からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜 -139ページ目

すっきりしたい

好きな先生がいた。大学出たての若い女教師。おれは中一。好きな、というのは恩師という意味ではなく、紛れもなく恋心だった。男子校だし。その先生はみんなのマドンナだった。マドンナでもちやほやされるとは限らない。ましてやブリーフからトランクスに履き替える年頃、第二次性徴真っ只中の針でつつけばミサイルみたく飛んでいくだろう男子中学生。先生の、どこかつっぱった、厳しい性格もあり、みんな先生の悪口を言った。あいつは生意気だとか腕毛ボーボーだぜとか。みんな素直に好きだと言えないから。布団に入ればたまに素直になって。
おれ達が中学を卒業すると同時にその先生も遠くの兄弟校へ行くことになった。中高一貫教育だったから、卒業といってもほぼみんなすんなり上に上がる。だから卒業らしい雰囲気はなかったのだけど、唯一それがすごく悲しかった。とはいえそんな態度はおくびにも出さず、別れの日はいつも通りの放課後の早さで通過して春休み。もう会えねえなあ、なんて。
高校生になってからしばらくして、その先生に手紙を出すことになった。出すことになったというからには当然個人的なものではなく、実質的に宿題のようなものだった。ここしかない、おれは思った。先生と繋がるチャンスはここしかない。
書いた。ひねくれまくった内容の、詰まるところラブレター。最後に記した手にしたばかりの携帯電話番号。
突然こんなことを思い出しておれは今頭を掻きしだいてる。すげー恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。飲み下せない。だから書いてみた。吐き出したいんだ。もちろんコールバックなんかなかった。当時の先生の年齢に近い今のおれにはわかる。気持ち悪いじゃんそんな奴。ほんともうね、頭いくら掻いても足りない。
ところで、高校の中頃、おれが停学くらって自宅謹慎していた時、家にやってきた担任がこう言ったことがある。
「お前、○○先生好きだっただろ?」
その担任は例の手紙を宿題に出した教師だ。
「そんな、おばさんじゃないですかあの人」
おれはこう答えたが、担任のあの確信めいた顔。お前、読んだだろ。おれの手紙。恥ず。恥ずか。頭をください。もっと頭を。掻きしだく頭が足りません。

アフォリズム

愚者の持つ杖は長く、重く、無用の長物と化す。賢者の持つ杖は愚者に奪われる定めにあるが、それは長く、重い。

人間魔が差せば大概のことはする。

岩につまづけば自然の厳しさと説き、それがごみなら人類の愚かさと説くチンバ。

意味はない。

微笑シリーズ。季節のろくでなし

『四月ということで』
「おう」
『六月の話をしたいと思います』
「なんでだよ」
『おれ六月が好きなんだよ』
「それはいいけど、やっぱり四月なんだから」
『六月はいいよぉ』
「すんのかよ、まあいいけど」
『なんてったって梅雨ですからね!』
「…それだけ?それだけ!?」
『梅雨ですから』
「はあ、それはむしろ六月のマイナス要素なんじゃないか?」
『マイナス要素ってお前、九月の秋雨前線じゃないんだから』
「同じだろ!まったく同じだ」
『まあ、梅雨ですからね六月は』
「梅雨しか言わないなお前、他にもあるだろ六月」
『ないだろ』
「いやあるだろ!例えばジューンブライド、六月の花嫁ね。六月の大安なんてどこの式場も予約でいっぱいなんだから」
『で?』
「いや、で?って言われても。だけど六月なんてそれこそ雨振ってるだけの月だろ。暑いのか寒いのかわかんないし、そのくせジメジメしてるわ」
『ジメジメ、ジメジメでジューン』
「なんでもエロに結びつけようとするお前はなんなんだ!?頭の中に何人童貞中学生入ってんだ」
『靴の先に小さな鏡つけてな』
「は?」
『いや、中学生の頃さ、靴の先に鏡つけてさ』
「ああ、まあ駄目だけどやるよな。スカートの中覗こうってんで」
『やっぱり彼もそんな中学生だったのかな?』
「彼ってお前、手鏡おじさんのことだろ?まあ、そんな奴だったんじゃねえの?知らねえけど」
『彼がノーパンしゃぶしゃぶの常連だったかどうかで意見はわかれるな』
「ノーパンしゃぶしゃぶか、ノーパンしゃぶしゃぶって一体なんだったんだろうな」
『うーん、やっぱり行ってみないことにはわからないよな。当時おれ子供だったけど』
「まあ、なあ」
『やっぱり体験しないことにはわからないよ。こうミニスカート付けて』
「お前が!?お前がノーパンなの!?」
『そりゃそうだろ』
「いやおかしいだろそれは」
『ああ、やっぱ金玉じゃ食欲わかないか』
「どっちみちしゃぶしゃぶはおまけなんじゃねえの!?あれみても食欲はわかないだろ」
『いや、だからそこはわからないだろ?行ったことないんだから』
「まあ、そうだけども」
『陰毛が落ちて鍋に入ったらイヤだな』
「陰毛は剃ってるだろ」
『なにその微妙な衛生管理』
「いや、衛生管理もそうだけど、エロ的に見て剛毛な女だったらノーパンの意味ないだろ」
『生真面目か』
「しかし、見えるのはあれだけじゃなく肛門もだろ?それ見ながらしゃぶしゃぶ食うんだろ?ホント、ノーパンしゃぶしゃぶってなんだったんだろうな」
『ま、それはいいとして、靴の先に鏡つけてもおれはスカートの中なんて覗かなかなったけどな』
「じゃあなに見てたんだよ」
『未来のおれの姿』
「どんな都市伝説だよ!」
『とにかく六月が好きなんですよおれは』
「そんな話だったな。しかしやっぱり六月ってそんないい月じゃないだろ。休みの日ないよな、確か」
『六月の他になんかいい月あんのかよ』
「そりゃあ、近いところで五月とか」
『ああ、金玉な』
「それじゃゴールデンボールだろ。ボケが直球だなおい。ゴールデンウィークな」
『でも五月には五月病ってもんがあるだろ』
「ああ、新年度から新しい生活が始まりちょうど五月頃になんか張り合いがなくなっちゃうやつな。それこそ大型連休で張りつめていたものが一気になくなっちゃうというか」
『ええ、実は僕は持病を抱えてまして』
「あの会見かよ。わかりづらいし、しょうもないよ」
『五月病なんです』
「持病になるような病気じゃないだろ五月病は。五月ってついてる意味を考える努力をしろよ」
『もう年中やる気がわかなくて、とにかくだるい』
「ただの鬱だろ。早く病院に行け」
『もうだるくてだるくて、もうダルビッシュ!』
「…どうした?さっきからお前、どうしようもなくしょうもないが」
『もうダルビッシュ!横漏れダルビッシュ!』
「どうしたんだよ!まったくもってつまらないんだけど」
『ダルビッシュ!後ろから前からダルビッシュ!』
「…前からも後ろからもダルビッシュが来たら、それは怖い以外の何者でもないな」
『挟み撃ちだよ。前も後ろもダルビッシュに塞がれて逃げ道がない。そんな時あなたどうしますか?』
「どうもこうもないけど」
『もうダルビッシュ!って叫ぶしかないでしょ?』
「それは、そうかもしれないけど」
『な?』
「……だからなんだよ」
『はぁ。想像してごらんよ。ダルビッシュに挟み撃ちされて、奴は投げつけてくるんだよ?時速160キロで金玉投げつけて』
「しょうもねえよ!」
『…そんな五月病なんです』
「わけわかんねえよもう」
『もうだるくてだるくて、でも六月は元気!ははは!』
「なんなんだよ!」
『豪速球も打ち返さんばかりに元気!』
「打つなよ。誰かがかわいそうだろ」
『え?』
「いや、豪速球って金玉だろ?その金玉の持ち主かわいそうだろ」
『え?』
「いやだから」
『ダルビッシュの持ってる金玉って、誰か他の男のなの?』
「…あ、そうじゃねえんだ」
『………もう六月は元気でね!』
「で、でも六月以外は元気じゃないんだろ?」
『六月以外五月病なんですよ』
「めんどくさいよ!六月以外五月病ってなんか違う病気だろ!なんかカレンダー的な!」
『カレンダー的な?』
「あの、なんか、六月以外全部五月のカレンダー作っちゃうみたいな」
『なんだよそれ』
「いや、ごめん」
『売ってないだろそんなカレンダー』
「そうだけど、ちょっとな」
『ちょっとなってなんだよ』
「うるさいよ!お前が六月以外五月病だなんてわけわかんねえ病名つけるからだろ!」
『病名?』
「そうだよ!六月以外五月病!」
『ああ、おれ「六月以外五月病」っていう病名を言ったわけじゃなくて、六月以外は五月病なんですよって意味で言ったんですけど』
「あ…そう」
『うん』
「ああ…ごめんな」
『……うん』
「そ、それで、お前六月以外に、あ、いや、六月の他に好きな月ないの?」
『別に六月以外って普通に使っていいんだぜ?』
「そうか、じゃあ六月以外に好きな月ないのか?」
『ないよ』
「即答だな」
『ないからな』
「じゃあ誕生日のある月とかは?」
『六月』
「ああ、じゃあなんか記念日のある月とか」
『大体六月』
「そうだろうな。六月好きなんだもんなお前。じゃあ、じゃあそうだな、夏休みに丸々一ヶ月休みになる月は?」
『八月だけど、なに?』
「あ、いや、まあまあ」
『なんだよ!おれが六月とでも言うと思ったわけ?』
「まあまあ、なんかちょっと、ごめん」
『……どうやらおれ達、相性が悪いようだな』
「そう…らしいな」
『やめるか、コンビ』
「…それがお互いの為かもな」
『へ、六月の記念日がまたひとつ増えちまったな』
「まだ六月きてないけど!?」



終わり。うーん…。

おなもみ

ついこないだ猫が逃げ出した。なんでもないような顔して帰ってきたが、猫の体には「おなもみ」みたいな植物のかけらがたくさんくっついていた。
おれ思った。「おなもみってお前、ギリギリアウトだろ」って。だって日本語に直訳すると、しゅいんもみ、だからね。もとから日本語だよおなもみ。おなもみ。おなもみ。おなもみー。おなもみ。おなもみー?うん、おなもみ。えなりかずき?うん、おなもみー。えなりかずきでおなもみーする女っているのかな?巣鴨系以外で。おなもみーってあれだよ。陰毛にひっつき虫をってもういいよ。陰毛だけに。じゃあ陰毛バイバイ。死ねよおれ。

微笑シリーズ。崖っぷちのメン

「よし、やるぞ、ちくしょう、知ったことか、飛ぶんだ。おれは飛ぶんだ。飛ぶぞ。飛んでやる。にゃはは」
『いくぞ、踏み出すんだ。この一歩を踏み出すんだ。ほら、踏み出せおれ。あるじゃないか。眼下に夢の世界が。いけ、何も怖くない。痛みだってないさ、きっと』
「よーし」
『よーし』
“いくぞ
いくぞ”
「え?」
『あ』
「………」
『………』
「…あ、どうも」
『ああ、どうもどうも、い、いやぁ、あ、今日はいい天気で』
「え?あ、はは、そうですねえ、気がつかなかった」
『というと?』
「はあ?ああいや」
『ああ、あなたもしかして、ひょっとしてここから飛び降りようとしてたり?』
「そういうあなたももしかして?」
『いや実はそうでして』
「あ、そうですか。これは、奇遇というかなんというか」
『いやまさに、ねぇ、やっぱりあれですか、下ばかり見てたから天気に気がつかなかったんですか?』
「ええ、実は」
『いや僕もね、家を出た時から下ばかり見てたんですけどね。ほら、僕の後ろは壁であなたの後ろは空が。視界に入っちゃって、気がついちゃって、はは』
「はあ」
『ははは、ったく………』
「はは………」
『………』
「………」
『いやしかし、奇遇なもんですねぇ』
「いやはやまったく」
『………』
「………」
『ひょっとして、あなた人見知りですか?』
「えっ、あ、いや、あの、はい、そうなんですよ」
『そうですかそうですか。実は僕もなんですよ人見知り』
「そうなんですか、いやはやこれはこれは」
『……はは、人見知り』
「はは……」
『………いやぁ、僕、人とどう会話をしたらいいかわからないんですよ』
「あ、僕もです。だから会社でもなかなか同僚と打ち解けることができなくて」
『ふっ……』
「…はは……」
『……あ、すみません。こういう場合はどんなお仕事をされているか伺うべきですよね』
「あ、いや」
『すみませんね、僕ほら人見知りで、会話が苦手でしてね、実は今もすごく苦痛で』
「あ」
『今すぐここから飛び降りて楽になっちゃおうかなぁ……』
「………」
『……なんて』
「えっ、あ、もしかしてギャグですか今の。飛び降りギャグというか。すみません僕そういうのよくわからなくて、なんていうんですか、雰囲気がわからないというか空気が読めないというか、だから会社でも浮いちゃって」
『………』
「……はは…」
『…ああ、すみません、で、どのようなおちご』
「…あ、飛び降りだけにお仕事を落ちごと、なるほど」
『いや、ただ噛んだだけで、すみません』
「いや、ははは、すみません本当早とちりで僕。だから会社でもミスが多くてですね。はは」
『ふっ……』
「………」
『……僕、ニートなんですよね』
「あ……」
『………』
「………」
『……で、お仕事はどのような?』
「こ、このタイミングでですか?」
『はあ?』
「いや、あの、普通のサラリーマンですはい」
『普通の?普通のと言われましても生まれてこのかた社会経験ゼロの僕には、生粋のニートの僕にはなんのことだかさっぱり』
「あ、いや、ですよね、はは」
『…笑いやがって』
「え!?いや、あの、普通の営業ですはい」
『いやだから普通のって言われても!』
「自動販売機取り付けの営業です!自販機の!」
『………』
「………」
『……ああ、前にテレビで見たことありますよ』
「そ、そうですか。多分それです」
『あの、ものさしでもって軒先の空いているスペースを測ったり』
「ええ、それです」
『そうですか。…ん?ああ、なるほど』
「はい?」
『だからですか、自販機の営業だけに自らの最期は飛び降りをするわけですね!』
「は?」
『あたかもボタンを押したら缶コーヒーがガチャンと落ちてくるかの如く』
「そんな理由じゃありません!」
『…こう、ガチャンと』
「違いますって!やめてください!」
『なるほど、あったかーい体だったのにガチャンと死んで段々とつめたーいに』
「違いますよ、なんですかそりゃ」
『あなた今飛び降りるタイミングを図りかねているんですよね?』
「そりゃあまあ、そうなりますけど」
『言うなれば誰も買い手がないと』
「買い手?」
『なんなら僕がお金入れましょうか?』
「買わなくていいよ!何円なんですか僕!」
『ふっ……』
「………」
『でもさ』
「はい?」
『お金入れても、ボタン、無いね』
「…はい」
『人生のリセットボタンを押そうとしているあなたにボタンが無いだなんて』
「は?」
『あなたを買うボタンが無いだなんて!』
「はあ」
『……そんなもんですよね、人生って』
「…はい」
『だがしかし!』
「はい!?」
『………』
「………」
『………』
「……なんですか」
『ああ、いや、特になにも』
「………」
『………』
「…あなたはなんでここへ?」
『ああ、家が近いんで徒歩で』
「ベタ!」
『わかりますか』
「わかりますけど」
『僕はほら、生まれてこのかたニートでしょ』
「はい、聞きました」
『正直どう思う?』
「正直、ですか?」
『うん、この際はっきり言ってよ』
「そうですか、まあ正直、なにやってんだと」
『………』
「い、いや、しかしですね、僕も同じ、結局同じというか、なんて言うか、ほら僕もこうしてビルの屋上の柵のりこえて崖っぷちに立っているわけですし、もうなんつうか今までの人生のことは関係ないというか、僕達きっと同じ種類の人間じゃないですか!」
『だろ?ふふん』
「うわ、今すごくむかついた」
『え?』
「あ、いや、なんでも」
『おれはさ、やることも金もないからずっと部屋にいてよ。一日中部屋にいて。でも働きたくなくてさ。ずっとずっと時計とにらめっこしてた』
「はあ、そりゃ」
『もうずっと、ずっとずっと見ててさ。今じゃストップウォッチで10秒を誤差0、05以内で止められるようになった』
「なんかポジティブ」
『は?』
「あ、いや」
『もちろん目隠しで』
「どうでもいいよ」
『は?』
「いやいや、なんでも」
『それでさ、昨日だよ。寝て起きたら家に誰もいないんだ。リビングの机の上に書き置きがあってさ、親から。“もう勝手にしなさい”って』
「もう勝手にしなさい、ですか」
『そう。わかる?これニートが一番恐れてる言葉。親の行き先もわからなくて、ま、もう調べる気もないけどさ。お金も無くて、それでも、それでも働きたくなくなくない?』
「急にかわいこぶりやがった」
『この気持ちわかる?』
「正直言ってわかりませんが」
『だろうなぁ。でも働きたくないんだ。自分でも不思議だよ。働くぐらいなら死んだ方がましだと思ってるんだ。現に今こうしてここにいるんだけど。ま、いつか親がおれに愛想つかすことはわかってたし。この日がくるのを覚悟してた』
「はあ」
『死ぬ気があるならなんでも出来る。あんなの嘘だ』
「確かに」
『やる気は全部死ぬ方に流れていってさ、あとにはなんも残らない』
「…はい」
『……まったく、人生ってなんだろう?』
「………」
『…ところであなたはなぜここに』
「えっ、あ、いや」
『言いたくないか、そうだな。そうだよ。ふっ……じゃあおれは先にいくよ。ピヨーン』
「明るく飛び降りたあ!あああ!………ああ…ああ…どうしよう…おれ、バンジージャンプしようとしてただけなのにぃ!」
『ピヨーン、僕もだよ』
「戻ってきたあ!」


終わり。本当はとてつもなく救いのない終わり方だったけど、強引に阻止した。だって書いてるおれが相当な精神的ダメージを受けたから。危なかった。それにしても…やめよう。