者として大成できなかったのは、偏食が酷すぎてあまりにも故障が多く、競技を続けられなくなったためだ。

現在でも運動神経が良いのは全く変わりがない。ストレスが溜まってくると、絶海の孤島などに出かけ、例えばスキューバダイビングをしてくる。そうすると、心身ともにかなりリフレッシュできるらしい。彼女の言う「非現実的な生活を入れる」というのはつまりそういう意味である。

今回のエントリの女性が海外に長く滞在し、その間、症状がほとんどなくなったのは、この「非現実な生活を入れる」ことと関係している。あれは一種のモラトリアムのような気がする。

そうして1年後、再会することとなったのである。

(続く)

参考
虐待とラミクタール
双極2型と海外滞在
パキシルはコーティングするのか?

一連のエントリ
彼女は最初うつで初診している①
帰国後の大悪化②
病前性格とリーマス③
希死念慮とSSRI、ブプロピオンの試み④
ブプロピオン処方後の経過⑤
レスキューレメディーとデパケンR⑥
トレドミンとベンラファキシン⑦
ラミクタールの試みとリフレックス⑧
リフレックスの悪夢とトピナ⑨