からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -82ページ目

いつかのメモ

いつかのメモ


体がでっかいやつに小さいことやらすのが普通だとすると、僕はでっかいやつにもっとでっかい何かをぶつけてみる方なんですよ。だって、でっかいやつが小さいことやるって実はしっくりくることじゃないですか(笑)。ぼくってそういう人間なんです。ちょっと空気読めないみたいな(笑)。
~byイケメンアイドル、肩山田“ザ☆ショルダー”肩樹~


なにこれ………小学校の中学年の子にだけ笑ってもらえそうなセンスだね☆いや、最近の子はシビアか…………。おれ…結構大人なんだけどね…


ここまでがメモ。何やってんだおれ。最近早寝で物語なんか書いちゃいやしません。

なぜあなたはそんなにも後ろを気にするのですか?

ぜじゅべにきたるやにばばばざばなかなたあ!!


子供のころ、インチキおじさんになりたいと思ってました。


なれそうです。

宅配屋と喫茶店(10)

ぐるりぐるりと担当エリアを時間に追われ走っていると、あっという間に昼前になった。梨田は客からもらった栄養ドリンクをぐいっと飲み干したりした。
祐平が思っていたよりもジュディはお荷物になることはなく、きびきびと働き、それは本来の宅配助手バイトがついたようだった。

「へえ、ではそのことはお兄さんから?」
「さあ、兄ともあんまり連絡とってないんですよ。年も離れてまして」
「しかしでも、お父様が」
「はは、いやまあ、なんというか、風の噂ってやつですかね」
車内で行われた会話の話題が家族についてになったとき、祐平は口ごもらざるをえなかった。
「あんたねえ、高窪さんは犯罪者じゃないんだから、そんな、言いたくない、ってことは訊かないの」
ジュディが梨田をたしなめ、祐平は苦笑いを浮かべた。

「あ、高窪さん、あの、ちなみにお昼というのは」
さすがに目の前の宅配物の量と時間の比率を考えると、梨田にも昼を取る時間がないことは理解できたようだ。
「昼メシですか?」
「はい、私達ちょっと用意してなくて」
「はあ、僕は弁当を用意してましてね。走りながら食べるという形をとりますが」
「えっ、では僕達はどうすれば?」
「栄養ドリンクとみかん、食べましたよね?」
祐平は嫌みったらしく言った。
「……なるほど」
(なるほどじゃねえよ。なんだよなるほどって。いいの?、張り合いのねえやつだ。昼メシがみかんでいいのお前。)
「というのは冗談で、大丈夫ですよ。時間取ってますから」
祐平はジュディ達にしばし昼休みの時間を用意していた。宅配物を、出来うる範囲で、そう調整したからだ。もちろんジュディたちが休んでいるその間、自らは宅配を続ける算段だった。
「しかし、そんな時間あるんですか?」
「大丈夫です。まあ、この近くで食べるところといやファミレスかラーメン屋ぐらいしかないんですけど」
「それは、構いません、よね?、先生」
梨田がジュディに意見を問うと、
「コンビニに寄ってもらって、適当なもの買って一緒に食べればいいじゃない」
と、言った。そして続けて、
「高窪さんもそっちの方が面倒じゃないのではないかしら?。私達が昼ご飯を食べてる間、あなた走り回るんでしょ?、ま、あたし達が足手まといじゃなけりゃあねえ」
ジュディは、顔面蒼白なのに、気丈にそう言った。
「そんなことないです。助かってますし、そうしていただけたならなお助かります」
祐平はずばり、作業的には問題ないが、ジュディ達を精神的に足手まといと感じていて、ひとりになりエンジン音に紛れ文句を叫びたかった。
「じゃあ決まりだ。そういうことで」

昼になり、コンビニ近くの宅配のついでに、ふたりを買い物にやった。その隙に祐平もダッシュボードから特製サンドイッチを取り出した。ダッシュボードの中には、昨日克明にもらったゆで卵が入りっぱなしで、食う食わないに逡巡し、とりあえず出した。
飲み物と、ジュディは菓子パン、梨田は唐揚げ弁当と“おでん”を買ってきやがった。

「お、高窪さん、お弁当ってそれですか?」
特製サンドイッチを一口ほおばった祐平をみて、梨田が言った。
「ええ、うまくもなんともないですけどね」
(何をしちめんどくさいもの買ってきやがってんだよお前は!。ついに買いやがっておでん!。)
ジュディはさっさとパンの包装をといて、小さな口でついばんだ。
それをみた祐平は、
「じゃあ、発車しますよ」
と言って、エンジンをかけた。
「あ、ちょっと、ちょっと待ってください。止まって食べないんですか?」
あわてて梨田が言った。
「あたりまえでしょ」
ジュディがあきれた調子で応えた。
「あ、だから先生、普段はたくさん食べるのに」
「うるさい」
大食らいが恥ずかしいのか、ジュディはぴしゃりと梨田の口をしめた。
(梨田よ。ジュディは車酔いで単純に食欲がわかないからそれだけなんじゃないか?。)祐平はそう思った。
「ちょっと、ちょっとだけ待ってください。汁だけ、おでんの汁だけ飲んじゃいますから。…だあちっ」
梨田はおでん汁の熱さに唇と舌をやられ、少しこぼした。そして、すいませんすいません、とおでんの入ったカップをなぜか頭上高くにあげながら、ぺこりぺこりと頭を下げた。その様はまるでオラウータンのようだった。
「はは」
「まったく。荷物にこぼしてないでしょうね」
「はひ、だいしょうふでふ」
(子供かお前は。)
「では高窪さん、梨田のことは気になさらずに発車してください。あんたは早く食べなさい」

祐平は車を発進した。

「普段から昼はそれなんですか?」
唐揚げを口に入れながら梨田が祐平に言った。
「いえ、普段はもっとマシなもん食べてますよ。時間にも余裕がありますし。今の時期だけですね」
「普段は昼休みには配達しない、ということですか?」
「そうですね。僕の個人的な意見でもありますが、昼メシを食べてるときに、いただきますを言ってごちそうさまを言う前に人が訪ねて来たらむかつきませんか?」
昼間に人の家を訪ねてはいけないと、祐平は子供のころから父親に言われていた。
「ははあ、そんなもんですか」
「そうじゃないですか?」
「僕はあまり気にしませんけど」
「高窪さんの家は自営だからね」
ジュディが口を挟んだ。「やっぱりお昼にお客さんが来て迷惑だった経験があるのよね?」
「はは、そうですね。父親なんか浅草生まれですから」
「ですからって、あなたもでしょう?」
「ああ、そうですね」
(おっと、経歴を詐称してるんだったな。あやういあやうい。)
「昼間にお客さんが来ると、露骨に舌打ちなんかしまして、小声でばかやろうとかつぶやいて、機嫌が悪くなるんですよ。幸せな食卓がその瞬間から苦痛の食卓に変わっちゃいましてね。無言でテレビをみつめちゃったりして。嫌だったなあ」
「それわかるなあ、あるんだよねそういうこと」
「はは」
(ジュディも自営のうちなのか?、山下で自営、ということは、こいつ、あの呉服屋の娘か!。)
「だけど今はそれに構ってられないんですけどね。ただやっぱりお昼に配達ってのは気が引けるもんですよ。明らかに不満顔で応対されることもあります。その気持ちがわかる分、申し訳ない気持ちでいっぱいになります」

祐平達は、メシを食いながらてきぱきと仕事をこなした。梨田は弁当とおでんを急いでかきこんだ。
「あの、そのゆで卵食べないんですか?」
梨田は目ざとく克明のゆで卵を見つけた。
「ああ、これですか。よかったら食べます?」
梨田が、「いいんですか?、ちょうどおでんの玉子が売ってなかったんですよ」と嬉しそうに言ったのち、祐平はニヤリとして、
「ただ、賞味期限はきれてますけど」
と、言った。
「…大丈夫、ですよね?」
まさかの食い下がりをみせた梨田にジュディが、
「あんたねえ、そんなもん食べてさ、腹痛くなったっつったら目も当てられないよ。バカじゃないんだから」と、言い、梨田はもの惜しそうに、「そ、そうですか」とひき下がった。

だが、やっぱり、

祐平とジュディがそれぞれマンションに乗り込んだ隙をついて、ひとり車内に残った梨田はそのゆで卵を食った。帰ってきた祐平達に対し素知らぬ顔をしていた梨田だったが悪事はすぐにバレた。車内が硫黄臭かったし、なによりゆで卵が車内から消えたからだ。

「盗人猛々しいとはあんたのことだよ」
「すいません。どうしても、どうしても僕のおでんにはゆで卵が必要だったんです」
「意味わかんないよ」
「すいませんすいません」
「はは」と笑う祐平。
「あんたなんか腹を下しちまえばいい」
こうして、ゆで卵が原因なのかたらふく食べた結果そうなったのかジュディの呪いが功を奏したのか、10分後、梨田は腹を下すに至った。

「では、ゆっくりどうぞ。少し回ったら迎えにきますから」
腹痛の梨田を洋式トイレのある公園におろす。梨田は珍妙な歩き方をしてトイレに入っていった。それを見届けると、祐平とジュディを乗せたトラックはふたりが宅配を続けるために走りだした。
こうして、梨田が置いてけぼりを食らう羽目になる。


しょうがないですね、などと一通り梨田の話題で盛り上がり終わると、車内は沈黙の時に突入した。
「えっと、次は、ああ、お化け荘か」
ふたりきりの退屈な車内の空気を紛らわせようと、祐平は独り言をつぶやいた。
「お化け荘?」
それにジュディが食いつかなくてはお話にならない。
「ええ、僕の荷物ですけどね。あるんですよ。ちょっと本当に得体のしれない立ち寄り難い平屋のアパートが」
「へえ、だからお化け荘と?」
「それもあるんですが、そのアパート、まあイナ荘という荘なんですけど」
「イナ荘?、冗談じゃなくて?」
「ええ、冗談でもなんでもなく伊那荘という名前なんですが、四つの棟になってまして」
「あ、わかった。見る角度によって」
「そうなんです」
(しまった。荘だけにそうなんです。なんてダジャレになっちまった。)
「…細い路地のどん詰まりにあるボロいアパートなんですが、みるポイントによって棟の数が3つにも2つにも変化しまして、その様子があのお化け煙突みたいだと。そしてお化けが出そうな雰囲気だということから、僕らはお化け荘と言ってるんです。まあ、そんな大層なものではないんですが」
「へえお化け荘ねえ」
…………。
「ちなみに、その伊那荘の正式名称は第四八伊那荘というんです。初めて訪れたとき、こんな建物が48個もあるのか、と思いましたが、なんてことはない、ここいらの地主の伊那さんの、48個目の建物だっただけだったんです。はは」
話を自己完結してしまい虚に笑うしかなかった祐平は、我ながらどうでもいい話をしているなと思った。

ふたりを乗せたトラックが、伊那荘近くに止まった。

「よし、では山下さんはあちらの庭のある家に」

お化け荘の住人は、祐平にも把握しきれていなかった。都会とはいえぬD区とはいえ、東京23区の喧騒から置き去りにされ見てみぬふりをされたような、このうらさびれたボロボロの、一見するとなかに住人は居ず、廃屋と勘違いすることうけあいの伊那荘に、郵便はあってもあまり宅配便などないからだ。
この伊那荘には世捨て人世捨てられ人が世間から隠れ住んでいる、らしい。外部から置き去りにされた彼らに宅配便など届かないのだ。住人にはとりわけ老人が多く、需要はあるのかあまり空き家はないが、住人のサイクルは激しい。

祐平が手に持った宅配物はゴルフバックだった。このとき祐平はただ、「珍しいこともあるもんだ」と思っていた。

A棟三号室の扉を声をかけながら叩くと、なかから中年の男が出てきた。宅配物が住所通りか確かめると、男は祐平に「おう、ご苦労さん」と言いながらハンコを探しに一旦なかに戻った。
祐平は、不思議なことに、この男をどこかで見たような気がした。
どこだったか、もどかしく記憶をたぐらせていると、男が戻ってきた。
「わりいな兄ちゃん。ハンコ見つかんねえや」
「はい、ではサインをお願いします」
「おう、あっと、受取人の名前がいいのかな?」
「いえ、お客様の名前をこちらに、フルネームでお願いします」
「おう」
男が伝票にサインを書き終え、それを確かめた祐平は、不思議なことに男の顔だけでなく、その名前にも見覚えがあった。
不思議なこともあるもんだと思った瞬間、
ようやく、祐平は男の記憶に行き当たった。

「ありがとうございました、失礼します」
普段はこんな丁寧な言い方をして家をあとにしない。祐平は言い終えるとゴルフバックを抱えドキドキしながら小走りでトラックに戻った。いつも通り助手席からトラックにゴルフバックを積もうとしたら、ジュディが戻っていた。
「あ、間違えました」
「あら、残念」
祐平の持ったゴルフバックを見てジュディが言った。
「え?なんですか?」
祐平はドキドキしながらジュディの言葉の意味がわからず聞き返した。
「重くてかさばるのに、不在だったんでしょ?」
「は?、居ましたけど?」
祐平はまだ自分のミスに気がつかなかった。





偽かつまでかつよ

「おい、歌えよ」
「やだよ」
「ああん!?歌えって」
「いやだよ」
「ちょっと男子、なにもめてんのよ先生に言うよ」
「あ」
「こいつが歌わねえのが悪いんだよ」
「ああ、またやってんの。あんたも減るもんじゃないんだから歌えばいいのに」
「そうだそうだ。減るもんじゃねえ」
「早く歌いなよ」
「え?」
「早く歌えって言ってんだよ!」
「でも」
「いいから歌えよ殴っちゃうよ?」
「歌っちゃいなよ早くさ」
「…………猫とアヒルがちからを」
「もっと本気で歌えよ、マスクもとれよ。そんなんで金もらってんのかよ」
「君からはもらって」
「ああ!?お前の悪い噂ネットにばらまくぞ!?こっちはばらまかないでやってんだよ。それが代金だ」
「そうねそうそう」
「…………猫とアヒルがちからをあわせてみんなの幸せを~まねきねこだっく♪」
「………別に、だな」
「そうね」
「あーあ、なんか興醒めしちまったよ。スター様のご機嫌うかがいも楽じゃねえや」
「いえてるぅ」
「もうお前あっちいけよ。スターはあっちいけ」
「じゃあね」
「……………」



「あら○○。おかえり」
「ただいま」
「今日もちゃんとマスクしてた?○○くんの声は大切なんですからね」
「ちゃんとつけてたよ」
「大声出さなかった?」
「出すわけないじゃんそんなの」
「そう、なんか元気ないわね。まさか風邪ひいた?」
「元気だよ」
「そう!じゃあお仕事の準備しましょうね。今日はねえ、CDの発売イベントをやるのよ」
「歌うの?」
「そう、みんなの前で歌うの。○○くん歌うの好きだもんねえ」
「うん!………」
「ああ、忙しい忙しい。さ、ほらほら着替えて着替えて」
「ねえママ」
「なあに?」
「ちょっとお腹痛い」
「はあ!?さっき元気っていったでしょ!?」
「でも」
「○○くんね、お仕事があるのよお仕事!そういうこと言わないでママもうこんがらがっちゃうでしょ!!ああもうなんなのよ!!元気だよね!?」
「…うん」
「じゃあいくよ!まったく」
「……」
「なにぐずってんのよ!目が腫れちゃうでしょ!なんであんたはママを困らせるのよ!ほら、まねきねこなに!?まねきねこなに!?」
「だっく」
「はあ!?あんたこの歌好きって言ってたじゃん!まねきねこなに!?」
「…まねきねこだっく♪」
「それでいいのよ、ったく。お姉さんと歌うときもちゃんとやるのよ!」
「僕」
「なに!?」
「んん、なんでもない」
「あっそう」
この日、少年がいつもつけているマスクの下にある唇に、ひとつポツリと赤黒いおできができた。そのおできは日をおうごとに巨大化し………………………………ついには少年に語りかけるようになり…………………………………云々



そんなまねきねこだっく。少年少女スターが世にでてくるたびにこんなことを思う。

一分一秒も無駄にはできないから、さあ、寝よう!!一分一秒でも長く寝よう。おれにはそれが必要なんだ。時間を無駄にはできない。一分一秒でも長くだらだらしよう。

宅配屋と喫茶店(9)

ジュディの作業はさすが、ばっちり、と断言したように、当たり障りなくスムーズなものだった。
ただ、はじめて不在票を書いたとき、ジュディは祐平が「あ」っという前に扉の郵便口に入れた。それを見た祐平は、
(所長から習ったと言ったな。ましてや作家、あとでなに書かれることやら。さて、言うべきか言わざるべきか。)
と、逡巡したのち、やはり言うことにした。

「山下さん、不在票は、こう不在票をたたんで、扉に挟んでくれた方がいいです」
そう言って祐平は取っ手横の扉と壁の間をなぞった。
「あ、はい。…でも所長はこうだと言ってたけど」
注意という注意ではないが祐平にそう言われたジュディは、いきなりミスをしてしまったかと、少ししゅんとなった。だがすぐに子供の言い訳めいたことを言い、持ち直した。
「本来はそうなんですけど、そっちに入れてしまうと不在票の存在に気付かれない場合があるのです」
外から見て目に付く場所に宅配の不在票がある家とは、すなわち現時点で家人がひとりもいないということを示しているわけで、防犯上大変よろしくないというのが祐平が言った、本来、の意味だ。しかし祐平が言ったように、郵便口に入れてしまうと不在票の存在に気付かれない場合がある。そのためにこの中央ハイツのような集合住宅で建物玄関がオートロックになっていない場所の場合、小さく三つ折りにして取っ手近くの扉の脇にはさむ。扉を開けようとする者の目に付くし、扉を開けたら落ちるからより目に付くという寸法だ。オートロック玄関のマンションでは、複数宅配物がある場合一度中に入ったらそのまま建物内を回るのだが、帰りしなに建物入口にあるポストに不在票を入れる。目に付く郵便口にあっかんべーと舌を出すよう不在票を挟まないのがせめてもの情け、だ。
「本来なら、ねえ」
ジュディはもったいぶった言い方をした。
「あ、秘密ですよこれは」
祐平は秘密の共有を持ちかけた。ジュディはわかったと頷いた。

ジュディに梨田という助手がいることと祐平が階段を足繁く上下した結果、中央ハイツの宅配は祐平が予想していたよりも5分ばかり早く終わった。
「フンコロガシみたいね」
とは、台車を押して歩いたジュディの感想。
機械の操作もジュディはもうばっちりだ。
「結構残るもんね。土曜日だっつうのにみんなどこ行ってんのかしら」
ジュディはそう言いながら不在だった宅配物をトラックに積みなおした。不在のために持ち帰った宅配物は中央ハイツ全体の3分の1ほどに及んだ。これでも平日よりさばけたほうだ。

「この伝票すごいですね」
「はい?」
祐平がいざ次の場所へと走り出そうとした車内で梨田が言った。
「ほら、ちゃんと上から順番にならんでて、すごくやりやすかったですもんね。やはりちゃんと計算してならべてるんですか?」
(当たり前だろ梨田よ。見てなかったのか営業所でのおれの手さばきを。)
「はは、まあ慣れですよ」
祐平はバック厳禁とシールが貼られたトラックを少しバックさせ、体勢を整えると走り出した。決まり通りなるべくバックはしない祐平だが、中央ハイツの宅配便駐車エリアは袋小路になっているのでしょうがない。
「あの、早速で悪いですけど、先ほどいただいたみかんって今食べてもいいですか?」
梨田が申し訳なさそうに、しかしずうずうしく言った。
「いいですよ。もう次に着きますけど」
「いいよ梨田くん。あたしがひとりで運びますからね」
ジュディは所長から渡されたこのエリアの詳細な地図を拡大コピーしたものを熱心に見ながら言った。
「すいません。ちょっとお腹減っちゃって」
(梨田。今のはジュディの皮肉というやつではないかい?。)
みかんを手にすると梨田は、
「あ、先生もどうですか?」
と言った。
(車酔いするやつにみかん食わしてどうすんだ梨田。)
「いらない」
「そうですか。おいしそうですよ?」
(そういう問題じゃねえ。)
「いいよ」
「愛媛産ですよ?」
(だからそういう問題じゃねえってば。)
「いいよって。あんたひとりで食いなよ」
「そうですか。あ、高窪さんに剥きましょうか?」
「さあ、着きました。山下さんはそこの赤い屋根の家とその隣とその向かいの家です」
祐平は梨田に対し聞こえていないふりをした。
ジュディは地図を見ながらなにやら頷いて、
「ずいぶん変な順番で回るのねえ」
と言った。
「ああ、まずは時間指定された荷物を優先しますからね。とりあえず時間指定を回りきるまでは時間指定のついでに近くの普通の荷物を配る感じです。最初のあそこは特別です」
「なるほど、そう言えば時間指定宅配なんてものがあったっけ」
「ええ、大変なんですよ時間指定を破っちゃうと」
祐平は少し前に、バイトの沖田がいくつかの時間指定宅配の存在に気付かず、頭を下げて回ったことを話そうとしたが、時間がないことに気がついてやめた。
「では、お願いします。伝票は一応上から順番になってると思いますが、確認をしてくださいね」
「ええ、梨田く…あんたなに呑気にみかんほおばってんのよ」
「ほえ?」
「間抜けな声出してんじゃないよまったく、荷物取ってよ」
「でも先生、僕は基本手伝わないと」
「臨機応変にものを考えなさいよ。使えるもんは親でも使う、でしょ。せっかく荷台にいるんだから。あんたちょっと大丈夫かね」
(それはそうだぞ梨田。)
「はあ、わかりました。えっと」
「ああ、その奥にある一番上の花と、横のピンクのお歳暮とそこの小さな青いやつですね」
そう言うと祐平は車から降り、トラックの後ろに回ると観音開きのドアを開け、自分の配る宅配物を取ると駆けていった。

「へえ、てきぱきと動くもんだねえ」
「いやあすごいですね。シミュレーション通りに、とでも言いますか」
「さあこっちものんびりしてる暇はない。あんたその持ちづらそうな花持って」
「はい。でもこれよりピンクのやつのが重いですよ?。油かなこれ」
「あんたはあたしに無駄話に油売ってる暇はないってどうしようもないこと言わせたいの?」
「すいません」

祐平がトラックに戻ると、ジュディがご立腹だった。
「どういうことこれ、日付も時間も指定しておいて留守ってどういうことよ」
どうやらそういう事情らしい。
「人としてどうかと思うわ」
「青いやつですか?」
「ええ」
「高橋さんか…この時間なら普段はいるんですけどねえ」
「なぜこの指定された日に限っ………こういうことはよくあるんですか?」
ジュディは少し冷静になった。というよりも、立腹はただのポーズだ。
「ありますよ。さすがに、よく、ではないですけど」
本当はよくあることだったが、面倒くさくなりそうだったので祐平はそう言った。
「高窪さん、次はどの荷物ですか?」
梨田がすっからかんといった具合に言った。
(伝票見ろよ!。上から順番だっつったろバカ!。)
「次は僕から見て右端の上のやつらです」
「わかりました」
(わかりましたじゃねえよ。)
祐平はエンジンをかけ、トラックは走り出した。
「あ、あと、高窪さん、不在だった荷物はどこらへんに置けばいいですかね?」
「…わかりやすい場所に置いといてください」
ジュディはまた地図を見ていた。

すぐに次の場所に着くと、ジュディ達に指示を出し、祐平は走り出した。いいリズムだ。ジュディ達がいなければ。
この場所の宅配物で祐平はジュディに対し些細ないじわるをしかけていた。別に悪意の賜物ではなく、他愛ないアイデアで、これは話のタネになるだろうなと思い、思いついちゃったならやるよりしょうがない、としかけたいたずらだった。
ジュディの訪れるアパートは四階建てのワンフロアツールームのちびた鉛筆アパートだが、その玄関前にはルーム番号も表札も出されてなく、はじめて訪れた人は2択を迫られる不親切なアパートだった。もちろん、今はどこに誰が住んでいるのかを把握している祐平だが、バイトで訪れたときには2択を迫られた。意を決し、山勘でチャイムを押そうとしたときに、たまたま同業他社のプロが現れて、訊くことにより事なきを得た過去があった。
いわば通過儀礼だ、祐平はハンコをもらいながら心のなかでほくそ笑んだ。

祐平がトラックに戻ると、梨田がいるだけで、まだジュディは帰っていなかった。
(悩め、悩め、悩み抜けジュディ。そしてチャイムを間違えろ。)
祐平は伝票の整理や梨田への指示をしながらジュディがどういう風な面もちで帰ってくるか想像し、梨田に見られないようニヤニヤした。
「あ、きたきた」
梨田が言う。ジュディが帰ってきた。手には伝票と機械だけで、宅配物は抱えていない。顔も、普通、といった具合だった。
「変なアパートもあるんだねえ」
開口一番、ジュディはどこか嬉しそうにそう言った。
「変な、ですか?、あ、しまった。大丈夫でしたか?」
しめしめと思いながら、祐平は白々しく言った。
「大丈夫。アパートの入口で朝にあったバイト君にあってねえ。ここは注意してくださいって」
「ああ、沖田君に教えてもらったんですか。よかった。いやすいませんでした」
(沖田いつのまに!。裏に停めてやがったな。)
「いいのよ。だけどあんな風な建物ってよくあるの?」
「ここいらではあそこぐらいですね」
「ふうん。あそこぐらいなんだ。なるほどねえ」ジュディは、本当は部屋の前まで行き着き、しばし2択に悩んだあと、一旦トラックに戻ろうとした時にアパートの入口で沖田にあったのだった。
「え?、なんですかふたりで」
ひとり会話に置いてけぼりの梨田を無視する形で、ジュディが、
「さあ次に行きましょう」
と言った。
祐平はジュディがいじわるされたことに薄々感づいたことに気がついていなかった。
愚策を弄する者は往々にして、相手の心理を読むにあたり自分の策に都合の良い方向へしか読めない。