からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -84ページ目

2009/10/15


あなたのペット、自慢して!
ブログネタ:あなたのペット、自慢して! 参加中



あたしさ、ペットというペットってみんな死んじゃうじゃない?
年を重ねれば悲しみに強くなるのかななんて思ってたけど、実は逆でさ。悲しみをやり過ごす術を学んだだけで、悲しみって強くなる一方じゃない。別れがとっても悲しくいからあたしもうペットは飼わないの。でも飼ってるのペット。うふふ、矛☆盾☆?

あたしのペットはね、右足の小指にいるの。あたし右足の小指の爪が真ん中から左右に別れてるのよね。それの左側の爪を飼ってるの。右側の爪ってただの爪じゃない?でも左はペットなの。これなら死なないでしょ?あたしが生きてるかぎり。
“マイナ”って名前なの。かわいいんだ。あたしと違って伸びるしね。普段あんまりペディキュアってしないんだけど、マイナだけは毎日ニスを塗るの。木工用よ。たくましいでしょ木工用。

マイナは切らないよ。だってかわいそうじゃない。だからあたしの右足の小指、すごい段差あったの。
段差、あったの。
そう今はもうないの。

黒いエナメルのボンテージパンツを履いたとき、引っかかってさ。なまじ木工用ニスなんか塗ってたもんだから根元からもげちゃって。もげちゃってね。だからあたしの右足の小指、今はマイナスの段差なの。悲しくなりたくないから飼ってたのに、不思議ね。悲しい。

マイナの跡は、段々と右側の爪に侵食されてるの。ひょっとしたら一枚になるのかもしれないわ。もう二度と、マイナに逢えないかもしれないわ。

話は変わるけど、今、崖の上のポニョ見ながらこれ書いてたの。不思議ね。楽しくない。

FreBull Family Style

やらかした

やっちゃった。次回投稿予定の宅配屋と喫茶店(6)、やっちゃった。




やっちゃった。おかしいなあ、こういうことしない物語だって聞いてたんだけど。書きたかった話ぶっ飛んじゃった。

宅配屋と喫茶店(5)

「へえ、この二日見ないうちにそんなことがあったとはねえ」
「ほんと、びっくりしましたよ」
珍しく興奮気味に語る祐平の話を喫茶店のマスターはニヤニヤと笑みを浮かべて聞いている。
「ほんで、それからどうしたんで?」
「いやあ、それがですね、忘れてたんですよ。ほら、腹痛になってた編集さん。置いてけぼりにしてたんです」
「ああ、そりゃあ片一方でそんなことが起こってりゃなあ」
「そうなんですよ。そのあとまあ拾ったんですが、大の男がすねちゃって、大変でした」
「みっともねえな。でもまあ、何時間置いてけぼりにしてたんだ?」
「昼からですから、おおよそ、六時間ですね」
「仕方ねえなそりゃお前」
「ところで、あの」
「なに?」
「奥さんは先ほどから何を?」
まるで孫の話を聴くように耳を傾けるマスターに普段なら激しい口撃をしかけてくるはずの奥さんが、さっきからずっと厨房にこもって、思い出したよう時折ちゃちゃを入れてくるだけだ。
「ああ、なんだか新メニューを開発するとか言ってかかりっきりよ」
「へえ、新メニューですか。二日見ない間にってやつですか」
「あれよ、祐平君が入れ知恵するからよ」
「へ?」
祐平は二日前に“された”唐揚げの話を思い出した。それしかマスターの言う入れ知恵に思い当たる話はない。
知らぬが仏、という言葉があるが、人間なにかキーワードを示唆されるとその気が出てきて、その事柄が今まで平然と或いは知らずして我慢していたとしても、キーとなるイメージを知った瞬間から我慢するのが難しくなるものだ。そのキーワードとは、例えば、最新のファッションアイテム、であったり、熟年離婚、などである。人は知らぬ間に十分間じっと身動きしないでいることは容易で時にそれはのんびりしていたとなるが、人から十分間動くなと言われた瞬間からその十分間は苦行にかわる。
この日は日曜日で、周りに中小企業のオフィスが乱立しているこの喫茶店は本来なら休みである。だが、12月などの祐平が日曜日に休日を持ってくる時には臨時開店する。「休みっつっても、どうせ店に出ることぐれえしかやることなんかねえんだよ」とはマスターの談。「僕もです」とは祐平の談。このサービスを祐平はありがたいと思うと同時に、ここまでされたらそうしないわけにはいかない、とも思う。
なぜこの時期祐平の休日が日曜日に移動するかというと、日曜日、すなわち休日は在宅率が高く、道もすいているし宅配物がどんどんさばけるために割合忙しくないからである。忙しくないから祐平のような出向ドライバーは仕事を臨時ドライバーに任せ、休む。任せるといってももちろん別のプロがつく。数が勝負の臨時ドライバーにとっては稼ぎ時とも言える。なによりどんどんと計算通りに宅配物がさばけるためにストレスがたまらない。平日と比べると休日は格段に楽なのだ。

「さあできた。祐平君ちょっと味見してって」
祐平の前に出された、奥さんがかかりっきりになっていた新メニューとは…………。

その日、祐平は朝からイライラしていた。昨日のモヤモヤが気になって入眠に手間取り、ノンレム睡眠中に起き、短時間睡眠でもすっきり起きることができる、として有名な90分睡眠をとれず入眠から65分後という中途半端なレム睡眠中に起きたということもあるが、なにより引きずるモヤモヤや疲れがイライラに昇華した。労働の忙しさで手いっぱいで、何も考えずにいたいのに小さなこととはいえそんなモヤモヤを抱え込んでしまったら。祐平の精神許容の風船は針をつつけば弾けたかけらがリバプールまで飛んでいってしまいそうになっていた。
でも、やはり特製サンドイッチは作っている。
克明を拾い、この日克明からもらった駄賃は百円ライターだった、克明に今日のことを伺うと、
「それはおれの口からは言えないんだ」
と半笑いで言われ、祐平は「アクセル全開で橋の欄干にぶつかってやろうか」と座った眼をして思った。しなかったが。
珍しく会社でため息をついて着ていた上着を会社のジャンパーに替えると、早速祐平は所長の山下に呼ばれた。
「ええ、こ、こちらが今日一日高窪君と一緒にC地区を回る、えっと、ええ」
所長はなぜか歯に羽毛布団をきせるようなものいいだった。もちろん、このようなタイミングでバイトを紹介されることなど、通常はない。山下の隣にいる二人の男女が普通のバイトではないということだけ祐平に伝わった。祐平は反射的にこの営業所の評価を下すために本社からやってきた人間かと思ったが、そのような人間ならば出向ドライバーである自分が適任なわけがないし、そもそもそんなシステムの話を聞いたことがない、と否定した。
山下が紹介に手間取る様子に隣の小柄な女性が、やれやれ、といった表情で山下を見つめたあと、
「どうもはじめまして。山下ジュディと申します」
「は?」
イライラの峠にさしかかりようやくこれから下り坂だと思った矢先に、髪を橙色に染めてはいるが日本顔丸出しの顔でジュディと名乗られたそのギャップに思わず、祐平は小さな戸惑いとイライラを込めた声を出してしまったが、女のあとに続きすぐに隣の男が、
「その編集を担当させていただいています、梨田です」
と言ったので、祐平の発した声はジュディに届かなかった。
そしてかたわらの編集と名乗る男により、この山下ジュディという珍奇な名前に合点がいった。
「え?あの、あの山下ジュディ、いや山下ジュディさん、いや山下ジュディ先生でよろしいのですか?」
山下ジュディといえばその名声が天下に響く直木賞作家だ。受賞して以来出す本出す本ベストセラーのメディアに顔を出さず個人情報をさらさないことで有名な人物である。その個人情報の秘匿は本名を非公開にしているほどだ。しかし名前こそ知っていたが、祐平はジュディの作品を読んだことがない。というよりも、以前その直木賞受賞作である「断罪レストラン」を古本屋の特価ワゴン販売で目にし、ぺらぺらと立ち読みして以来、祐平の「二度と読むことはないであろう作家」リストに追加された経緯がある。その後ろめたさといきなり目の前に顔を出さない有名人であり後ろめたさの元凶である本人が現れた驚きとで、しどろもどろになった。
「あら、セイちゃん、あっと所長、彼に何も言わなかったの?」
「ちょっと突然だったし、プレッシャーになると悪いから」
山下の下の名前は誠一(せいいち)だ。この山下とジュディの会話、そして二人の年齢、なによりジュディの割れたアゴにより、祐平はおおよそすべてを悟った。そして、その山下の気遣いのおかげでこっちは眠れぬ夜を過ごしたのかと一瞬イライラが再発しかけたが、一片の謎がとけたことによりそれはすぐ治まった。
「えっと、樹里さん、違う、ジュディさんは」
図らずもジュディの本名を祐平は垣間見た。
「しっかりしなさいよ。あんた所長でしょ。ねえ。今日は家族としてじゃなく、あ、いつも弟がお世話になっています。それと今日一日よろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げたジュディ。祐平は、はは、と苦笑いをしたのち、はっとして、こちらこそと頭を下げた。遠巻きに同僚がこの成り行きを仕事をしているふりをしながらみていた。
「まま、祐平君も色々と準備があるから、一旦こちらにでも」
「その準備がみてみたいのですけどねえ」
どうやら、来訪目的が取材というやつらしいことがわかった。
「そのね、話があるんですよ色々」
「いやねえ、どうせ陰であたしの悪口言うんでしょ?」
「勘弁してくれよお姉ちゃん」
「はいはい。あ、ごめんなさいね、どうぞどうぞおかまいなく」
かまわなきゃ文句書き殴るつもりだろうが!かまわれたくないなら来るんじゃねえよ!、もちろん祐平はそれを声には出さなかった。
祐平はぽてぽてと一旦、ロッカー室に戻った。それは山下と目でやりとりした行動だ。
「どう?」
ロッカー室では克明がニタニタと笑顔を浮かべて待っていた。
「どうもこうも」
「大変だぞお前」
「いやでもいつも通りにやるだけでしょ。単純に時間ないですし」
「お前知ってるよな?」
「え?山下さんの姉だってことですか?」
「違うよ。それも驚いたけどさ。昨日な」
「はあ」克明の言いぐさに祐平はむかっとした。
「知らねえの?」
克明は、これは困ったぞとでも言いたげに、腕を組んで片手をアゴに置き顔を覗き込むようにして祐平に言った。
「なんですか?なにかあるなら早く教えてください」
「ああ、あの山下ジュディ、少し前にな、エッセイだかコラムだかのなかで“配達員は猿以下のバカがやる仕事、総じて人間のクズ”だと言ったんだよ。結構有名な話だぜ」
祐平はそのジュディが記したという内容よりも、ともかく目先にいるこの気色悪いニタニタ顔のゴリラに無性にむかついて一計を案じた。
「そりゃひどい言われようですね」
「そうだろ」
「なんか言ってやりますか。どの口で言いやがったんだって」
「おう、言っちゃえよ」
克明は釣り針に食いついた。
「ちなみに土井さんならなんて言います?」
「そうだなおれなら、てめえジュディだかマリーだか知らねえがお前が書いた森林破壊の元になってるつまらねえ本を読者に運んでんのは」
意気高々に朗々と文句を語り始めたその時、ロッカー室の扉の奥から「ごほん」と咳払いがひとつ。
人間、咳払いひとつでも瞬時に人物を特定できるものだ。血の気が引くとはまさにこのこと、顔面蒼白になる克明をみて、祐平の溜飲は下がった。
ロッカー室に入り、克明を無視して祐平に馴染みの平謝りをする山下。克明はそそくさと出ていった。
「難しいことは言わない。とにかく、いつも通りに頼む。お客様を第一に。なにか文句を言ってきかなかったら殴ってもいいから」
「そんなことするわけないじゃないですか」
姉の前と今とではずいぶん態度が違うなと思うと同時に、祐平はこのアゴの割れた上司から頼もしさを感じた。
「悪い。頼んだ。なにかあったらすぐにおれに電話してくれ」
「はい。わかりました」

山下が部屋を出て独りきりになると、祐平は、
「猿以下か、少なくとも土井さんは」
とつぶやいて、にたりと笑った。しかしすぐに、
「少なくとも土井さんとおれか」
とつぶやきを重ねて部屋を出た。





料理や料理たまふるみなも

突然の思いつきで彼氏に腕を振るい手の込んだ料理を作ったと想像して欲しいんだ。別に彼女でもいいんだけど。

さて、精いっぱい作った料理をわくわくしながら彼氏の前に出しました。どんなリアクションをするのだろう。どんな風にほめられるのだろう。あなたの胸はたかなりますわな。
しかし彼氏は料理を無言で食べました。それどころかテレビ観ながらの片手間で食べました。新聞を読んだりもしています。

あなたはどう思いますか?無言で料理を食べる彼氏にイライラしませんか?なぜ料理に注目しないのだと憤慨しませんか?なにこいつ最低だと彼氏に文句を言いやしませんか?キィー、となりませんか?頭の中で虫歯の虫が大戦争を始めませんか?それはもう手遅れな可能性があります。…………。バンと食卓に箸を殴りつけ、顔もみたくないとばかりに自室にこもりやしませんか?
そうでしょうそうでしょう。相手に対して勝手に期待を抱いていたとはいえ、期待を裏切られるとはこのことですね。些細な事象かもしれませんが、この手のすれ違いは結構きつい仕打ちですね。



こんなことをだらだらと続けて私が何を言いたいのかと言いますと、ベッドに横たわるマグロについてなのですよ。あれほど期待を裏切られるものは無いのです。いじれどもいじれども無反応。そう、まるで上記のような感情に陥るのです。料理だけにマグロ、ハワイの風を感じます。「ポキ」ですね。

なに私を感じさせられない男が悪い?。それはあなたが悪い。快楽とは与えられるものではなく結局のところ自己完結させるものなのですから。

気遣っていこう。この世知辛い世の中せめてベッドの中ぐらい相手を気遣っていこう。私はそう思う。そしてそう思いながら、私はハワイアン居酒屋でマグロのポキを食べている。ただそれだけのことなのでした。


いかん、いかんぞ。とにかくいかん(性的な意味じゃなし)。

宅配屋と喫茶店(4)

準備が整い、さあ担当エリアまでかっ飛ばすか、意気揚々と会社トラックに乗り込まんとした時、祐平は所長の山下に呼び止められた。
「祐平君、ちょっと待って、忘れてた忘れてた」
この時期の所長は宅配物の事故処理とクレーム処理に追われている。
祐平は、何かミスをしてしまったか、と瞬間的に頭を回したが、特に思いあたることはなかった。
「はい」
「悪い悪い、あのねえ」
「はあ」
「えっと、まずはこれね、新しいの」
そう言って、歳より若く見えることが自慢の色黒ではないのになぜか色黒だという印象を残すアゴの割れた不思議な顔立ちの所長が笑顔で祐平に、ぺら紙一枚を差し出した。
「ああ、なるほど」
祐平は受け取った紙をじっと見た。そこには男の顔のイラストが大きく印刷されていた。
「ね、よろしく」
それは指名手配犯のイラスト写真であった。配達員というものは職務上否応なく、担当エリアの数百数千にのぼるほとんど全ての人間の名前や住所はもちろんのこと、顔、家族構成、ペット、大まかな職業、趣味、生活サイクル、いつごろ引っ越してきたか、どのような人たちと関係があるのか、を脳内にメモリーしている。あくまでも職務上否応なく、である。宅配物と玄関から垣間見る人間模様というのもなかなかおもしろいものがあり、宅配員になってからまだまだベテランなどというものではない祐平だが、色々なものを見てきた。
コアなアニメグッズを買うこわもての入れ墨ジジイ。
自分は歴史作家だぞと誇示し自著を渡してくる自己顕示の強いおばさん。必ず、どうだった?、と訊いてくるので迷惑極まりない。
定期的に実家から米などが届く若いバンドマン。
結構いいマンションに一人暮らししてるニート。
毎日配達終わりに栄養ドリンクをくれる老人ホーム。
人間不信の女。
待ち人があると玄関を開けて待っている盲人。
お母さんの言いつけを守り決して玄関を開けない子供。
自社ビルを持つ弁護士の趣味はサバイバルゲーム。
初めてその家に訪れた人では中の住人を呼び出す方法がわからないであろう家。
夫や義理親に内緒でブランド品を買いまくる町工場の若奥さん。
亀を愛してる若奥さん。
暇を持て余す若奥さん。
おたわむれに中へとお誘いになる若奥さん。
それに決して乗じない祐平。
引き寄せる若奥さん。
拒む祐平。
お遊びでおクレームをお嗜みになられた若奥さん。
お困りになる祐平。
等々。某宅配業者のテレビコマーシャルでおなじみ「いつものお兄さん」といわれる宅配員は、逆の言い方をすれば、あなたがその宅配員を知っている以上に、宅配員が町のみんなを知っている、のである。

その能力を犯罪捜査に活用しない理由がない、というわけだ。いわば走るビジネスホテルの受付の裏だ。宅配員による通報がきっかけの検挙の割合などゼロに近いだろうが。

「…強盗殺人犯ですか。会いたくないですね」
「なんでもねえ、知ってる?ここ最近D区で連続して放火があったんだけど、なんでもそれもコイツの仕業、手口らしいんだよ」
「強盗殺人犯で連続放火魔ですか。どういう奴なんですかそいつは」
「いや、こういう奴だよ」
そう言って所長はニコニコと手配イラストを指した。
「…はい」
「うんうん」
所長もだいぶ疲れがたまってきているなと祐平は察した。
「…ますます会いたくないですね。逃亡中で、ハンコ持ってんですかねえ」
「なに、ハンコ持ってなかったらフルネームでのサインが基本だからね。顔と本名確認次第、そこで君がババッと犯人の首根っこを捕まえて」
「返り討ちにされる、ですかね」
「はは、まあさすがに指名手配犯が受取人に自分の名前を表記しているなんてバカなことはないにしても、本人受取じゃなくても本名でサインは書かないでしょ。つい書いちゃったってんならそいつは稀にみるバカだね。まあ冗談はさて置き」
「はい」
「明日、君にバイト付くから」
「はあ、あの、一応訊きますがどっちのですか?」
どっちの、とは、例の2006年に道路交通法改正により誕生した駐車監視員対策として、宅配業者が新たに募集を始めた、いわゆる助手席に座ってるだけのバイトか、一緒に宅配を手伝ってくれるバイトか、を指している。一応、と付けたのはもう助手席に座っているだけのバイトが要らないことがわかった、つまり余程のことがない限り宅配の車は取締りをされないことが年月を経てわかったことと、祐平の担当エリアは住宅街で、そもそも駐車禁止の場所がほぼないのだ。よって祐平のトラックにはそのバイト者は必要なかった。
しかし、前者も後者も、このように前日に宣言されるということは無い。前者はさて置き、後者の場合通常は朝に、今日はきつそうだ、というエリア順にバイトがあてがわれていくからだ。
「うーん、まあ、それは明日ふたりで決めてくれ」
山下の表情が打って変わって曇った。
「えっ、どういうことですか?」
「ま、君が適任、かなと」
「僕、が?、はあ、一体どういう…」
祐平は戸惑った。こんなあやふやなこと山下から言われたことがない。そんな祐平をよそに、山下はまたニコニコになって、
「ままま、さあ今日も一日よろしく!さあ時間ないよ!いってらっしゃい!」
と言った。
山下に見送られ、祐平はモヤモヤした気持ちのまま担当エリアに向かった。ちなみに「遠い担当エリア」の場合、得てして現場近くに別の配送基地があり、プロドライバーは担当臨時ドライバーの世話以外のことはそっちで行うのだが、ややこしくなるだけなのでそのことはばっさりと割愛する。

しかし、その祐平のモヤモヤもすぐに忙しさの前に吹き飛んだ。山下が言ったように、時間がないのだ。時刻は8時になろうとしている。8時になった瞬間から早速、時間指定された宅配物との戦いが始まる。
祐平の会社では、時間指定の区切り方には、朝の8時から10時、10時から12時、午前中、12時から3時、以降また二時間ずつ区切られ、最後に9時から10時、がある。先に述べたように、これを一分一秒でも過ぎると山下の出番になる場合がある。また、一分一秒“早く”ても、それはある。それは当然といえば当然なのかもしれないし、現に宅配員は余程のことがない限りそれを厳守してるし、それができるよう人口を鑑みて会社が担当エリアを区分しているのだが、やはり繁忙期には大きなプレッシャーになる。すべての宅配物がひとつの時間帯に集中していた、という夢を見てうなされることが祐平のみる悪夢だ。
ここでひとつ気にかけて欲しいことがある、最後の時間指定帯である9時から10時のことだ。
まず、原則的にプロドライバーは担当エリアに10時まで居る。それはこの時間区分があることもそうだが、その日の宅配物はその日のうちに、というのがこれまた原則としてある。その、その日のうち、というのが10時を基準としているのだ。不在の宅配物がひとつでも残っていればプロドライバーは10時まで現場に待機する。そしてすべからく不在の宅配物が残っていない日など稀である。
そして、この時期帯が一時間しかないことだ。この時期帯を指定する宅配物が他の時間帯に比べ少ないとはいえ、繁忙期ではなにより宅配物の総量が桁違いである。必然的にこの時間を指定した宅配物の量が増える。また、この時間帯は最後の努力を“見せ”なければいけない時間だ。その日の宅配物はその日のうちに、なのだ。不在票を置いた家に最後の電話をかける。出たら即宅配。そして、案外、時によかれと思って、時にバカバカしくて、こんな時間だからと、帰宅しながらも不在票にかかれた携帯電話番号に電話をしない、しわすれた人が結構いる。そしてそして、ここは賛否の否に意見が片寄るところだろうが、電話にも出なかった家には、最後の最後にまた直接出向く。これは宅配物をできるだけさばくためもあるが、客から今日届くはずの荷物が届いていないと、と文句を言われた時に、うちはやることやりました、と返すためでもある。これまた案外、電話にでんわ、もとい、電話には出なくても在宅率は高い。客にしてみればこんな時間になんだ、無礼と迷惑が千万じゃないかという話だが、特にこの時期は宅配員も必死で、とてもじゃないが相手のことなど気にかけて
いる余裕はない。時間に追われているのだ。ちなみにマンションなどには入口に宅配ボックスというものが、宅配員は原則使用禁止である。ましてや、玄関の前に置いといてなど絶対に受け付けられない注文である。ハンコやサイン、証明スタンプなどが用意されていてもだ。受取人に手渡し、が宅配の原則だからである。宅配物は受取人もしくはそれに代わる人物が受け取るまでが宅配物であるらしく、たとえ本人の指示に従ってそれらを行った結果宅配物が盗まれたりしても、その責任は宅配業者にかかる。だから禁止なのだ。とはいえ、人間だもの、客から宅配ボックスに入れておけ等言われれば、融通することも、ある。やるときはやる。

現地に着いた祐平は宅配をしつつ個宅から集荷の連絡を受け、沖田のフォローをしつつ昼頃から特性サンドイッチを宅配一件ごとに一口ずつついばみ、営業所に戻っては新しい宅配物を仕分け、積み込み、営業所にある軽食の自動販売機で夜食のサンドイッチを買い、また走り出す。そんなこんなで息つく暇なくあっという間に夜が来て、最後のラッシュをかける。10時を過ぎても、実はまだ配っている。頃合いを見て事務所に戻り残務をこなす。

「あのぉ、すいません」
「はい?」
今日の宅配個数を専用の表に書き込む沖田と雑談をしているとき、祐平は臨時ドライバーの平均年齢と比較すると若い臨時ドライバーの女に話しかけられた。新人だ。
「この機械のことなんですけど」
女が差し出す機械とは、臨時ドライバー用のバーコードリーダーであった。臨時ドライバー用はプロ仕様の機械をおもちゃにしたようなやつで、営業所から宅配物を持ち出す時に伝票を読み込み、受取時に伝票を読み込むだけの機能を有している。バイトに代引きなどもってのほかだ。
「どうしました?」
「あのぉ、ちょっとミスしちゃいまして、お客さんが受け取ってないのに読み込んじゃったんですよぉ。すいません。それを消したいんですけどどうしたらいいか」
「ああ、それはですね。確か、それのBボタンありますでしょ。ああいや、“戻る”ボタン。うん。それを間違ったところの上で長押ししてみてください。確かそれでいけるはずです」
「えっと、………あっはいはい」
「できました?」
「あっ、できました。すいません、ありがとうございました」
いいえとんでもない、と言って祐平は笑顔をつくった。

「なあ、お前明日大変だぞ」
帰り道、肩口から克明がからかうように祐平に言った。
「明日って、僕にヘルパーがつくって話で?」
思い出して祐平はまたモヤモヤした。
「ふふふ」
「なんなんですかあれ。何か知ってるんですか?」
「それはお前、明日になってのお楽しみってやつよ」