「ウルの王妃さんだけに見せてやるつもりだったんだけどなぁ」

空賊アルタイル団のアベルは、そう笑いながら、窓の向こうを指差した。

「…っ」

絶景とも呼べるその景色に、シンの恋人が息をのむ。

「ふん。300歳の独身じじいなんかに、自分の女を預けられるか」

空飛ぶ船の船長室で、腕を組んでチラリと窓の外へ視線を走らせながら、シンが言い返した。

ウルの王として天界に認められたシンだが、今のところ本業は海賊である。

海賊王の船に乗り、航海士をしているウルの王。

ひょんなことから知り合いになった空賊アベルは、ウルとかかわりを持つ天界の人間と地上の人間のハーフだという。

シンもまた、ウル王族の直系でありながら、その血を半分しか受け継いでいない。

そんなことでお互いに慣れ合うつもりはなかったが、アベルは何かと理由をつけてはシン達にちょっかいをかけてくるので、必然的にシンも対応する羽目になっていた。

アベルの船は、今、雲の上を飛んでいる。

下に果てしなく続く雲の海。

吸いこまれそうなほど澄んで真っ青な空。

水に浮いた船からでは決して見ることのできない、幻想的な絶景であることは確かだった。

その雲海の中に、まるで島のように見えるものがある。

「え? あれ…もしかして……」

「おっ。さすがだねぇ。ヤマトの魂だよな、あれ」

シンの恋人の呟きに、アベルはにこにこと微笑んだ。

「あの山がどうかしたか?」

嬉しそうな表情の恋人を見て、シンが怪訝そうに尋ねる。

「ここは、ヤマトの空なんですね?」

しみじみと、懐かしそうにシンの恋人は雲海に浮かぶ島のような山頂を眺めた。

「どういうことだか、説明してもらおうか?」

シンがアベルを睨みつける。

「だから、ここはヤマトの上空ってことだよ。あの山はな、ヤマトの人間たちにとっては信仰の対象にもなっているくらい有名な山、富士山だ」

シンも、文献から名前は知っていた。

絵画も見たことがある。

けれど、実物を見るのは初めてである。

シンは改めて、恋人の横で雲海に突き出た山を見下ろした。