オパールの遊色効果 | 構造色事始

構造色事始

構造色の面白さをお伝えします。

テーマ:
昆虫の構造色は、多数の層が集まってできた多層膜によるものが多いのですが、中には、球が集まって結晶のようになった構造が色を出すものもあります。このような構造をフォトニック結晶と呼んでいます。今日は、フォトニック結晶の中でも、もっとも古くから構造が明らかになっているオパールについてお話しします。

イメージ 1

オパールは10月の誕生石として知られている宝石です。

この綺麗な色の石は堆積岩や火山岩の中で見つかります。

イメージ 2

自然のオパールはこんな形でみることができます。これは大阪大学総合学術博物館で所蔵している天然オパールの写真です。

イメージ 3

この写真は、流紋岩中に見られたファイヤーオパールで、メキシコ産です。これは鉱物商から購入したもので、水に入れられた形で売られていました。

これらオパール独特の虹色は遊色(play of color)効果と呼ばれています。オパールは含水性のシリカ(酸化ケイ素)からできていて、通常、水分を1-21%も含んでいます。

オパールは、地色や生成機構によって、いくつかの種類に分けられます。まず、地色によって、ホワイトオパール、ブラックオパール、ウォーターオパール、ファイアオパールなどと呼ばれています。また、生成機構の違いによって、堆積岩中で地下水から沈殿してできたものをサンドストーン・オパール、火山岩中で熱水から沈殿したものをマウンテン・オパールと呼んでいます。オパールの主な産地は、オーストラリアとメキシコですが、オーストラリア産はサンドストーン・オパールが中心で、メキシコ産はマウンテン・オパールで地色の赤いファイアオパールが中心になっています。

さて、いったいどのような機構でこのような綺麗な色が出てくるのでしょう。その秘密を解き明かしたのは、オーストラリアのメルボルン大学にいたサンダースたちで、1964年のことでした。サンダースらは電子顕微鏡でその構造を調べたところ、直径150-300nmの非晶質(非結晶性)のシリカの球が、まるで結晶のように配列していることを見つけたのです。さらに、球の配列は面心立方格子(fcc)という構造をとっていることが分かりました。

イメージ 4

上の図のa)は面心立方格子を表します。立方体の各面の中央と頂点に1つずつ球が配列している構造です。この球の直径を大きくして、他の球と接するようにすると、右の図b)のように、空間に球をぎっしり並べることができます。これがサンダースが見つけたオパールだったのです。

ただし、オパールの表面は、このような立方体の面が外に出ているわけではなくて、この立方体を斜めに切った部分が外に出ています。

イメージ 5

左側の図は立方体を3つの頂点を含むように斜めに切ったところを示します。ちょうど切断した部分が赤で描いてあります、その切断面を見ると右の図になります。この場合も、球の直径を大きくして、互いに接するようにすると、下の図のような構造が出来上がります。

イメージ 6

つまり、オパールの表面を観察すると、この図のように球が六角形に配列した構造が見えることになるのです。この一つ一つの球が非晶質のシリカからできていて、その直径が150-300nmということになります。このように六角形に球が配列した層が奥行方向に何層も並んでいることになります。オパールに光が当たると、規則正しく並んだ層により、まるで多層膜に光が当たった時のように特定の色の光だけを反射します。また、斜めから光が当たると、反射する光の色が変化するのです。これが、オパールの遊色効果の原因でした。

このような結晶は、原子や分子が並んだ通常の結晶と似ていますが、大きさがまったく異なっています。そこで、このような構造をフォトニック結晶と呼んでいます。天然オパールの場合は、いろいろな方向を向いたフォトニック結晶がたくさん集まった多結晶の状態になっているので、オパールを見ると部分的に色がついたように見えるのです。

オーストラリアのダラーらは、その2年後の1966年に、オパールの非晶質の球をさらに高倍率で観察しました。その結果、球は均一ではなくて、次の図のような殻構造をとっていることが分かったのです。

イメージ 7

つまり、一つ一つの球がさらに小さな球の集まりになっていたのです。小さな球は直径が30-40nmで、緑、青、紫のオパールでは1-2重の殻構造を、赤色のオパールは3重になっていることが分かりました。

このことから、オパールの生成機構として、はじめ、水に含まれていた珪酸ゾルが次第に凝縮して直径30-40nmの球に発達すると、今度はそのような小さな球が集まって、さらに大きな球を作っていくのだろうということが分かりました。こうして球が大きくなりながら、配列して最終的にオパールができるのです。このような微細な球が集まってできているので、光を散乱させてオパレッセンスと呼ばれる乳白色の色を作っているものと思われます。

オパールはその後、合成することが可能になり、合成オパールという宝石が作られ、また、現在のフォトニクス技術の中心的な材料としても発展してきました。昆虫にも、オパール構造を持ったものが発見されましたが、それについてはまた別の機会にお話します。(SK)

【参考文献】
J. V. Sanders, Nature 204, 1151 (1964).
P. Darragh et al., Nature 209, 13 (1966).

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/