微かに光が差し込む薄暗い室内で、ナギとシンは背中合わせに立った。
「右腕…」
チラリと肩越しにシンを見たナギが、呟く。
「フン。この程度で、俺の銃弾が狂うわけないだろ」
傷を気遣うナギに、シンが答えて銃を持つ右手に左手を添えた。
言葉とは裏腹なシンの行動に、ナギは表情を引き締める。
シンの銃の技術は信用している。
ナギがどれほど鎌を投げても、その鎖がシンの銃弾を弾いてしまうことはない。

いつも、シンの銃弾は、ナギの鎖の合間を抜けて敵を撃つ。

まだ、彼らが倒さなければならない敵は10人近くいる。
「……下から行く」
「ああ」
短い会話でお互いの意図を確認して、背中合わせだった二人が同時に反対方向へ走る。
ナギの放つ鎌は、敵の足を正確に狙って床とほぼ平行に飛び回った。
時折室内に響くパン、と乾いた音は、ナギの動きを妨げることなく、確実に鎌の届かない位置にいる敵を倒していく。
部屋を一回りして、再びシンと背中合わせに立ったナギの口元に、笑みが浮かんだ。
「…よく、避けたな?」
「まったくだ。もう少し、俺の足場も確保しろ」
ナギの鎖を巧みに避けながら駆けていたシンは、少し弾んだ息で答えた。

 


リュウガに用があって船長室を訪れると、どういうわけか彼女がリュウガと一緒に居た。
…君は、船長と二人きりで、何をしていたのかな?
笑顔で尋ねようとしたけれど、どういうわけか、笑みが創れない。
確か、私には、厨房で特別の料理を作るから、と言って部屋を出て行ったはずなのに。
ここは厨房でないし、君が料理をしている形跡もない。
そんなことを思って何も言えずにいる間に、君はそそくさと私の横をすり抜けて逃げていく。
まるで、悪戯を咎められたような表情で…。
言葉を失くして彼女を見送った私に、リュウガは笑いかけた。
「おい、ソウシ。そんなに怒るなって」
「……? 怒っていないよ?」
私は怒っている? この感情は、怒り、だったろうか?
「浮気されて怒る亭主ってのは、今のお前みたいな顔しているけどな?」
「……」
今、私の胸の内で蠢いている釈然としない気持ち。
いつの間にか、自分ではどうしようもないくらい、彼女に対する独占欲が育ってしまったみたいだ。
可愛くて、とても愛おしい、私の部屋の同居人。
自覚すると同時に、自嘲のため息が漏れた。
「彼女には、できるだけ笑顔で接していたいのに…。どういうわけか、うまくいかないね…」
「そりゃ、生きてる証拠だな」
リュウガが事も無げに言う。
「生きている証拠…」
偉そうに腕を組んだリュウガは、私を見て微笑した。
「ああ。…この船に女を乗せた意義があったな」
「そうだね…」
彼女をシリウスの一員に加えたことについては、リュウガに感謝せざるを得ない。
毎日が、こんなに彩りに満ちたものになったのだから。
「まあ、相手がソウシなら、下手に隠すよりは伝えといた方が早ぇ…アイツはな、今夜の宴を昼からはじめられねぇかと、頼みに来たんだよ」
「今夜の宴?」
あれ? 今夜、宴をする予定なんて、あっただろうか?
「おいおい、今日はお前の誕生日だろうが」
呆れたようにリュウガに告げられて、私は、自分の誕生日のことなんてすっかり忘れていたことに気づく。
「…昼から?」
宴はいつも、夜になってから行う。
いまだかつて、昼から宴を始めた覚えがない。
「夜は、特別のプレゼントでも用意してんじゃねーか?」
からかうようなリュウガの言葉が意図するものは、当然、私も容易に思いつくけれど…。
あんなに恥ずかしがり屋の彼女が、ある意味、誰の目にもバレバレなことをするだろうか?
もしかして、彼女の言っていた「特別な料理」というものは、昼食にふさわしいものなのだろうか?
…それとも、本当に、今夜、期待してしまってもいいのかな?
あの、悪戯を咎められたような表情は、何だったのだろう?
あっという間に、私の思考は彼女のこと一色に染まってしまう。
「ま、夜を楽しみにしているんだな」
リュウガの言葉に、私の期待は、勝手に高まる。
彼女が、私のために何かしようと頑張ってくれていることは、どうやら間違いないようで。
それがどんなことでも、私のためにしてくれるなら、私を想ってしてくれるなら、嬉しくて。
自然と笑みが私の口許を支配する。彼女がくれた微笑み。
期待外れでも構わない。
君が大好きだよ、と今夜も君にたくさん伝えよう。
 

「ウルの王妃さんだけに見せてやるつもりだったんだけどなぁ」

空賊アルタイル団のアベルは、そう笑いながら、窓の向こうを指差した。

「…っ」

絶景とも呼べるその景色に、シンの恋人が息をのむ。

「ふん。300歳の独身じじいなんかに、自分の女を預けられるか」

空飛ぶ船の船長室で、腕を組んでチラリと窓の外へ視線を走らせながら、シンが言い返した。

ウルの王として天界に認められたシンだが、今のところ本業は海賊である。

海賊王の船に乗り、航海士をしているウルの王。

ひょんなことから知り合いになった空賊アベルは、ウルとかかわりを持つ天界の人間と地上の人間のハーフだという。

シンもまた、ウル王族の直系でありながら、その血を半分しか受け継いでいない。

そんなことでお互いに慣れ合うつもりはなかったが、アベルは何かと理由をつけてはシン達にちょっかいをかけてくるので、必然的にシンも対応する羽目になっていた。

アベルの船は、今、雲の上を飛んでいる。

下に果てしなく続く雲の海。

吸いこまれそうなほど澄んで真っ青な空。

水に浮いた船からでは決して見ることのできない、幻想的な絶景であることは確かだった。

その雲海の中に、まるで島のように見えるものがある。

「え? あれ…もしかして……」

「おっ。さすがだねぇ。ヤマトの魂だよな、あれ」

シンの恋人の呟きに、アベルはにこにこと微笑んだ。

「あの山がどうかしたか?」

嬉しそうな表情の恋人を見て、シンが怪訝そうに尋ねる。

「ここは、ヤマトの空なんですね?」

しみじみと、懐かしそうにシンの恋人は雲海に浮かぶ島のような山頂を眺めた。

「どういうことだか、説明してもらおうか?」

シンがアベルを睨みつける。

「だから、ここはヤマトの上空ってことだよ。あの山はな、ヤマトの人間たちにとっては信仰の対象にもなっているくらい有名な山、富士山だ」

シンも、文献から名前は知っていた。

絵画も見たことがある。

けれど、実物を見るのは初めてである。

シンは改めて、恋人の横で雲海に突き出た山を見下ろした。

 


大嫌いな奴がいる。
奴を例えるなら、……赤。
氷を溶かし、森すら焼き尽くす、灼熱の赤。
寒く凍てつく北の海で、誰もが焦がれ求める暖かな炎の赤。
鮮烈な赤。
何度かその炎を消し去ろうとしたが、未だ叶わず、奴は赤く輝いている。
「負け犬ってのは、負けた奴じゃなくて、諦めた奴を呼ぶときに使うもんだ。オマエがそう簡単に諦めるタマかよ」
そう言って笑った奴は、確かに誰もが認めざるをえない海賊王で。
心の何処かで、彼には敵わないと分かっていながら。
それでも…挑まずにはいられない。


「よう、セシルじゃねぇか。オマエも来てたのか?」
カジノ船。
よりによって、ドレスコードがある区画にこの男が来るとは…。
「せっかくだ。一緒に飲まねぇか?」
ダークスーツを着ていても、やはり、この男のイメージは赤なのだと思い知らされる。
「…運のいい男ですね」
「おう、今日は、かなり稼いだぞ」
屈託なく笑うリュウガは、もしも今ここで私が銃を突き付けても、きっと笑い飛ばすのだろう。
そんなことを考えて、ふと、あることに思い当たる。
「一杯だけ、おごりましょう。……レッドバイキングを」
カウンターに声をかけると、しばらくして霧のようにわずかに白い酒を満たしたグラスが差し出される。
「レッドバイキング? 赤くねぇな?」
かつて、北欧の海を駆け抜けた海賊のイメージをもとに作られたカクテル。
ほぼ無色でありながら、赤という言葉を与えられた酒。
「……誕生日にふさわしいかと」
「ん? よく俺の誕生日覚えてたな?」
かなり意外そうに、リュウガが見返してきた。
「忘れられるものなら、忘れたいですけどね…」
「ははは。もしかしてセシルは、ヴァンやリーの誕生日も覚えてんのかっ!」
「誰のせいだと…」
リュウガは、昔からやたら誕生日だ記念日だと理由をつけて、飲みたがった。
昔の懐かしさに囚われそうになって、席を立つ。
「何だ? もう行くのか?」
「シリウスの姫君が来たようですからね…」
可愛らしく着飾っている娘が、キョロキョロと明らかに誰かを探している。
「こっちだ」
リュウガに向かう娘が、横をすり抜けていく。

……いつか、あの赤を消したい。
いつか、などという日は決して訪れないと知りながら。




 

「これ、懐かしい…」

整理していた荷物の隙間から彼女が取り出したのは、かつてのオレの愛用品。

「…捨てろと言ったはずだが?」

「はい。これ以外は、捨ててしまいました」

柔らかな笑みを浮かべて、かつてのオレの愛用品を愛おしそうに手に包み込む彼女を見下ろし、ため息をつく。

愛着が無かったわけではない。

ただ、自分が彼女との、この生き方を選んだ以上は、捨てるべきだと思った。あの時は。

全て捨てた筈だ。彼女が捨てまいとしたものも、全部、取り上げて捨てたと思っていた。

つまり、彼女はオレの目を盗んで、あれを残したわけだ。

久しぶりに目にする愛用品へ何気なく手を伸ばすと、パシっと彼女に手を振り払われた。

「おいっ…、お前…」

「だめです。これは、私の大切な思い出なのっ。渡しませんっ」

オレを見上げて睨んでくる彼女は、吹き出しそうになるくらい可愛い。

「……大切な思い出、か」

彼女は、オレに渡したら捨てられるとでも思っているのだろう。実際、あの時はそうだった。しかし、今は…。

「一応、ソレはオレの物だったと思うんだが?」

「だって、シンさんはいらないって、全部捨てちゃったじゃないですか。これは、私が必死で助け出した、大切なモノです。もう、シンさんのものじゃないんだから」

必死に、かつてのオレの愛用品を守ろうとする彼女。

「分かった。もういい。大切にしまっとけ」

彼女は、オレから隠すように、荷物にしまい込む。

それで、いい。

あの時、オレは海賊を辞める決断をし、その象徴として、眼帯を手放した。


「じゃあ、行ってきます」

「ああ」

そしてオレは、彼女の外出中に、扉を探す過去の彼女と出会うのだった。

なんだかんだで、陽光陰月の話は、あと18話コピペすれば、とりあえずの保存はできる。

我ながら、話がいろいろ長くて…先程作業した「監禁」なんて12ページも話があり、「長げぇな、おい…」と過去の自分に文句を言いつつ作業しました。

疲れたけど、持ち帰ってきたリアルの仕事の書類も、30枚ほど処理して、3枚ほど起案しないといけないので、

休憩がてら、仕事やらないとなぁ。

そして、拍手の話が、あちこちに点在して隠してあったりしたので、厄介な……。

27日に、拍手の話はこっちへup予定です。

こーいう、ふざけたモノも、あちこちにあるんだけど、どうしようかなぁ。

ふざけたモノは、とりあえず、ココに置いとくかぁ…

 

まあ……。

コスプレさせてるイラストもたくさんあるんだよなぁ。


サイトの「帆船記」は、110話、全部引っ越し完了しました。

いや…ホントに、多かったな。

打ち直したので、結局110話全作品、実は一部加筆や修正されているという…誰が読むんだこの長編、みたいなコトになっていますけど。

 

さて、この土日で陽光と陰月の話を全部引っ越し完了したいところですが、

土曜日は休日出勤が確定しているという……

つまり、残りは日曜日で移動すればいいのだな。

がんばります。

 

帆船記は、半分移動しました。よし、残り半分…あと50話だ。頑張れ自分♪

鍵付きの「陰月」話は、対応している「陽月」から自己申告大人だけが入れるようにしました。

ちなみに、陰月は48話移動して、残り16話なんですが、その陰月に続くための「陽月」がまだ16話しか移動できていないという(苦笑)

陽月は、残り48話……。え? なぜ遅いかって、それは、過去の作品をコピペ可能なところはあるんですが、

名前変換機能は無くすために、どうしても文面を打ち直す必要があり、そうすると気づけばうっかり加筆や修正をしてしまう性分でして。

だから、実質、陰月への道もまだ16しか無かったりします。

あ、でもね。ココ数日で、特に陰月の加筆修正は、めっちゃ愉しいです。はい。

当時は、遠慮していた表現も、今度はより限定的だろうからいいかぁ、と。

そんなわけで、加筆修正された夜のシンさんは、いろいろ磨きがかかりました。一応、優しいけどね。本気で泣いたら止めてくれるけどね。

そして、ナギさんはまあ、だいたい相変わらずなんですが、(たまにキレてシンを脅すけどさ)

なんか船長とドクターは時々遠慮がなくなりました。もともと、その傾向はあったけど、加筆修正したら更にシンを甘やかさない行動が増えた…。大人の男だから、野郎には厳しくていいよね…w

お盆から、ほぼ毎日読み返して修正して構築していたので、只今、自分はすごーく恋海脳です。

だから、ハヤテの誕生日の時も「あー、今日はハヤテにいい思いさせるかぁ…」と、最終的に夢オチになる時には主人公かなり…。

あ、引っ越し先ですか?

ただいま、サイト「Triangle again」のtopページの解説文にリンクあります。

閉鎖前にブクマしないと、行きにくい作りなのは、わざとです。はい。

 

有言実行で、フォレストから別サイトにいろいろ移動しているのですが…。

困った。

移動しようとしたサイトのコンテンツ、めちゃくちゃ多いっ。

そして、コピペするだけなのに一苦労だ…。

我ながら…このお盆中に、リアルでいろいろとある中、可能なときはずっと引っ越し作業してたのに、まだ「陽光1」しか移動できてない……。

裏表の話だけでも、あと45作品…。

帆船記はあと110作品…。期間限定はあと33作品。長編モノが…うわぁぁ…。

足りないよ。時間が。

月曜からの仕事に向けて、「お盆中にやろう」と持ち帰った仕事はまだ手を付けてないのに。

これって、夏休みの終わり前日に「宿題おわってなーい」という子供と同じ現象だ…。

いや、この際、アップロードするにいろいろ作り直すから時間かかるのよね。

コピペ保存だけなら…閉鎖前に全て持ってこれるかしら…。

終わる気がしない。

「西月」さんてば、本当にたくさん書いたんだな……。というぼやきなのでした。

フォレストが閉鎖するので、コンテンツをとりあえず保存…って、膨大な量でびっくり。

とりあえず、フォレストの夢小説で出会った方々との思い出はたくさんありますが、

まあ、このままひっそり消えるのも有りかと思っていたのです。

そしたら、消えないでコメントを頂きまして。

それでは、自分のHPの方に統合しようかと。

そして、大幅にHP改装中です。いや、自分の恋海の話やイラストや動画の多さに閉口しつつ…。

データの無料枠で収まらない気がする……。

一部、こっちのブログに移動すればいいかなぁ。

四コマとか、…やはり四コマとか、…どう考えても四コマとか