クリスタルキング事件 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

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 前に書いたこの記事 の続き。


 クリスタルキングというと、あの頭もじゃもじゃの人が「あーあー果てしない 夢を追い続けー」と歌うイメージですが(懐かしいと思ったあなたはきっとアラフォー)、あの人は田中雅之(旧名田中昌之)さんというらしいんですね。これが判決文の被告Bです。当時は高音部担当のヴォーカルでした(しつこいですが、「あーあー」の部分ですね)。


 それで私には全く記憶がないのですが、ムッシュ吉崎という人がおり、これが原告Aです。当時は低音部担当のヴォーカルでした。


 平成10年に吉崎さんの会社の原告「株式会社クリスタルキングカンパニー」が「クリスタルキング」の商標登録出願をしました。


 最初、拒絶されたのですが(4条1項8号)、審判まで争って、吉崎さんの同意だけで登録してよいということになりました。


 「クリスタルキング」の著名性の獲得には田中さんの貢献を無視できないですし、著名性獲得時は7人のメンバーがいたのですが、そういうことは関係なく、出願時の唯一のメンバーである吉崎さんの同意があればよいと、こういうわけです。


 ただ「株式会社クリスタルキングカンパニー」による商標登録について、田中さんは別に争っていないんですね。本気で争ったらどうだったんでしょうか。


 本件の争点は、田中さんが「ザ・エターナル・ソングス・コンサート」と題する懐メロコンサートに出演し、その中で「大都会」をソロで歌唱するに際して、新聞広告に「大都会/田中雅之(クリスタルキング)1979」との記載及び顔写真の下部に「田中雅之(クリスタルキング)」との記載がされた、これが商標としての使用か、という点にあります。


 これ、正確には「元」クリスタルキングとか「(当時)」とか書くべきでありまして、商標としての使用ではないとの判断は、微妙なところがあったと思います(結論は請求棄却)。ただ、いずれにしても上記表示を使用しているのはコンサートの主催者であって、田中さん個人ではありません。被告はそういう主張はしてないようなのですが、私から見れば原告の「主張自体失当」の事案と思います。



 しかしバンド名なんて商標登録する意味があるんですかねえ。そりゃグッズを販売するために指定商品「被服」とか「文房具」で登録するなら意味ありますよ。でも「音楽の演奏」といった役務で登録する意味が分かりません。だって偽物が出てきたって見りゃわかるでしょう。いくらもじゃもじゃのカツラを被ってもねえ。


 結局、完全な偽物なんて出てこないんですから、元メンバー同士の内輪の争いの道具に使われるだけで、そんなことに知的財産制度が手を貸す必要はないと思うんですよ。皆さんどう思います?