夜の大学内を跳梁跋扈する
日本の少数民族、文系院生の世界です。
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M&AやTOBの経済分析を通じて
「企業価値とはなんぞや?」と考えていこうと思います。
どうか末永いお付き合いを・・・・。
判例研究第2回
<八幡製鉄政治献金事件>昭和45年6月24日大法廷判決
事実
A株式会社の代表取締役Y1、Y2は、同社を代表して自民党に政治献金として350万円を寄付した。これに対し株主Xは代表訴訟を提起した。
(原告の主張)政治献金はA社の定款所定の事業目的に逸脱している。また、取締役の忠実義務に反す。その為、Y1、Y2は損害賠償責任がある。
(下級審)第一審では、政治献金を、非取引行為で社会的行為義務行為でもないとして、Xの主張を認めた。しかし、第二審では、会社を独立の社会的存在、社会の構成単位とした上で、対社会関係で有用な行為は、定款記載の目的達成に必要または有益であると否とに関わらずその目的の範囲に属する。慈善寄付同様、政治献金は会社の目的の範囲内の行為であり、忠実義務違反もないと判断し、Xが敗訴。原告より上告。
判旨
上告棄却
①政党に対する寄付は定款に定めた目的の範囲外の行為であり、会社はこの様な寄付をする権利の能力を有しないという主張について
「会社は、一定の営利事業を営むことを目的とするものであるから、会社の活動の重点が、定款所定の目的を遂行するうえに直接必要な行為に在することはいうまでもないところである。しかし社会は、他面において、自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであって、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうることであるといわなければならない。そしてまた、社会にとっても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあっても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。会社がその社会的役割を果たすために相当程度の寄付をするのは、社会通念上当然なことであり、株主も当然これを予想するものであるから、この様に解しても、株主の利益を害する心配はない。これを政党に対する政治資金の寄付についてみると、政党は議会制民主主義を支える不可欠なものであるから、国民は当然政党のあり方いかんについて重大な関心をもたざるをえない。したがって、社会の構成単位たるお会社に対しても、政党の発展に協力することが当然期待されるので、その協力の一態様としての政治資金の寄付も、会社に対し期待ないし要請される限りのものは、会社にその能力がないとはいえない」
②株式会社の政治献金は国民にのみ参政権を認めた憲法に反するという主張について
「参政権は自然人たる国民にのみ認められるが、会社も納税者であるから、国(地方公共団体)の施策に対して意見等の行動に出ても禁圧すべき理由はない。のみならず憲法の認める国民の権利義務は性質上可能な限り、内国法人にも適用があるものと解するべきで、会社も、国や政党の特定の政策を支持推進しまたは反対するなどの政治行為をなす自由を有する政治献金もまさにその一環である。」
③政治献金は忠実義務(旧商法254条の3)に反するという主張について
「商法254条の2の規定は民法644条所定の善管注意義務を敷衍し、かつ一掃明確にしたにとどまるのであって、所論のように、通常の委任関係に伴う善管注意義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することはできない。」
「取締役が会社を代表して政治資金の寄付をなすにあたっては、会社の規模、経営実績その社会的地位および寄付の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてその金額を決すべきである。したがってこの範囲を超えて不相応な寄付をすれば取締役の忠実義務に違反することになるが、原審の確定した事実に即して判断すると本件の寄付が合理的な範囲を超えていたとはなしえない。」
評釈
①政党に対する寄付は定款に定めた目的の範囲外の行為であり、会社はこの様な寄付をする権利の能力を有しないという主張について
判決は自然人と会社、また慈善寄付と政治献金を同一視し、会社構成員の政治信条の違いを同一視せず、政治献金を当然の社会的要請と解した。この点を、会社の寄付をなしうる所以をこのように株主の利益を離れた会社外の社会的要請に求めるのは妥当でないとして判決支持者からの批判も浴びた。
②株式会社の政治献金は国民にのみ参政権を認めた憲法に反するという主張について
会社も自然人と同様、憲法上の権利主体であることを始めて肯定し、禁止規定がない以上献金も自由で腐敗防止は立法政策の問題とした点は広く評価された。この背景にあるのは、現代社会においては自然人の組織する法人その他の団体の存在や活動を無視しえず、またそれが自然人の人権の保障とかかわりをもつという事実である。では、どの範囲までの人権保障が必要・可能なのだろうか。学説では財産権その他の経済的自由、法の下の平等、裁判などの請求権、また法定手続や法人にも必要な刑事手続上の諸権利、表現の自由は保障されると考えている。
③政治献金は忠実義務(旧商法254条の3)に反するという主張について
取締役は善管注意義務と忠実義務を負う。本判決は初めて両者を同一と解した。そして寄付が「合理的な範囲」を超えなければ、違反にならないとした。また、松田・大隈裁判官は上記の範囲を超えた場合は寄付そのものが無効と成るとしている。
私見
本判決の中特に①の理由の中に、企業の政治献金を積極的に賛美する様な箇所があるのが、気にかかる。政治献金は問題であるが、憲法や民商法では、対応できる問題では無く、特別法による解決が図られるべきであると考えるのが妥当であろう。
また①のところに、法人実在説を意識しているような箇所があることも気になる。最高裁は別の事件では法人格の否認の法理という法人擬制的な観点をとっている事を考えれば、一貫した姿勢に欠けるのではないだろうか。
参考文献
中原敏明・会社判例百選<第6版>8項
鈴木竹雄・会社判例百選<第5版>8項
久保田きぬ子・憲法の判例<第2版>186項
判例研究 第一回
<日産自動車男女別定年制訴訟上告審判決>昭和56年3月24日第3小法廷判決
事案の概要
昭和24年11月に人員整理を理由に解雇された原告が解雇の効力を争った事件において、訴訟の継続中にXは満50歳に達し、Yの就業規則にもとづき退職を命じられた。なおY会社は昭和48年に定年を男子60歳、女子55歳に改めた。
(原告の主張)就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である。
(被告の主張)男女別定年制には合理性がある
①男女別定年制は大多数の国民感情に反するものではないこと
②厚生年金保険法42条の老齢年金の受給資格が男子60歳、女子55歳となっていることをみても、同条は公序良俗に反していないことを前提としていること
③会社では、女子の担当業務は補助的業務に限られ、労働の質量とも減退が著しく従業員として不適格となること
(下級審)一審、二審とも、原告に対する解雇は無効とした上、就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものであるとして民法90条により無効と判断した。被告より上告。
判旨
「Y会社の就業規則は男子の定年年齢を60歳、女子の定年年齢を55歳と規定しているところ、右の男女別定年齢制に合理性があるか否かにつき、原審は、Y会社における女子従業員の担当職種、男女従業員の勤続年数、高齢女子労働者の労働能力、定年制の一般的現状等諸般の事情を検討したうえ、Y会社においては、女子従業員の担当職務は相当広範囲にわたっていて、従業員の努力とY会社の活用策いかんによっては貢献度を上げうる職種が数多く含まれており、女子従業員各個人の能力等の評価を離れて、その全体をY会社に対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はないこと、しかも、女子従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認めるべき根拠はないこと、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、欠く個人の際に応じた取扱がされるのは格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないことなど、Y会社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない旨認定判断したものであり、右認定判断は、判決拳示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができる。そうすると、原審の確定した事実関係のもとにおいて、Y会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効と解するのが相当である(憲法14条1項、民法1条)」として上告を棄却した。
評釈
1、学説の動向
男女別定年制による差別が労働契約の趣旨、目的に照らして、合理的な範囲のものと認められない場合には民法90条に該当することがある。
根拠としては①憲法14条直接適用説、②労基法3条・4条類推適用説、③憲法14条間接適用説がある。
①の説は私的自治の原則から見て問題があり、②はこれによると合理性の有無に関わらず男女差別を無効とする硬直した帰結を導きかねない。
この中では③が多数説であり、男女の平等は、一つの社会的公序として確立されているから、単に女子という理由だけで差別的取り扱いをすることは、民法90条に違反すると解している。この説は憲法14条、労基法3条、4条の精神も合わせて考慮し、民法90条を介し、私法上の無効の結論を導く。本判決もこれに従うものである。
2、下級審の判例
①下級審判例は男女別定年制の年齢差が10歳を超えるものについては無効説で一致している。5歳差では結論が分かれていた。
②性別のみを理由とする合理性のない差別待遇が民法90条に違反するという点は一致する。
3、本件の事実関係において、男女別定年制を定めた本件就業規則が合理性をもつか?
①差別を正当付ける特段の事由を判断する具体的基準を何に求めるか
⇒第二審では、男女従業員の職種、勤続年数、労働能力の比較、賃金体系、賃金と労働の不均衡の有無、男女の生理的機能の差異、他企業の定年制の現状
②上記具体的基準に基づく合理性判断の当否いかん
(1)女子は間接部門に限られる点は、原審が認定したところでは、Yの職種には極めて広範囲なものがあり、女子は間接部門に8割、直接部門に2割属しているが、直接部門にも女子の体力程度でも十分対応できる仕事が数多く存在する。従業員の努力と会社側の活用策によっては、女子の全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員と見るべきではない。
(2)賃金と労働の不均衡の有無については、被告は年功序列方式の賃金体系を取っていないから、労働の質量が向上していないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じているとはいえない。
(3)生理的機能の差異に関して、原審の認定によれば、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば職務執行能力に欠けることはない。
(4)厚生年金保険法42条での老齢年金の男女の年齢の受給差は年金財政面から受給者の多い男子を60歳に引き上げたものであり、同法が定年年齢の男女差を公序良俗に反しないものとして是認したものではない
4、私見
本判決が「企業経営上の観点から」という絞りをかけている点が気にかかる。多様な職種がある大企業においては、配置転換等をすることで活用策が取れるだろうが、職務が限定される中小企業場合は差別の合理性が肯定されるのだろうか。
参考文献
山川隆一・ジュリスト777号113項(1982)
時岡泰・ジュリスト745号100項(1981)
米倉明・法学教室64号42項(1961)不正競争防止法における営業秘密の保護
不正競争防止法における営業秘密の保護
1、はじめに
現在、雇用の流動化が進んでいる。私の属しているホテル業界もその例外ではない。このような状況の中で、長年に渡って蓄積されてきた顧客情報などの企業秘密が他社に漏洩する危険性をはらんでいる。職業選択の自由という憲法上の基本的人権に配慮しつつ、企業秘密の保持をするには、どの様な管理体制をとれば良いのか、また万一漏洩してしまった場合の対処はどの様にすれば良いのかをこの機会に考えていきたい。
2、営業秘密
不正競争防止法(1)では営業秘密を保有者にとって競走上価値のある財産として法的に承認し、その不正な取得や使用または開示行為を、営業財産を不当に侵奪、利用し、その競争的価値を減殺する不正競争行為として位置づけている。
営業秘密とは「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義される。つまり、①秘密管理性②有用性③非公知性が要件であるといえる。以下に、これらの要件を具体的に検討していく。
まず、秘密として管理されていないような情報は遅かれ早かれ他社に知られ、企業の優位性は失われてしまう。この様なものにまで社会的なコストをかけて保護していく必要性は乏しい。したがって、「秘密管理性」があるという為には、客観的に情報に対するアクセスが制限され、またアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような状況でなければならない(2)。「秘密管理性」が認定されるためには、情報の保管者が、主観的に秘密として管理しようと考えているだけでは足りず、外形的にも秘密管理体制がとられていることが必要なのである。この管理体制の水準は、情報の内容や誰に対する関係で管理体制が取られているか等で相対的に決められるものであって、一律に決めることはできない。同法をめぐる裁判ではこの点が最も重要な争点となる。一般的には、文書管理規定や収納・保管・破棄の方法の決定、秘密取扱責任者の設置、さらには従業員との秘密保持義務契約や機密保持手当ての給付があげられる。
次に、事業活動に利用し得る技術上または営業上の情報として「有用性」が無ければならない。これに該当する情報は、例えば製品の設計図、製法、顧客リスト、販売マニュアル、仕入先リスト等である。男性用かつらの顧客名簿を、本法の営業秘密に該当するとして、これを持ち出し独立して営業を始めた元従業員の営業活動の差止請求を認容した判例がある(大阪地判平8.4.16判時1558号139項)(3)。「有用性」は客観的な情報の性質に照らして判断されるべきものなのである。過去の失敗データ等いわゆるネガティブインフォメーションも、研究開発費を回避、節約できるなどの「有用性」が認められる。一方、企業のスキャンダル情報や公害情報等は有用性に欠けるため営業秘密とならない。
さらに、営業秘密となる為には、公然と知らされていない「非公知性」が必要とされる。これは、当該情報が保有者の管理下以外では一般的には入手できないことをいう。情報が公然と知られている様な場合には、秘密管理者が他の競争業者に対し優位な地位を得ているわけではない為、そこに保護すべき財産価値は存在してるとはいえない。しかし、保有者以外に知っている者がいても、その多少に関わらず保有者との関係で守秘義務が課されている場合には、未だ公然と知られていないといえる。裁判との関係からいえば、公然と知られていないことを原告側が立証するのは困難である。原告は当該情報が客観的に管理され、保有者の承諾なしに当該情報を一般的に入手できないことを立証できれば、この要件は立証されたものとして扱われる。
また同時に、消極的な要件として、かかる非公開情報は上記の3つの要件を満たしていたとしても、それが実際に法的な保護の対象となるべき情報でなければならない。また、法令上その開示が要求されながら、その開示を怠っているような情報(例えば、上場会社に証券取引法上課せられている各種のディスクロジャー)は、不正競争法上の保護の対象とはならない。
3、不正利用行為
営業秘密の利用行為全てが不正利用行為として禁止されているわけではない。成果開発のインセンティブである秘密管理体制を保護するためには、秘密管理体制を突破する行為や、そのような突破行為を利用する行為のみを禁止すれば足り、同じ情報を独自に取得したものにまで規律を及ぼすべきではない。
まず、正当な情報取得権限のないものが、窃取、詐欺、脅迫その他不正の手段によって営業秘密を取得する行為が不正競争行為となる(2条1項4号)。不正な手段を用いないで独自に同一の情報を入手する行為(例えばリバースエンジニアリング)は禁止されるものではない。
次に、営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された者(正当取得者)が、不正の競業その他の不正の利益を得る目的(図利目的)またはその保有者に損害を与える目的(加害目的)で、その営業秘密を使用し、または開示する行為も不正競争となる(2条1項7号)。
さらに、営業秘密についての転特者で不正取得行為が介在したことについて悪意または重過失により知らないで営業秘密を取得しまたはその取得した営業秘密を使用・開示する行為(2条1項5号)、当該営業秘密について開示に不正開示行為が介在したことについて悪意もしくは重過失により知らないで営業秘密を取得し、またはその取得した営業秘密を使用・開示する行為(2条1項8号)は不正競争となる。なお、「秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」には、法令上秘密保持義務が課される場合の他に、契約上の守秘義務も含むと一般的には解されている。
営業秘密の転特者がこれを取得した時点で営業秘密の譲渡者の営業秘密入手過程や、その転得者への開示が不正競争行為にあたることに善意無重過失であったとしても、その後に悪意または重過失に転じた場合はかかる情報を利用することはできない(2条1項6号・9号)。取引によって営業秘密を取得した者は、その取得した時にその営業秘密について不正開示行為であること、またはその営業秘密について不正取得行為もしくは不正開示行為であることまたはその営業秘密について不正取得行為もしくは不正開示行為が介在したことを知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がない場合は、こうして入手した営業秘密を使用し、または開示する行為について、差止請求や損害賠償、刑事罰等の適用除外としている。しかしながら、転得者の利益と営業秘密の正当な保有者の利益との均衡を図るため、あくまでこうした救済措置の対象とされる行為は、その取引によって取得した権原の範囲内に限定されている(19条1項6号)。
4、救済
営業秘密の不正競争行為に対しても、差し止め請求権(3条)及び損害賠償請求権(4条)が認められている(4)。損害額の推定(5条2項・3項)、損害額を計算するための書類の提出義務(7条)、逸失利益の立証の容易化(5条1項)(5)、具体的な態様の明示義務(9条)についても、表示に対する侵害の場合と同様に適用される。
営業秘密については、営業秘密の不正使用についての差止請求権の消滅時効と除斥期間が規定されている(15条)。これは、営業秘密の利用行為の蓄積により形成された現実と、取引の安全のために設けられた規定であるとされている。時効により差止請求権が消滅した場合に、その後の使用行為によって生じた損害については、損害賠償できないとしている(4条但書)。なお、消滅時効の成立する以前の使用行為によって生じた損害については、民法742条の規定に従って処理する。
営業秘密を巡る民事訴訟手続では、裁判所は不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、その当事者が保有する営業秘密について、一定の事由に該当することにつき疎明がなされることを条件として、当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人または補佐人に対して、当該営業秘密を当該訴訟の追行以外の目的で使用し、または当該営業秘密に係るこの項の規定による命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨の秘密保持命令を命じることができる(10条1項)。この秘密保持命令の違反については刑事罰が科される(21条1項10号)。裁判の公開についても、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、当事者の保有する営業秘密に該当するものについて、本人尋問または証人尋問を非公開で行うことができることとされている(13条)。
5、結びにかえて
新会社法の施行、さらには金融商品取引法の制定に伴い、内部統制の議論が盛んである。不正競争防止法との関係から見た場合には、自社の重要情報の流失ばかりでなく、他社の営業秘密を不正に入手するような行為は、経営基盤を脅かす重大なリスク要因となってしまう可能性がある。
つまり、これからは営業秘密を守る体制を構築するだけでなく、自社の社員が不正競争行為を働かないようにするコンプライアンス・システムを同時に構築していかなければならないのである。
注釈
(1)この法律は知的財産権法とは言えないが、近年、度重なる改正を経て重要性を高めている。著名あるいは周知性のある商品表示や営業表示、ドメイン名、商品形態、営業秘密(ノウハウ、トレードシークレット)、コピー防止等の技術的制限手段を不正競争から保護し、知的財産の保護の根幹をなす法律である。他人の不正競争から営業の利益を侵害に機動的に対応できる。他人の不正競争から営業の利益を侵害された物が差し止め請求訴訟と損害賠償請求訴訟を提議することができる。
(2)判例上、秘密に管理していないとして営業秘密としての保護を否定した事例として、銀行券印刷機の売買に伴い提供された技術情報(東京地判平12.4.26判時1716号118項〔日銀銀行券印刷機事件〕)、医療用機械器具輸入業者の治療データ、輸入申請書や顧客名簿(東京地判平12.9.28〔医療用機械器具データ事件〕)、車両運行管理業務等を目的とする会社の契約内容一覧表(東京地判平12.12.7判時1771項〔車両運行管理業務データ事件〕)等がある。
(3)同様の事件として東京地判平11.7.23判時1694号138項〔美術工芸品顧客名簿事件〕および東京地判平12.11.13判時1736号118項〔墓石販売業者顧客名簿事件〕がある。
(4)14条が規定している信用回復措置は営業秘密の侵害の場合には考えにくい。
(5)侵害製品の販売数量に基づいて損害額を算定する規定である5条1項は、技術上の秘密に関するものに限って適用される。
参考文献
田村善之『知的財産法 第4版』有斐閣(2006)
相澤英孝・西村ときわ法律事務所『知的財産法概説 第2版』弘文堂(2006)
角田正芳・辰巳直彦『知的財産法 第3版』有斐閣(2006)
H19年1月 進捗状況報告書
H19年1月 進捗状況報告書
<作業内容>
「新会社法下における最低資本金制度の廃止」についての研究計画を立てた。新会社法の施行により資本金1円からでも株式会社が設立できるようになった。高校生が株式会社を設立したことが取り上げられるなど、メディアは一般的にこの改正を好意的に捉えているようである。しかし、株式会社の特徴の一つとして株主有限責任がある。つまり、会社債権者の側から見れば、弁済の担保となるものは会社の財産だけであることを意味する。この様な、観点から見た場合、資本金1円という会社が果して許されるべきなのだろうか。また、確かに最低資本金制度を廃止したことにより今後設立される株式会社の数は増加していくだろう。しかし、上記の様な債権者保護に欠ける会社が濫設され、社会に混乱を引き起こすことになりかねないことが危惧される。
最低資本金制度の変遷
①平成2年の商法改正(平成2年法律64号)により最低資本金が株式会社では1千万(旧商法168条の4)、有限会社では300万円(旧有限会社法9条)とされた。
⇒最低資本金引き上げまでの経緯、時代的背景の考察
②中小企業挑戦支援法(平成14年法律110号)により、一定の条件化で設立後5年間は最低資本金に関する規制が課せられないことになった(同法10条)。この特例制度を利用することで18,545社が誕生した(平成16年1月31まで)。
⇒立法の経緯の考察。その成果についての検討・評価
③新会社法は、設立後一定の期間に限定することなく、最低資本金制度を廃止した。
最低資本金制度廃止に対する批判
1、債権者保護に欠ける
立法担当者は純資産額が300万円を下回る場合の剰余金の分配を禁止(新会社法458条)することで債権者を保護しているとする。
⇒所有と経営が未分離な会社では役員報酬という形で、事実上の配当がなさせてしまうのでないだろうか。
2、会社の濫設により経済が混乱してしまう~18世紀英国における南海バブルの教訓。
立法担当者は法人格否認の法理により対処することを想定している。
⇒機動的な救済が果たして可能なのか。
立法論
最低資本金制度を復活させるべきである。そして、新会社法が有限会社を株式会社へ統合したと考えるならば、最低資本金は300万円と設定するのが妥当であろう。
<課題・対策>
2月は上記の点を論じるための、文献・資料の収集を行いたい。
H18年12月分の進捗状況報告書です
H18年12月 進捗状況報告書
<作業内容>
年末に、副指導教官と話し合った結果、テーマを「新会社法における株式会社の設立」に変更することになった。新会社法において、設立に関する改正点は以下のようなものだ。
定款
1、最低資本金制度の廃止により、資本金1円からの会社設立が可能になった
2、設立時に出資される財産の価格又はその最低額を記載事項として追加(27条4号)。
3、発起人に対する株式の割当に関する事項も記載事項として追加
4、定款作成後でも株式の割当に関する事項の決定及び発行可能株式総数を定めること
が可能になった(37条1項)。
5、商号専用権の廃止。
設立過程
1、現物出資財産の価格が500万円を超えない場合には検査役の調査が不要になった。
2、発起設立の場合の払込金保管証明書の廃止(67条1項)
3、市場価格のある有価証券を現物出資する際、裁判所の検査役の調査は不要になった。
4、事後設立の際の検査役の検査が不要になった。
5、財産価格要件が緩和され、事後設立が容易になった(309条・467条)。
6、設立時発行株式の引受け、払込がない場合に「打ち切り発行」を認め、発起人、設立
時取締役の引受・払い込み担保責任の規定を削除した。
会社の不成立および設立無効・取消しの訴え
1、会社の類型ごとに設立無効の訴えを提議できるものを整理(828条2項1号)
2、株主が設立無効の訴えを起こした場合、被告会社が請求すれば裁判所は原告株主に対し相当の担保を提供する旨を命じることが可能になった(836条)。
<課題・対策>
1月は上記の中から、さらにテーマを絞り込むと共に、旧商法以来の論点についても、文献に目を通していきたい。
指導教員 印
修士論文のテーマ
明けましておめでとうございます。
再び民法へ
企業とは何か
1、はじめに
市場での取引費用(市場取引が行われるために必要な費用)が大きい場合に企業が組織化され市場にとって替わる。
ウィリアムソンは①取引に関わってる人間の諸特性(機会主義)②市場の客観的諸特性(少数性の条件)が市場における安定性を欠き、かつ不利益を被るようなものになってしまう(=取引費用の増大)。しかし、組織化することで、これらの問題が解決できるとした(組織と環境の境界の設定)。
では、そもそも企業とは何なのであろうか。このことを経済学、経営学そして商事法学の観点から考察する。
2、経済学の観点
経済学において企業とは「営利を目的として一定の計画に従って経済活動を行う経済主体」であるとされ、家計、政府と並ぶ経済主体の一つである。
企業は、家計から労働・土地・資本などの生産用役を、また他の企業から原料・資材・用具などの資本財を購入して生産活動を行い、その結果つくり出される生産物を家計や他の企業に販売することにより、利潤を獲得する。
私企業の目的は利潤動機にあると考えられるから、その場合の合理的行動の目的は利潤の最大化である。しかし、企業の意思決定の視野は現在だけに限定されておらず将来の成長のことも配慮に含めなければならない。従って、目前の一時的な利潤のみ最大にするというのは、利潤最大化の適切ないみではありえない。
3、経営学の観点
経営学において企業とは「交換可能なものを、分業による協業によって、持続的に生産しているもの」とされる。そのように定義した上で、土屋教授は企業を以下のように分析している。
① 企業は経済活動を効率的に行うためのものである
② 企業の行う生産活動の効率は、基本的には労働の持続性から得られる
③ 企業は分業による協業を活用している
④ 企業は交換可能なものを生産しなければならない
4、商事法学の観点
商事法では、企業という言葉より会社という言葉を使う。商法(広義の商法。つまり商法・会社法だけでなく手形法等も含む概念)=企業法説がわが国では通説である。
旧商法52条1項では「本法ニ於テ会社トハ商行為ヲ為スヲ業トスル目的ヲ以テ設立シタル社団ヲ謂フ」としていた。
通説的な解釈としては、株主を企業の実質的所有者とした上で、会社を「営利事業を行い、それによって得た利益を構成員(株式会社の場合は株主)に分配することを目的にする団体である」とする(鈴木竹雄)。
新会社法の下ではこの条文は削除されたが会社の持つ法人性・営利性・社団性という基本概念は維持されているとされる。
5、感想
利益(利潤・営利)の追求という観点は共通しているが、経済学は経済主体としての行動、経営学はいかに効率的に生産を行うかという点、そして、商事法学では構成員(=商法上の社員)への利益の分配ということを重視していると感じた。
補論、新しい企業観
企業を諸主体(株主、経営者、従業員、取引先、貸手などのステークホルダー(2))が取り結ぶ「契約の束」に過ぎないと考え、それ独自の存在と見ることを否定するという考え方が70年代にシカゴ学派によって主張されている。この考え方の下では、株主は会社に結びついている主体の一つに過ぎず、当然に実質的所有者とは言えないとする(3)。
日本でも、この視点が近年有力になりつつある。しかし、法人擬制説をとる英米法の企業観の中で成立した「契約の束」という概念を、大陸法の法人実在説をとる我が国の法体系に直接持ち込むことが果たして可能なのだろうかは疑問である(民法との整合性の問題)。
注
(1)他の定義としては西原寛一博士の「私経済的自己責任負担主義の下に、継続的意図をもって企画的に経済行為を実行し、これによって国民経済に寄与すると共に(公共性)自己および構成員の存在発展のため収益をあげることを目的とする(営利性)一個の統一ある独立の経済的生活主体である」とする考え方がある。企業の営利性だけでなく、公共性を認識した点は、今日、企業市民やCSR(企業の社会的責任)が叫ばれる点を考えれば、卓見である。
(2)企業と利害関係を持つ株主、債権者、従業員、取引先、政府など。
(3)ステークホルダー全体の利益を考慮すべきであるという見解と、契約の不完備性という観点から株主利益の最大化のために経営されることが効率的であるという見解に分かれる。
参考文献
佐和隆光『経済学用語辞典』日経文庫(2006)
河合忠彦他『経営学』有斐閣(1994)
鈴木竹雄『新版 会社法 全訂第2版』弘文堂(1988)
福岡正夫『ゼミナール 経済学入門 第3版』日本経済新聞(2003)
土屋守章『現代企業入門』日本経済新聞社(1994)
