大嫌いな奴がいる。
奴を例えるなら、……赤。
氷を溶かし、森すら焼き尽くす、灼熱の赤。
寒く凍てつく北の海で、誰もが焦がれ求める暖かな炎の赤。
鮮烈な赤。
何度かその炎を消し去ろうとしたが、未だ叶わず、奴は赤く輝いている。
「負け犬ってのは、負けた奴じゃなくて、諦めた奴を呼ぶときに使うもんだ。オマエがそう簡単に諦めるタマかよ」
そう言って笑った奴は、確かに誰もが認めざるをえない海賊王で。
心の何処かで、彼には敵わないと分かっていながら。
それでも…挑まずにはいられない。


「よう、セシルじゃねぇか。オマエも来てたのか?」
カジノ船。
よりによって、ドレスコードがある区画にこの男が来るとは…。
「せっかくだ。一緒に飲まねぇか?」
ダークスーツを着ていても、やはり、この男のイメージは赤なのだと思い知らされる。
「…運のいい男ですね」
「おう、今日は、かなり稼いだぞ」
屈託なく笑うリュウガは、もしも今ここで私が銃を突き付けても、きっと笑い飛ばすのだろう。
そんなことを考えて、ふと、あることに思い当たる。
「一杯だけ、おごりましょう。……レッドバイキングを」
カウンターに声をかけると、しばらくして霧のようにわずかに白い酒を満たしたグラスが差し出される。
「レッドバイキング? 赤くねぇな?」
かつて、北欧の海を駆け抜けた海賊のイメージをもとに作られたカクテル。
ほぼ無色でありながら、赤という言葉を与えられた酒。
「……誕生日にふさわしいかと」
「ん? よく俺の誕生日覚えてたな?」
かなり意外そうに、リュウガが見返してきた。
「忘れられるものなら、忘れたいですけどね…」
「ははは。もしかしてセシルは、ヴァンやリーの誕生日も覚えてんのかっ!」
「誰のせいだと…」
リュウガは、昔からやたら誕生日だ記念日だと理由をつけて、飲みたがった。
昔の懐かしさに囚われそうになって、席を立つ。
「何だ? もう行くのか?」
「シリウスの姫君が来たようですからね…」
可愛らしく着飾っている娘が、キョロキョロと明らかに誰かを探している。
「こっちだ」
リュウガに向かう娘が、横をすり抜けていく。

……いつか、あの赤を消したい。
いつか、などという日は決して訪れないと知りながら。