本日、サイバーエージェントの2025年9月期の本決算を発表し、今期は、売上高8740億円、営業利益717億円という結果で着地しました。
同時に、次期社長の候補者(山内隆裕)を発表しました。12月に開催される株主総会を経て正式決定する見込みです。私は、創業来27年と9ヶ月務めてきた社長を退任し、会長に就任します。
業績のほうは好調で、創業から28期連続増収を達成しています。インターネットの激しい変化の荒波に揉まれながら、事業ポートフォリオもたくさん入れ替わってるのに、どうして長年に渡ってそれが出来たのか。
その理由は、定期的に人間ドックを受けて、健康への対策を怠らなかった人と同じです。将来起こりうる問題を、自分たちでくまなく探し、そこに手を打つことを怠らなかったからです。足元の好調な業績は、過去に行った努力の結果に過ぎません。もちろんそれは、あした会議や合宿など弊社の伝統的な定例行事を通じ、今も無限ループのように絶え間なく続いています。調子が良い時も悪い時も、長期ビジョンで、将来への備えを怠らないことが、長期の繁栄につながることを信じています。それが我々が大切にしてきた価値観です。
今回の社長交代は、その価値観に沿ったものです。
準備を始めたのは3年前でした。もうじき私が50歳になる時に、10年後の想定をした「藤田晋(60)」と書かれた資料を見て、交代を決意しました。10年なんてあっという間です。
創業社長として長年やってきて、誰にも引き継げない会社になっていくことに、私は焦りを感じていました。サイバーエージェントは最初からパブリックカンパニーにするつもりで作り上げてきた会社だからです。そのことと、自分にしか社長が出来ない会社になることは矛盾しています。
それを薄々感じていながらも、目を背けていました。人間ドックでいえば、医者から指摘された問題を無視するようなもので、いつか大病を患ってからでは手遅れです。今ならまだ間に合うかも知れない。そんな想いで、2022年春にサクセッション作業をスタートしました。
最初に16人の後継者候補を指名し、社長研修を行いました。この研修が本当に有意義で、社長になるのは1人だけですが、参加者全員の意識が変わっていきました。私自身も、自分がそれまで経験と勘でやっていたことを言語化する必要性に気づき、「引き継ぎ書」を作成しました。
この研修を終え、当初(2022年)は、4年後に社長を交代すると宣言していたので、2026年のはずでしたが、結果的に少しだけ前倒ししました。
それというのも、私含む社内も、社外取締役や外部コンサルなど社外も、早い段階で次期社長は山内という意見で一致したからです。とはいえ即戦力のように能力を満たす候補者は誰もいなくて、早々に彼本人の能力開発が必要になりました。この1年は職務を広げ、ABEMAのCOO、メディア部門の統括も兼任してもらっていました。しかしながら、結局のところ、本物の責任感からくる洞察力や事業構想力、あるいは求心力というものは、本当に社長になってからでないと引き継げないと判断してます。
だから、まずは社長に就任してもらい、今後、社長と会長で役割分担をするのではなく、私の仕事を徐々に引き継いでいくような形で伴走する方針です。
27年9ヶ月、人生を捧げ、私という人間のアイデンティティそのものと言って過言ではない、「サイバーエージェント社長」ではなくなる時を現実的に迎え、いま、何も思うところはありません。ノスタルジーな気分もセンチメンタルな感情もありません。
それは、私がまだ1ミリたりとも気を緩めていない証しだと思います。
ずっと長い間、何が起きても100%自分の責任だと思って経営してきました。社長交代を機に引き継ぎを開始し、スタートが藤田100山内ゼロだとしても、これを段階的に引き継いで、4年後を目処に8割がた引き継ぎ、藤田20山内80くらいにするイメージでいます。
この数字は感覚値ではありますが、必要年数は、創業者の会社を引き継ぐことが全くもって簡単ではないことを意味しています。それと同時に、私が会長としていつまでも君臨するつもりはないという意思表示でもあります。
創業者が大きくした会社の社長交代だけは、通常の大企業の社長交代とは全く違う、特別なものです。調べてみると、功績を成した創業者の多くが驚くほどここで大きく躓いていますが、私は絶対にやり切る覚悟です。
何をしたら引き継ぎが成功したかと問われれば、それはシンプルです。私が抜けた後もぐんぐん伸びる会社であれば良いのです。
2022年から始めて準備だけで4年近く、会長社長になってさらに引継ぎに4年以上かけて臨むことが、どれだけ本気の挑戦であるかをみてほしいと思います。
最後に、こんな時に宣伝みたいになりますが、この件が始まって以降、昨今の私の仕事は、サクセッションにかなりのシェアを割いてきました。それと並行し、週刊文春で連載を書いているのですが、毎週2400字を自分で執筆し、社長研修の「引き継ぎ書」に箇条書きで書いた内容や、見落としていたことを、誰でも読みやすいエピソードを交えて書きました。会社を引き継ぐに当たり、自分が何をどう思考し、意思決定していたのか、いつか読みやすい文章に仕上げたいと思っていたのが、週刊誌の毎週の締め切りのおかげで自然とやり切れたと思っています。
全然関係ないプラベートな話なども書いてますが、情熱を持って書き上げた渾身の内容です。
それを一冊の本にまとめたものが書籍となり、来週19日に発売になりますので、どうぞよろしくお願いします。

