判例研究第2回 | 「法と経済学」の視点から~文系院生の生活記録~

判例研究第2回

八幡製鉄政治献金事件>昭和45624日大法廷判決

事実

A株式会社の代表取締役Y1、Yは、同社を代表して自民党に政治献金として350万円を寄付した。これに対し株主Xは代表訴訟を提起した。


(原告の主張)政治献金はA社の定款所定の事業目的に逸脱している。また、取締役の忠実義務に反す。その為、Y1、Yは損害賠償責任がある。


(下級審)第一審では、政治献金を、非取引行為で社会的行為義務行為でもないとして、Xの主張を認めた。しかし、第二審では、会社を独立の社会的存在、社会の構成単位とした上で、対社会関係で有用な行為は、定款記載の目的達成に必要または有益であると否とに関わらずその目的の範囲に属する。慈善寄付同様、政治献金は会社の目的の範囲内の行為であり、忠実義務違反もないと判断し、Xが敗訴。原告より上告。


判旨

 上告棄却

①政党に対する寄付は定款に定めた目的の範囲外の行為であり、会社はこの様な寄付をする権利の能力を有しないという主張について

「会社は、一定の営利事業を営むことを目的とするものであるから、会社の活動の重点が、定款所定の目的を遂行するうえに直接必要な行為に在することはいうまでもないところである。しかし社会は、他面において、自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであって、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうることであるといわなければならない。そしてまた、社会にとっても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあっても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。会社がその社会的役割を果たすために相当程度の寄付をするのは、社会通念上当然なことであり、株主も当然これを予想するものであるから、この様に解しても、株主の利益を害する心配はない。これを政党に対する政治資金の寄付についてみると、政党は議会制民主主義を支える不可欠なものであるから、国民は当然政党のあり方いかんについて重大な関心をもたざるをえない。したがって、社会の構成単位たるお会社に対しても、政党の発展に協力することが当然期待されるので、その協力の一態様としての政治資金の寄付も、会社に対し期待ないし要請される限りのものは、会社にその能力がないとはいえない」


②株式会社の政治献金は国民にのみ参政権を認めた憲法に反するという主張について

「参政権は自然人たる国民にのみ認められるが、会社も納税者であるから、国(地方公共団体)の施策に対して意見等の行動に出ても禁圧すべき理由はない。のみならず憲法の認める国民の権利義務は性質上可能な限り、内国法人にも適用があるものと解するべきで、会社も、国や政党の特定の政策を支持推進しまたは反対するなどの政治行為をなす自由を有する政治献金もまさにその一環である。」


③政治献金は忠実義務(旧商法254条の3)に反するという主張について

「商法254条の2の規定は民法644条所定の善管注意義務を敷衍し、かつ一掃明確にしたにとどまるのであって、所論のように、通常の委任関係に伴う善管注意義務とは別個の、高度な義務を規定したものとは解することはできない。」

「取締役が会社を代表して政治資金の寄付をなすにあたっては、会社の規模、経営実績その社会的地位および寄付の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてその金額を決すべきである。したがってこの範囲を超えて不相応な寄付をすれば取締役の忠実義務に違反することになるが、原審の確定した事実に即して判断すると本件の寄付が合理的な範囲を超えていたとはなしえない。」


評釈

①政党に対する寄付は定款に定めた目的の範囲外の行為であり、会社はこの様な寄付をする権利の能力を有しないという主張について

判決は自然人と会社、また慈善寄付と政治献金を同一視し、会社構成員の政治信条の違いを同一視せず、政治献金を当然の社会的要請と解した。この点を、会社の寄付をなしうる所以をこのように株主の利益を離れた会社外の社会的要請に求めるのは妥当でないとして判決支持者からの批判も浴びた。


②株式会社の政治献金は国民にのみ参政権を認めた憲法に反するという主張について

会社も自然人と同様、憲法上の権利主体であることを始めて肯定し、禁止規定がない以上献金も自由で腐敗防止は立法政策の問題とした点は広く評価された。この背景にあるのは、現代社会においては自然人の組織する法人その他の団体の存在や活動を無視しえず、またそれが自然人の人権の保障とかかわりをもつという事実である。では、どの範囲までの人権保障が必要・可能なのだろうか。学説では財産権その他の経済的自由、法の下の平等、裁判などの請求権、また法定手続や法人にも必要な刑事手続上の諸権利、表現の自由は保障されると考えている。


③政治献金は忠実義務(旧商法254条の3)に反するという主張について

取締役は善管注意義務と忠実義務を負う。本判決は初めて両者を同一と解した。そして寄付が「合理的な範囲」を超えなければ、違反にならないとした。また、松田・大隈裁判官は上記の範囲を超えた場合は寄付そのものが無効と成るとしている。


私見

本判決の中特に①の理由の中に、企業の政治献金を積極的に賛美する様な箇所があるのが、気にかかる。政治献金は問題であるが、憲法や民商法では、対応できる問題では無く、特別法による解決が図られるべきであると考えるのが妥当であろう。

また①のところに、法人実在説を意識しているような箇所があることも気になる。最高裁は別の事件では法人格の否認の法理という法人擬制的な観点をとっている事を考えれば、一貫した姿勢に欠けるのではないだろうか。


参考文献


中原敏明・会社判例百選<第6版>8項

鈴木竹雄・会社判例百選<第5版>8項

久保田きぬ子・憲法の判例<第2版>186