報道によればクリントン米国務長官は7日、米ABCテレビのインタビュー番組で、2度目の核実験を実施した北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定するための調査を始めたことを明らかにした。クリントン国務長官は「国際的なテロを北朝鮮が支援している最近の証拠を見つけたい」と言明したが、証拠については「現時点では回答を持ち合わせていない」と述べるにとどめた。クリントン国務長官はまた、「目的を持ってリストから外されたが、その目的は北朝鮮の行動により挫折しつつある」と述べたが、北朝鮮から見ればリストから外れたからといって、アメリカの対北朝鮮政策にはなんの変化もなく、「北朝鮮」の部分を「アメリカ」に言い換えて、クリントンに返したい気持ちであろう。実際にアメリカは、テロ支援国家のリストから外したことの持つ政治的意味合いを、極力矮小化するのに必死であったというのが本当のところだ。ニューヨーク・フィルの平壌公演の実現という画期的な交流も、朝鮮国立交響楽団のニューヨーク公演の準備が徒労に終わったことで、拡大することなく終わった。
だが、忘れてはならないことは、クリントンの言う「リストからの削除の目的」が北朝鮮の核開発の阻止にあったにも拘らず、アメリカがその手順を完全に間違えたという点だ。自国の核戦略の変更なしに北の核解除だけを求めた一方的な主張が、北朝鮮を納得させることが出来ないことは明らかであった。朝鮮外務省が、1月13日に発表した朝鮮半島の非核問題について朝鮮側の立場を明確にする談話が、それをはっきりと物語っていた。それは次のようなものであった。
「われわれが9.19共同声明に同意したのは、非核化を通じた関係改善ではなく、まさに関係正常化を通じた非核化という原則的立場から出発したものである。」「われわれが朝鮮半島を非核化しようとするのは、まず、過去半世紀の間持続されてきた、われわれに対する米国の核脅威を除くためである。米国の対朝鮮敵対視政策とそれによる核の脅威によって、朝鮮半島核問題が生じたのであり、核問題によって敵対関係が生じたのではない。われわれが核兵器をまず放棄してこそ関係が改善されるということは、あべこべの論理である」「米国の核脅威が除去され、南朝鮮に対する米国の核の傘がなくなるとき、われわれの核兵器も不用となるであろう。
これがまさに朝鮮半島非核化であり、われわれの変わらぬ立場である。」
「米国の対朝鮮敵対視政策と核脅威の根源的な清算なしには、100年を経てもわれわれが核兵器を先に投げ出す事はないであろう。
敵対関係をそのままにして核問題を解決するには、全ての核保有国が一堂に会して同時に核軍縮を実現する道しかない。 」
極めて明瞭かつ論理的な主張である。だが、アメリカは北朝鮮の要求をアメリカの希望事項というバイアスをかけて受け取っていたのであり、したがって真剣に受け止めようとしなかった。ここに問題があったのだ。衛星発射問題も同じようなバイアスをかけて受け止めた。それが全ての国家に許されている、宇宙開発の権利に基づくものであったにも拘らずにである。
そして今、核実験を行った北朝鮮を一方的に非難し、制裁を加えようとしている。核実験は衛星発射を非難した安保理議長声明に対し、北朝鮮が警告を発していたにも拘らず、それを無視した結果、強行されたのであった。にもかかわらず、核実験をしたこと自体を一連の流れから切り取り、つまり核大国とそれに従属する日本や韓国などによって「意図的に作られた状況」によって、核実験を強行しなければならなくなった一連の流れを無視して、再び制裁を加えようとしている。
だが、制裁はいっそう問題の解決を困難にするばかりか、より危険な状態を招くことになる可能性の方が圧倒的におおきい。
ニューズ・ウィークのオフィシャルサイトに載ったスティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授、国際関係論) は、「アメリカに良い選択肢がない以上、北朝鮮の核保有能力を容認し続けるしかない。最善の対応は冷静にしていることだ」「核実験をしたからといって金正日(キム・ジョンイル)政権について何か新しいことが分かるわけではない。アメリカは核実験を1030回(イギリスとの共同実験はさらに24回)行ってきた。北朝鮮はちょうど2回しか核実験を行っていない。」「大げさに騒ぐ必要がないもうひとつの理由は、北朝鮮の核問題についてほとんど何もできないということだ。金正日政権を武装解除あるいは転覆させるために武力を行使したり経済封鎖をすることは、朝鮮半島で全面戦争を引き起こす恐れがある」と書いている。
同誌の横田孝(本誌記者)は、「北朝鮮がアメリカに対して望んでいるのは、和平条約を交わして朝鮮戦争(1950~53年)を正式に終結させ、米朝間の政治・経済関係を正常化することに加え、アメリカが日韓との軍事同盟を破棄し、両国に提供している「核の傘」を撤廃することだ。こうした要求は米政府にとって「論外」だと、北朝鮮との交渉を担当した経験を持つエバンス・リビア元米国務次官補代理は言う。」と書いた。1月13日の北朝鮮外務省の談話と比べると、北朝鮮の望んでいることについての判断は当たらずも遠からずだといえよう。
問題はエバンス・リビアの発言だ。彼の発言は北朝鮮の核問題に対するアメリカの基本的姿勢を明らかにしたものだといって良いだろう。そしてその基本的姿勢が、北朝鮮の要求を「論外」だと決め付けたものであるなら、解決の道は一つしかないということになってしまう。
その一つしかない解決方法とは、横田氏が同じ文書の中で紹介している。「核戦力の面でアメリカと対等な関係になり、ワシントンと平壌をたたき合えるようなものを持った上で米朝関係を正常化し、不可侵条約を結ぼうというのが北朝鮮の構想だ」と、防衛省防衛研究所の武貞秀士主任研究官は指摘する。」
アメリカが核による威嚇を止めない以上、自主権を守るためにも核を持って対抗する以外にない。北朝鮮としては他に選択肢はなかろう。北朝鮮外務省が談話で、「非核化を通じた関係改善ではなく、まさに関係正常化を通じた非核化という原則的立場」について言及した意味を深く考えるべきだ。まず北朝鮮敵視政策を放棄し、関係正常化を実現した後に、アメリカが核による威嚇をやめ、朝鮮半島ならびに東アジアの非核化を実現することで平和の構造を作り上げるということだ。したがって外務相談話で言う「米国の対朝鮮敵対視政策と核脅威の根源的な清算なしには、100年を経てもわれわれが核兵器を先に投げ出す事はない」というのは路線であり、原則的な立場なのだ。
ところがアメリカは、交渉が再開されれば北朝鮮にアメを差し出す用意があるという。米政府の北朝鮮政策を統括するスティーブン・ボズワース特別代表は、「圧力をかけるばかりが最も効果的なアプローチではない。圧力だけでなく、協調を引き出すための措置を組み合わせなければいけない......そのためにできることがアメリカにはあると思う」 。だが見てきたように、ムチとにんじんを使い分けるような、姑息なやり方で解決できるものではない。事実北朝鮮は、「そんなににんじんが良いのならアメリカのロバ(民主党のトレードマーク)にでも食わせれば良い」と言っているのだ。
北朝鮮が望んでいるのは、原則的、最終的な解決である。段階的解決というものも原則的、最終的解決に向けたものでなければならない。北朝鮮の核問題は「核の拡散」の視点からではなく、朝鮮の核問題発生の根源をなくすという視点から捉えられなければ解決することが出来まい。「非拡散」の視点は問題の本質を曇らせるだけだ。北朝鮮の核問題がイランや、インドや、パキスタンや、イスラエルの核問題とは違って「非拡散」の視点では捉えることのできない特殊な事項だということを肝に銘じる必要がある。アメリカにはその視点がない。
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