田村尚也『用兵思想史入門』(作品社 2016年)読了。
随分と積読状態が長かったが、やっと読むことができた。
さて、本書で言う「用兵思想」とは、
「兵の用い方に関する思想」、すなわち戦争のやり方や軍隊の使い方に関する様々な概念の総称(p1 「はじめに」 より)
というものである。
本書では、現代の用兵思想の主流といえる欧米の用兵思想を中心に説明しており、西洋中心ではあるが、ざっくりと古代から現代までの軍事史を学ぶことができる。
構成としては、
第1章 用兵思想の夜明け
第2章 ローマの遺産
第3章 封建制と絶対主義が生み出したもの
第4章 ナポレオンと国民軍の衝撃
第5章 産業革命とドイツ参謀本部
第6章 海洋用兵思想の発展
第7章 国家総力戦の現出
第8章 諸兵科協同戦術の発展
第9章 航空用兵思想の発展
第10章 機甲用兵思想の発展
第11章 ロシア・赤軍の用兵思想の発展
第12章 アメリカ軍の現代用兵思想の発展
となっている。
例えば、第4章ではナポレオン、クラウゼヴィッツやジョミニ、第6章ではマハンやコーベット、第9章ではドゥーエ、第10章ではフラーやリデルハート、グデーリアンといった軍事思想家たちの思想を中心に各分野での用兵思想を学ぶことができる。また、兵器の能力の向上など科学・技術の進歩が用兵思想にどのように影響したのかといった点からも説明したりしており、全体を通してざっくりと軍事史を学ぶことができる。
本書では様々学ぶことができたが、特に興味深かったのは第4章のナポレオンに関する部分である。
「つまり、既存の師団編制を発展させた常備軍団編制に、前述のブールセらが考案した「分進合撃」を組み合わせたのである」(p106~107)
「これらを見ると、ナポレオンは、自らの革新的な思想に基づいてフランス軍を大きく変革した、というよりも、それまでに考案された数々の軍事上のアイデアや制度を発展させて統合し、大規模に実施することでフランス軍を「近代軍」として完成させた、というべきだろう」(p107)
「つまり、ナポレオンは、現代の用兵思想で言うと、会戦の勝利というミクロな「戦術次元」の成功を、戦争全体の勝利というマクロな「戦略次元」での目標の達成に結び付けることができたのだ」(p109)
「(中略)しかし、ナポレオンは、このような近代的な用兵思想を用いて分析することで初めて明確に見えてくるような、当時としては画期的な用兵を、おそらく無意識に実行していたのである」(p109)
これまでは、ナポレオンの天才とは「0から1を生み出す」というタイプの天才であったと思っていたが、これを読む限りでは、ビューロー、ブールセ、ギベールなど、ナポレオン以前に仏軍の改革に取り組んでいた人物のアイデアや制度を発展・統合するという「1を10や100にするタイプ」の天才であったのだと思った。
ナポレオンに関しては、ロシア遠征の失敗、イベリア半島での失敗、ワーテルローの戦いでの大敗など大きな軍事的失敗もあるものの、一時的とはいえ英国を除く欧州全土に覇を唱えたことは間違いない。
ナポレオンについては賛否両論様々な意見があろう。そして、まだナポレオンの軍事行動などしっかりと勉強できていないところもあるが、少なくとも先人たちの様々なアイデアや編み出した制度を発展・統合し、実践したという点は学ぶべきところも多いのではないかと思った。
ナポレオンの他にも、まだまだ勉強しないといけないところがたくさんあるが、それらの入門書としてはいいのではないかと思える一冊だった。
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